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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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244 人には過酷な迷宮

 迷宮主の部屋から出るアズラット。

 残念ながら今回は最下層からなので階層がどの程度かわからない。

 アズラットの迷宮の基準は竜生迷宮だが、その竜生迷宮のことから考え、二十階層……は恐らくない、と推測している。


「………………いきなり目の前が水なんだが?」


 迷宮主の部屋の目の前には、水路があった。

 それも単に水路というわけではなく、潜らなければいけない道。

 水中に沈む迷宮というものはないわけではないが、陸地がありそのうえで潜航する必要のある水中がある迷宮は少ない。

 完全な水没迷宮か、または水路が続くが深くはあっても頭まで完全に沈まなければいけない迷宮ではない、というのが基本である。


「これ、人はなかなか来にくいよな……」


 水の中というのは人間が移動し辛く、生存し辛く、そして戦闘もし辛い。

 しかもそれが迷宮の最下層にあるとなるとまた凄くいやらしいというか。

 場合によってはこの水中に存在する道が迷宮の最奥に続く道だと考えられない場合もある。

 その場合、ありもしない通路を探して迷宮の階層を惑い続けることになることもあるだろう。


(っと……<人化>の状態でも呼吸はいらないから水中でも問題ないな。問題は水中を泳ぐことだけど……まあ、これは泳ぎの知識があるから水の中でも問題ないか。スライムの状態だと流れとかで流されるからあれだけど、人だと一定以上の大きさを持てるし、実際にそこに存在している感じがあるからだいぶやりやすいかな? まあ迷宮のこの水路は特に流れがあるわけではないみたいだけど……)


 口に出している、が残念ながら水の中なので声に出ない。

 そもそも独り言をずっと声に出すのは少し傍目から見るとどう思われるだろうか。

 まあ、ここには人がいないので独り言を離していようと構わないところであるが、水の中ではやはり声は出ない。

 呼吸の問題がないので口を開けて水が入ってこようがお構いなし、そもそもスライムの体に水攻めは効果がない。


(水中にもスライムがいるのか……今まで水中で生活するスライムって見たことあったかな? っていうか、やっぱりこれ難易度高くない? 水中に入って息ができなく泳いでいたら周りがスライムだらけで戦いづらい中先に進まなければいけないって……いや、正直やってられないよな。でも雷系統のスキルがあればある程度は水中にいる魔物に入る前に対処できるか? まあ、問題があるとすればここのスライムの強さだが…………最下層でも、スライムはあまり極端には強くはないはず。水中にいるスライムだから厄介さはあるだろうがここまで来る冒険者なら、対処は十分できるだろう。やっぱり環境の不備不便はあるだろうからそこ次第か……構造的にいやらしくないか?)


 水中を進みながらアズラットはそう思う。もっともその迷宮を作ったのはアズラット自身。

 つまりこの構造、水中による来訪者の意志を挫く構造にしているのはアズラットの意思の反映である。

 まあアズラットは迷宮の侵入者を可能な限り奥へと進ませないという意志が強いため、絶対に来たくないと思う迷宮になっているのだが。

 それも完全ではないだろうが。

 本人は甘い、と感じないようにしているが、やはり元々完璧な反映はできない。

 アズラットは来にくいと思っても、実は冒険者なら十分来られるという構造である、ということもあり得るのだから。


(…………しかし、水の中のスライムは俺のことを襲ってきたりはしないな。<人化>していても相手が魔物であるということはわかるのか? いや、スライムは魔物だから襲わないということはないか……俺が迷宮主だからとか、こちらの強さを感じてとかかな?)


