表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
238/356

230 従属者の殲滅

 ヴァンパイアの寝室、その上の天井に大穴が空き光が入り込む。

 仮にヴァンパイアがその光の下にいた場合、大きなダメージを受けていた。

 出来る限りそうなるようにアズラットは時計塔の鐘を落とす位置を見定め適切な場所に落とした。

 しかし、光はヴァンパイアに降り注ぐことはなかった。

 確かに寝所の中に光は差し込んだわけであるが。


(っ! 逃げられてるかっ! おそらくスキルか何かだな、くそ!)


 ヴァンパイアは同じ部屋の中には居た。

 残念ながら光の差し込む場所には居なかったというだけで。

 そしてその表情は落ちてきた鐘、天井に空いた穴、そこから入ってきたアズラットを見て驚愕している。

 その時点でヴァンパイアはアズラットの存在を把握していたわけではないのがわかる。


(なら、自力で倒すしかないか)


 そもそも日の光で一方的に倒せるとも思っていない。

 元々逃げ場を封じること、弱らせることが目的である。

 最終的にアズラットがやるべきことはヴァンパイアを撃滅し退治すること。

 日の光を浴びせ天罰的な形で滅ぼす必要性はない。


「何者だっ!」


 ヴァンパイアが叫ぶが答えるものはない。アズラットの行動とヴァンパイアの行動はほぼ同時。

 アズラットはヴァンパイアに跳びかかり、ヴァンパイアは外に逃げる。

 どちらかというとヴァンパイアの行動のほうが早い。

 声をかけたがそもそもそれはあまり意味のない行いだ。

 自身を殺す者がわざわざ名乗るわけがない。

 やり口的にも明らかに暗殺、あるいは不意打ちでの行為なのだから名乗り上げて正々堂々と挑むわけもないだろう。

 そもそも侵入してきた存在がスライムなのだから言葉を話すとも思わないのが普通である。

 まあ、侵入してきたのがスライムだからこそわけがわからないと思い叫んだのかもしれないが。


(こっちより早く動かれた! まったく、面倒な! 部屋の外に出て行ったか……)


 ヴァンパイアの行動がアズラットより早いのはヴァンパイアのスキルによるものだ。

 スキルは予感の類、特に危険や危機、自分に降りかかる災い事に関する<予感>のスキル。

 危機、とついたりするとより効果が高くなるのだが、<危機予測>や<危機予見>ならともかく漠然とした予感では厳しい。

 感知系スキルも、完全に自分の認識外の領域からの攻撃では把握しきれないし、攻撃そのものとは別の危険は把握しにくい。

 ヴァンパイアであれば日の光の危機は感知で来ても、それを起こす建物を破壊する行為は感知できない、みたいな感じで。

 ゆえに漠然とではあるが、あらゆる自分への危機、危険への<予感>をスキルとして獲得したわけである。

 なお、これは危機や危険以外の物もある程度知ることができる。

 良い物ならば良い予感を感じるように。

 そういうことでヴァンパイアはアズラットの攻撃が来ることをなんとなくだが察知し、起きていたわけである。

 だからこそ攻撃を回避できていた。まあ、侵入された時点で厳しい状況であるが。


(あっちの方に逃げた……<知覚>でこの建物の範囲の状況把握をして逃げられないようにするしかない。昼間でも黒いローブなどを着ればある程度日の光を遮ることはできる……いや、あれは森の中で日の差し込む量が少ない状態だったからか? あそこにいた従属ヴァンパイアは森の中からは出てこなかった。そう考えるとヴァンパイアもそう簡単に外には出にくいか? そこはわからないが、逃がすと問題だしな)


 今になって日の光による逃走防止がどこまで効果があるか不安になるアズラット。

 もっとも、そこまで心配する必要はない。

 黒いローブなどを纏ったところで完璧に日の光が遮られるわけではない。

 弱体化はするし、そもそも日中に動く時点で行動は厳しい。

 完全な暗闇か迷宮のような本当に日光の入らない場所ならばともかく都市とかならばまず無理だ。

 もっとも、地下に関しては話が違ってくるので注意するべきはその点だろう。


(ともかく追わなきゃ……って、アンデッドの兵士やヴァンパイアが向かってくるな)


