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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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228 ヴァンパイアの悪趣味

 ヴァンパイアにとって都市庁舎という建物はどれほどの意味がある建物だろうか。

 ネクロノシアを支配するうえでヴァンパイアは別に人間を支配し利用する意味はあまりない。

 もちろん都市をある程度掌握し自身の情報が外に知られるのを抑えられるので意味がないわけではない。

 だが、その居場所を都市庁舎にする必要性はないだろう。

 ある程度堅牢さや広さがある点では役に立つが。

 ヴァンパイアは人型の魔物である。

 吸血などヴァンパイア自身の特性で生まれるヴァンパイアもいるが、根本は魔物だ。

 頭がよく、知性を持ち、当然理性も有する。

 しかし、ヴァンパイアという存在はやはり魔物である。

 元人間であればまだ話が違うが、大本である迷宮から抜け出てくるヴァンパイアは魔物である。

 魔物とは結局のところどれだけ知性的で理性的な存在であろうとも、人間ではない。

 アズラットの場合その知性が人間であるため少々例外だが、それでも魔物寄りで生きている。

 例外的なアズラットですらそうなのだから、ヴァンパイアは当然魔物としての性質を持つ。


(ここか。っていうかなんでヴァンパイアとアンデッドがこんなに集まってるんだ? どんな意味があるんだ……)


 どこに何がいるかに関しては<知覚>で情報を収集できる。

 振動感知などである程度の音も拾える。

 しかし、それでもすべてを把握できるわけではない。

 閉まっている扉の向こうまで完璧に把握することはできない。

 両方を併用すればある程度は把握できるがそれでも完璧ではない。

 本当の意味で完全に情報を集めるにはできる限りその場に近づき、そこで物を見るのが一番だ。

 この場合の問題は多くのヴァンパイアとアンデッドが集まっていることだが、それに関しては<隠蔽>を駆使することにする。

 そこにいることがわかっていればばれるがそうでなければばれない。

 やり方次第ではどうとでもなる。

 扉を開くだけならば、別に相手の視界に入る必要性はない。

 その時点で情報は拾える。


(扉を開く………………っ!)


 アズラットは思わず眉を顰める……という感じの表情をするような思考をする。

 表情はないので思考を表すしかない。

 中の様子は扉を開く一瞬ですべてを把握できる。

 よく音が鳴っているのも情報収集しやすい一員だ。

 扉が開いたことに中にいた存在はほぼ気にしていない。

 そもそもアンデッドにはそのような命令が成されていないからだ。

 ヴァンパイアたちに関しても大半はまともな思考はしておらず思考できても体の自由は効かない。

 そんな状態であるからこそアズラットはその中の様子をそれほど気にする必要性はなかったと言える。

 ただ、問題はそこではない。アズラットが中から拾った情報……それが何よりも問題だった。

 アズラットにとっては。


(……………………)


 開いた部分から、<変化>を使い一応ある程度見つかりにくくしてアズラットは中に入る。

 殆ど扉の方へと意識されておらず、だれもいないとわかったならば基本的に無視されている。

 誰も扉を閉めに来ないのはその行動が許されていないからだ。

 中の狂乱は主であるヴァンパイアの命令なのだろう。


(酷すぎるな……)


 中で行われていたのは、一言で言えば乱痴気騒ぎ、だろう。

 男女の交わり、複数人での情交……いや、情交とは言いづらいか。

 彼らの多くはアンデッドであり、女性を嬲り者にしたり男性を嬲り者にしたり、一対一でしていたりと色々だ。

 男性のヴァンパイアが女性のアンデッドに腰を振るう、あるいはその逆、アンデッド同士で行われていたりもする。

 ヴァンパイア同士がないのは、恐らくそれがそういう目的、意図ではないからだろう。

 中に存在する光景はただそういった交わりだけではなく、恐らくアンデッドとして機能していない、死体が犯されたものもある。

 吊るされた女性の死体は裸で乳房が切り取られており、同じように男性の下も吊るされ目が抉られ心臓に槍が刺さっている。

 明らかに拷問器具と思われる十字が斜めになったような器具、三角木馬、焼き鏝……中には人の身長ほどの棘の生えた杭もある。

 既に使われている物もあり、死体が存在している。

 部屋の端には既に死亡して何日か経っている死体もある。

 部屋の中はそんな人が見れば地獄のようなと形容されてもおかしくない惨事が繰り広げられていた。


(………………)


