表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
24/356

024 いないはずの魔物

 三階層における魔物との戦い。

 そもそもスライムはあまり戦うことに向いていないのに戦うのはどうなのか。

 アズラットとしてはやはり対人戦の訓練としていろいろと学びたい。

 人間と戦うつもりはないが、逃げるにしても戦うにしても、殺すにしても殺さないにしても、経験がいる。

 スケルトンは人間と同じような行動をしないが大きさ的には人間大なのでいくらか参考にはなる。

 ゴブリンは大きさは人間とは違うものの知性と知能は大幅に減じるが行動は近しいので参考にはなる。

 魔狼やこの階層のスライムであるパープルスライムはそういった経験の役には立たない。

 そういうことでスケルトンやゴブリンを相手にアズラットは戦っている。


『ゴブリン……? ゴブリンがその階層にいるんですか?』


 アズラットの現在状況についてアノーゼに話すとアノーゼは驚いたように言ってくる。


『いるけど……え、何か変なのか?』

『…………ええ、変です』


 アノーゼはこの階層にゴブリンがいることを変と断じている。それは一体なぜか?


『その階層にゴブリンは出現しません。アズさんは現状全ての魔物に会っているので言いますが、その階層に出てくるのはパープルスライム、魔狼、大鼠、武装を有するスケルトンの四種類のみです。ゴブリンはそこには存在しません』

『そうなのか……でも、ゴブリンは実際にいるぞ? それはどういうことだ?』

『迷宮のその階層に本来ありえない魔物、というのはたまにいることがあります。ですがそれは本当の意味でありえない魔物、その階層のレベル帯ではありえないような強さを有した魔物です。三階層なら、そうですね……その迷宮の八階層くらいにいる魔物あたりでしょうか? 巨大な昆虫とかそういう感じでしょうね』

『それにゴブリンは含まれないんだよな?』


 アノーゼの説明する限り、それはつまり魔物の強さがその出現地域から以上に強い魔物が現れると言うことである。

 しかし、ゴブリンは多数出現する上にその強さは武装したスケルトンと同じくらいか少し強いくらい。

 集団であると言う強みはあるが、おおよそ魔狼と同じかそれよりも下手をすれば弱い程度の強さである。

 まあ、この強さには相性もある。

 魔狼の群れにアズラットは強くとも、武器を持つゴブリンの集団は苦手である。

 ゴブリンの集団は魔狼の群れにあまり強みを持たない。

 装備や武器の強さがあっても集団戦では魔狼の方が優れる。

 それぞれの性質、相性はその魔物の持つ強さを決定づけるものとはまた違う。

 それで考えればゴブリンはどう考えても同じレベル帯であると言えるだろう。


『はい。なので別の形でその階層に来ていると言うことになるでしょう』

『……そういうことがあるのか』

『言っておきますけど、その最大の実例が自分であると理解していますか?』

『え?』


 本来この階層にはいないはずのゴブリンの存在。

 その存在を示すのにアズラットの存在は一番わかりやすい実例であるらしい。

 つまりは階層の移動による魔物の流入、それがこの階層にいるゴブリンの存在のからくりである。


『えっと、つまり魔物がこの階層に移動してきた結果……ってことか?』

『そうなりますね。二階層にいるゴブリンは無手無装備の雑魚ですが、四階層のゴブリンは武器や防具を装備しています。つまりそれがこの階層に来ていると考えればここにゴブリンがいる理由となるでしょう』


 そうアノーゼは言うが、本来魔物と言うのはあまり極端な階層移動と言うものはしない。

 本能的な階層移動の阻害、縄張り意識などがあるし、そもそも階層を移動すると魔物の強さが変わる。

 そういった理由であまり移動はしない。

 まあ、今回の場合上から下、強い魔物がいる場所から弱い魔物がいる場所へである。

 その場合少し話が違ってくるかもしれない。

 アノーゼにアズラットはそういった部分で訊いてみた。


『魔物の移動は確かに普通は殆どありえません。増えすぎた、などの理由で餌を求めて移動することはありますが、この迷宮の四階層でゴブリンが増えすぎると言うことは殆ど無いでしょう。ありえないとは言いませんが、そもそもここの四階層はいろいろと魔物が入り乱れていて複雑なんです。なのでそうそうゴブリンだけが増える、なんてことはあり得ないはずです』

