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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
間章 それぞれの話
263/356

240.5-2 死合

 十六階層。竜生迷宮の十六階層は単純に様々な人型魔物の生息地である。

 まっすぐ十七階層に通じる道、竜が現れる道を進めばいいだけの、極めて楽な経路。

 しかしネーデは十七階層にまっすぐ行くことはしない。

 今のネーデであれば、他の魔物が住まう集落にも侵入し殺戮を行える。

 まあ、目的はそこではない。ネーデは十六階層におけるある人物に用事がある。

 十六階層に存在するエルフの集落。

 そこは冒険者の出張所となっており、人間の生活ができる場所。

 そこにネーデが訪れる。かつて貰ったこの場所に入ることのできる道具を使い。


「あら。久しぶりじゃない?」

「…………久しぶり」

「何故ここに、というのは聞かなくてもいいわね? 迷宮殺しさん」


 ネーデが会いに来た人物……それはかつての師、今のネーデを作り上げるために学んだ剣の師。

 戦いに命を懸けてきた剣の鬼、フォリアである。






 アズラットと別れた後、ネーデはフォリアに修行をつけてもらいに行った。

 命がけ、死んでも恨みっこなし、容赦のない鍛え方だ。

 それでもまだ修行をつける程度ではあったが。

 その修行を受け、ネーデは己の強さを鍛えた。その後別の迷宮へ向かい、そこで鍛え、レベルを上げスキルを強くした。

 そうして今のネーデへと成長したわけだが、その過程でフォリアから学んだこと、フォリアとの戦闘経験は重要だった。


「それにしても、あなたのことはここにいても噂で聞こえてきたわ。迷宮をいくつも殺してきた……それだけ迷宮を攻略し、迷宮主を倒してきたってことよね」

「当然。私は強くなるために迷宮に挑んでる。強い敵は望む所だから」

「そうそう。ま、迷宮を破壊するのはちょっともったいないかなとも思うけど。魔物がいなくなるとそれはそれで戦う相手がいなくて残念だし」

「弱い魔物は必要ないでしょ?」

「壊す必要もないでしょ」

「そうだけど……別に壊しても問題ないはず」

「まあ、そうだけどね」


 ネーデとしても別に迷宮を壊すことに特に意味があってやっているわけではない。

 迷宮主を倒した後、迷宮の核に到達するからそのまま迷宮の核を破壊した、というだけである。

 もしかしたら経験値の糧、スキルの強さの糧、あるいは何か特殊な影響があるか、というのも考えなくもない。

 しかし一度破壊し、二度目を経験して恐らくそういうこともないだろうという推測はついている。

 それでも破壊するのはなんとなくそうするのが冒険者として正しいから、と思っている。

 魔物に関しては、ネーデとしてはより強い相手に挑みたいため一度倒した、倒せる雑魚とはあまり戦う意味がない。

 経験値やスキルの糧にはなるかもしれないが、それでも何度も雑魚相手に繰り返して溜める意味合いはあまりない。

 ネーデにとって重要なのは何よりも強くなること。

 そのため強い相手に挑み、力量を高めることこそが肝心である。


「さて、まあそういうお話はいいわ。なんでここに来たのか……まあ、聞かなくてもいいけど」

「フォリア。あなたと、戦うために来た」

「わかってる。あなたがここに来るっていうことはそういうことだもんね?」


 戦いへの欲。目の前の強者に挑み、戦い、それを経験したいと、フォリアが気を放つ。

 ネーデはどこ吹く風とその気を受け流す。

 ネーデとしては強者である相手と戦いその戦いを糧にすることが重要である。

 自分の師であり、自分の知る限り最強である……人間、それを倒せるだけの実力がついているか。

 それを確認するため……あるいは、倒しそれを証明するため、もしくはこの場で成長し彼女を超えるため。 


「私としても良かったわ」

「良かった?」

「ええ。だって、もう私も歳だからね……あなたを最初に鍛えた時もそうだけど、徐々に衰えが見えてきたからねえ」


 フォリアも年齢的にはそれなりにいい歳、といったところだ。

 今もまだ鍛えれば十分強くなれる。

 しかし、それでもいずれは弱くなる……いや、弱くなる兆候が彼女には見えてきた。

 レベルによる強さの成長、スキルを鍛えることによる強さの成長、それは確かにある。だが限度もある。

 そして何よりも、強さは自分の肉体……自分自身の強さが大きく影響する。

 歳による衰えは自分の強さの劣化を引き起こす。

 フォリアは自分の限界が近いことがわかっている。

 落ち込めば、肉体的な強さはそれ以上を望めなくなる。後は下がるのみ。

 レベルやスキルの補強にも限度はあり、上がることがなくなった以上それ以上の意味がなくなる。

 これが彼女にとって最高最強の、最も自分が強いと思う相手との最大の戦いができる最後の機会。

 そう思っている。


「…………強くはなってる」

「ええ、まあ、そうね。でも後は落ち込むだけって知ってるから。だから、全力で、最大の自分を見たいの。一人じゃそれはできない。それを見せるのに相応しい相手がいる。それがあなたってことよ。あの時よりも、ずっと、ずっと強く成長したあなたがね」


