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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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231 地下へと追って

 地上での戦いはそれなりに時間がかかった。

 なにせアンデッド、ヴァンパイアの数がそれなりにいる。

 アズラットとしても倒すだけならばそれほど労力は必要がない。

 <圧縮>を解除し、飲み込み、再度<圧縮>するだけだ。

 よほどの強固さがなければほぼそれで対処でき、もし対処できないとしても対応方法はいろいろとある。

 ただ、何よりも時間がかかるのが厄介だった。

 数が多いというのも一因だが、同時に全員が襲ってきたわけではないからである。

 アズラットはまずヴァンパイアの寝室である最上部にいた。

 そこにまず周りにいるヴァンパイアやアンデッドが襲ってくる。

 命令自体はそれなりに広範囲に届いているが、その内容がかなり大雑把で手早い遂行が指示されていた。

 そのため近くにいたやつが連携や他の仲間が来ることを考えずにアズラットに襲い掛かってきたわけである。

 それへの対処がまず一つ。

 <圧縮>の解除と飲み込み後の<圧縮>とやることは単純ながら、手間はそれなりにかかる。

 出来る限り自分の安全を考える必要はあるし、逃げたヴァンパイアを追うことも考えなければならない。

 そうして対処したのち、次は下の階にいたヴァンパイアやアンデッド。

 彼らがアズラットの所に来るのが時間差だったためだ。

 それへの対処で二つ目。

 都市庁舎はそこまで極端に大きいわけではないものの、それなりの大きさのある建物である。

 三つほどの階層があり、それぞれにヴァンパイアやアンデッドが配置されている。

 ある程度はまとまっているが、それに関してはあまり考慮する意味がない。

 そして都市庁舎だけでなく、ネクロノシアの街中のアンデッドたちも集まってきたわけである。

 およそ四度、アズラットはアンデッドやヴァンパイアに襲われるわけだが、彼らも常に同時に襲えるわけではない。

 命令自体は単純で速い遂行が指示されるが、アンデッドとヴァンパイアの行動能力の差、またそれぞれのいる場所も微妙に違う。

 階層違いの時間差だけではなく、同じ階層でも微妙な時間差がある。

 そういったこともあり、四回では済まなかった。とはいえ、十回よりは少ないだろう。

 それに襲われたところでそれほど問題にはなりえない。

 そして対処できれば今後に良い結果を残すだろう、ということで悪いことではなかった。

 的確に、しっかりとアズラットは襲ってきたヴァンパイアの指示に従い行動してきた相手を殲滅したわけである。


(地下にいるが……流石に外に出ていくつもりはないのか?)


 街の外に通じる地下の隠し通路へ、ヴァンパイアは誰かを引きずり連れて逃げて行った。

 それは<知覚>により判別しているが、しかしヴァンパイアはある程度の範囲から外へと向かうことはしていない。

 地下にいることでネクロノシアの街中に出ることができるので命令範囲を広げられる、という点は相手は気づいていないようだ。

 これ以上他のヴァンパイアやアンデッドが襲ってくることはない……都市庁舎のヴァンパイアは基本的に殲滅したので問題ない。

 アンデッドは街中に残っているはずだが、そちらに対しての指示は特にされていない様子だ。


(あちらが少し気にかかるが、今は先にこっちの対処か。地下への扉は既に位置を把握しているし、問題ないな。これ以上あの場所から逃げるつもりでないのなら、対応し様はあるが……時間をかけるとだめだ。夜になる前に何とかしないと逃げられるだろう。時間的に大丈夫だと思うが森の中に逃げられるとそれはそれで面倒そうだ。まあ森の中とはいえ無事でいられるとは思えない。でも急ぐか)


