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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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238 旅立ち

『……ついに迷宮を作るくらいに成長したわけですね』

『知ってたのか?』

『まあ、一応は』


 アノーゼはアズラットの迷宮作成への本能の発生に関して理解していた。

 そもそも迷宮は世界のシステム寄りの特殊なものであり、それを神側のアノーゼが知らないはずがない。

 もっとも、アノーゼはその関連事項の担当ではないため詳しく理解しているわけではない。

 ただ、アズラットのように強く成長した魔物はいずれ迷宮を作る、迷宮主となる、というのは知っている。


『それで、どういうことなのかはわかるか?』

『そのまま本能的な要求と同じです。アズさんは迷宮を作らなければならない……まあ、一応本能に抗う限りは迷宮を作らなくてもいいです。ただ、それは本当に本能的で……耐えきるのは難しいことでしょう。それに、結局結果的に迷宮を作らざるを得ないことには変わりありません。早いうちに終わらせるのがいいと思います』

『いや、そうでなくて……それに関してはそういうことなのか、ってのはいいんだが、そもそも迷宮を作るって言うのはどういうことだ?』

『アズさんは一度迷宮の最奥で迷宮主にあってますよね? あの竜と同じように、魔物は究極的に迷宮主となり得るものなんです。ただ、普通にそこら中にいる魔物がそのまま迷宮主となるわけではなく……基礎的なレベルがとても高レベルになり、進化もほぼ最高位に到達した存在、それらのみが迷宮主となる可能性があります。具体的にはレベルが九十くらい、進化も最終形態なら迷宮主として迷宮を作り上げるエネルギーの保有、迷宮主としての存在格があるといっていいでしょう』


 具体的に過ぎるが、解りやすい内容でもある。

 確かにアズラットの出会った迷宮主である相手はそれに相応しい存在だった。

 そして、強い魔物が迷宮を作り上げる……迷宮主とは迷宮を生み出す核のようなもの、と言えるわけである。

 色々な意味で迷宮とは特殊な物だろう。

 そして、アズラットという存在もまた特殊な話になってくる。


『……九十? 確か俺はまだそこまでレベル行ってなかったと思うが……多分リーダーが最終進化だとは思うけど。そういえば八十で進化の話なかったような』

『最終ですね。そうですね、普通にスライムとして進化するのなら、スライムリーダーが最終進化になります。まあ、そこはいいでしょう。今のアズさんは確かにまだ九十レベルには到達していません……しかし、単純にレベルだけが迷宮主として相応しい強さとして扱われるものではありません。そうですね……アズさんはいろいろな意味で特殊ですから』

『特殊って……』

『例えば称号……業が大きく影響することがあります。業はその人に刻まれたその人の来歴であり、存在に刻まれた証であり、何よりもその力を示す物です。私の寵愛とかも……まあ、影響要素としてはそこまで大きくはないですが、ないわけではないです。いろいろと称号は特殊な影響があったりすることもありますから。まあ、ないのも多いですけどね。偽善の心得とか何か特殊な効果とかあってほしくないものでしょう? 特にないですから安心してください』

