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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
間章 それぞれの話
267/356

240.7 迷宮が生まれる日

「ようやくですね…………」


 神たる者たちが住まう天界、あるいは神域と呼ばれる神々の領域。

 そこで一人の神格の存在が呟く。

 彼女は地上を見ている。見ている場所は岩肌、山の何処か。

 そこには人間たちが集まり壁を掘っている。

 彼らは密採掘者……と言う言葉があるかは知らないが、隠れて山を掘りそこで得た物で利益を得ようとしている集団である。

 まあ、密採掘と言っても、そもそもこの世界には危険が多く山などの岩肌の開拓は行われづらい。

 そのため彼らのような採掘者がいればむしろ採掘して得られる物がある分得だろう。

 むしろその分をしっかり個人の利益とすれば、その分そういったことに挑戦する者も増えそのほうこの市場も潤うはず。

 もっとも、やはりその山の持ち主であるその地方の国の都合もあるのかもしれない。

 ともかく、そんな感じで密採掘を行おうとしている者たちがいる。

 それがそれを見ている神にとってはようやくなのだ。


「アズさんが掘った場所を掘り当てる、なんて極めて特殊というか、ピンポイントにすぎますが……まあ、そういう運命なのでしょう。以前そうなったゆえに今回もそうなる。まあ、その以前もそもそもピンポイントにすぎるわけなのですが……」


 壁を掘る密採掘者たち。しかし、彼らは途中で掘るのを止めざるを得なかった。

 彼らは掘り当てた。迷宮の入口を。

 壁の中に入り、そこで迷宮を生むに至った魔物が作り上げた迷宮の入口を。

 その迷宮は内部でスライム種が繁殖したため、入口付近にスライムが集まっている。

 しかし、今までは岩肌が彼らの外への流出を防ぐ大きな壁となっており、そのため出ることがなかった。

 そこにその岩肌を掘り、穴を開けたのが密採掘者の彼らである。

 当然内部にいたスライムたちが外に出ようとしていたのだから、それが溢れるように出てくるわけである。

 スライムたちは無機物よりも有機物が好みであり、生物をより食らう傾向がある。

 そのため彼らはスライムによる大きな被害を受ける。

 それでも相手がただのスライムであるためそこまでの被害ではなかった。

 しかし、これにより迷宮を掘り当ててしまった。

 今までは岩肌により封印されていたが、それが解放された。

 今までは出てこなかったのに外への道が通じ、今回のように魔物が溢れ出てくる危険がある。

 迷宮は放置しているとそこから魔物が溢れ出てくる。

 それは多大に危険なものだ。たとえスライム程度でも。


「これであとはアズさんが目覚めるのを待つだけ……まあ、入口が外に通じた以上、アズさんが目覚めるのはそのうちすぐですね。っと、そういえばこれで彼女も解放されるわけですか。ああ、それよりもあちらに連絡を入れないと……加護を通じての<神託>を……」


