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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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232 主の終り

 まだ生きる意思のある女性のヴァンパイアと対峙したアズラット。

 もしこれが普通なら、そのまま彼女事ヴァンパイアを倒せばいい。

 だがアズラットにはそれに対し想う所、反発する意思がある。

 生きたい者を積極的の殺したくはない、という意志が。

 特に彼女のような従属させられているヴァンパイアは自らの意思でヴァンパイアになったわけではない。

 それを考えると余計にそう思ってしまう。

 しかし、だからと言って時間をかけるわけにはいかない。

 アズラットを倒せないと主であるヴァンパイアがわかった場合、どういった行動をとるかがわからない。

 今はまだ逃げ切ろうとしておらずここで彼女に戦わせようとしているが、もしかしたら逃げようとするかもしれない。

 外はまだ昼であり明るく逃げ切ることはできないかもしれないが、それでも逃げようとするかもしれない。

 そして逃げた結果逃げきることに成功した場合、それは確実に後に残る問題になる。

 であれば今のうちに、早いうちに倒しておきたい。


(だがどうする? って、悠長に考えている場合じゃない。考えるには時間が……そうだ、<加速>!)


 アズラットの能力である<加速>は様々な物を加速させることができる。

 例えば物の速度。例えば反応速度。例えば思考の時間。

 己の思考速度、体感時間を加速させる。

 本来そのような使い方は肉体への負担が大きいため使いづらいのだが、アズラットの場合それがほとんどない。

 問題となるのは思考にかかる影響だが、逆に言えばそれくらいであるがゆえに使っても問題ない。

 そして思考を加速することで、アズラットは今後どうするかを考えられる時間を得た。

 もっとも、それは完全完璧の物ではなく、ある程度の時間でしかない。

 <加速>は速くすることでしかない。

 時間を止めているわけではないため、僅かと言えども時間は進む。

 そもそも<加速>による速度も限度がある。

 アズラットのスキルのレベルの問題、そもそもの加速速度の問題、様々な問題がある。

 ゆえに時間の限界は存在する。


(さて、どうしたものか。彼女が今あの糞の命令を聞いている状態だから、それを遂行させる? いやいや、それは無理。主であるあれを倒せばどうにかなるか……そこがわからないのがな。あいつに命令を撤回させる、というのは一つの手かもしれないがそれを目的に拘束した場合彼女がある意味人質のような形になる。それ以前に現状肉壁のような扱いをされてた以上、こちらがあいつに近づこうとすると盾に使おうとしたり、あいつに近づいた時点で彼女に後ろから襲われる可能性とかもある。それでどうにかなるなんてことはないけど、こちらの行動が阻害、邪魔される可能性を考慮すると単純に行動しづらい。一番いいのは彼女の行動を縛る、何らかの手段で命令を解除する、あるいは…………<契約>? あれならあるいはなんとかなるか? 問題は主の命令と干渉する場合どういう影響をもたらすか、だな……)


 アズラットの考えた内容は<契約>による命令を無効にする内容を重ねること。

 あるいは<契約>そのものが主からの命令を上書きする可能性も一つ考慮している。

 別に<契約>とヴァンパイアの命令が同じ系統の精神的な干渉に値するとは限らないわけだが、そういう考え方もできる。

 仮に<契約>が命令を上書きしなくとも、<契約>の効果が相手にうまく作用するのであれば、命令がどうなっても問題ないかもしれない。

 今後彼女の行動で色々と問題が出てくる可能性はあるが、とりあえず現状生き残れるのであればそのほうがいいだろう。

 同時に<契約>はアズラットから彼女を守る手段ともなり得る。

 この狭い場所で、アズラットの攻撃性能を全力で発揮すると巻き込む危険がある。

 むしろ、彼女を巻き込むような攻撃を行うことで相手に不意打ちできる方が都合がいいのではとも考える。

 <契約>によりアズラットは彼女を襲えず、彼女を襲うことなくアズラットの体はこの場所に満ちるのであれば。

 それは主であるヴァンパイアだけを始末できる一手になり得る。


(ともかく、早めに話をつけたほうがいい。彼女がどう判断するにしろ、相手が逃げるよりも先にとっととやらないと面倒なことになったら嫌だからな)


