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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
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027 不意打ちを試す

 迷宮の三階層。そこにはスケルトンやゴブリン、魔狼が蔓延っている。残念ながらスライムは外に出る機会が少ない。

 そんな迷宮でゴブリンたちの集団が移動していた。

 彼らは獲物の物色をしている。

 ゴブリンにとって三階層で食事として得られるものは大鼠か魔狼。

 スケルトンやスライムは基本的に食べられる部分がほぼない。

 それでもどちらの魔物もゴブリンたちは襲うのだが。

 前者は向こうが襲ってくるのが理由で後者は弱い者いじめをしたいのが理由である。

 ゴブリンたちにとってはたった一体のスケルトン、雑魚のスライム、獲物の大鼠は敵ではない。

 武器防具を装備しているのもあるし、ゴブリンたちは集団だ。数の有利は強い。

 しかし、魔狼に関してはゴブリンたちでもかなり厄介な相手だ。

 同じ集団で魔狼はゴブリンたちより統率が取れている。

 それゆえにゴブリンの集団は魔狼相手には勝ったり負けたりが基本である。

 ゴブリン側は魔狼を二体ほど減らせば相手が逃げる可能性がある。うまくいけば犠牲はない。

 逆に魔狼側にとってはゴブリン側を二体減らせれば自分たちが減っていなければほぼ勝てる。

 ゴブリン側は追い払うのが最終結果だが魔狼側は殲滅が最終結果だ。

 この違いも勝ったり負けたりする理由だろう。

 さて、そんなゴブリンたちが周りを確認しながら移動している。

 集団になって知性が上がると言うわけではないが、集団ゆえに彼らは周りを観察することを学んでいる。

 それゆえに彼らは何かがいないか、襲ってこないか、どこかに魔物がいないか、獲物がいないか。

 そういったものを彼らは観察し調べているのである。

 そしてゴブリンたちは安全な様子を確認し、そのまま迷宮の先へと進む。獲物を得るために。

 しかし、そんなゴブリンたちも自分の頭上に存在する脅威には気づかなかったようだ。


「ギ」


 それに気づき驚愕の叫び、そして仲間へ危険を伝えようともする。

 しかし、そういった行動をとる前にゴブリンたちの何体かはその頭上から降って来た物に呑まれた。

 襲われた時の対処のためある程度離れていたものの、降ってきた物は大きかった。

 それゆえにゴブリンたち五体の内の半分以上、三体がそれに呑み込まれることなった。

 呑み込まれただけですぐに抵抗できなくなるわけではない。

 しかし、武器にかかる重圧や視界と呼吸を塞ぐそれはゴブリンたちには対処できなかった。

 武器も、すぐに持つ手を焼くような痛みで離してしまい、奪われゴブリンたちから離される。

 それに気づいた難を逃れたゴブリンたちも襲い掛かって来た物に攻撃するが、全くと言っていい程効果がない。

 それゆえにすぐ逃げるゴブリンもいたが、すぐに逃げたゴブリンは幸運だった。

 すぐに逃げずに残っていたゴブリンは他のゴブリンと同じようににそれに呑まれてしまった。

 そうしてゴブリンたちを呑み込んだそれはゆっくりとゴブリン達を溶かしていく。

 ある程度取り込んでいるうちに、抵抗できずにぐったりとして生き、最終的には痛みと重要器官を溶かされることで死ぬ。

 そして死んだゴブリンたちはより速く消化されていく。

 そうしてその場所にゴブリンたちの集団はいなくなった。

 武器も防具も死体も落ちてきたそれに消化されて。


(……ふう。成功したな)


 その落ちてきたものの正体はスライム、当然ながらアズラットである。

 アズラットはアノーゼから隠蔽のスキルを受け取り、それを実践的に使用している。


(それなりに成功率も上がって来たし、三階層はもう大丈夫かな? そもそもゴブリンさえいなければ三階層は大丈夫だったわけだから別にもう四階層に行ってもいいのかもしれないが……まあ、もう少しいろいろと試してみよう)