 そんな迷宮が掘り当てられる様子を見ていたのは、その迷宮の迷宮主の知り合いである神。

 アズさんと迷宮主であるアズラットを呼ぶ、スキルを管轄する天使系列の神格。アノーゼである。






 アズラットが迷宮を作るために眠りについてから幾星霜、かなりの年月が過ぎ去った。

 数十年、の単位ではない。数百年と言うと少々長いが、少なくとも百年以上は経っている。

 厳密な意味での年月はアズラットが目覚めるのを待つアノーゼ、クルシェ、その他いろいろな人物たちではあまり認識できない。

 一人は指環に宿り傍に来るのを待ち、一人は迷宮の底で人間をあしらいつつ時を待ち、一人は眠りについている。

 そしてアノーゼは神であり、そのため年月感覚はかなり疎い。

 そもそも、アズラット待ちはいろんな意味で以前に経験している。

 今回はその時よりもはるかに短いため、アノーゼはあまり年月的に待った感覚はない。

 アノーゼが積極的に連絡をとれる、連絡を取りたい知り合いであるクルシェに連絡をしアズラットが起きるだろうことを告げる。

 とはいえ、彼女は今迷宮の底にいる。迷宮主としてではなく、迷宮への侵入者として。

 クルシェはアズラットが戻ってくるのを待ちつつ、迷宮で人の血を吸い食料を確保しならが鍛えている。

 彼女のいる場所的に出ることは不可能ではないが、アズラットの移動を考えると下手に出るとニアミスする。

 ならばアズラットが来ることを待った方がいいのではないか、とアノーゼと話し合う。

 クルシェのいる場所はアルガンドと呼ばれる迷宮国家であるためアズラットが訪れる可能性は高い。

 近くに来ればクルシェが使い魔として使っている蝙蝠を通じて連絡ができるだろう、そういうことであまり移動しないことにした。

 まあ、クルシェが移動するとその影響で聖国の動きがあり得ると考えられるので、そこにアズラットを巻き込ままないように、という理由もある。


「彼女も色々と面倒なことに巻き込まれてますね……まあ、現状では地上最強の吸血種ですし、仕方がないのでしょうか? えっと、それと彼女は……あれ? あちらの彼女は一体どこに!?」


 眠りについていたもう一人。

 指環に宿る者は指環の所在が完全に把握できるため気にする必要はない。

 そもそも自力移動が不可である。

 なので気にするべきは眠りについていた者。

 しかし、眠りについていたはずだがいつのまにかいない。

 いや、厳密に言えば、今いなくなったのである。

 なぜならそれまでは眠りについていたのだから。


「彼女の目覚めはアズさんが目覚めた時に合わせての設定でしたが……そのせいで彼女勝手に行動を始めましたね!? ああもう、<神託>で指示を……ああ、ダメです、聞いてませんねこれ……疑似的な迷宮主と同様の処置を行ったのが原因ですか? アズさんに連絡できないのは仕組み上仕方ありませんが……しかし、彼女を勝手に行動させて大丈夫でしょうか。扱い的にアズさんが自由行動するのと変わらないので問題はないと思いますが……深く考えても仕方ありません。えっと、彼女に<神託>で外の情報収集をお願いしましょう。あの子はそれほど出鱈目ではないと思いますが…………いえ、結構出鱈目なタイプですね。アズさんと合流に向けて行動するか、それともアズさんを探しに出向いた結果見当違いの方向に行くか……起きてしまったことは変えられないので仕方がないですけど。こちらでも探すだけ探してみましょう……彼女は反応的に探しやすい方ですかね?」


 本来は人間であったゆえにアズラットが活動を再開する時に再び出会えるように処置した神格者。

 彼女はいろいろと復帰に組み込まれていた設定により、アズラットの目覚めと同時に地上に復帰した。

 そして、アノーゼも及ばないレベルで活動を開始する。


「ともかく、今はアズさんの方が優先です……まあ、アズさんが迷宮の外へ出るまでは急ぐ必要がありませんけど」


 迷宮主は迷宮を生み出した魔物であり、当然迷宮の主たる存在。

 そんな存在が目覚める場所は当然迷宮の中、最奥地。

 仮にこれから外に出て行動するにしても、迷宮の外へと向かって移動しなければならない。

 そこそこ深い迷宮であるがゆえに、身の危険としては大丈夫だと考えられるが、移動に時間はかかる。




 ともかく、そんな感じでアズラットが地上に迷宮主として目覚める。

 迷宮に居残るかどうかはアズラットの気分次第。

 恐らくは外へと向かい、色々とみて回る旅を行うだろう。

 アノーゼはそう予測している。そういう運命だったがゆえに。


「……しかし、今回は前回と同じようにはいかないようですからね。誰ですか騒動の種をまいたのは? いえ、あちらには聖国がありますから、その関係の可能性もなくはないですが……こういった面倒ごとがあると困りますね……まあ、アズさんなら解決してくれるでしょう」


 他力本願……だが、彼女のような正式に神である存在はどうしても地上への直接干渉はできない。

 地上のことは地上に存在する者が、そういうルールである。

 ゆえにアズラットの行動に期待するしかない。

 今回は、少々違う運命がアズラットを待ち受けているようだ。

 まあ、大きくは変わらないだろう。恐らく。


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