『ないのか……いや、まあ確かに何か欲しいわけでもないし。いつの間にか手に入れてたものだし……』


 称号あるいは業と呼ばれるものは己の行いが関わって刻まれる歴史、あるいはその生き様、本質、魂、様々な物がある。

 それはその本人の力そのものでもあり、また世界から与えられる恩寵、あるいは信仰の一種か。

 また契約のような特殊な繋がり、盟約、絆も示されている。そちらは気にしないでいいだろう。

 アズラットの場合、関わるものはアノーゼの寵愛、大物殺し、あとは黒塗りの隠された業。

 これに関しては今の所アズラットは全く感知していない不明な物だ。

 とはいえ、業すべてに意味があるわけではない。

 ゆえにそこまで気にすることもない……のだが、やはり隠されていると気になるものだ。

 一応そこまで気にしてはいない様子ではあるが。


『アズさんの場合、それ以外の点でも影響があったりしますけどね』

『……何が影響してるんだ?』

『以前アズさんが取り込んだ、魔剣や指輪です』

『……あれ、今俺は持ってないんだが』


 以前手に入れた特殊な武器、指輪は既に他者に譲渡している。前者は人魚に、後者は幼女に。

 ゆえに今手元にないはずであるし、そもそもそれに意味があるものだろうか。

 ただの装備がどれほど装備者に影響を与えるのか。


『今あるかどうかは関係ありません。アズさんの場合、あれを<同化>で取り込んだことが大きく影響するだけです』

『装備することは関係ないのか?』

『はい。持っていること、装備することは関係ありません。そもそも今まで装備者がいたわけですが、その人が特殊な力を得たという話はないはずですよ? まあ、どちらも水の中に沈み忘れ去られたものですから知っている人もいないということになりますが……あれらは元々神が由来の物です。その出自ゆえに、特殊な力を秘めており、<同化>で自分自身の中に取り込んだことで、その力の一部がアズさんの方に渡っています。まあ、アズさんのステータスの方にはその力に関しては出ていませんけど』

『………………今更そんなこと言われても』


 基本的にアノーゼが出している情報は後出しであることが多い。

 後出しというか、隠しているというか、話さないというか。


『まあ、害があるものではありません。実際特に問題はないですよね?』

『今まさに迷宮を作る本能的欲求という害があるんだが』

『……それはアズさんがいずれ到達してしまう確定事項です。今来るか、いずれ来るかの違いです……彼女の保護を捨てて、迷宮のための行動に移らなければならないというのは私も少しあまり好ましい事態ではありませんが、前……いえ、こういうものです。自分にとって都合のいいことばかり起きるわけではありません、そういうものです』

『………………』

『彼女を独り立ちさせるのも、いずれは必要になることです。それが早かっただけ……いろいろな意味で、アズさんはやらなければならないことがあるわけですから』

『………………』


 アノーゼの話はいろいろとアズラットとしては思うところがある。

 その隠された内容、意味、絶対に何かアズラットが知るべきことがある、と。

 しかしアノーゼがそのことを話すつもりはない。

 時折アノーゼの言葉の中にそれが漏れることはあるが、それを積極的に言うことはない。

 以前はアズラットが少し突っ込み、そこでアノーゼが逃げるが最近はアズラットがそこに触れてこないからか、本格的に隠すことも少ない。

 だがやはり隠していることには変わらない。

 いったいそれに何の意味があるのか、まだアズラットにはわからなかった。


『ともかく、アズさんは迷宮を作るために……ネクロノシアから、彼女の下から旅立たたなければいけません。今はまだそれほど強い欲求ではありませんが、時間が過ぎれば過ぎるほど欲求は強くなります。そうなると、暴走に近い状態で望む最適な場所に迷宮を作れるかもわかりません。強制的な迷宮作成を行う羽目になるよりは、自分で場所を選び作る方がいいでしょう。そのほうが安全性も高まります。できれば誰も来ないような山奥で作ると迷宮の隠匿性、迷宮主としての安全性は高まりますし』

『いや、そこまでこだわるつもりはないが……っていうか場所を選ぶ必要があるのか?』

『それは自覚できる部分だと思います。ここでは無理だ、良くない、ダメ、そういう感じでなんとなくわかるかと』


 場合によってはネクロノシア近辺で迷宮を作ってもいい……そんな感じのことを考えていたが、残念ながらできない。

 そもそも街のすぐ近くに迷宮ができるなど騒動の種である。危険度も高い。

 ヴァンパイアの支配にあったという点から何かの役に立つ可能性も考えられるが、やはり面倒の方が多いだろう。

 せっかくこれから復興していくのに余計な面倒を増やさないほうがいい……そもそも、本能的な部分も不可能だと言っている。


『ネクロノシアは無理っぽいんだが、どういうことだ?』

『ヴァンパイアは何処から来たのでしょうか? ヴァンパイアが襲うべき街、都市、国はほかにもあったはず、です』

『……近くにヴァンパイアの出身となった迷宮があると』


 迷宮が近くにある。これがアズラットの問いへの解答である。

 正しく解答されてはないが、アズラットは理解できる。 

 迷宮がある場所では迷宮を作れない……迷宮の近くに迷宮をおけない、そういうことだろう。

 干渉しあうからか、理由は不明だが、とりあえず迷宮はネクロノシアでは作れないということがわかった。

 ともかく、アズラットはこの場所から出てどこか大丈夫な場所を選び、そこで迷宮を作らなければいけない。

 そういう、運命を有している。

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