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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
間章 それぞれの話
265/356

240.5-4 神格

 唐突に聞こえた音声。それにネーデは困惑した。

 別に音声が聞こえること自体にはあまり困惑していない。

 今までも唐突に音声が聞こえてきたことはあるし、<念話>などの不意打ち気味に音声が届くこともあった。

 今回の音声の問題はその内容。

 理解できない部分もあるが、特に"神格者"というのが理解できない。


「今のは……?」


 いったい何が起きたのか。

 それを理解しようと考えるが、そもそもネーデはそういった思考をすることには向かない。

 誰かに訊ねるのはどうだろう。

 そういえば上の方には元師匠もいる……まだ残っているかは不明だが。

 とりあえず迷宮の奥へ向かい迷宮の格を破壊する。

 いつもどおり、変わらず。そうネーデは考える。

 それも、先ほどの音声のような唐突な声が届くまでだが。


『迷宮を破壊するのは少し待ってくれませんか?』

「っ…………誰?」


 先ほどの音声とは違う、無機質ではない女性の声。それがネーデに届く。


『私ですか……まあ、そうですね。あなたにとっては……初めてではありませんが、詳しく認識はしていないと思います。あれ以降は話す機会はありませんでしたし、得た物を正確に認識していない。使うこともできていません。覚えているかはわかりませんし、あの後あなたは戦いに明け暮れたようですから記憶の底の可能性は高いでしょう……ですが、アズさん、あなたが共にしたスライム、アズラットに関することとしてなら思い出せそうですが』

「っ!? アズラット!? 何か知ってるの!?」

『落ち着いてください。まずは私の自己紹介をしましょう。私はアノーゼ。この世界におけるスキルに関することを管轄とする神です』

「…………神様?」

『はい。あなたとは一度お話しています。ここで』

「……ここ? ………………<神託>?」

『はい、<神託>です。今までずっとそのスキルは封じられていたのであなたは覚えていなかったと思いますが……』

「スキル……っ!」


 ネーデは自分の冒険者カードを取り出しその内容を見る。

 そこに存在していた黒塗りにされていたスキル、それが元に戻っていた。

 いや、元に戻っていたかどうかはネーデは知らない。最初に見た時点で黒塗りだったのだから。

 ただ、それはやはり元に戻ったということなのだろう。声の主の言葉を思い出すのならば。

 スキルの欄には確かに<神託>と記載されていた。

 それはネーデが自分で覚えた物ではなく、竜王からアズラットを助けるときに得たもの。

 正確には自分で得た、ではなく付与されて得たもの、だろう。

 この声の主がスキルに関する神ならばそれくらいできる。

 そして、同時に称号の欄に存在する今まで見たことのない称号も見る。


「……<神格者>?」

『そちらも見てしまいましたか。別に害があるわけではありませんが……説明が被るというか、説明してから見たほうがわかりやすいのではと思ったのでそちらは言いませんでしたが、目敏いですね』

「さっきの声と同じ……」

『はい。あちらで"神格者"の付与、として伝えられたものですね』

「………………どういうこと?」

『その説明をしたいと思ってます。そのためにわざわざこうして話しかけているわけですし……まあ、それとは別の理由も色々とありますけど』


 アノーゼと名乗った女性はネーデに対してしっかりと説明するつもりなようだ。

 まあ、この声の主がかつて竜王と戦っていた時に届いた声の主ならば、多少ネーデに対して気づかいするものはあるのだろう。

 同じアズラットに関わる者として。まあ、他にもいろいろと理由はあるわけだが。


『まず、迷宮と迷宮主という存在についてお話します』

「別にそういうのはいらない……」

『わかってます。だから詳しい話ではなく、神格に関わる点について。魔物は強くなると迷宮を作ります。その際に<神格者>……神格に等しい存在であるという意味の業……称号を得ます。それは強くなった存在ならば別に魔物に限らず得ることのできるもの……今回あなたが得たものはそれです』

