表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
246/356

237 日々に終わりを告げて

 ネクロノシアにおいて、クルシェとアズラットは基本的にそこに留まり自分たちのするべきことを行った。


 アズラットは基本的に生きる以上の目的はこれと言って本質的には存在しない。

 旅をするのも、退屈の結果生きる意思を失わないように、何らかの目標を作るためのものだ。

 この世界を知るためという目的もあるが、結局のところは何かすることを目的としたものである。

 ここネクロノシアにきて、今はクルシェの育成と今後のための状況の観察を行っている。

 <知覚>のスキルもあり、クルシェの手伝いをすることもできる。

 まあ、主にクルシェがここで生きるための手伝いになるが。


 クルシェの方はやることと言えば、まずはヴァンパイアとしてしっかり成長すること。

 彼女の場合既に殆ど成長しきって完成した状態に近いアズラットと違ってやるべきことは多い。

 人間からヴァンパイアになった者として、ヴァンパイアの能力の把握はまず必須と言ってもいい。

 特に吸血や魅了などは生存のために重要であり、日光に対する対処や耐久性の問題は重要となる。

 アンデッドやヴァンパイアの作成はクルシェがやるつもりはないものの、情報としては知っておいた方がいい。

 蝙蝠の使い魔化は情報収集のためにあれば便利で、ある程度は扱えた方がいいだろう。

 そういったことは彼女がここ、ネクロノシアにて生きるのにはあった方がいい技術である。

 彼女はネクロノシアの生まれであり、故郷に居つくつもりだ。

 問題は魔物であることで、それにより退治されかねないこと。

 そのためのヴァンパイアとしての技術の会得は必須である。

 いつか戦闘で対処するために、隠れたり逃げたりするために。

 また、そこで重要となってくるのはスキルもまた重要である。

 スキルに関しては彼女の得られるスキルは基本的に人間準拠のもの、であるらしい。

 ただ人間とは違い、あらゆるスキルを得られるというわけではない……まあ、これは本人も分かっていない。

 ヴァンパイアの苦手とする性質のスキル……例えば昼に関わるスキルや、光に関わるスキルなどは会得できない。

 また、対アンデッドに対する攻撃スキルもまた同じだろう。

 聖や不死特攻のスキルなど。

 人間に会得できるスキルの制限はないため、ヴァンパイア化によるスキル獲得性質の恩恵は残念ながらない。

 これは人間以外をヴァンパイアにした場合の特殊性だろう。

 闇に関わるもの、不死に関わるもののスキルを得ることができるようになることは。

 スキルはまず彼女の場合重要なのは隠蔽系統のスキルだろう。

 彼女が人間社会で生きるのには必須なスキルと言える。

 魔物である彼女はまず誰かに見つからないよう、襲われないよう、危険視されないよう、自分自身に対する意識をある程度排除しなければならない。

 人付き合いができないのは彼女が元人間であるゆえに残念に思うところだが、魔物ゆえに仕方がないとも理解している。

 他にも光に対する対応性のスキル……例えば簡単に闇を生み出すことで光を遮断できれば日中の行動もできる。

 これに関しては性能の問題や安全性の問題もあり、現状では検討段階でスキル取得は先送りとなっている。

 重要なのは戦闘に対する対応、隠蔽能力、いざという時の逃走手段だ。

 生存能力に関わる部分は特に重要となる。

 まあ、何を覚えるかは基本的にいろいろと考えての物となるので割愛。

 そして、彼女とにとってネクロノシアで行う上で重要なのは、何よりも今後のネクロノシアのためになることである。

 彼女はネクロノシアの運営、統治側の家系の人間として生まれ、そこで学び育った。

 それに、彼女としてもヴァンパイアの存在やその後のネクロノシアに起きたことに対し心痛める部分はある。

 彼女は直接指示したわけではないし、彼女がどうにかできたわけでもないが、関係者であることは事実だ。

 ヴァンパイアの縁者として、これまで都市を運営してきた家系の一因として、