 アズラットは魔物であるが、心は人間に近く、その性質は善である部分が強い。

 まず抱いたのは嫌悪であり、それを起こした存在に対する怒りであり、この場にいる彼らに対する憐憫である。

 中にいるヴァンパイアは抵抗する意思を奪われているが、それ以上にほとんどが諦めに近い感情を抱いている。

 体の自由は効かずとも、意思は現れる。心は見える。それらが、ほとんど存在しない。

 恐らくこういった行為で相手の心を折り、より操作を容易くするのがヴァンパイアの狙いだろう。

 もしくは、この悪趣味こそがヴァンパイアにとって楽しい娯楽であるのかもしれない。

 何せヴァンパイアは魔物なのだから。


(なるほど……まあ、こんなことをする輩ならとっとと始末してほしいって話になるのは当然か。糞悪趣味野郎をとっととぶち殺す準備をしないとな、こんなところでのんびりとせず)


 そう思い、部屋を去ろうとするアズラット。

 だが、一人部屋の中にいるヴァンパイアで他と違う存在を見かける。

 その人物は首輪をつけられ壁に繋がれていた。

 他のヴァンパイアやアンデッドは手を出していない。

 裸であり、多少凌辱の痕はある。

 ヴァンパイアであるため怪我の類は治っているが、さすがに汚れなどは無理だ。

 しかし、その人物が壁に繋がれている理由……主であるヴァンパイアは下位のヴァンパイアに命令できるはずだ。

 それに従い他のヴァンパイアはこの場で乱痴気騒ぎをしているわけなのだから。

 だが彼女はそうなっていない。


(……どういうことだ?)


 <知覚>を使い情報を調べると、従属ヴァンパイアではあるが……少し、得られる情報が違う。

 他の従属ヴァンパイアよりも強く、主であるヴァンパイアの意思に反発し抵抗できる、そんな存在であると。

 要因はいろいろとあるのかもしれないが、それに関してはアズラットはわからない。

 ただ、彼女がそういうヴァンパイアであり、またその眼にまだ抵抗の意思、あきらめていない意思があること。それがわかった。


(……早めに救わないとだめか。でも、助けたところで意味があるのかとも思うけど)


 既にヴァンパイアである彼女は人間の生活に戻ることはできない。

 それでも救うべきか、そこに迷いがある。

 しかし、ヴァンパイアを倒すべきなのは事実であり、彼女を救うことはそれとは直接関係しない。

 あくまで結果的に、だ。


(とりあえずまずあれの寝所から。できれば建物の外側に接する部屋であるといいんだが)


 アズラットが一番重視するのは建物の構造とヴァンパイアの寝室。

 できればすべてを調べておきたいが、さすがに時間が足りない。

 入るときはともかく出るときはある程度外に繋がるような場所であればいいだろうと考えている。

 入口から出られればそれがいいのだが、その前にヴァンパイアが返ってくる可能性が高く、遭遇したら面倒である。

 もしくは<隠蔽>などで隠れたいところでもあるが、それでもばれると困るので外に出たいところ。

 ヴァンパイアが外に出ているのは夜の間、深夜寄りの時間なので出来れば急いで情報収集を。


(ある程度調べたらとっとと出るしかない……まあ、<知覚>で内部構造はいくらか把握できるからな。情報量が多いと処理が面倒からあまり使いたくはないが。まあ、外から情報収集した時に当たりはつけているから一応確認に近いけど)


 ヴァンパイアが寝ている場所。よくある話であるが、棺桶に近い代物である。

 なにせ彼らは日の光が嫌いなのだから、事故でそれが当たらないように注意するのは当たり前だ。

 ならば地下で眠るべきでは、と思うのだがそこはヴァンパイアの思考や判断によるので何とも言えない。

 安全を重視するか、己の歓心を重視するか。それは結局のところ個人次第である。

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