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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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240 迷宮主の生誕

 アズラットの旅立つ先は基本的にそこまで多数存在しているわけではない。

 というのも、基本的にアズラットが目指す場所は今まで通ってきた場所になるからだ。

 なぜそうなるかというと、時間が少ない、足りない状態だからである。

 アズラットの本能的欲求の都合上、どうしてもあまり時間をかけて求める場所を探すのが厳しい。

 そもそも、新しい場所と言ってもどこに行けば新しい地域に到達するのかもわからない。

 今までも見探索の場所はそれなりにあるが、そういった場所を探すのもそもそも手間もある。

 迷宮があることがわかっている場所はある程度避けてもいいが、そもそもあるかどうかもわからないわけで。


 そして、基本的に海の向こうに行くわけにはいかないだろうともアズラットは思っている。

 これに関しては海の上で迷宮を作りたいという欲求、本能に呑まれると困るからだ。

 特に海の上は船でないと進めない。海底を通るのはもう二度とやりたくないという本心もある。

 まあ、最悪海の底に迷宮を作るのもありだなと思っているので必要なら行くしかないが。

 ともかく、そんな感じで海の向こうは対象外で考えている。

 そのため、元々の出身地である竜生迷宮のあるアルガンドは対象外、聖国や神山がある所も対象外だ。

 となると、基本的にこちら側……ネクロノシアのある方面、あるいは海底から上がってきたときに出た場所の近辺となる。


(……ネクロノシアからは遠いところがいいよな。っていうか、ネクロノシアの近くには迷宮がある感じだし)


 迷宮の存在を知ってはいないが、その存在をアズラットは知覚している。

 スキルで知っているわけではない。

 あくまで雰囲気的な話になるが、なんとなくの雰囲気でそれを感じている。

 そもそも迷宮を作るという世界のシステムよりの事柄が関係しているため、それを感じることができるのである。

 ヴァンパイアのいただろう迷宮はネクロノシアの近くにあり、それがある以上ネクロノシア近辺には作りづらい。

 そもそもネクロノシアの現状から迷宮を作ると起きる問題の方があるためあまりしないほうがいいだろうと考えている。

 ゆえに、選択肢としてはネクロノシアに来る前、巨大な石柱の橋を渡った先の大陸となる。


(そういえば、あっちはあんまり探索はしてないんだよな……海から上がってわりとすぐにシエラと出会ったわけだし。そう考えると、ちょっと面倒か? まあ単純に移動するだけなら……噂とか気にしなければ別に、って感じか。<加速>もあるし)


 移動するだけならばアズラットは周りのこと、噂などを気にしない限りはいろいろと無視した移動ができる。

 むしろアズラットがそのような無茶な移動手段を用いることでネクロノシアの現状の噂を消せるならばそのほうが都合がいいかもしれない。


(ともかく、まずは移動するか)


 ネクロノシアの方向ではない、シエラと別れた方面に向かう……というのも手ではあるが、そちらはなんとなく嫌であるらしい。

 まあ、そちらではシエラと出会う可能性、もしくは関係者に迷惑をかけるかも、というのもある。

 そもそも、結局ネクロノシアに近いというのもあまり望ましくない理由だろう。

 別にネクロノシアに近いと問題があるというわけではないが……まあ、そこはいろいろとアズラットの考えがある。

 ともかく、石柱の橋の方に向かい、その向こう側の大陸の方へと……アズラットが弾丸のように<跳躍>し、向かう。

 それにより妙なものが跳んでいくという噂がネクロノシア方面で新しく広がっていったが、それが何なのかはわからなかったという。






(…………山だなあ。岩肌だなあ。まあ、やっぱり迷宮とかダンジョンとかそういうのってこういう場所だよな)


 石柱の先へと進み、大陸を移り渡り、アズラットは今まで来たことのない場所を探索した。

 探索と言っても、基本的にあちこち移動してみて回る程度であるが。そもそもあまり時間が足りないわけである。

 まあ、迷宮を作る本能もそんなすぐにアズラットを支配するくらいに満ちるわけではないわけであるが。

 そうして見つけたよさげな場所というのが……まあ、山の中、岩肌の場所だ。

 とはいっても、そのままそこで岩肌に張り付いて一体化する、というのもアズラットとしてはどうかと思うわけである。


(……<穿孔>で掘って、それなりに住み心地のいい場所を作るかな)


 迷宮というのがどうやってできるのか、アズラットはわからない。

 しかし、すぐにできるわけではないだろう。

 できれば迷宮を作る間……無防備になるかもしれない自分を守るものがあったほうがいいかもしれない。

 危険が近づかないようにした方がいいかもしれない。そう思う次第である。

 別に特にそういった物は必要ない。迷宮ができる場所に特にこれと言って近寄る者はいない。

 今までいくつもの迷宮ができているが、そもそも迷宮ができるくらい強くなる魔物が少ない。

 そういった存在が迷宮を作る際に問題が起きるようではやはり迷宮自体の発生が少なくなる。

 そのため、特にこれと言って迷宮が作られるときにそれを邪魔されるようなことにはならないようにされている。

 とはいえ、アズラットはそれを知らないので色々考えるのは仕方がないわけであるが。


(っと、こんなところでいいかな? 一応出口は……岩で塞ぐとして)


 元々の消化能力なども駆使し、深いところまで通じる部屋を山の岩肌の中に作り、その入り口も塞ぎ完全に密閉空間に潜む。

 もともとスライムは呼吸が必要な生物ではないわけであり、そういったところに住んでいても問題はない。

 食事の問題はあるが、それくらいだろう。そしてアズラットは食事の必要性はない。


(………………ここなら迷宮を作るのに問題はなさそうだ。でも、そもそも迷宮ってどうやって作るものなんだ?)


