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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
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025 アノーゼのこと

(…………彼女はなんなんだろうな)


 アズラットは心の中で静かにそう思う。

 彼女、即ちアノーゼのことを。

 今までもそうだがアノーゼのことをアズラットは詳しく知らない。

 言えないようなことや秘密にするべきこと、隠し事はあるのはわかるが彼女の立場上それは仕方がない。

 しかし、そうだとしてもアズラットとしてはアノーゼにはわからないことが多すぎた。

 特に何故アノーゼがアズラットに対し熱心に色々と教えてくれたりするのかは大きな謎である。

 推測としてアズラットは記憶喪失であり、記憶を失う前に彼女と大きく関わった、と言う可能性はある。

 だがそういったことに関してアノーゼは何も言わない。

 アズラットとしても彼女のことは知識にない。

 アズラットは記憶喪失であるが、知識を失ったわけではない。

 その中にアノーゼのことは存在しなかった。

 もっとも、これに関しては他の人に関する知識もほとんどのものがない。

 歴史的なものや文学的なもの、創作のなかの人物のことなどは知識にある。

 しかし、身近な友人や家族の知識はない。

 記憶に連動して覚えていたなど記憶側に分類されていた内容だからと言う可能性もあるだろう。

 しかし、そうだとしても全くそういった知識がないのは疑問である。


(明らかに記憶喪失もちょっとおかしいんだよな)


 アズラットの記憶喪失は自然に記憶を失ったとは少し思いづらい物である。

 ただ、それはアズラットの自覚としてそうであると言うだけでそもそも記憶喪失した人間の感覚が分かるわけではない。

 今のアズラットが記憶喪失した人間として正常なのかどうか。

 そもそも人間すらないというのに。

 そして記憶喪失した状態の時点で正常ではない。

 異常の中に別の異常があってもわからないだろう。


(……………………隠し事か。あって当然なんだろうけど)


 アノーゼは普通の人間とは違う。

 彼女の談でもあるが、ステータスでも表示されているように神格である。

 スキル神、スキルを管轄に持つ中位の神格、そして天使。

 神であるアノーゼは元人間現スライムのアズラットに話せないようなことは幾らでもあるだろう。

 アノーゼはアズラットのためならば多少の無理は通す、と自分で言っている。

 しかし、彼女ですら手の出せないことは多々存在する。

 そもそも彼女の管轄はスキルが主なのである。

 それ以外の分野に彼女は積極的に手を出すことはできない。

 それでも迷宮のことに関しては彼女はアズラットにそれなりの内容を教えてくれている。

 先ほどの呟きに関しても、彼女が呟いたのをたまたま聞いただけだが実態は違う。

 そもそもあの言葉、内容をアズラットが聞けると言う時点でそれは彼女が伝えられる内容であると言うことだ。

 伝えることができない内容であればどんなことがあっても教えることはできない。


(アノーゼを頼り切っていいのか?)


 アズラットにとってアノーゼと言う存在はどこまで信頼におけるものか。

 かなり頼っている節があるが、どこまで頼っていい物か。

 先ほどの発言でアズラットは少し考える。

 もっとも、深く考え込むほどの内容ではない。

 何よりもアズラットはアノーゼの想いをよく知っている。

 二階層に入ったことで怒られたこと、その時に最後の方には少し泣いていたこと。

 ステータスの業という欄に寵愛というものが表示されるほど、アノーゼはアズラットに愛情を向けているということ。

 散々下階層に行く場合アノーゼが心配してくること、無理はしないように言ってくること。

 いくらなんでもその内容全てがアノーゼがアズラットを騙すために行っているとは到底思えない。

 そもそも騙すためにそこまでする意味もないだろう。

 アズラットを騙して何の得になると言うのか。


(……考える間でもない。彼女は信頼できる。まあ、その信頼の大本は元々の俺なんだろうけど)


 アノーゼと関わっていた可能性があるとすれば、それは記憶を失う前のアズラットのはずだ。

 そしてそれはスライムではなかったころのアズラットである。

 その時の記憶がない、というのもまたアズラットには辛い所である。


(まあ、アノーゼのことは信頼するとして。最後のあの言葉の意味は……まあ、そのままなんだろうけど)


 三階層にはいない。四階層の隠れ家にいる。

 その言葉の意味は深く考える必要もないだろう。

 あの時話していたのはゴブリンに関係した内容の話である。

 その時話していたのは階層を移動するゴブリンの原因について。

 知能の高いゴブリン、ゴブリンをまとめることのできるゴブリン、アズラットのような進化した可能性のあるゴブリン。

 それが三階層に来るかもしれない、ということでアノーゼは注意するように、と言っていた。

 しかし最後に小さくそれは三階層には存在せず、四階層の隠れ家にいるだろうということを呟いていたのである。

 恐らくそれはアズラットに教えるつもりはなかったと言うことなのかもしれない。

 もしくは教えないと言うのは単なるアノーゼのポーズで小さく呟いたと言う体で教えるつもりだったのかもしれない。

 そこはわからないが、少なくとも三階層にはそのゴブリンの危険はないと言うことである。

 これに関しては深く考えずとも想像は出来る。

 群れのボスと言うのは一番奥でふんぞり返っているのがお約束なのだから。


(つまり三階層にいる間はそこまで危険はない、と。いや、油断したら危ないな。一番危ないやつは出てこないというだけで武器持ちのゴブリンというだけで結構厄介さは跳ね上がる。それが複数で徒党を組んでいるわけで。一応棍棒とかの武器ならまだ危険度は少ないが…………見た限り、結構いい剣を持っているのもいたんだよな。打撃ダメージはまだそれなりに安全だけど、流石に剣はな……できればそういうのがいないグループを狙う、もしくはいい武器を持っているのを先に積極的に狙っていくか。問題は戦い方になるな。今までのように一匹を誘い込んで、というわけにいかないだろう)


 三階層でゴブリン相手に積極的に戦うことを決めるアズラット。

 しかしここで問題となるのが戦い方である。

 二階層ではゴブリンを誘導し、行き止まりで壁まで逃げ、壁を利用し攻撃に切り替えた。

 だが今回は複数いる。一体を相手にしている間に他のゴブリンが攻撃してくるだろう。

 頭のいいゴブリンが指示しているらしくグループを作っているため誘っても一体だけ誘導と言うのは難しそうだ。


(……そもそもゴブリンを相手にせずスケルトンや魔狼を相手にするのもありだよな。スケルトンはあまり挑む意味はないし、魔狼をメインにするのがいいかな)


 食事、経験値という意味合いではスケルトンよりは魔狼の方がいい。

 総量的な問題もあるし、武器持ちとはいえスケルトンはあまり強くない。

 そういう意味ではやはりゴブリンの集団の方がいいかもしれないと思う所だが、複数の武器持ちにはあまり挑みたくない。

 それに、魔狼とゴブリン集団でどれほどの食事の差があるのか。戦える規模、頻度、難易度などを考慮しなければならないだろう。


(まあ、色々と試してからだな)


 まだアズラットは三階層に来たばかり。

 あれこれと考えるの構わないが、思いこんではいけない。

 考えてもわからないことは実践して試すのみ。


(……四階層はまだ先だな)


 三階層に流入してくるゴブリンの大本である知能の高いと思われるゴブリン。

 その存在がいるだろう四階層に興味があるが、それはまだ先の話。

 今のアズラットはまだまだ力が足りていない。

 急がず慌てず、アズラットはまず三階層を攻略しにかかる。

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