 つらつらといろいろと考えるアズラットであるが、さすがに急ぐことにした。

 もう半分逃げられている状態である。

 これ以上逃げることはないと思われるがしかし一度逃げた以上無理を押して逃げる可能性もある。

 であればできるだけ早く相手の下に行き、速攻で決着をつけて終わらせる方がいい。

 そういうことでアズラットは地下へとつながる扉の所へと行く。

 扉と言っても別に開くような扉がある普通の扉ではない。

 地下に通じる扉なのだから床についている物である。

 それも誰かが発見し使われないよう、その存在を知られないように上に物を載せるなりして巧妙に隠されていたものだ。

 もっとも現在ではヴァンパイアが使い上にあった物はなく、<知覚>や種の能力による振動感知と構造把握により場所は知られている。

 なので本当にあっさりとアズラットはその場所に到達し、扉を開けた。

 ある程度力のいる重い扉であろうとも問題はない。

 別に開けっ放しでもいいし、そもそも扉を消化して入ってもよかったが、何かに利用できるかもと思いばれないように閉めた。


(上に物が置ければ完璧だったが……まあ、それはしかたがないか。どうせ都市庁舎の中には誰もいないし問題にはならないだろう)


 ヴァンパイアが住まい、アンデッドの巣窟となっている都市庁舎に入ってこようとするものはないだろう。

 もっとも現状のヴァンパイアとアズラットの争いの結果、安全だとわかってしまえば入ってくるものもいるかもしれない。

 そう考えるとやはりあまり時間をかけるわけにはいかないだろう。そう判断するところである。

 周りに物を置けばある程度の偽装はできそうなところではあるがそこまでは考えなかったようだ。

 地下は光がなく暗い場所である。まあヴァンパイアが使う通路なのだから日の光を取り入れるのは有り得ないし、そもそも地下だ。

 火などを使うには地下ゆえの閉鎖的な空間の空気の問題もあるし、そもそも燃料の用意なども面倒である。

 そして何より使うのがヴァンパイアであるため、暗くとも中を見ることができる。

 ゆえに明かりなど存在しない場所となっている。

 普通ならば入ってくることに躊躇を抱くかもしれないがアズラットは別に光がなくとも構わない。

 そもそもスライムであるため光がなくともわかる。何も問題はなかった。

 まっすぐの通路を進み、ヴァンパイアの下へと近づくアズラット。

 それを感知したのか、ヴァンパイアがアズラットに向けて叫ぶ。


「止まれ! お前は何者だ!」


 ヴァンパイアが叫ぶが、そもそもそれにあまり意味はない。答える必然性がないのである。

 本来ならこのままアズラットはヴァンパイアに向けて襲い掛かっていい。

 しかし、ある一つの要素がそれを躊躇させる。


「…………っ」

「答えろっ!」


 ヴァンパイアが肉壁として使用している女性……アズラットがヴァンパイアの寝室を探しているときに見かけた、自分の意思を強く持った女性である。

 乱痴気騒ぎの部屋で、繋がれていて囚われであった、その女性だ。

 なぜヴァンパイアが彼女を連れているのかがまず疑問である。

 しかし、それを考えたところで意味はない。

 問題は、その女性を無視し攻撃を仕掛けるべきかどうか。


(…………困ったな)


 まだ生きる意思のある女性を殺したい、とはアズラットは思わない。

 今だってまだ彼女は抵抗をしている。

 諦めていない、その意思はアズラットとしては尊重したい。

 しかし、それでヴァンパイアを取り逃がしてはいけない。

 両方ともまとめて殺すか、ヴァンパイアを逃がすことになるか……そもそも女性の立ち位置がどこにあるかも不明である。


「ちっ! おい! そいつを殺せ! できなければ足止めをしろっ!」

「…………はい」


 体も意思も抵抗をしている。しかし、命令そのものには大きく逆らえない。

 他のヴァンパイアを失い、命令系統に彼女しかいないというのも大きな要因かもしれない。

 彼女自身どうするべきか、このまま囚われたまま肉壁となるべきなのか、それとも今の命令に従い戦いに出てどうにかるべきなのか。

 迷いがあったのも命令を受け入れた原因なのかもしれない。

 アズラットとしては、二人が離れたことが大きい。


(…………このままヴァンパイアを倒していいかはわからないけどな)


 一つ、問題があるとすればここでヴァンパイアが彼女に命令をし、その指示を彼女が受けたこと。

 それがのちにどう影響するかわからない点。

 できれば今のうちに対処しておきたいことであった。

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