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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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243 迷宮脱出計画

「さて……とりあえず謎だった<人化>のスキルの検証も終わったところで、これからどうしようか?」


 アズラットは周囲を見回しながら呟く。

 周囲は変わらぬ迷宮の景色、迷宮主の住まう迷宮の最奥の部屋。

 アズラットは彼の今いる部屋、その部屋の存在する迷宮の迷宮主である。

 迷宮主ゆえに、そこに存在する。

 迷宮の生みの親であり、迷宮主として迷宮に入る侵入者を待ち受ける。

 一般的な迷宮主はそういった感じである。

 しかし、別に迷宮主はそうしなければいけないというルールがあるわけではない。

 迷宮を生み出したという点において迷宮と迷宮主はとても縁深いが、別に特別つながりがあるわけではない。

 全くないとは言わないが、迷宮は迷宮主を縛らず、迷宮主に迷宮は縛られない。

 親と子は常に一緒にいなければいけないわけではない。

 そもそも、迷宮は迷宮主がいなくなったから崩壊するというわけではなく、迷宮の核が破壊されたからと言って迷宮主が死ぬわけではない。

 ゆえに迷宮主は迷宮に依存する生活、縛られる生を贈る必要はなく、自由に活動することができる。

 とはいえ、自分の生み出した迷宮とのつながりもあるし多くの場合住み心地の良さなどを理由に迷宮に残る迷宮主がほとんどである。

 基本的に迷宮は迷宮主の思考や思想を反映する。

 例えば同種を多く存在させ、自身の王国を築くなど。ゆえに迷宮主は迷宮に残ることが多い。

 近くに同族が存在し、生活に困らないならば外に出る必要はないのだから。

 その一方で少数ながらも外に出る迷宮主もいる。

 それは外に対する憧れがあったり、あるいは迷宮に居続けるのが苦痛であるからなど。

 まあ、迷宮主の行動理由などその迷宮主によって様々だろう。

 中には迷宮主になっても自意識が発達していない場合もある。

 あるいは迷宮の外に出ることのできない大きさである巨大種であったりなどの例もあるだろう。

 そういう意味ではアズラットのような迷宮の外に出やすいタイプ、大きさはありがたいのかもしれない。

 もっともアズラットの場合は<人化>もあるので若干話は違うが。


「……ここにいてもな。迷宮……迷宮の主……ってことは、俺の役目ってここに来る冒険者を倒すこと? 迷宮を守ること? それは……なんかなあ。違うというか、望んでいないというか…………こういう時アノーゼと話せれば相談できるんだけど、今はできないからな。困った」


 自分で決めるにはいろいろと複雑というか、完全に理解しきれていないというか。

 迷宮をほっぽり出して迷宮主が外に出ていいものか、とアズラットは思ってしまう。

 しかし、だったら迷宮主としての役割をアズラットが果たすのか、と言われればあまりやりたくないというのが本音である。

 アズラットは元々は人間であった知識を持ち、それゆえに思考は人間に寄り、人との争いを嫌う方向性である。

 必要であったり、悪人であれば倒すべきと考えるが、迷宮に挑む冒険者を倒すのは少し話が違うな、とも思う。

 魔物……迷宮に住まう生物に対しては冒険者は自分の住処に入って来て自分たちを殺す悪、ともいえるのだが。

 まあそこはアズラットの考えが元々人間に近しいから、というのもあるだろう。

 なんであれ、基本的にアズラットは人間との争いをよしとしない。戦いはしたくないと思っている。

 ここにいる限り、それは叶わない。ならばどうするか?


