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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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236 寵愛と加護

 今後のため、アズラットとクルシェは都市庁舎で色々とやっていく。

 一番やっておきたいことはクルシェの能力の把握と強化である。

 ネクロノシアの都市の今後に関して色々と準備し対応していくのもの必要なことではあるだろう。

 しかし、アズラットとしてはクルシェの今後の方がより重要性としては高い。

 一応これでクルシェ側はアズラットを主と仰ぎ、その指示に従い活動しているわけである。

 そんな従者として働く彼女のことをアズラットが気遣うのは、彼の持つ善性からしては当たり前のことである。

 言うなればネクロノシアのことはそれほど重要なことではない。

 アズラットがこの都市に来たのはあくまでヴァンパイアを倒しに来たというだけでこの都市に来たい理由があったわけではない。

 つまりこの都市の今後のに関してアズラットがいろいろと考える必然性はない。

 クルシェの意思や、本人の性質の問題もありネクロノシアの今後のことを考えて行動しているに過ぎない。

 そもそも、本来それは人間が考えることであり、クルシェやアズラットの考えることではない。

 ゆえにアズラットはクルシェのことを優先したいと考えているわけである。


 そういうことでアズラットはクルシェの強化やヴァンパイアの能力の把握を都市の今後のための活動をしながら模索する。

 特にクルシェの場合はヴァンパイアの能力の把握はかなり重要なこととなってくる。

 一応レベルを上げたり、スキルを得たりも重要だが先にやるべきことはヴァンパイアのことに関してだろう。

 特に魅了などの精神操作能力、かつてアズラットが倒した主のヴァンパイアが使っていた能力は欲しい。

 なぜならそれがあることでクルシェが生きやすくなり、この都市に残りやすくなる。

 大々的に姿を見せたり、それこそ被害を増やしたりアンデッドや従者のヴァンパイアを作ったりしない限りは残れる可能性はある。

 魔物の探知ができるスキルがあったりすると厄介だがそれでも隠れやすくはあるだろう。 

 そもそも魔物の探知系スキルで街中で探知できるのはヴァンパイアに限らず多種多様。

 その強さや規模の問題で把握される危険はあるが、それを回避できる隠蔽系スキルで対処すればいい。

 また、魅了などのスキルをそういった相手に使えばある程度は誤魔化せるし隠れやすい。

 ゆえに、先にヴァンパイアの能力を扱えるようにしておきたい。

 と、その過程で同時にスキルに関しての話も上がる。

 そこでクルシェの方から以前作った冒険者カードの話になった。


『(冒険者だったのか?)』

「いえ、そういうわけではないですよ。ただ、私のようにある程度立場にある人間だと覚えているスキルや、持っている称号に何かあるかを調べる目的で冒険者登録することがあります。なんのスキルを覚えているか次第では今後の役に立ちますから」

