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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
間章 それぞれの話
260/356

240.4-1 吸血姫の逃走

 アズラットが去り、クルシェはネクロノシアにてそれなりに平穏な日々を過ごす。


「ヴァンパイアの能力を……次に主様に会うまで鍛えないと……」


 アズラットと一緒にいる間もそれなりに成長しているヴァンパイアとしての能力だが、やはり実力としてはまだまだ。

 ネクロノシアでの平穏もそうだが、アズラットの役に立つため、ということもあり最大限使えるようになりたい。

 自身の無事のためにも。特に魅了は使えるといろいろな意味で便利だ。

 吸血による食事、あるいは自身の存在の認識を外したり、居て当たり前と思わせる暗示など。

 争いなど人を害するために行動するつもりはない。なのでそういう点では問題ないはずだ。

 まあ、彼女を見つけた人間が彼女に対しどういう対応をするかはわからないところであるが。

 仮にクルシェのことを知っている人間が見たのならば、どう思うのかは怪しい。

 知らない人間ならば普通に怪しい人間がいた、と思う程度だろうか。

 どちらにしてもクルシェは見つからないように隠れて過ごすようにふるまうのだが。


 ヴァンパイアの便利な能力として、蝙蝠を操ることができる能力がある。

 蝙蝠を眼や耳として、その眼を用いて監視する。

 ある程度飛行が自由で、あちらこちらに行ける存在。

 そして居てもあまり目立たず、違和感は少ない。

 もちろん数を揃え行動の奇妙さが目に付くようになれば怪しまれる可能性はあるが、少数を普通に蝙蝠らしく使うのであれば大丈夫だろう。

 クルシェはそうやって蝙蝠を使い、ネクロノシアの各場所の様子を見ながら過ごす。

 それは単純に自分のためだけではない。街のためでもある。

 ネクロノシアは今後クルシェのようなこの都市を治めてきた人間とは違う者が治めるようになる。

 そうなった場合、街の状況は大きく変わる可能性が高い。

 その場合における問題事が発生する可能性もあるだろう。

 それらに対応できるよう、クルシェがいろいろと確認し、後任に任せられるように裏で動く。

 元々この街を治めてきた家の人間だからこそ、ヴァンパイアという人外になった後も使命感のようなもので動いている。

 まあ、何よりも優先されるのは主の意思と自身の生存であるため、何かあれば逃げるための準備はしている。


 クルシェが過ごす場所は都市庁舎。できる限り他にばれないよう、ほとんど他者が来ない場所に。

 具体的にはいつでも逃げられる地下通路のある場所だ。あそこにはあまり人が寄らないし、寄っても用事がある者のみ。

 物が置いてあるだけで基本的にはそれを取りに来るだけで長居はしないし、中を調べるようなこともしない。

 そもそも、クルシェもあまりものを置かずひっそりと過ごしており、入ってきた人間には魅了の暗示をかける。

 そうすることで自身の存在の漏洩を防ぐ。

 まあ、入ってきた人間以外にも都市庁舎の人間に対しては魅了をかけているのだが。

 クルシェが光がない時に限り自由に都市庁舎の中を歩いていても怪しまれないように。

 魅了も別に万能ではないが、何度もかけ刷り込みを強くしたり、悪い印象を与えないようにしたりとクルシェも努力している。


 と、そんな感じにクルシェはネクロノシアでしばらくの時間を過ごす。

 鍛え、磨き、ヴァンパイアとして一人前を目指し、ネクロノシアの未来を守りながら。




 もっとも、そんな生活はあまり長い時間できたわけではなかったが。






「今更遅いですよ、まったく……聖国の人たちは」


 ネクロノシアがヴァンパイアに支配され、アンデッドの住まう都市となっていた。

 そういった噂が一時広まり、それが海を渡り聖国に届いた。

 魔物を滅ぼしたい聖国としては一都市がヴァンパイアの巣窟となっている状況は看過できない。

 それゆえに聖国からネクロノシアに魔物討伐の騎士が送り込まれたのである……まあ、はっきり言えば今更なのだが。

 しかし、今更送られ既にヴァンパイアたちが退治され安全な都市になっているとはいえ、騎士も一応調査はする。

