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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
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026 境界の行き来

 色々と考えアズラットの方針も決定する。

 三階層での修行に近い経験値の確保を目的とする食事である。

 とは言っても、実質的に今までとやることはまったく変わりない。

 一階層や二階層でやってきたことを三階層でもやるだけである。

 一階層や二階層と違う点は武器を持った魔物の集団が脅威であり手を出しにくいと言う点だろう。

 魔物に関しては、大鼠は一階層と変わりなくスケルトンは武器を持ったが然したる脅威にはならない。

 魔狼も特にこれと言って問題はない。

 三階層に来てすぐに遭遇したが、襲われても脅威ではない。

 そして襲ってきたところを逆に襲い返すことで問題なく殺し食らうことができる。


(脅威と言える敵はゴブリン連中だけか……一番戦って経験を積むべき相手が最も厄介なわけか)


 最も脅威であるゴブリンは集団戦になる上に武器持ちという厄介さである。

 もしかしたらその中に仲間に的確な指示ができるゴブリンがいるかもしれない。

 アノーゼの最後の言葉で三階層にゴブリンたちが流入する原因である知能の高いゴブリンは四階層にいることがわかっている。

 しかし、それ以外のゴブリンが全て無能であるとも限らないだろう。

 それにゴブリン自身の知能がそれほど高くなくとも経験的に判断することもある。

 迷宮の魔物は基本的に閉鎖的な空間で戦い殺し合うゆえにあまり長くは生きられないことが多い。

 だが、知能が高い魔物の指揮下に入りグループを作ることで長生きしている可能性があり得る。

 そうなった場合、様々な戦闘経験や成長した戦闘勘などがどう作用してくるかわからない。

 つまりゴブリンたちはアズラットにとってはかなりの脅威であると言うことだ。


(とりあえず、三階層の様子を探索。一応四階層への道のりも見つけておきたいし)


 そんなことを考えながら、スライム穴から迷宮の通路の様子を確認しつつアズラットは先へと進む。






 四階層との境界は意外とすぐに見つかった。

 一階層から三階層まで似たような構造で階層の大きさも大差はない。

 それゆえに、迷宮の探索難度は探索に慣れたと言うこともありそこまででもなかった。

 <跳躍>もあることで移動が速くなったというのも一因だろう。

 また、階層の境界がそこまで遠くなかったのも理由である。


(あそこが三階層と四階層の境目か…………)


 特に三階層と四階層の境目は一階層と二階層、二階層と三階層とは大きく違っていた。

 それまでは階層の差は地面の色の違いと壁色の違いくらいでしか確認できず微妙な差だった。

 しかし、三階層と四階層では大きく違いがはっきりしていた。

 そもそも迷宮の構造が違うのである。


(四階層ってなんだか普通の洞窟のように見えるな。まあ、迷宮である以上は普通の洞窟じゃないんだろうけど……そもそも俺って本物の洞窟の知識ってないし。一応映像で見たことのある洞窟は知識にあるけど……どこまで参考になるかな)


 三階層までは迷宮らしい遺跡のような構造をしていた。

 しかし、四階層は洞窟のような構造である。

 ただしこれはあくまで三階層から四階層を見ての判断であるため実際に中がどうなのかまではわからない。

 アズラットは自分の中に存在している知識を参考に洞窟について考えるが、あまり詳しくはないようだ。

 少なくとも転生する前のアズラットは洞窟に行ったことがないらしく伝聞や情報としてしか知識がない。


(…………もしかしたら向こうが別のどこか、天然洞窟であるかもとかも思ったけど、まあこれほどはっきりした証拠があれば確実に四階層だよな。アノーゼの言っていたこと、流入から考えれば確実に)


 そこから先が四階層、洞窟の構造の迷宮が四階層であると言うのは観察していると一目瞭然であった。

 何故ならばその境目を超えてゴブリンたちがやってくるからである。

 武器を持ったゴブリンの集団が。

 三階層に流入してくるゴブリンは四階層からやってきているとアノーゼは言っていた。

 もちろんこれはアノーゼが嘘を言っていないと言う前提で考えなければならないが、嘘を言う意味もないので恐らく本当の事だろう。


(はっきりと事実を確認するとなあ……っていうか、ゴブリン以外もちょっと四階層は怖いな)


 アズラットがその場で見る限り、四階層に住んでいるだろう魔物は恐らく結構な数になる。

 空を飛ぶ蝙蝠の群れ、大地を走る鼠の群れ、ボロボロの体をしている狼、地面を這う人間らしき姿。

 熊や河馬らしき姿も見え、ゴブリン以外の脅威も数多く存在している。


(ひとまず俺がやることは三階層で鍛える。できれば進化まで持っていきたいところだけど……ちょっと厳しいか?)


 まだアズラットのレベルは進化まで遠い。


『・種族:ビッグスライム Lv16

 ・名称:アズラット

 ・業

    スキル神の寵愛(天使)

    ■■■

 ・スキル 7枠(残3)

  <アナウンス> <ステータス>

  <圧縮lv24> <跳躍lv9> <> <> <> 』


(……やっぱりレベル上げが優先か。スキルを得ると言うのは一つの手段かもしれないけど、仮に得るならどういうスキルがいいんだろう。集団のゴブリン相手に……攻撃への耐久力、防御系? 不意打ちで相手の数を減らす攻撃手段とか? それなら隠蔽系統っていうのはありかな。例えば上空からの攻撃。天井に登るのが容易になった今、天井から襲い掛かることができれば……圧縮状態からの解放。上から降る時に大きくなれば、一気に相手全体を包み込める。隠れた状態で上から不意打ちで大きな体で降り注ぐって言うのはありかな?)