 ネーデはかつての子供の時より大きく成長した。

 既に二十になった彼女の強さは幼い体ができていないころよりもはるかに強い。

 そして、その当時よりもレベルもスキルも強くなり、新しいスキルももちろん覚えている。

 いくつもの迷宮の攻略を行い経験としても十分と言える。

 今の彼女はフォリアに匹敵するほど……いや、もしかしたら彼女よりも強い。


「じゃ、あっち行きましょ。戦う舞台がいるからね」

「わかった」


 二人はエルフの集落の奥へと向かう。その先にいる、十七階層、骨の蜘蛛の出てくる部屋へと。






 出てきた十七階層の強力な魔物、それをあっさりと倒し、それが出てくる部屋を互いの戦いの舞台とする。

 少々障害物もあるが、その程度をどうにかできない実力でもない。

 むしろそれを利用し戦うのも一つの戦闘能力である。

 単純に剣のみを持ち戦いをするのもいいが、やはり実戦、様々な環境や状況があったほうが面白みがある。

 フォリアは純粋に強者との戦いを。ネーデは戦いを糧により強さの極みを求めることを。

 お互いその果てにある目的、あるいは戦いそのものに対する理由が違うが、戦う理由はある。


「じゃあ、やりましょうか」

「……合図は?」

「いらないわよ。いつも通りで行きましょう」


 いつも通り。ネーデの修行の時にやっていた通りのこと。


「………………」

「………………」


 お互いそれなりの距離を離れ、棒立ちとなる。そして…………


「…………!」

「…………っ!」


 ほぼ同時に、戦闘を開始した。

 どちらかが先に動き、その動きに合わせ行動を開始する戦いの始まり。

 先に動いた方が有利……とは限らないが、やはりどちらかというと先に動くほうが有利だろう。

 どちらが先に動くか、は棒立ちの状態から意識が整い、戦闘の体勢に入った時点から。

 ゆえにどちらが先になるかは確定ではない。

 その時の精神状態、肉体の状態、事前の状態が影響する。

 そして、先にも言ったが先に動けば有利というわけではない。

 ゆえにどちらが先に動こうとも構わないわけである。


「はっ!」


 互いの剣が降られる。フォリアの剣がネーデに振り下ろされ、ネーデはそれを弾く。

 そして<跳躍>、フォリアに向かい一気に近づき、剣の柄で殴りかかる。

 単純に剣で斬るだけが剣士の戦いではない。

 もっとも、次のフォリアの斬撃がネーデを横薙ぎにする。


「っ!」


 剣で弾くようにネーデは横薙ぎを防ぐ。

 その剣の一撃に乗っかり、ネーデは吹き飛ばされる。

 環境的に吹き飛ばされた先を足場にし、そこから一気に駆けおり地上に。

 そして<高速化>で高速状態でフォリアに斬りかかる。

 金属音が何度も響く。高速の状態でもフォリアはネーデに正しく対応する。

 フォリアの覚えているスキルに<高速化>や<加速>のスキルはない。

 普通なら、高速状態の相手に対応できるはずがない。

 しかし、フォリアはそれをできる。

 ただ剣を極め、剣に生き、戦い続けた結果、高速の相手にも対応できる。

 それは単純に強いから。

 スキルを使わない戦いを行い、スキル無しでも十分戦える土台を作ったからだ。


「流石にちょっと厄介ね!」


 しかし、それはネーデもまた同じ。

 今は<高速化>を使いフォリアに斬りかかっているが、普段はあまりその手のスキルを使わない。

 強者との戦いの時、強者を倒すためにスキルを使い自身を強くすることは多いが、ずっと使い続けることはしない。

 スキルに頼るとそこまでの強さを得られないからだ。

 スキルは使いこなすべきであり、スキルに寄りかかる状態はよろしくない。

 ゆえにスキルを使わない戦い、スキルを使わない経験を積む。

 そのうえでスキルを使えるようにする。