 一人で様々な作業をやることになるため、大変な部分はとても多い。

 とはいえ、ヴァンパイアゆえに昼夜関係なく働ける。

 眠りが必要ないというわけではないが、精神的体力的にかつての人間であったころよりも能力が高いわけである。

 ゆえに、彼女一人だけでも十分なくらい仕事はできている。

 それに彼女の場合、アズラットの手助けもある。

 もちろん都市庁舎での仕事ができるというわけではない。

 様々な手助け、雑事を行ったり、<知覚>を利用して彼女では得られない情報を得たり。

 あとは戦闘に関しても彼女ではどうしようもない部分……残ったアンデッドの排除なども手伝ったわけである。

 一応あとは成長、育成のための戦いも経験させている。

 レベルは流石に魔物を倒さないと上がらない。

 ネクロノシア内部に魔物はいるが、そういう魔物は普通のスライムや大ネズミなどほぼ害性質のないタイプの魔物である。

 危険な魔物は流石に排除されるため、都市などの街中にいる魔物と言えばそういうものとなってしまう。

 流石にクルシェの育成のためとなると街の外に出て、ある程度強い魔物が出てくる場所まで行かないといけない。

 まあ、それは時間の問題の都合上もあるのでかなり場所や相手にする魔物を選ぶこととなったが。

 地下通路の先の把握も兼ねての行動になったので損はなかったと言える。

 通じる先は光の少ない森であり、さすがに昼間に入ることは難しいがやろうと思えば日中でもクルシェに戦わせることができる。

 魔物の誘因など、様々な手段を講じてクルシェの育成を行う努力をアズラットはした。

 おかげでそれなりのレベルに放っている。

 迷宮ならばかつてアズラットのいた場所で十階層くらいまでなら大丈夫だろう。

 本来のヴァンパイアの戦闘能力、性能を考えればもっと行けてもおかしくないが、今のクルシェではそのくらいだ。

 まあ、いざという時は逃げるようにというアズラットからの指示である。


 と、まあ、そんなふうに二人は日常を謳歌していた。

 ある程度ネクロノシアにおいての生活の目途も立った。

 だがそういった生活も、いつまでも維持できるわけではない。

 アズラットは生まれも、成長も、関わる者も、特殊である。

 そんな特殊性ゆえに、やるべきこともまた、起こるべきこともまた特殊なのである。


(……っ!?)


 それは唐突な本能的な反応である。

 アズラットはスライムという生物である。とうぜん本能的な部分はある。

 まあ基本的にはスライムに宿った意思である人の精神性がその本能のほぼすべてを抑えているわけだが。

 食事を求める性質、危険への直勘、動き方も脳では考えない本能寄りのもの。

 生きるということはすなわち理性によらない本能の部分にある。

 そこから、アズラットの意思に対し、大きな欲求が来た。


「……? 主様、どうかしましたか?」


 唐突に欲求に襲われ、その欲求に意志が押さえつけられるような状態になったアズラット。

 その状態ゆえにアズラットは唐突に行動できなくなった。


『(………………凄い欲求に襲われた)』

「……欲求? 何か欲しい物があるんですか? 言ってください、準備します」


 わくわくとしながらクルシェは言う。なぜ楽しそうに言うのか大いに疑問である。

 もっとも、アズラットはそんなクルシェに対して不可能であると告げるわけだが。


『(いや、無理だから……これは、なんて言うか……複雑な……)』

「どういうことですか?」

『(迷宮を作れ、という要求というか、欲求というか……なんかそんな感じなんだ)』

「…………迷宮を作る、ですか?」


 迷宮の作成。迷宮はそもそもどういう形で生まれてくるか殆どの存在は知らない。

 知っているとすれば、それは恐らく迷宮主となった存在のみだろう。

 そして、アズラットはその資格を得ている。

 それゆえに、迷宮を作ることを、本能的な部分から求めとして発生したのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