「……よし、逃げよう」


 迷宮主としてそれはどうなのか、と思うところであるが、いきなり迷宮を作らされ勝手に迷宮主にされた。

 そのうえ迷宮主として入ってくる存在に対処しろ、冒険者を殺せ……というのは押し付けが過ぎる。

 アズラットは別に迷宮から出られないわけではないのなら、迷宮から逃げ出し外に出てもいいわけだ。

 その場合この迷宮の迷宮主はいなくなるが、別にそれはそれで問題はない。

 迷宮は迷宮として動き続ける。


「方向性が決まれば後は行動するのみ……っと、でもここまで来た冒険者に何もないのはどうかなあ?」


 どうするかを決めた……一方で、自分がいなくなった場合の迷宮主の部屋のことをもう。

 冒険者にとって迷宮攻略は栄誉であり、同時に対価を得るための物。

 迷宮主を倒し、その素材を持ち帰る。

 まあ、別に迷宮主には限らないわけだが、迷宮主を倒せばその分得られる物はいろいろと多い。

 迷宮の命そのものである核の破壊、迷宮主という存在の希少な素材、迷宮主が持っているかもしれない財貨など。

 本来冒険者が迷宮に挑むのは迷宮を破壊し安全を確保することだが、それが今では資源採掘に近い形になっている。

 迷宮主討伐自体はある意味資源採掘とは別の本当の冒険者の役割であるのだが、それで何も得られないのであれば迷宮攻略に意味がない。

 攻略しに来た以上、相応に見返りがあるべき……というのは勝手に入って勝手に奪っていく側の思考になるだろうか。

 しかし、アズラットはそういう考え方をしてしまっている。

 まあ、アズラットも迷宮生まれだが同時に迷宮攻略者だ。

 別に迷宮を破壊したいとも、迷宮から資源が欲しいとも思ったことはないが、やはり攻略して何か得る物がなければ気落ちする。

 自分がそうだから他者もそうだろう、そう思った。


「とは言っても、俺は素材とか落とせないし……仮に俺のスライムの体を残して何になる? 放置してたら干からびるだけで意味ないしな……っと、そういえば……確か<同化>で海底の財宝を入手してたりするか。あれ自体は俺が持っていても意味のないものだけど、とりあえず回収して地上に、という目的の物だったんだよな。どうせだからそれを残していくか? 冒険者もこの部屋が財宝部屋になっていれば、攻略する気にはなるだろう……まあ、そもそもここまでこなければそれがわからないわけだけど。ここまで来て迷宮主がいない! でも、代わりに財宝が置いてあります、だったならまあ悪くないとは思うか? 俺自身はあまりこの手の財宝には……興味がない、集める趣味がないとは言わないけど、実際そこまでいるものでもないし……おいておく場所もなくて<同化>するだけだしな。<人化>の都合、人里に入るために歩いてどのお金はあった方がいい……から、それの換金用にいくらか財宝類を残すとして、後は全部置いていこう。ま、こういう物を得てこその冒険者だし」


 アズラットが気にすることではない……が、まあアズラットは冒険者のことを気遣い、迷宮主の部屋に色々と財宝を残していくようだ。

 それ自体は別にアズラットがどうするかの判断であるので特に気にするようなものでもないだろう。

 特に誰かが損をするようなものでもない。

 まあ、その気遣いをここに来たものが考慮するかと言われればしないだろう。

 それ以前にそうすること自体特に意味はない。ただの自己満足である。

 それでもかまわないのあろうが。

 まあ、それ以前に。この迷宮をまともに進みアズラットのいる迷宮主の部屋まで来ることができるかどうか自体、かなり怪しいところであるが。


「っと、こんな感じでいいか? まあ財宝の配置まで気を使っても仕方ない気もするし、雑な感じでもちゃんと置いてあればいいか……特に壊れるようなものもないし」


 持っていた財宝の多く……大体は金銀宝石の類を迷宮主の部屋に置くアズラット。

 <人化>中であったため手から出す形となったが、そのほうが配置としては起きやすいので別に損ではない。

 ともかく、後にここに来る者への置き土産を残し、アズラットは迷宮主の部屋から旅立つこととなった。

 もっとも……ここは迷宮の中。

 かつて住んでいた竜生迷宮よりはまだ浅いものの、それでもそこそこ深く難易度もある。

 己が描く迷宮像、嫌われる迷宮であり侵入者の少ない迷宮であり嫌らしい要素の多い迷宮。

 アズラットは自分が迷宮を作る際どういう物を作るだろうか、という思考があり、それがそれなりに反映されている。

 進むのも難しければ出るのも難しい……アズラットが外に出るまでどのような困難が待ち受けるのか、それをアズラットは体験することになる。

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