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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
間章 それぞれの話
251/356

040.5 神様視点の中間報告

「……これで大丈夫でしょうか?」


 アノーゼはアズラットを暴走進化させた。それにより暫くはアノーゼはアズラットの姿を確認することは出来なくなる。これはアノーゼの行った暴走進化という本来はあり得ない進化、および本来得ることのできない<契約>のスキルを付与した代償である。アノーゼは一応アズラットに関わる多くの権限を持つが、しかし彼女もまた神格の一人、この世界において世界の管理を行う存在である。

 まあ、彼女に限らず世界の管理を担う神格は多い。彼女一人がアズラットに掛かり切りでも別に問題はないのだが、それでも彼女はスキルに関係する仕事を己の役割として持っている。そしてアズラットに対しての権限を持つとはいえ、スキルの付与は彼女の持つ仕事にもかかわる内容である。そもそもアズラットに対しての干渉の権限を持つとはいえ、それに罰則がないとは誰も言っていない。そういうことなので彼女は今回のことで罰を受ける。


「大丈夫じゃないの?」

「あ……」

「はい、さっさと始末書書いてねー」

「わかってます」


 アノーゼの上司が彼女のために始末書を書くために必要なものを持ってくる。神様なのにこういう時に必要なのは始末書なのが少し引っかかる話だが、まあ始末書を書く程度で済むのならば安い物だろう。もちろんそれだけが罰ではない。アズラットの姿を確認できなくなったように今のアノーゼはアズラットに関わることができない。それは<アナウンス>のスキルにも如実に表れている。

 その間にアズラットが死ぬかもしれない、アズラットが助けた少女といったいどういう状況になっているのか。アズラットであればあの少女に対して手を出すとは思えないがしかしアズラットだから何をするのかわからない。そういう点でアノーゼは色々と心配である。まあ、無理に五階層に進んだりしなければアズラットは早々死に至ることはない。いや、今のヒュージスライムに進化したアズラットであれば七階層くらいまでならいけることだろう。少なくとも現在の四階層の魔物相手に敗北し殺されることは恐らくない。


「しっかし面白いことになったわねー」

「別に面白くはありません……見ていたんですか?」

「割とみんな退屈しのぎで見ている感じね。ほら、ここ面白いことなんてなーんにもないわけだし」

「まあ、そうですけど……」


 神のいる場所に面白い物事はほとんど存在しない。世界を管理する場である神のいる場所は余分なものをあまり置いておくことはできない。そして彼らも世界の管理に忙しく遊ぶような余裕もない。まあ、本当に余裕がないと言うほどではない。ただまあ普通の人間のように日常的にあれやこれやといろいろな物事を体験するようなことは神という存在にはない。彼らは世界を管理する立場であまりそれ以外の物事に関わることを許されていない。

 そういう点ではアノーゼはアズラットという存在の一点においてのみだが関われる特例事項である。そしてそうして関わっている物事に他の神も退屈しのぎという形で興味を持ち簡単にその様子を見守っている。

 しかしアノーゼの上司の言う面白いこととは何なのか?


「"前"とは本当に違うわね。スキルの獲得も、行動の結果も」

「………………」

「あなたの干渉があったとはいえ、結果が違う。寵愛のせいもあってスキルの獲得が多いのもあるかもしれないけど、既に<念話>も<跳躍>も彼は習得している。<圧縮>は以前と変わりはないけど<擬態>の代わりに<隠蔽>を得ているわ。これは彼だけで行動するならそこまでの影響はないかもしれない。しかし、あの助けた子と行動するのならば大きな影響をもたらす」


 スキルの<隠蔽>は自分だけではなく他者にも作用できる。それはかなり重要な内容であるだろう。


「以前と同じようにするつもりはなかったの? なんとなくそれをあなたは望んでいたと思うけど」

「……ないとはいいません。ですが私はアズラットさんを私の思う通りにしたいというわけではありません。私のすべてはアズラットさんのために、アズラットさんが最も望むことのために使うつもりです。私自身制御しきれない部分もありますが、それでもできればアズラットさんの望む通りになるように」

「そう。まああなたがそれでいいならいいんだけど」

「……それよりも、アズラットさんの記憶と精神は今のアレでいいんですか?」

「以前と違うのは悪いわけではない。彼に関しては……そもそも前があれだったというのもあるわ。調整不足のせい、まああの彼もまた彼であるから否定するわけにはいかない。でも残るのはどちらかのみ。あなたはどちらの方がいいの?」

「……それは私が選ぶべきではないです」

「そうね」


 アズラットに関わる話であるが、この場に本人はいない。神同士が話す神ならぬ、神成らぬ身には届かない頂上の話。


「ま、それはともかく……始末書および罰則、そうね、罰則は少しの間だからまだいいでしょうけど」

「短くしてくれませんか?」

「駄目です。ルールはルール。守らなければいけないわねー」

「くっ……たった三日でもアズラットさんに全く関われないのはどれほど苦痛だと……!」

「むしろ三日で済んでいいじゃないのよ。順調に行けばこの先…………」

「あー! あー! 聞こえません! 聞きたくありませーん!」

「本当に変わったわねーこの子も…………」


 今回のアズラットは以前と違う。記憶がないからとかそういうものではなく……と、そのあたりの事情は色々と彼女たちにもある。しかし、それ以上に。アズラットと関わる前のアノーゼとアズラットと関わった今のアノーゼは以前と大きく違う。それが悪いわけではない。今のアノーゼは面白おかしく本来の在り様、スキルを管理する神としては大きく外れているが彼女の変化は多くにとって望ましい物である。愛に生きる。少しちょっとあれなところはあるが、それはこの世界においてとても重要で大切で何よりも優先されるもの事である。

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