 思考の加速により稼げる時間も無限ではない。

 何をするか決めたのであればそれを速やかに実行する。

 それが今アズラットが対峙する彼女にとっても、ネクロノシアに生きる人々のためにもいいことだろう。

 まあ、ヴァンパイアをある程度どうにかしてアンデッドを退かせたり、命令を解除させたりする方がいいのだが。

 極悪非道の残虐無比なヴァンパイアがアズラットがどう命令したところで、命を質にしてやらせようとしても聞かない可能性が高い。

 そもそも、そんなふうにあっさり受け入れるようならもう少しまともな精神性をしているだろう。

 そうアズラットは考え、命令の解除やアンデッドの退避は無理だと考え、ともかく元々考えていた行動に移る。


『(聞こえるか! 聞こえるなら、この思考に対して思考で返事をするように話してくれ!)』


 <加速>による思考の加速を元に戻し、アズラットは<念話>で女性に対し言葉をかける。

 その<念話>とともに彼女は一瞬動きを止めた。

 しかし、次にアズラットに対し攻撃をする体勢へと戻る。

 攻撃事態はまだ行われていない。相手の隙を窺う、行動をうかがうところである。

 主であるヴァンパイアとしてはさっさと攻撃し倒せ、と思うところだがそこは女性側の思考や、確実に命令を遂行する目的もあるのだろう。

 そうすることで行動を遅らせている、というのが実情だろうが。

 ともかく、それが功を奏したか、女性から<念話>に返しが来る。


『(あなたは……誰ですか? どこから声を届けているんです?)』

『(目の前。スライムだよ)』

『(えっ!?)』


 流石にそれは予想外だったか、驚きまた一瞬動きを止める。

 しかしやはりそれはすぐに元に戻る。


『(あまり話している時間はないかもしれないから、手短に本題を話させてもらう。いいな? いや、返事は聞けないが)』

『(……わかりました)』


 女性側も現状を顧みればどうともいえないことは解っている。

 下手すれば目の前のスライムに殺されてしまうことになるだろう。

 そもそも単なるスライムだと思えば女性側もすぐに始末しにかかったかもしれないはずである。

 女性がスライムに対し動きを止めているのは、ヴァンパイアが命令を出した点や、なんとなくアズラットから感じる気配によるもの。

 それは主であるヴァンパイアは感じておらず、女性が感じているものだ。

 まあ、主の方には<予感>があるわけだが。


『(主であるあの糞の命令、解除できるか?)』

『(……抵抗はできます。ですが、無くすことはできません)』

『(そうか、まあ、そこはしかたがないか。従属だし。確認でしかないし、とりあえず本来の目的を。<契約>をしよう)』

『(契約?)』

『(ああ。俺のスキル<契約>で、そちらは俺に対し戦闘行為を行わない、敵対行動をしない、そういう内容を受け入れる。俺はそちらに対し、攻撃を行わない、敵対しない、そういう形でお互い<契約>をする! 返答を!)』


 かなり端折って話を進めているが、できれば急いで結論を出し、やるべきことを終わらせ主であるヴァンパイアを倒したい。

 それゆえにかなり一気に話を進めた。

 そのアズラットの急激な話に少し面食らう様子は有れども、女性は答えを返す。


『(わかりました。受け入れます)』


 それは簡潔で、あっさりとした受け入れの返答。

 女性の側も対応しようがないからこそ、話を受け入れるしかなかった。

 その言葉にて<契約>によりお互いの約束が取り交わされる。


(よし、じゃあ。跳んで、<圧縮>を解除する)


 いくら女性に危害を加えることはない、としても、できれば相手の逃げ道を塞ぎたい。

 <圧縮>を解除し広がるからだに関してはかなり広範囲まで届くが、近づいた方が確実性は高い。

 女性の上へと跳び、主であるヴァンパイアの方へと、<圧縮>を解除した。

 それは一瞬で通路を埋めヴァンパイアを飲み込む。

 言葉を発する間もなくアズラットの体に飲み込まれ、アズラットは<圧縮>を行う。

 それでヴァンパイアは潰され飲み込まれ消えた。

 ネクロノシアを支配していたヴァンパイアであったというのに、実にあっけない最期だった。

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