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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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233 今後の話

 ヴァンパイアを倒しネクロノシアに起きていた問題を解決したアズラット。

 もっともヴァンパイアを倒しただけで本当の意味で問題を解決したわけではない。

 現在も街中にはアンデッドたちが命令のまま徘徊しているし、ヴァンパイアもすべてを始末しわけではない。

 アズラットが行ったのはあくまで全ての原因でありネクロノシアを支配していたヴァンパイアを倒したというだけだ。

 わかりやすい例で言えば、冒険者ギルドを抑えるためにヴァンパイアになった冒険者ギルドの長が残ったまままであることだろう。

 彼は今もヴァンパイアである。

 ヴァンパイアを倒せばヴァンパイアになった人間が元に戻るなんてことはない。

 とはいえ、これ以上主であるヴァンパイアからの命令はなく、その存在の喪失によりある程度は自由に行動できる。

 命令がどうなるか、というのはわからないが、アンデッドと違いヴァンパイアはある程度の自由意志を持つ。

 主を失うことで命令に反しない程度に行動の自由が利くだろう。

 それによりどうするかの選択はいくらか増える。

 それにこれ以上ネクロノシアの住人に対する被害もない。

 そして封鎖状態に近い閉鎖も解かれるだろう。

 生き残ったヴァンパイアも別に魔物としての行動をとるわけではない。彼らは元人間である。

 まあ、そこは実際の所は個人の自由なので彼らがどう行動するかはわからないし、生きるために人間の生き血が必要な事実がある。

 そして夜にしか行動できず日の光に弱いという特徴も残っているため、かなり活動に支障が多いのは仕方のない話だろう。

 とはいえ、生き残るだけならばいくらでもやり様はある。

 ただし長生きはし辛いかもしれないが。

 元人間であり、人間らしく行動できるとしても、友好的であるとしても、生き血を求め人を襲う必要があることには変わらない。

 どうしても人に手を出してしまわざるをえない。

 それに彼らは人の心を持っても魔物である事実は変わらない。

 魔物である以上冒険者が見つければそれを狩ろうとする可能性は低くはないだろう。

 生きるならば工夫して生活するか、場合によっては流浪を選ぶのが一つの手だろう。

 定住しなければヴァンパイアであることはばれ辛く、隠れるのも逃げるのも容易い。

 そういう生き方も一つの手だ。

 まあ、彼らに関しては彼らが選ぶだけなので問題ではあるが人が解決する事柄だろう。

 他にも問題はある。それはこの街そのものの問題である。

 なぜならヴァンパイアが住んでいたのは都市庁舎だ。

 そこにいた人間はすべてヴァンパイアかアンデッド、つまりこの街の統治側の人間がすべて魔物側に変えられている。

 統治者側が全滅の状態にあるというのは街の安定、支配にかなり大きな問題があることになる。

 もっともそれをアズラットが心配したところでどうしようもない。

 そもそも気にすることでもない。

 もともとアズラットはアノーゼに頼まれヴァンパイアを倒しに来た。

 それを成した以上これ以上の手出しは必要ない。

 ネクロノシアとしても支配していたヴァンパイアが倒されればあとはそこにいる人で判断できるだろう。

 だが、ここに一人、少々特殊な事例がある。

 アズラットの目の前にいる女性、ヴァンパイアにされた都市庁舎の人間である。


「……その、お話良いでしょうか?」

『(ああ、もちろん。話すだけなら<念話>はいらないから普通に話しかけてくれるといい)』

「はい、わかりました。まず……あなたは、誰ですか? いきなりここにきて、ヴァンパイアを倒した、見た目はスライムのように見えます……けど、倒した時のことを考えれば普通のスライムではありませんし、あなたから感じる雰囲気も……ちょっとスライムとは言い難いものです。私よりも、上の、何か……いったいあなたは何者なんでしょうか?」


 アズラットは見た目だけならば普通のスライムに見えるが、この女性はそれ以外の何かをアズラットから感じている。

 例えばレベル、あるいは種族、はたまたアズラットの持つ特殊な業か、それとも<圧縮>している体の総量か。

 それはわからないにしても、とりえあずまずお互いの情報を知り得ることが先決となる。


『(ああ、確かに普通のスライムではないかな。とりあえずお互い自己紹介しよう。まずは俺から……俺はアズラット。とある迷宮で生まれた元スライムだ。いろいろとあってここまで成長して、今はスライムリーダーとかいう種族になってる。あのヴァンパイアを倒したのは、ちょっととある相手に頼まれたからだ)』

「……とある相手、とはどなたでしょうか?」

『(んー……それは話していいことかわからない。だから今は秘密ということで頼む。それで、そちらは? こちらは自己紹介させてもらったけど)』

「あ、そうですね……礼には礼を。あなたが自分の身の上のことを語ってくれたのであれば、私も語るべきですね。私はクルシェ・クロノシス・アストリア。ネクロノシアにおける都市の管理、統治、支配を行う家系の長女です」