 アズラットは水の中をゆったりと進んでいるが、水中にいる壁に隠れているスライムたちは襲ってこない。

 これは様々な理由があるが、要はアズラットがスライム種の最上位種だからだ。

 アズラットの元々の種、迷宮主になる前の種はスライムリーダー。

 キングやエンペラー、ボスなど、そういった時点で支配種の系統である。

 魔物の上位種は同じ系統の魔物を支配し従えることができる。

 スライムの場合いろいろとあれだが、アズラットくらいの強さなら十分可能である。

 スライムリーダーになれば周りのスライム種を支配できる。

 命令はしていないが、その支配の影響を受けアズラットに従う。

 周りのスライムが襲ってこないのはそういう理由だ。

 襲うような相手ではなく敬い従う相手。

 スライムは知性はないが、本能的な部分での察知はできる。

 それこそ種の関係ならば察知は容易。

 元々アズラットが上位種に進化した時点で近づかずに逃げるという選択をとれるくらいの本能的な能力はあるのだから。


(まあ、襲ってこないことにはこちらも都合がいいけど……っていうか水中にスライム以外の魔物はいないのか? まあ、いたとしても周りのスライムの状況だと飲み込まれて終わりそうだが……っていうか、だから発生しないようになっているとか? っと、ここで出るのか)「ぷはっ……別に呼吸しているわけじゃないけど、動作的になんかな……っと、水吐き出しておくか」


 水中からあがり、アズラットは地上にでる。地上と言ってもいまだに迷宮の中、同じ最下層だが。

 周囲を見るとそこは通路の一角。

 小さな水路として存在しているが、実に迷宮主のいる場所への道がわかり辛い位置にある。


「……まあ、水路があるという時点で怪しく思い調べればわかるか?」


 残念ながら水路はここ以外にもあり、そこにも同じような穴があったりするのでここだけ特別というのは分かり辛い。

 そしてこの迷宮の最奥へ続く道、左右対称性はなく、目印もない。

 きれいな形だとなんとなく形で把握できるからだ。

 分かり辛くするために、構造は完璧にランダムに作りその配置をランダムにする。

 作る側の意図が介在していない。ゆえにこの迷宮の攻略はとても難しい。

 マッピングしたところで規則性がなく、探し尽くさなければわからない。

 そしてこの階層の場合探し尽くしたとしても目的のもの、最奥への道が見つかるとも限らない。

 水の中に入り調べる困難さがあり、調べても外ればかり。

 唯一正解の一つを見つけない限り先へと進めない。

 そのうえその道にはスライムがおり、水路としてもそれなりに長く襲われる危険と呼吸の問題が発生する。

 そして実はここまでくる階層に水路が必要な階層というものはほぼなく、水中系のスキルの必要性が感じられない。

 つまりここまで来る冒険者は水中行動系統のスキルを持っていない可能性が高い。

 ゆえに水中の道の発見は厳しい。

 そういう迷宮なのだ。


「っ!? いた……くはないけど、なんだいきなり? 天井が降ってきた……」


 そして極めつけがここまでの階層のすべてに存在する相手を殺すための罠。

 出てくる魔物もスライムばかりで、迷宮のあちこちに罠ばかり。

 生息する植物や魔物の類も少なく、攻略の必要性を感じない。

 もっとも現時点ではそのすべてが把握されているわけではなく未だに攻略しに来る冒険者はいる。

 その多くは罠で傷つき、スライムに防具や武器をボロボロにされ、もう二度と来ないと叫んで逃げ帰るのだが。


「…………魔物はいないか。っていうか、スライムばかり? スライムでも食べる物がなければ死ぬんだが……何を食っているんだ?」


 スライムでも食事は必要である。

 しかし、魔物もなく周囲に生物の影もなく、迷宮は食うことができない。

 そんな迷宮で一体何を食らいスライムは生きているのか……もっとも、仮に食えなくて死んでもスライムは発生する。

 いや、厳密に言えば魔物は一定数になるまで発生するようになっているため、増えずに死んでいく場合でも問題はない。

 まあ、そういった形で死んだスライムの死骸をスライムが食らっているだろうと推測はできるのだが。

 と、そんな感じの色々と面倒であれな迷宮をアズラットは上へ上へと進んでいく。

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