『(へえ……便利だな)』

「普通の人はしないみたいですけどね」


 一般人はそのような形で冒険者登録をするようなことはない。

 そもそも、恐らくはほとんどの場合させてもらえない。

 ある程度立場のある人間は別の形でスキルを持っているか、称号があるかの確認を行う手段はないわけではない。

 だが、そういったものは色々と面倒な形で取り扱われていたり、あらゆる全ての場所にあるとは限らない。

 一応それなりに広まってはいるが、管理の問題などもあって導入していない場所もあるだろう。

 それよりはむしろ冒険者カードの方が楽であると判断しそちらを使う場合もある。

 もっとも、これはこれで問題がある。

 冒険者登録というのは本来冒険者になる人間に行うための物であり、その個人の能力を把握するための物ではない。

 ここネクロノシアにおけるアストリアの家では冒険者ギルドに都市を治める側の立場としての権力で登録していた。

 冒険者ギルドもその所属する国や土地などの地域的な都合にある程度は左右されている。

 まあ、ここにおける彼らはある意味特殊で例外的にそういった判断がされているだけで、他の人物は許されていない。

 これは彼らが冒険者ギルドとそれなりに密接な関係にあったことが大きいのだろう。

 もしかしたらその影響もあって冒険者ギルドのギルド長がヴァンパイアにされた可能性もある。


『(スキルは何か覚えてないのか?)』

「覚えていません。出来れば私がどこに落ち着くか決めてから覚えるつもりでしたので」

『(……まあ、必要ないスキルを覚えると困るからな)』


 スキルは一般的にこの世界のすべての住人が知り得ることであるがその認知には大きな差がある。

 彼女のようなある程度家柄のある人間であれば、それらのことに関して知識的経験的に知っている物事も多い。

 逆に一般的な人々は自分たちの仕事に関わるスキルを得る。

 冒険者もそれに近いが、冒険者はより経験的な知識も伝わりやすい方である。

 そういうことでクルシェはスキルを覚えるのには十分な余裕がある。

 ただ、人であったときとヴァンパイアであったときで覚えられるスキルにどのような差があるか疑問であるが。


 そして、それとは別に。アズラットは冒険者カードを見て、見つけた称号に一気に心が冷める。


『(クルシェ。その称号は一体どうしたものだ?)』

「……これですか? よくわからないのですが、生まれた時から持っていたものみたいです」

『(そうか…………契約の方も気になるが、まあ俺としてはそっちの方が余計に気になる感じだな)』


 アズラットが<契約>で結んだ契約は彼女の物はアズラットに対する主格契約となっていた。

 <ステータス>でアズラットが確認した限りでは従者契約となっていた。

 これらがクルシェがアズラットを主として仰いだ原因だろう。

 今回の話はそこではなく、もっと重要なもう一つの称号に関して。


(スキル神の加護、か……)


 後ろに天使とついていないが、恐らくは確実にアズラットの物と同系統であると思われるものだ。

 アズラットのそれはスキル神の寵愛であり、クルシェのものはスキル神の加護。

 前者の方が上で、後者の方が下。

 これが<契約>によって結ばれた内容が主従の契約に変化した理由の一端であり、ヴァンパイアに対する抵抗力をクルシェが持った最大の要因である。






『で? 何か申し開きは?』

『ありません。する必要がありません。そこまで知った以上ほとんど私がアズさんにヴァンパイアの退治を頼んだ理由がわかっているということでしょうから』

『…………クルシェのことが理由だったのか?』

『はい、そうです。彼女が助けられること、それが目的でした』


 アズラットにアノーゼが頼んだ頼み事。

 それはヴァンパイア退治が目的であるが、同時にクルシェの救出が目的だった。

 ただ、今回のことに関して……アノーゼは一切クルシェのことを教えていない。

 場合によってはアズラットによりクルシェが殺されていた可能性は決して低くない。

 実際地下ではその危険があったはずだ。


『……でも、最悪クルシェが死んでいた可能性があるのに、全く彼女のことは教えなかったよな?』


 実の所それらに関しては少し類推できる部分もないわけではなかったが基本的には言っていない。

 アノーゼがアズラットに頼んだのはあくまでヴァンパイア退治だけである。


『教えて助けてください、では意味がないといいますか……それは流石にできません。あくまで都市を助けるついでに彼女を助ける、という形でなくてはいけません。だから私は彼女を助けてくださいとは言いませんでした……アズさんなら、必ず助けてくれるだろうと思っていたから、というのもありますけどね』

『………………』


 その言葉はアノーゼの本心である……だが、同時に、何か裏に隠されているような雰囲気をアズラットは感じる。

 アノーゼがアズラットを信じていることは事実だし、助けてくれるだろうと思っていたのも事実だろう。

 しかし、ただそれだけでない、というのがアズラットがアノーゼから感じたことだ。


『……まあ、いいか。それよりも、加護に関してだが』


 あまり追求しても、アノーゼは詳しくは言わないだろうとアズラットは推測する。

 それよりも、彼女の加護に関しての方が重要なことになるだろう。

 どのような影響があるのか不明なのだから。


『覚えられるスキルに関して増やすくらいの効果しかありませんよ?』

『……本当にそれだけか?』

『基本的にはそれだけです』

『…………そうか』


 少々言葉的に疑問はあるが、アズラットの持つ寵愛とそこまで大きくは変わりない。

 寵愛はアズラットの獲得スキル数を五つ増やしたが、加護はそれよりも少ない三つ増やす、というのが基本的な物だ。

 ただ、ここでアノーゼは基本的には、と言っているのが少し疑問である。

 基本的ではない部分では、別の効果があるのではないか? 例えば今回の<契約>に関しての話とか。

 もっとも、それはあくまで推測であり、確実にそれが関係しているとも限らない。

 場合によってはアノーゼすらそういった影響が出ると知らない可能性もあるだろう。

 それに知ったところでそこまで意味があるわけでもない。知っていれば優位性はあるかもしれないが、必要とも限らない。


『……まあ、いいか』


 聞いてもいいが、アノーゼ側の負担になる可能性も考慮し、あまり突っ込まないことにする。

 もとより悪い効果は一切ない物である。今回の主従契約も特例的な作用であり、通常は神の寵愛や加護は悪いものではない。

 アノーゼの言っている事実だけでも十分な恩恵と言える。

 ならばそれだけ知っていればいい、そう考えた。




 と、そんな感じのアノーゼとの会話をアズラットは行っていた。

 その様子を、こっそりとクルシェは覗いていた。

 なお、アズラットはそれに気づいている。

 若干少し危ない気のある彼女をこれからどう成長させていくべきか、それを考えていく必要が出てきたようだ。

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