 彼女はこのネクロノシア、そしてここ都市庁舎に住まう都市の管理を行う側の人間、いわゆる領主に近い家の人間である。

 あくまで領主という立場ではなく、都市長などその街、都市で一番偉い存在みたいな立場である。

 もっとも、彼女の家がしばらくずっと都市長なのでやはり立ち位置的には領主みたいな貴族側の立場に近いかもしれない。


『(そうか……とりあえず、クルシェでいいか?)』

「はい。ぜひそう呼んでください」


 そこで一度二人とも無言になる。

 どう話せばいいか、何を話せばいいか、そこで迷った感じだ。

 とりあえず、と話はアズラット側からクルシェに持ちかけられる。


『(とりあえず、あのヴァンパイアは倒した。君は生き残った。それはいい。問題は君が今後どうするか、だ)』

「……今後ですか?」

『(ああ。ヴァンパイアは倒したけど、クルシェはヴァンパイアのままだろう。日の光の弱く、血を吸わなければ生きられない。生きる意思をその眼から感じたから俺は君を生かす選択を選んだわけだけど、生き残ったからと言ってそれが良いとは限らない。今の君は魔物であり、ヴァンパイアだ。人に仇なす敵であり、日光の下では生きづらい存在。そんな状態で、君はいったいどうやって生きるつもりなのか。何をして生きるつもりなのか)』

「…………それは」


 言葉に詰まるクルシェ。

 まあ、いきなり今までの生活から一変した魔物の生活をしろと言われても困るだろう。

 彼女の行っていた生活は貴族に近いものであり、冒険者カードはかつて作ったことがあるが、かといって冒険者として活動は難しい。

 出来ないとは言わない。今の所彼女の強さはレベルでは微妙だが存在としてはヴァンパイアの強さを有する。

 人の血を吸わなければ生きて行けず、日の光には滅法弱い存在でであるとしても、その強さは確かなものだ。

 これでレベルが上がり、スキルを得ていけば主であったヴァンパイアと同程度には強く慣れるだろう。

 あるいはそれ以上の実力を目指すことも不可能ではない。

 生きづらいという点の問題を考慮しなければ。


『(あのヴァンパイアを倒したのはちょっと無責任だったかな、とも思う。必要なことだったとはいえ、一応あのヴァンパイアはここの管理側の役割だった。あれを倒す過程で都市庁舎にいたアンデッドやヴァンパイアは可能な限り始末してしまったし、そもそも魔物側である以上街の統治をするのは厳しいだろう。一気に支配側が消えたことでどんな問題が起こるかもわからない。でも、まあこれ以上被害を増やすのも問題だしどちらがいいとは言えないが……)』

「……私以外のヴァンパイアやアンデッドの生き残りはいないんですか?」

『(おそらくは。あの時ヴァンパイアの指示で襲ってきた相手は殲滅したから。まあ、命令が届かずどこかで行動しているとかで死んでない、とかなら生きているかもしれないけど)』


 その言葉を聞いて何やら凄く険しい顔で考え始めるクルシェ。いろいろと彼女にも事情はある。

 そもそも彼女はこの都市庁舎の人間なのだから、友人や仕事仲間、あるいは家族などもいただろう。


「一度、都市庁舎の方に戻り様子を見ませんか? 私のいたところだと、まだ生き残っている……死んでいない、人がいるかもしれません」

『(……あそこか。まあ確かに行動自体ができないなら有り得るか。どうするかはそこで決めるとして、一度状況がどうなっているか様子を見に行くのは悪い判断ではないけど……もしかしたら、いきなり誰かに襲われるかもしれないけど、それでも大丈夫か?)』

「……大丈夫です。覚悟はしています」

『(そうか。まあ、安心しろ……とは言えないけど、俺が守ろう。一応助けたわけだし、変に死なせたいわけじゃないからな)』


 そういってアズラットはクルシェの頭の上に乗る。

 かつて彼とともに迷宮を歩んだ仲間と同じように。


「……ああ」

『(ん? どうした? 重いとか?)」

「いえ、あなたがそこにいるのは、私としてはすごく落ち着いた感じになるというだけで……」

『(……?)』


 クルシェの感じたこと、そのことに関しての言葉はアズラットにとっては意味が解らない。

 しかし、クルシェにとっては……アズラットが自分の上にいる、というのは彼女なりに色々と理解をもたらすものだった。

 色々と感じていたものに、決着をつける、理解を。


「それでは行きましょう、主様」

『(はいっ!? 主っ!?)』


 突然主と呼ぶクルシェの言葉の意味を理解できず混乱するアズラット。

 彼女はそんなアズラットの様子を微笑ましく感じながら、都市庁舎へと戻った。

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