『でも実際には移動してきているけど』

『そうです。魔物が移動する理由は餌などが理由の場合もありますが……先ほども言いましたが、アズさんがその最大実例です。知識、知能を持ち得た魔物は階層を移動することがあります。わかりやすい例としては吸血鬼やエルフなどの魔物ですね』


 吸血鬼やエルフなどの魔物はその強さ、知能が他の魔物よりも格段に高い。

 前者は肉体的に、後者は魔法などのスキル的に。

 そういったこともあり、彼らはその知能の高さから迷宮内で制限された行動しかできないことを嫌い外に出る傾向がある。

 もちろん住み心地が良ければ迷宮内に残ることもある。

 エルフあたりは森で生活しやすい場所があれば残りやすいだろう。

 吸血鬼はある程度食料を確保し、迷宮内での活動に満足すればそのほとんどは外に出る。

 彼らはその強さ故に気位が高いと言うのもある。

 支配者的な性質も自分より上位の存在に従うことを嫌う理由なのだろう。

 まあ、そういった魔物の特徴はともかく、迷宮内部を魔物が移動し、階層移動や迷宮の外に出るようなこともあるということだ。

 そもそも、その最大の実例としてアノーゼは散々アズラットがそうであると言っている。

 アズラットは迷宮を下に下にと移動し、成長しながら進んでいる。

 最終的には迷宮の外に出るつもりだ。

 そういった風に、魔物に知識や知能があれば迷宮の階層の縄張り意識は無視して行動できる。


『…………あれだけのゴブリンが知能が高いって?』

『流石にそれはあり得ません……全くないとは言いませんが、恐らくは違います』


 迷宮内の魔物の知能が高くなる、それが広まるということはないとは言わない。

 ただそれはゴブリン系統では恐らくは無いと思われる。

 もちろん例えば寄生虫のような存在が感染した結果頭がよくなる、みたいな場合ならばあり得るだろう。

 しかし恐らく今回のそれはまったくの別物である。


『魔物にはいくらか系統があります。わかりやすい例がボス、リーダーと呼ばれるようなタイプですね』

『統率系の魔物か』


 アノーゼの言葉にアズラットもおおまかに原因、切っ掛けが理解できた。

 今もゴブリンで集団を作っているが、魔物の中にはそういう風に魔物をまとめることのできる魔物がいる。

 アノーゼも言った通り、ボスやリーダーと呼ばれるような統率者、引率者の類である。

 魔物たちを指揮し操る、支配する種が出現すればその存在により様々な行動をとれる。

 そこには当然階層を移動すると言うこともその内容に含まれる。


『恐らくはその統率能力を持つ魔物はスキルか種としてその能力を持っている、そして知能も高いでしょう。突然変異かなにかです。なのでアズさん、三階層であれば恐らくはまだ安全だと思われますが、場合によっては三階層に入り込んできているゴブリンの中にその頭のいい種がいるかもしれません。なのでできる限りゴブリン相手には注意してくださいね?』

『…………わかった』


 流石に知能の高い魔物を相手にするのは脅威であると言うのをアズラットも理解している。

 なので素直に頷く。


『経験的にはいいのでしょうね……相手が強ければ、それだけいい経験になります。経験値にはなりませんけど』


 スライムの経験値の確保は食事によるもの。

 それゆえに経験値的にはゴブリンの知能が高くとも微妙な差でしかない。

 魔物として種が違う、進化しているなどであればまた話は違ってくるのだが。


『まあ、無理はしないよ』

『ぜひそうしてくださいね』


 そう言ってアノーゼは<アナウンス>を切る。

 その時、少しだけ呟いたアノーゼの言葉をアズラットは聞いた。


『三階層にあれはいないでしょうね。四階層の隠れ家にいるのでしょう』


 その言葉の意味を、アズラットはその時点では理解できなかった。

 ただ、アノーゼは何かを知っている、ということがアズラットにはわかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