 三階層に出てくる本来の魔物は大鼠、パープルスライム、武器を持つスケルトン、そして魔狼の四種類である。

 ゴブリンたちは四階層から流入してきた者であり本来は三階層の魔物ではない。

 つまりアズラットは三階層の魔物、特に武器を持つスケルトン相手や魔狼相手に余裕を持って勝てるのであれば問題はないはずである。

 しかし、流入している四階層のゴブリンは中々に厄介だ。

 そして四階層は魔物の種類が多い階層である。

 ここでこのゴブリンの集団相手に勝ち得ることができるなら、四階層でもそれなりにやっていけるだろう。

 そう判断し三階層でゴブリンの集団相手に鍛えているのである。<隠蔽>を使いながら。






 今ではそれなりに<隠蔽>のレベルもあがり、その特性を把握してかなりうまく扱えるようになった。

 しかし、アズラットも最初のうちはスキルの細かい性質や特性がわからず結構大変だったようである。

 <隠蔽>は事前にアノーゼからの説明があった通り、効く相手には効く、効かない相手には効かないスキルである。

 レベルが低い状態では同じスライム相手にですら効かない可能性もあった……可能性のあるスキルだ。

 しかし、その能力は万能、対象となる範囲が広い。

 熱感知、聴覚視力、あらゆる分野での<隠蔽>を行える。

 それゆえに効きさえすればかなり優秀な効果を成すスキルと言える。

 しかし、<隠蔽>には効果が出るか出ないか以外の特性もあった。

 一つは<隠蔽>は動かないことが前提であるスキルであると言うこと。

 仮にスキルを使用した後その場から大きく動くと<隠蔽>は自動で解除される。

 これは実際に使用して行動しようとしてわかった。

 多少の動きでは反応はしないものの、自分の体をその場から一歩以上動かすと殆どの場合解除される。

 つまり<隠蔽>を使用しながら行動するという便利で強力な行動はとれないようである。

 もう一つ、<隠蔽>は隠蔽されている状態である限り効果は出るが、隠蔽されていない……見つかった場合は効果が消えると言うことだ。

 例えばゴブリンの集団全員に見つかっていない状態であれば<隠蔽>は効果を発揮し続ける。

 しかし、一体にでも見つかると<隠蔽>は自動で解除される。つまり複数いる場合は全員に効果が出ないと意味がない。

 それに関してはゴブリンの集団相手に<隠蔽>で隠れてみた時にわかったようである。

 とはいえ、今ではほとんどの場合見つかることはない。

 ただ、それは相手がゴブリンの場合なので他の魔物は不明だ。

 一応三階層の魔物相手では見つかることはもうほとんどないと言った感じであるが。

 <隠蔽>の効果が出るかどうかはその相手の知能に影響する様だ。


(かなり便利だよな。でもスライム穴に隠れているのが一番安全だけど)


 <隠蔽>スキルの効果もあり、迷宮でも魔物に遭いそうになればスライム穴に隠れずともスキルで隠れられる。

 そのおかげでわざわざスライム穴に入らなくてもよくなって探索効率は上がっている。

 とはいえ、触れればバレるし人間などにも恐らくは発見されるだろうと言うことでスライム穴を活用しているが。


(天井で<隠蔽>を使い待ち伏せからの奇襲。これはかなり有効。天井でなくてもいいけど、圧縮を解除して一気に覆いかぶされるのが強みだな。問題はこれが三階層なら使えるが四階層では怪しい所か。まあ<隠蔽>を使えると言うだけでかなり有利にはなる。そろそろ行ってみるか……?)


 それなりにスキルを活用できるようになったと言うこともあり、そろそろ四階層へ行ってみるのはどうだろう。

 アズラットはそう考える。

 今のまま三階層で無双するのもいいが、やはり先に進みたい気持ちがある。

 だが、その前にアズラットとしても先に不安を払拭したい。

 境目から見えるだけでも四階層には脅威が多い。

 ゴブリンたちもそうだがどれほどの危険があるのか。


(……アノーゼに聞いてみたほうがいいよな。こういう時ばっかり頼るのはどうなんだろうな)


 生きるためにアノーゼに頼る。

 頼り切り、というわけではないが重要なことや要所ではかなり頼っている。

 それでいいのかとアズラットも思う所だが、しかしアズラットの生存はアノーゼの願いでもある。

 頼らないことを選んだ結果死なれるよりは頼りにして頼んでもらった方がいい。

 それがアノーゼの気持ちである。


(聞いておくか。言えないなら黙ってるだろうし)


 そういうことで四階層へと行くのは三階層の時と同じ、アノーゼに訊ねてからということになったのである。

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