「……私も迷宮を作るの?」

『違います。迷宮を作るのは魔物に限定されてますから。人間は作りません……多分作れませんし。いえ、重要なのはそこではなく、一定以上の強さ、力量を持つ存在が<神格者>の称号を得る、ということですね』

「そう……それが何か意味あるの?」

『まあ、意味があると言えばありますし、ないと言えばありません。ただ迷宮を攻略することが目的の普通の冒険者、お金が欲しいから迷宮を攻略する冒険者、復讐のために鍛えに鍛えたゆえに強さを得た冒険者、そういう人だったら基本的に<神格者>の称号を得てもあまり意味はないと言いますか、<神格者>は神に等しいまでの力を持つことを示す物であり、特殊な条件であることを可能とするために必要な称号というくらいのものですから、普通人間として生きるつもりならば必要のない物です』

「そう……」


 そういうものならば別にネーデにとっては必要ではない。

 はっきり言えばどうでもいいものだ。

 ネーデの目的とその称号は特に噛み合うものではない。

 ならばこの話を聞いていてもあまり意味はないだろう。

 そう、彼女は考えたのだが、声の方からその考えを呼んだように指摘が入る……いや、思考は実際見えているのだが。


『ところで、アズさんも魔物なわけです。とうぜんあなたはアズさんが自分よりも強い、強くなっている、そう思うわけですね?』

「っ……そうだけど」

『あなたが得たその称号を、既にアズさんが得ていてもおかしくない……そうは思いませんか?』

「……思うけど」

『では、先ほども言いましたが、魔物は強くなると……』

「迷宮を……作る?」

『はい、正解です』

「………………それが……どうかしたの?」


 別にそれくらいなら問題ない……そうネーデは思う、いや思いたい。

 しかし、ネーデ自身も不安がある。

 声の主は明らかに何らかの意図、あるいは意味があってそれをネーデに教えているのだから。 

 それにネーデ自身もなんとなく嫌な予感を察知している。アズラットに関わることで。


『迷宮を作る……それは簡単ではありません。それこそ、何十年何百年と掛かるような時間のかかることです』

「…………………………」

『あなたはアズさんとこのままでは会うことができない。今のアズさんは迷宮を作るため、眠りについています。迷宮が生まれるまで、アズさんは迷宮から離れることもできない。その迷宮は未だ生まれておらず、そこに入り傍によることもできない。そもそもどこで作られているかもわからないでしょう。つまり、あなたはアズさんと会うことができない』

「っ!」


 ただ一つ、その目標だけを目指しネーデは鍛え続けてきた。

 しかし、それが叶わないとはっきり言われてしまった。

 当然だがネーデがそれを許容できるかというと、できるはずがない。


「どうにかしないと……」

『そうですね……どうにかする手段はあります』

「教えてっ!」

『落ち着いて下さい…………あなたのことはずっと見させていただきました。アズさんへの想い、そのただ一つのために鍛え続けたその姿を。そんなあなたを無碍にするつもりは私もありません。あなたがアズさんに会うための方法を、私から提示させていただきます』


 アノーゼはもともとネーデに対してはアズラットの傍にいるため思う所はあった。

 しかし、その努力を否定するつもりはないし、その想いを認めないつもりはない。

 そもそもの心情として、ネーデとアノーゼがアズラットに抱く思いは性質が違う。

 それに、いろいろな意味でネーデのような存在がいるのは都合がいい。

 自分にとっても、アズラットにとっても。

 ならばネーデの存在を許すことはできるだろう。

 神なのだからそれくらいの心の余裕はあってしかるべし。

 そういう理由でアノーゼはネーデのことを今は受け入れている。

 まあ、実に神様らしい傲慢さであるのだが。

 ともかく、アノーゼはネーデに必要なことを指示する。


『まず……アズさんは迷宮主となります。別に迷宮には縛られませんが、アズさんがこの世界に再び現れることができるまでは先ほども言いましたが迷宮ができるまで……数十年、場合によっては数百年は先になります。人間はそれだけの時間を生きることはできません』