 アズラットは己の能力から複数体を相手にする手法、ゴブリンたちへの攻撃手段、対策手段を思いつく。

 もっとも、それが本当に有効かどうかは不明だ。

 しかし有効であれば三階層での行動はかなり楽になる。

 また、三階層以外でも隠れて行動する手段として用いることができる。

 天井にいてもばれないようなスキルであれば持っているだけで他の魔物から隠れやすくなることだろう。


(隠蔽スキル、防御スキル、どちらがいい? っていうか隠蔽スキルってあったっけ? 前にアノーゼと話した時は……<透明化>、<光学迷彩>、<擬態>だったっけ? <隠蔽>っていうのはないのかな)

『お答えしましょう!』

(うわっ!?)『ちょっと、アノーゼ? いきなり大きな声で話してこないでほしいんだけど。流石に驚くから』

『…………ごめんなさい』


 唐突なアノーゼの登場である。

 アノーゼは常にアズラットのことを見続けられているわけではないが暇があれば大体は見ている。

 なので自分の話題やスキルに関する話題、自分がアズラットに話しかけられるような内容があるとすぐに出てくる。


『スキルには獲得できるスキルの問題があります。これは前も言ましったけ?』

『多分』

『スライムの場合、隠すというのはあまり得意ではありません。自身が隠れる際には変化系統、体の色を変化させるとかそういう形での隠遁は可能です。ゆえに<透明化>や<擬態>などの自身を変化させて隠すタイプのスキルを挙げたわけです。ですが、<隠蔽>は隠れるスキルではなく隠すスキル、自分自身にかけることができますが、どちらかというと自分よりも他者を隠すタイプのスキルであると言う認識です。ですからあの時は私はそれを隠れるタイプのスキルに挙げませんでした』

『へえ』


 足がないスライムに足で移動するスキルは得られないように、個々の能力で得られるスキルが変わる。

 スライムは自分が変化するタイプのスキルは得やすいが、他人を変化させるようなスキルは得やすいわけではない。

 とはいえ、実のところ全く持ち得ない技能はともかく、得にくいと言うだけで得ることは不可能ではない。


『実は<隠蔽>は恐らく得られると思います』

『え? ならなんで前はそれを獲得するスキルにあげなかったの?』

『…………私はスキル管理の神です。ですが、常にその全てを完璧に把握しているわけではありません。私たちは技能的には人間の精神性に近い所があり、そもそも私達だけでは足りない所も多く世界のシステムを使いその多くを代行しています。機械のような完璧さは私達神々には存在しないわけでして』

『長い。つまり?』

『……忘れてました』


 神様なのにどうやら本体自分が管理するべきスキルに関しての内容を忘れていたようだ。


『だって! 思い出せって言われれば思い出せますけど、普段あまり関与しないことはどうしても記憶の奥底なんです! 徹底して記憶の検索をすれば思い出せますけど、スキルだけでいくつあると思いますか!? そもそも私達だけじゃどうにもできないから世界のシステムを使っての管理をしているんです! 神様は高い能力を持ちますが、万能無敵の完全存在じゃありません!』

『…………言い訳はそれだけ?』

『……ごめんなさい』

『いや、こっちもごめん。別に怒ってはないんだけどさ。今のスキルも役に立っていないわけでもないし。それで、<隠蔽>は覚えられるの?』

『はい、それに関しては問題ありません』


 神様に関してのあれこれをアズラットは聞かなかったことにして、スキルに関しての話に戻る。

 どうやらアズラットの考えていた<隠蔽>に関してはどうやら覚えられるようだ。


『ただ、一応忠告というか……』

『何かある?』

『隠蔽はあくまでその存在を隠していると言うだけで、完璧に誤魔化せるわけではありません。スキルのレベルが高くなれば隠しきることもできますが、観察能力の高い相手にはかなりの高レベルでなければ有効にはならないと思います。<擬態>などは自身の見かけを直に変えるのでレベルが低いうちは性能が低いと言うだけで一応変わってはいます。そういう点では<隠蔽>は低レベルには完全に有効にできるけど高レベル相手には全く効かないスキル、つまりはゼロか一かのはっきりと効果が出るタイプのスキルであると覚えておいてください』


 つまり<隠蔽>は効果が出る相手には完璧に決まるが、効果が出ない相手には全く意味がないということである。

 そして効果が解ければまたスキルをかけ直さなければならないものでもある。

 一度発動すれば常に効果が出ているわけでもない。


『……運用試験必須かなあ』

『そうですね。確認しておくのはいいことだと思います。ゴブリン相手なら恐らくは大丈夫だと思いますが……知能が高い相手には効かない可能性もあるのでそこは注意しておいてくださいね』

『わかったよ』


 そうしてアズラットは新たなスキルを得る。

 これがどう使えるかは実際に試してみなければわからないだろう。

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