 都市庁舎内にいたアンデッドやヴァンパイアがアズラットに向けて襲い掛かってくる。

 主であるヴァンパイアは逃げているが、それ以外の従属ヴァンパイアは話が違ってくる。

 彼らは主であるヴァンパイアに恐らく敵であるだろうアズラットを襲うように言われている。

 他にもヴァンパイアかアンデッド以外、あるいは蝙蝠など主であるヴァンパイアの支配下にない生物を見かけた場合襲うようにも言ってある。

 虫や小さな生物は無視するが、アズラットくらいならば話は違う。

 なお、対象には鼠などの動物も含んでいる。

 何が敵かわからないためできる限り危険を排除する意味合いでそう命令するしかなかったのだろう。

 <予感>のスキルは様々な予感を感じることはあっても、その予感の要因や原因は詳しくわかるものではない。


(まったく……とりあえず、出来る限り倒すしかないな。これらが野放しになった場合の危険もあるし、このまま放置して良い物でもないだろう。それに襲ってくる相手に手加減できるほどこちらも余裕があるわけじゃない。生かすために手を抜いた結果逃げられたら困る。少し気にかかる相手はいるけど、まあこの際仕方ない。どうなったところで俺は必要な仕事をするのみだ!)


 アズラットは都市庁舎内で<圧縮>を解除、圧され小さくなっていた肉体が広がり、通路に満ちる。

 そこに入り込んでいたヴァンパイアたちは飲み込まれ、アンデッドの兵士たちも飲み込まれ、そして一気に<圧縮>で潰される。

 アズラットの<圧縮>は自分の体に掛けるもの、とアズラットは認識している。

 ゆえに取り込まなければ効果を発揮できない。

 実の所自分以外を対象にして使用することは不可能ではないがそこは本人の認識の問題だろう。

 その後のことを考えた効率もあり、結局体内に取り込出の方が楽である、という本人の感覚的な問題もあるだろう。


(っと、こんなもので……ダメか。っていうか、外からも何体かアンデッドが来てる? 都合がいいと言えばいいが……いや、さすがに全部ではないみたいだな。効果範囲の問題か?)


 ヴァンパイアのアンデッドへの命令が有効になる範囲はそれほど広くはない。

 ネクロノシア全域に届くものではない。

 事前にしておいた指示が有効である範囲は結構なものだが、今行う指示が届く範囲はまた別ということになる。

 そのため都市庁舎付近にいたアンデッドが寄ってきているが、ネクロノシアに存在するすべてのアンデッドではない。

 しかし、少しでも減らせるのならば後々のことを考えると都合がいい。

 指示に関してどうなるかもわからないことであったし。


(とりあえず襲ってきたのは全滅させて、とっととあの糞ヴァンパイアを追うしかないな! 追う限りでは地下に向かっているようだけど……一人じゃない? 仲間がいる、なんてことはないと思うが……何かあるのか?)


 アズラットはヴァンパイアの存在を<知覚>にて把握している。

 その移動経路、現在位置、そしてそれ以外の存在に関しての情報も。

 それを追う限りでは、ヴァンパイアは誰かの腕を引っ張り地下へと向かっている様子である。

 その誰かは別にヴァンパイアについていっている様子ではなく引っ張られているのも分かる。

 なぜそんなことをしているのか少々疑問に思うが、今そんなことを気にしていられるほど楽な状態ではない。

 急ぎ自身に向かってくるヴァンパイアやアンデッドを倒し、目的である対象を追う。

 それがアズラットの役割。


(いちいち<圧縮>でやってると時間がかかる……<穿孔>は? 辛いか。そういえば<加速>を使ってなかったな。<加速>と<圧縮>の解除で加速した肉体の一撃を加えるとか、<穿孔>もあわせて心臓を貫くか? いや、それはヴァンパイアにしか効果がないし、普通に<圧縮>でまとめてとりこんで潰すのがいいか……攻撃系のスキルがやっぱりあったほうが都合がいいんだろうな、スライムじゃとれないけど!)


 取れないことはないが、使いにくさはあるだろう。

 ともかく、アンデッドの殲滅にアズラットはとりかかるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