「魔物になればいいの?」

『人間は魔物にはなれません……いえ、一部の例外を除いてはですけど。もっとも、その方法もあまりいいものではありませんし……いえ、まあ、とりあえず……あなたの言っていることの方向性は間違っていません。人間である限り長い時を生きることができないのであれば、人間でない存在になればいいというのは。ところで、あなたの得た……先ほど得た称号はいったい何ですか?』

「<神格者>?」

『はい。<神格者>とはすなわち神の資質、資格を有する者、ということです。神格の者、神そのものではないが神に匹敵し神に類する力を持ち、神に足り得る存在。あなたが目指すべきところは魔物ではなく、神に近しい場所です。アズさんが目指すべきもそちらになりますから』

「……………………」


 いきなり神になれ、と言われても困る。

 そもそもそんなことを言われてもどうすればいいのかもわからない。

 ゆえにネーデとしてはいろいろな意味でどうすればいいのか、と思うところであるが……それがアズラットに関わるならばやるだけだ。


「どうすればいいの?」

『…………迷いはないんですね』

「私はアズラットのパートナーになって問題ないくらいに強くなることを目指した。アズラットがいないなら意味はない」

『…………もう。でも、そういう子だから私もそこまで悪くはないかなと思うわけですが』

「…………?」

『いえ、それでは条件の提示、いえ、指示をさせていただきますね』











 竜生迷宮。迷宮殺しが入っていき、数日して、迷宮は崩壊を始めた。

 迷宮殺しが入っていった以上そうなる可能性は低くないと考えられていたが、それが現実となったわけである。

 それを確認し、下階層から冒険者が迷宮の外へと戻ってくる。その中にはフォリアの姿もあった。

 また、一部の人型の魔物も外へと出てきた。

 これは人型魔物が多く、また彼らに知恵があるゆえの影響である。

 知恵のある魔物は外に出ることを思考でき、本能的な階層移動の忌避を理性で無視することができる。

 それでも人型魔物と言っても、エルフや獣人系列くらい、それ以前に十五階層から十階層の階層突破が必要であるのは魔物も変わらない。

 その階層を進む過程でどれほど数が減ったか、また魔物達もすべてが出てくるわけでもない。

 故郷である迷宮とともに崩壊に呑まれ死を選ぶ人型の魔物も少なくはなかった。

 そういう点ではそれほど多くはない。

 彼らもいきなり人間だらけの世界に放り出され生きるのは大変だ。

 不可能ではないが、やはり難しいところは多い。

 まあ、そこは彼らがこの先どうするかを選ぶべきことだろう。


 ところで、迷宮は崩壊し中から魔物や冒険者たちが出てきた。

 しかし、迷宮殺しの姿はそこになかった。

 なぜ彼女が迷宮から出てこなかったのか。

 それは彼女についっていった者がいないため誰もわからない。

 おそらくは迷宮主とほぼ相打ちの状況になったため、迷宮を壊すことはできたがそこで力尽きたのでは、という話になった。

 もちろん真実はわからない。

 彼女の師であるフォリアも竜生迷宮から出てきた冒険者の中にいたが、何も語らない。

 そもそも迷宮殺しの師がフォリアであるということはあまり多くの冒険者が知っていることでもない。

 それ以前に師であった頃はかなり前の話であり、それを覚えている者も根本的に少ないだろう。

 また、フォリア自身もなぜ出てこなかったのがわからない。

 恐らくは勝っているだろうと思っていたのだから。




 事実がどうであるかは不明である。迷宮殺しは竜生迷宮から帰ってくることはなかった。

 そして、迷宮殺しの冒険者としての活動はそれが最後となった。

 それ以後、彼女が冒険者として活動することはなかった。

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