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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
間章 それぞれの話
253/356

135.5 運命の予定外

「……これは問題です! 問題ですよ!?」


 アズラットのカイザースライムへの進化、それを伝え進化する姿を見守ったアノーゼが叫ぶ。

 彼女のいる場所は神の住まう場所、叫んだところで彼女の周囲にほかに誰かがいるわけでもない。

 その叫びが聞こえているわけではないので問題ないが、しかし一体どうしたというのだろう。

 まあ、仮にその場所が開けた場所でも彼女のアズラットを見守る姿を見ていると逃げ出す者も多そうだが。


「あれ? 確か、カイザースライムへの進化ってここじゃないですよね? ビッグ、ヒュージ、ボス、キング、エンペラー、カイザー、リーダー、スペリオル、リーダーへの進化タイミングは確か彼女と出会ったあと、そもそもカイザーに進化するのは最下層にたどり着くとき……いえ、さすがにこれは……リーダーに進化するタイミングにするしかないですよね? あの竜王相手に今のアズさんでは勝てません、進化しても無理です。せめて神化しないと厳しいです……進化して、見逃してもらうはずなのに、進化できない可能性もある……? しかも、今回は彼女が一緒なんですよ? 本当に大丈夫なんですか?」


 運命の予定。アノーゼはこの先に起こる出来事、可能性を詳しく知っている。

 それゆえに、アズラットがどうなるか、どうするかも知っているが、それが明らかにおかしい。

 いや、正確にはアノーゼの知る運命の予定から大きく狂っている。

 それに関してはそもそもアズラットがネーデと出会った時点で狂っている。

 それ以上に、この世界がこの世界として成立している時点から大きく狂っているのだが。


「アズさんが許されても、彼女が許されないのなら、アズさんはどうにかしようと動くでしょう。自分の生存を優先しているように見えてあれで危険にあっている人を見過ごせないような善人気質です。今のうちからアズさんの行動の対策を考えておかないと……」

「まー、別にいいけどさー。あんまり関わりすぎるとペナルティよー?」

「わあっ!? いつの間に来てたんですか!?」

「ついさっき。あの子のことを見ているのはあなただけじゃないってのは知ってるでしょ。っていうかあなたも大騒ぎしているわね、いちいち」

「そりゃあ大騒ぎもします。いえ、あなたが来たほうが大騒ぎな気もしますけど?」


 彼女のような神格にとっては自分の上司は自分を殺せる権限を持つ極めて恐ろしい相手である。

 そうでなくとも上司の気まぐれでいろいろと巻き起こされることもある。

 この世界でも、いや、この世界そのものもその気まぐれな行いに巻き込まれているわけで。


「しかし、前とは全然……ってほどではないけど違うわね」

「そうですね……やはり彼女が大きく運命を変えているということでしょうか?」

「まあ、あれはきっかけでしょう。そもそも迷宮自体が大きく変化しているんだもの。全ての運命、全ての流れが変わってしまうのは当然よ」


 バタフライエフェクトとは言わないが、人間一人、出来事一つ、何かが起きれば運命も変わる。

 もちろん世界の大勢はそう変わるものではないが、個人に与える影響は大きい。

 とはいえ、運命は大きく変わらない。アズラットの歩む運命は今のところ予定通りに近い。


「でも、進化条件的には……むしろ前回のスペリオルへの進化が異常だったでしょう。今回はこの迷宮でリーダーとなり、その後の行動過程でスペリオルになれる条件を成立させると考えれば順当といえるんじゃないかしら」

「…………確かにそうですけど」

「前と流れが変わっていることに納得がいかない? でも、それならあなたの干渉も、スキルに関しても、その時点で既に違うのに今更大まかな流れを戻そうって言ったってうまくいくわけないでしょう」