 アズラットには迷宮を作るという欲求、その欲求を生み出す迷宮を作る本能が存在している。

 しかし、どうやって迷宮を作るかどうかはアズラットにはわからない。

 場所を確保したはいいのだが、結局作り方がわからないとその場所にずっと居つくだけになってしまう。


(……どうすれば)

『アズさん、特に問題はありません』

『アノーゼ? それはいったい……っ!』


 急激に眠気に近い何か、アズラットの意識を飲み込むような、膨大な何かがアズラットを襲う。

 それは別に悪いものではない……本能的なもの、今まで感じてきた迷宮を作る欲求的なもの、それらからくるものだ。

 迷宮を作るというのは育ちに育った魔物に与えられる本能に近い欲求であるが、そもそもは世界のシステム的な物である。 

 そこまで育った魔物は迷宮主となり、迷宮を生み出す核となる。

 そのため世界から付与される本能だ。

 そしてそれを与えられたものが必要な条件を満たせば、自然と迷宮は生まれる……そういうものである。

 ゆえに、深く考えずとも必要な条件を満たし十分だと考えたアズラットは迷宮を生み出すこととなる。


『アズさん、私が……私が<アナウンス>で、あなたと会話をするのはこれで最後になるでしょう』

『…………さいご?』

『はい。これから迷宮主となるアズさんと、私はもう話せなくなります。これはいろいろな条件が重なるためですが……しかたがないことです。しばらく、ずっとしばらくアズさんと話せないのは、非常に私としてはつらいことですが、必要なことであり、しかたのないことなので、諦めるしかありません』


 アノーゼはそう、静かに、アズラットに告げる。

 彼女としてもアズラットと話せなくなるのは嫌だろう。

 これから迷宮を作るアズラットは迷宮を作るための眠りにつく。

 その間変化もなく、話すことのできないアズラットを見続けることしかできない。

 まあ、彼女としてはそれくらいでも十分すぎるくらいかもしれないが、やはり寂しいものは寂しいだろう。

 迷宮が生まれるまで……十年や二十年ではきかない。

 百年は最低でも掛かるだろう。もしかしたもっとかかるかもしれない。

 その間、彼女はアズラットを見続けることしかできない。それはとても寂しいことだ。

 しかし、それはしかたがない。

 その後の<アナウンス>での会話が不可能になることも、ある条件のせいで仕方がないことだ。


『ですが、いずれアズさんと、私は会うことができると思っています。アズさんなら、たぶんやってくれるでしょう』

『…………しらない』

『はい。アズさんだけで本当にできるかもわからない、であれば、私としてもある程度手助けを。アズさんには手助けはできませんが、他の誰かを使っての手助けはできます……まあ、直接大掛かりなやり口でのことは不可能ですし、彼女たちでもあまり自由に活動はしづらいでしょうから、ある程度誘導を頼むしかできません。でも、それなら十分なんとかなるでしょう……このことは、今は理解しなくてもいいです。次に起きた時、アズさんはいろいろと理解していることでしょう。その時に思い出し、いろいろと把握すればいいともいます』

『……………………』

『それでは、良い眠りを。また、会いましょう』


 そのアノーゼの言葉を最後に、アズラットの意識は完全に眠りにつく。

 そして、迷宮の作成に力を費やすこととなる。

 迷宮が生まれ、アズラットはその場所の迷宮の主となる。

 そして、かなり未来に目を覚ますだろう。




 迷宮主の資質を持つ者が迷宮を作り、その迷宮との繋がりから迷宮主が生まれる。

 迷宮は一度生まれれば世界のシステムの一部となり、崩壊するまでは生み出す小さな世界として存在する。

 迷宮ではどれだけ中の物を消費しても、物を生み出し続ける。その恩恵は迷宮主にも与えられる。

 迷宮主は迷宮を生み出し、それにより一時的に弱体化するが、迷宮との繋がりによって迷宮主として相応しい力まで回復される。

 迷宮主となることは一種の魔物の進化である。

 現在の九十レベル近い状態である時点での進化。

 本来なら最終進化なので普通は進化しないが、迷宮主という進化先が生まれるため進化する、という感じである。

 その強さは魔王と呼ばれるほどであり、一種神がかった強さである。

 しかし、迷宮主は神がかった強さであっても神ではない。その一歩手前とはなり得るのだが。











 しかし例外的に神格の資格を得ることもある。極一部の特殊で強力な迷宮主の場合など。

 あるいは……最初から黒塗りの称号、業としてその資格を持っている場合など。

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