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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
間章 それぞれの話
250/356

240.1 スライムを見続けた神の話

<……世界の迷宮のシステムにアクセスがありました。迷宮作成を開始します>

<対象:スライムリーダー レベル:八十七>

<レベルが足りていません。必要条件を再調査します>

<業:大物殺し 業:スキル神の寵愛 業:■■■>

<隠蔽を解除します。 業:神格者>

<神格者適性を確認しました。記録にアクセス…………前神格情報を確認>

<必要とされる情報のアップロードを行います>

<迷宮の作成および迷宮主への昇格に十分な条件を確認しました>

<封じられた神格性、回収された力を返還>

<迷宮主として、スライムリーダーより進化します>

<進化先:スペリオルスライム>


「進化と同時に<人化>のスキルの付与を」


<システムへの干渉を確認。スキル神よりスキルの付与>

<スキル:人化を付与>

<人的適性を確認……人間の精神性が存在します。人化における問題はありません>

<全体人化の許可。疑似的な表層の人化の許可>

<迷宮の作成。スライム種を基礎データとします>

<スキル、経歴、行動、性格、存在情報より迷宮の性質を確定します>

< 個体名:アズラット を迷宮主へと昇格します>

<神格適性より、スペリオルスライムへと進化し、疑似的な神格へ覚醒>

<神格者だけでは神化はできません。上層への到達を神化条件に制定>

<以後神格からの直接干渉は封じられます>


「……こんなものですね。やはり、最終的にはアズさんの行動次第ですかありません……神格になるための条件として人型になれることが条件だなんて知りませんでしたから、前回は無理でしたが……これで問題はありませんね」


 アズラットは迷宮主として、迷宮が生まれるときに昇格する。

 迷宮主はある意味進化のようなものなわけだがそのうえでさらに特殊なものだ。

 神格者……黒塗りされていた業は神としての適性であり、それを持つアズラットは本来ならば迷宮主になる際に神に成る。

 もっとも、この世界において神の立場はかなり重いものであり、実の所全てではないが他の迷宮主も神格適性は迷宮主になる際に付与される。

 それをはじめから持つアズラットが例外であり、特殊であり、異常である……実際、アズラットという存在は異常なのである。

 なぜなら、アズラットが神であったという情報は、以前より存在しているのだから。

 今回のアズラットが迷宮を生み出し迷宮主となる際に、必要なものとして、本来アズラットが持ち得る力がアズラットに還された。

 それは本来のアズラットの力であるが、同時に神の領域にて封じられていた力でもある。

 なぜそんなものがここ、神の領域に存在しているのか……そもそも、なぜアノーゼがそういった物に関与しているのか。

 それ以前に、アノーゼがアズラットに関わっていたこと、隠されていた業、そういった物は一体なぜなのか?


「記憶は返せませんでした。まあ、それは仕方がないということはわかっているのですが……」

「そうね。しかし、ようやくといったところかしら?」

「っ……何か用事ですか?」

「彼がようやく迷宮主となり、神への疑似的な到達をしたわけだから。それに、今回はあなたの干渉も前回とは違う形であったでしょう?」

「以前は<神格者>の付与でしたから……」

「今回はそれは業へ移されているからね。それでスキルの付与を……ええ、本来は進化時にスキル枠が空くからでしょうけど。あと、<アナウンス>が使用できなくされる代わり、ということでもあるのかしら? 過干渉であるとは言えるけど、スキル神として奪われるスキルの代替……比較的容認されるものではあるわね」