 スキルを使うのみに適した肉体で把握、あらゆる面で最適の肉体にし、そのうえでスキルを使えるようにする。

 それがネーデがフォリアとの戦いから学んだものだ。


「はあっ!」

「っ!」


 力という面では、フォリアの方が強い……元々の肉体の強さという点ではやはりこれまでずっと鍛え続けたフォリアに軍配が上がる。

 それだけではなく、やはり技術的な意味でもフォリアの方が強いと言えるだろう。

 もっともスキルの選択という点ではフォリアは剣での戦闘に特化しすぎているという欠点がある。

 それに対しネーデは様々なスキル、汎用性のあるスキルを選択した結果、いろいろな戦法が可能である。

 まあ、ネーデもまたフォリアから学んだ剣のみを使っているため、剣での戦いとなり、そのせいかフォリアに技術的には負けるのだが。

 とはいえ、長期間鍛えた形での経験はフォリアの方が強い……しかし、レベルやスキルの強さという点ではフォリアとネーデには差があまりない。

 これはネーデが鍛えに鍛えた、鍛え続けた影響が大きい。

 より強く、より強く、より強く。強さのみを求め続けた故に。

 同じ強さを求めるにしても、フォリアは戦うためであり、ネーデは目標とする強さ、絶対的な強さを目指すゆえに。

 ゆえに、求める先、戦いに掛ける想いはネーデの方がはるかに強い。

 感情が強ければ戦いに勝てるというわけではないが、しかし戦いの時に諦めな意思、より肉体の力を高める強さを得られるかもしれない。

 まあ、感情はあまり関係ない。

 重要なのは肉体の強さ、戦いの技術……そして、何よりも、極めたスキルである。


「っと!」

「外れたっ!」


 戦いの中、ネーデが空中にいるところフォリアは狙う。

 高速での移動、駆ける勢いでの跳びかかり。

 しかし、空中に跳びあがるのはそれ以降の制御が空中で出来ない欠点がある。

 多用は禁物であり、狙われやすい所でもある。

 そこを狙うのは当然だが、それを多用する理由が、ネーデにはある。

 ネーデは<跳躍>スキルを持っている。

 当然それは使われ鍛えられ……その派生のスキルが存在する。<空中跳躍>だ。

 それゆえに、ネーデは跳びあがり空中に躍り出ているわけである。

 空中を蹴り、跳躍しての不意打ちを狙って。

 もちろんこんなことができるのは最初の一回、不意打ちの一回だけ。

 それ以降はそれを考慮に入れられるだろう。 

 だが、その一回こそが重要だ。相手の不意を打ち、盲点を突き、確実に攻撃できるその一回が。


「はあああああっ!」

「ちっ!」


 流石にこれはまともに受けるしかない。


「っ」


 ネーデの振るう剣に、スキルが使われている。

 フォリアはそれを察知し、自身の剣系スキルを使い剣の強化を行う。

 確実にこの場で仕留める……そんな気迫が剣にこもっていた。

 確実に強力な、これまでにない一撃である。

 不意打ちを狙った、この大きな隙を見せた絶好の機会を狙った。

 ゆえに絶対に防がなければならない一撃。

 この戦いはお互いの生死は問わない、死んでも恨みっこなしの本気全力の戦い。

 まともに当たれば死ぬ危険が高いもの。

 ゆえに防ぐために、フォリアも剣に全力を籠める。

 その剣でネーデの攻撃を受けるために。


「っ、なっ!? ええっ!?」


 しかし、それを受ける前に、彼女は<天恵>を受け、後ろに下がる。

 まるで誰かにそうしろと言われたかのように。

 剣で防ぐことはする。しなければいけない。ゆえに剣はそのまま構えていた。

 だが、その剣は相手の<斬>撃によって斬り飛ばされた。


「ええええっ!? ちょっとお!?」


 流石に剣を斬られて戦い続けることはできない。

 剣はフォリアの武器であり、それがない限り戦うことは不可能である。

 ゆえに……剣を失った時点でフォリアの敗北となる。