 それにこの機会にネクロノシアの都市を聖国に属するようにするつもりもあり、できれば街中を完璧に調査しておきたい。 

 今はもういない、と言われても聖国としては念のため調べておきたい。

 仮に何かいればそれを理由に騎士を送ることもできる。

 流石に占拠、占領するというわけにはいかないかもしれないが、ある程度はそういったことをする気がないわけでもない。

 まあ、そこは聖国の意図次第と言ったところだろう。

 どういう意図であろうとも、クルシェにとっては厄介ごとでしかないが。


 ネクロノシアは既にヴァンパイアに支配された都市ではない。

 しかし、ネクロノシアにいたヴァンパイアは全滅したわけではない。

 アズラットが倒したのは都市庁舎にいた存在であり、その外部にいたヴァンパイアは話が違う。

 冒険者ギルドの長とか。

 それらが逃げ、どこかに潜みあるいは隠れ生活している可能性はある。

 とは言え、ネクロノシアにいるとは限らないが。

 だが、ネクロノシアに確実に一人、このヴァンパイアが存在する、という者がいる。

 当然クルシェのことだ。

 クルシェはネクロノシアの都市庁舎に住んでいる。

 そんなクルシェの存在が聖国の騎士に感知されないはずがない。

 隠蔽系のスキル、あるいは誤認させるような認識阻害系のスキルがあったとしても、さすがに対魔専門の聖国の騎士は厳しい。

 彼らはそれこそスライムの一匹すら見逃さず殺し尽くすような存在。

 魔物を逃がす可能性は……あまりない。ないとは言えない。

 それこそ彼らが持つ対魔の技術よりも高い能力を持つ魔物ならば逃げることはできるだろう。

 問題はクルシェがそういったスキルを持つくらいの実力があるというわけではないということだ。


「さて……私は逃げさせていただきますね」


 聖国の騎士が来る、ということになったので流石にクルシェはネクロノシアを捨てざるを得ない。

 何よりも自分の安全の方が優先される。

 彼女にとってかつての故郷であり、主に出会った場所であるとしても。

 逃げる通路は都市庁舎の地下にヴァンパイアによって作られた通路。

 ある程度ならばこの場所に隠れていれば昼間でも見つかる可能性は極めて低いだろう。

 まあ、さすがに長い間いるわけにもいかない。

 食事の問題もあるし、いずれは地下通路も見つかる可能性は高い。

 ゆえに、夜になった時に外に出てどこか安全な場所に向かうことが肝心である。




 出た場所は森の中だった。地下通路の先についてはアズラットがいる間にある程度は調べている。

 その場所がどこに通じているかは知っておりそれゆえに昼間でもまだ安全な方のは解っている。

 もちろん、昼間でもある程度安全だからと言って安全であるわけではなく、多大に危険があることに間違いはない。

 それこそ日の光は時間によって差し込み方も違うためまともに浴びて死ぬ可能性もあるだろう。

 なので当然夜に出る。そもそも昼間に外に出る危険を冒す必然性がない。


「ここまで来たのはいいですけど、これからどうしたものでしょうか……」


 問題はここから。クルシェとしては何処を目指せばいい物か。基本的に行き場所などない。


「とりあえず、どこか食事が確保できそうなところを……人里を確認しておいた方がいいかもしれませんね。でも、その前にやっぱり安全な場所を……隠れ潜めるような隠れ家はありませんか……?」


 そんなに都合のいい展開はありえない。

 流石になんでも自分にとって都合のいいことばかりではない。

 しかし、その通路が誰が作ったか。そもそもなぜ、森の中に向けて作ったか。

 行くべき先はどこでもよかった。それに暗い、日の光をある程度防げるとは言え、森を選んだか。

 そこに何かあるのでは、と思い至る可能性があれば、その近くに何があるかに気づくことはできただろう。


「…………あら? これは……?」


 クルシェは森の一角で何かを見つける。それは迷宮への入り口だった。

 ヴァンパイアは地上にて自然発生するものではない。

 すなわち、迷宮にて生まれた存在であるということになる。

 その迷宮はネクロノシアの近くにあった。

 そして、クルシェの通った地下通路はその場所の近くに通じていたのであった。

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