 アズラットの持つ<アナウンス>は封じられる……これはアズラットへの神格からの干渉を封じられるためだ。

 アズラットは疑似的な神格となり、神が直接干渉することができなくなる。

 これは神ゆえの特殊性だ。

 しかし、疑似的な神格ゆえに、本来の神ともまた在り方が違う……いうなれば今のアズラットは神様候補と言える。

 そんなアズラットが神に成るのはある種の条件があるが、それも伝達はできない。

 干渉により積極的に神にされても困るし、他の神からの干渉があり借りを作るのも困る。

 寵愛を与えているアノーゼは少々特殊だが、それでもやはり干渉すること自体に例外的な許可はない。

 ただ、彼女の場合は別口からの干渉をすることを考えている。


「……でも、これでようやく……ですね」

「そうね。別に彼のためではないけれどきっかけではあるからね。この世界が再構築される要因の」

「…………そう言うとアズさんがとても大きな出来事に関わっているようですが」

「実際そうでしょう。彼の来歴がなければ世界の再構築はなかったわ。新しくなった世界で、再度生まれ似たような運命を歩む……まあ、中身は結構違っているようだけどね」

「本当です。前回とは全然違います……結果的な事象はほぼ一緒ですが、その過程が」


 前回、今回。神であるアノーゼと、そのそばに来ているアノーゼの上司はそう語っている。

 世界の再構築。この世界は元々普通に世界として運営されていたが、ある時再構築して初めからやり直されたのである。

 その前の世界において、アズラットという存在はスライムながら迷宮主となり、神に至るまでの力を得て、神の領域に到達した。

 しかし、残念ながら神格として成立し得るのに必要なある条件を満たさないがゆえに、一度世界へ帰された。

 様々な理由から再構築されることとなり、同じ運命と経過を辿るだろう世界に、同じ存在として再び生まれたのである。

 似た世界、ほぼ同一の存在、それゆえにその持ち得る運命は以前と変わらず、同じような生を過ごした。

 まあ、その仮定や結果、アズラットという存在が持つ様々な情報は大きく変わったが、結果は変わらない。

 生まれた迷宮を攻略し、迷宮主と会い、世界を旅し、エルフの里に行き、人魚と出会い、幼女と出会い、吸血鬼と出会う。

 そのすべては以前の運命があるがゆえのものでもあり、同時にアズラットの持つ本来の運命が影響するものでもある。

 もちろんすべてが全く一緒なわけではない。

 アノーゼの寵愛があり、覚えるスキルが違い、到達する経過が違う。

 場合によっては、以前と違った出来事や出会いが大きく運命を変える危険があったほどだ。

 しかし、そうはならなかった。

 世界の修正力か、あるいは本人がそれを望まなかったからか、それとも単なる偶然か。

 それは不明だが、ともかくアズラットは以前と同じような道を歩み、そして以前と同じく神へ到達した。

 ただ、以前とは大きく違い、アズラットは一度条件の不成立性はあるが神へと到達している。

 神格者の適性を持つし、以前神として得た力を分散し保有されていた。

 あるものは指環に、あるものは魔剣に。

 それらを回収し、迷宮主へと到達し、その時神側から力を返され……実質既にほぼ神と言っていいくらいの力を得ている。

 この世界のシステムにおけるアズラットの存在はまだ神として成り立つものではないが、力だけを見ればそれに匹敵する。

 あとはこの神の領域へと至るのみ……問題は彼がそれを知らないため到達するにはその情報を得る必要があることだろう。


「ま、それなりに楽しめたからいいけど」

「……楽しいでああいう存在を作るのはどうかと思いますよ?」

「別にいいじゃない。あなたも彼のことは大好きでしょう? 他の神にも、ああいう存在ができるかもしれないならそれはそれでいいでしょう」

「……………………」

「これからは見ていることしかできないわね。まあ、仕事をきちんとする限りは何も言わないけど」

「見ているだけではありません。あの子たちに伝達してアズさんの補助をしないと……」

「そうね。今回はあの子だけが可能性を有しているわけじゃないものね」

「………………………………」

「不満?」

「ええ、不満です。彼女に関しては以前のこともありますし、加護も与えていますからまだ認められるのですが……新参者は個人的に」

「人魚とあの子供は?」

「……彼女たちではそもそも到達しえないでしょう? アズさんに近づこうと、己を鍛える冒険者の彼女はともかく」

「ふふ、そうね。でも、魔剣と指環が渡っているもの。どうなるかはわからないわ」

「……………………そうですね」


 アズラットと関わった存在……その中で、とても深い感情を抱くものもいる。

 それらの存在はアノーゼとしては敵に近い。

 いや、厳密に敵として言えるのかは怪しい。

 敵というよりはライバルというか。そっち方面でアノーゼは考える。

 まあ一人……ヴァンパイアの女性に関しては彼女は加護を与えていることもあり例外であるが。

 他は少々アノーゼとしては認めがたい。それは以前のこともあるのだろう。

 ヴァンパイアの女性が加護を有していたのは、そもそも以前の関係性もあるからである。アノーゼと、アズラットとの。

 そもそも複数人の女性との関係、というのはいろいろ複雑な物である。

 まだアノーゼは神としての視点で比較的許容的であるが本来なら全部排絶してもいいくらいだ。

 もっとも、アズラットの考えの問題もある。

 アズラットが望むならば、アノーゼは許容するだろう。

 そもそもアズラットはスライムでありそういう方面のことは全く考えていないわけであるのだが。アノーゼに関しても。


「さ、仕事に戻るわよ?」

「私よりもそちらのほうが仕事としては重要ですよね? なんでこんなところにいるんですか?」

「端末よ。話す程度のことしかできないものでしかないわ。部下と話すのは上司の仕事、部下を仕事に働かせるのも上司の仕事。今まで若干サボってたところもあるんだから、早くしなさい」

「…………はい」

「あの子たちへの干渉は今はまだ先の話になるでしょうね。ま、到達しえないのなら別に無視でもいいわ。加護を与えた子は別だろうけど、他はそれこそ必要に足らないのなら、いらないのでしょう?」

「そうですね……まあ、アズさんと一緒にいたいと頑張るなら、考えておくくらいです」

「ふうん、そう。ま、あなたがそうするってならそれでいいわ。別に私がかかわることでもないし」


 そういって、アノーゼの上司の姿が消える。


「……ふう、あの人が来ると緊張するんですよね。さて、私は仕事をしないといけませんか……まあ、神として仕事をするのは当然ですけど。彼女……あちらの子も、<神託>を与えている以上確認は必須。アズさんの方は覚醒時にこちらへ連絡を伝えさせるとして、周辺の危機や変化の確認も……これくらいでいいでしょう。あの二人は……一応情報だけは取得しておきましょう。ライバルが増えると困る……わけではないですが、ちょっと、複雑な心境ですしね」


 スキル神としての役割をこなしながら、アノーゼはアズラットと彼に関わる存在の行方を追う。

 アズラットのように神へと到達するのか、アズラットを求め本来ならば成し得ぬ道にすすむのか。

 あるいは半ばに近い永遠にその存在を投げ込むのか。選

 ぶのは彼女らであり、それにアノーゼは関与しない。

 今の彼女にできるのは、見届けるのみ。

 そしてもしこちら側に近づけたならば、その時に連絡をするのみ。

 それくらいしか、今はできない。やる必要がない。

 彼女にできることは、見続けることのみである。

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