「っ……」

「あまり気にしないほうがいいわ。運命は流れるままに、運命のまま在り得るままに進むだけ。誰しも死ぬときは死ぬし、生き延びるなら生き延びる。世界が彼を必要とするならば、彼はこの世界に生き残る」

「そうですね……」


 それだけ話、アノーゼの上司は去っていった。

 彼女はただ単にアノーゼのおかしな様子を見に来ただけのようである。


「はあ……アズさんはいいとして、彼女はどうなるんでしょうね。個人的に今のままの彼女はあまり許容したくはないです。いえ、彼女が悪いわけでもないのですが……」


 アノーゼにとってネーデはいろいろな意味で敵である。ただ、完全に認めないわけでもない。

 しかし現状のアズラットに依存するような彼女の状態は認めがたい。

 別に依存することは構わない。それはアノーゼも彼女に近しいような状態だからだ。

 だが、アズラットの助けにならないことは認められない。依存するなら相互に助け合うべきだ。

 今のネーデはアズラットに頼り、ネーデ側からアズラットに対する助けはあまりない状態だ。

 そこがアノーゼにとっては許せない。仮にアズラットがこれを知ればそんなことはないというだろう。

 だが、事実としてネーデはアズラットがいなければ先に進めない。


「……まあ、彼女のことはいいでしょう。この先どうなるかで判断するしかない。アズさんのほうはずっと見届けているから最悪の場合こちらでなんとかするとして……権限を無理やり行使することになりますから少々後々困りますが、まあ、その場合は仕方ないでしょう。それよりも……こちらはアズさんよりも酷いことになっていますね」


 もう一方。彼女はアズラットのことだけを見ているわけではない。

 アズラットほどの頻度ではないがほかに見ているものも存在している。

 そちらの光景にいるのは一人の女性だ。ただ、それは悲惨に過ぎる光景だった。


「……ごめんなさい、あなたに対して私は何もできません。たとえ、この先に救いがあるのだとしても、それは今の絶望あってのものでしょう。私はそれを知りながら、ただ見届けることしかできない……あなたに対し、私は親愛を届けています。アズさんへの想いほどではありませんが、それが何かの助けとなることを祈るだけです……ごめんなさい、アズさんがあなたを救けるまで、絶望に耐えてください」


 アノーゼは世界の管理に関わる神格である。

 下位の神ならば下に降りて助けることもできるかもしれない。

 もちろん多くの神はそういった関わり方すらできないことが多いがそれでも管理側よりもましだ。

 だが、彼女は世界の管理を担う神の一角。少なくともまともに世界に関わることはできない。

 神のできることは管理する範囲でその権限を侵さないレベルで物事に関わること。

 また、神の声、言葉を届け指示を与えること。<アナウンス>や<神託>などで。

 いくらか罰則を覚悟すれば多少の無茶もできるだろう。だがそれでもできないことは多い。


「……しかし、本当に酷いですね。前はまだ比較的ましだった、それでも家族に犠牲が出ているわけですが、今回は本人も含めてなんでここまで酷いことになっているんです? 早くアズさんが訪れてほしいところです……四階層ですらあれほどの怒りを見せたんです。この光景を知れば、確実に叩き潰してくれるでしょう。ああ、でもこの光景を見せること自体アズさんの負担になりますし……ですが、私としては彼女は救けたい……この状況からアズさんに救けられたらたぶん前よりも依存レベルあがるんじゃないでしょうか? もう、狂信くらいのレベルになるのでは? それはそれでいいですけど……まあ、どうなるかは今はまだ判断できません。もしかしたら、安らかに死ぬことを選ぶかもしれない……そうなった場合、どうしましょう」


 アノーゼは先のことばかりを考える。まだ訪れない、未来についてのことばかりを。

 それは一種アノーゼにとっては過去のことでもある。

 過去に見た、未来の姿。それを彼女は望んでいる。

 ただ、この世界は大きく変わっている。

 ゆえにそれが叶うかどうか、それはまだわからないものだった。

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