「あー、もー。まったく。武器喪失で負けとかいろんな意味で悔しいわ……」

「私の勝ち?」

「そ。あなたの勝ち。はー、せめて殺されて終わるんだったらまだよかったのに……」


 戦いの結果として、武器の喪失で負けるというのはフォリアとしては何と言うか恥ずかしいというか、悔しいというか。

 殺し合いで殺されて負けるのならばフォリアとしても納得であり本望である。まあ、ちくしょーとは思うかもしれないが。

 だが、武器の喪失で負けた……というのは、やはりこれ以上戦えないから負けになってしまった、という形で色々な意味で悔しい。


「こっちとしては殺さなくてよかったと思ってる」

「そうね……ま、そっちはそうでしょうけど」

「フォリアは一応師匠だから」

「あー……ま、そう言ってくれるならちょっとうれしいかもしれないけど。でも、負けは負けかー。っていうか、どうやって斬ったのよ? 普通全力出した程度では切れないけど?」

「<斬>っていうスキル」


 <斬>。その名通り、斬るスキルである。

 とは言っても、ただ斬るスキルがそれほど強力なはずがない……というわけでもない。

 この世界にある物は多くが斬れるものだが、斬れないものも多い。

 例えば空気、例えば水、例えば空間、例えば時間、例えば名前、例えば……と、例えるならいろいろと存在する。

 特に物質ではないものや概念なんかはどれだけ頑張っても斬れないだろう。

 しかし、<斬>のスキルはそれらも斬れるもの。

 あらゆるすべてを斬ることを可能にし、力と技術さえあればどんなものでも斬ることができる。

 それが<斬>のスキル。

 ネーデはアズラットに学んでいる。汎用性、多様的に使えるスキルが強いと。

 そのことから思いついたのが<斬>のスキル。

 ただすべてを斬るための、ただ斬るだけのスキル。

 もちろんこれ自体がそれほど強いというわけでもない。

 あらゆるものを斬ることのできるスキルだが、そのあらゆるものを斬るためにはスキルが強くなければならない。

 ネーデはそのスキルを鍛えるため、ひたすらに迷宮にもぐりひたすらにスキルを使い斬り続け、その果てに今のスキルの強さを得た。


「なにそれ……」

「それなりに便利」

「あー、まあいいわ……弟子に負けたか。まあ、これで私も冒険者卒業かな……」


 ネーデに負けたフォリア。自身の全力を振るい戦える相手に挑み、負けた。

 負け方は気に入らないが、戦いの結果は出たのだ。これ以上の戦いはいらない。

 最も強い相手の戦いは終わったのである。

 後は下り坂、強さはどれだけ頑張っても徐々に落ちていく。

 今回のような、最大の戦いはもう出来ない。

 ゆえに、あとは冒険者を辞めて自分なりに生きるのみ。


「……先に行くのかしら?」

「もちろん」

「そ。もしかして、一番下のあれに挑むつもり?」

「………………どっち?」

「でかいのの先にいるやつ」

「もちろん」

「そ。なら頑張りなさい」


 フォリアはかつて、この迷宮の迷宮主に挑んだことがある。

 その手前のヒュドラはもちろん倒して先に進んで、だ。

 しかし、先のそれに挑もうとしても、勝ち目がなく、彼女は何とか逃げ帰った。

 それ以後、ここで鍛えてはいたが、結局また挑むことはなかった。

 ただ、ネーデと戦う機会を待ち続けた。

 ネーデと戦うことはなんとなく彼女なりに予感があったのだろう。だから待ち続けた。

 そして今日、その戦いは終わり、彼女が果たすべきことはすべて果たされた。


「それじゃあ、行ってらっしゃい」

「行ってくる」


 十六階層で休むことはせず、ネーデは十七階層の先へと進む。

 楽な竜の出る道に十六階層に戻り進むことはせず、蜘蛛の先の部屋へと。

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