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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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227 敵の本拠に侵入

 時間はあるが、出来れば急ぎたい。

 そんな背反する思いを抱えつつ、アズラットは機会を待つ。

 別にヴァンパイアがいるときに入ってもいいが起きうる危険を考慮するならばいないときに隠れて侵入するのが一番。

 しかし相手が外に出る機会は満月の日。

 満月が週に二回三回もあるなんてことはなく、約一か月に一回。

 正確な月齢に関しては不明だがだいたいアズラットの知っている知識とほとんど差はないと思っていい。

 そういうことでおよそ一か月ほど。

 ヴァンパイアが出てくるその日まで待ち、その時侵入することを決めていた。

 もちろんその間ただ座して待つということはしない。

 相手の本拠地周辺から街の至る所に調査に入り調べた。

 地形の利用に関して、何か使えるものはないか、アンデッドの配置や動き。

 単純に相手の本拠地に入るだけなら大して情報は必要ではないが、相手を完膚なきまで倒すつもりならばいるかもしれない。

 事前準備、事前知識、あらゆる可能性を想定しての準備をするのはたとえ使う必要がない場合でも悪いことではない。

 まあ、その代わり本人の苦労に関してはいろいろとあれだが。

 別に疲れることもないし、<知覚>などのスキルの有用性もあってそこまで苦労はしない。


(さて……出て行ったか。これで中に入れる……というほど単純でもないんだよな)


 ヴァンパイアが住処としている都市庁舎。その場所には入口に見張りがいる。

 ヴァンパイアが出て行った場合でも入口に見張りがいるため簡単に侵入できない。

 わざわざ入らずとも現時点でヴァンパイアが外に出ているのだからこれを襲えばいい、と単純に思う所である。

 しかし、それでヴァンパイアが倒せればいいが逃げられると困る。

 特に今の時間は夜であり彼らの行動が自由にできる時間だ。外なら余計に逃げやすい。

 ヴァンパイアには様々な噂、伝説、逸話がある。

 蝙蝠に分裂したり、血になって溶けたり、灰や霧に変化したり。

 そんな特異な方法であればもしかしたらアズラットの不意打ちでも逃げられる危険は高い。

 そうでなくともこの世界にはスキルというものが存在する。

 仮に<危険予知>みたいな危険を感知するスキルがあれば?

 アズラットの攻撃を感知し、逃げることは容易。

 仮に相手がアズラットの強さを把握できたなら勝てないことがわかるだろう。

 スキルとはアズラット自身が使ってわかっていることだが、かなり有用な物である。

 取得するスキル次第ではあるが、自身の弱点を補うことも可能だし、長所を伸ばすこともできる。

 弱い魔物がスキルを得たところで大した強さにはならないが、強い魔物がスキルを得れば鬼に金棒と言ったところだろう。

 ヴァンパイアのスキル次第ではアズラットも危険なことになり得る……かもしれない。

 実際の所アズラットくらい強いといくらヴァンパイアでも勝てない可能性は高い。

 まだヒュドラよりはアズラットの方が倒せる可能性があるが、そのヒュドラより強い存在である。

 まあ、強さに関してはあまり語ったところで意味はない。

 今回はアズラットがヴァンパイアを倒す目的であるのが重要だ。

 たとえどれだけ強くとも、相手に逃げられれば目的は達成し得ない。

 それにその後のことも考慮するべきである。

 まだ生きている人間がいるかもしれない。

 いや、生きている人間はそれほどいないのがわかっている。

 問題はアンデッド……ヴァンパイア側だ。

 従属ヴァンパイアの存在についてはある程度数がいるのを把握している。

 それらの対処の問題もある。まあ、アズラットがそこまで気にする必要はないのかもしれないが。


(とりあえず<変化>で壁っぽくして……)


 アズラットは見た目を都市庁舎の壁のような見た目にする。

 流石にスライムそのままでは見つかりやすい。

 なので<変化>で自分の見た目を変え単純にはた目から見た場合わかりづらいという状態にする。

 もちろんしっかりと明るい場所で、動いている姿を見たり間近で見ればばれるようなものでしかない。

 だがそれは明るい時、まともな人間が見れば。

 今は夜で仮に見たところではっきりとはわからないし見ようとする者もいない。

 ヴァンパイア自身が見れば流石に怪しまれる可能性は高いがそのヴァンパイアは外に出ている。

 中にいるヴァンパイアもいるが、常に<知覚>を使っていれば<隠蔽>でその接近を回避することは不可能ではない。

 なので今は<変化>を使い都市庁舎の壁のように見た目を変えて中に入るつもりである。

 もちろん壁に変わったところで見張りの目を掻い潜るのは難しい。

 当然ながら入口付近は明るく見えやすい。

 それに入口に出たならば変化した見た目は逆にばれやすいだろう。

 <変化>でも急速に的確な変化をさせるのは面倒くさい。

 なので入るには<変化>だけでは足りない。

 アズラットは壁を上り、入口の真上に陣取る。


(さて……<同化>で取り込んだ木箱を……っと)


 アズラットは己のスキルである<同化>で自分の中に取り込んでいた木箱、それを取り出した。

 生物であれば取り込むと吸収されるが、死んだ生物の木材……それも加工されていれば少し話は違うようだ。

 まあ、厳密にいろいろと細かく試していないので<同化>でうまく取り込めるか、それとも吸収されるかの境は不明なのだが。

 ともかく木箱を取り出し、それを見張りの兵士たちの前に落ちるように投げる。

 がたんと落ちてきた木箱に兵士たちの目が行き……次にそれが落ちてきた、飛んできた方向へと目を向ける。

 そこに何も存在せず、一体何が……と考えるが、とりあえず木箱を片付けなければいけない。

 そういうことで兵士たちは行動をし始めた。


(よし、中には入れたな……まあばれないように<隠蔽>を使ってある程度状況を確認してから動かないといけないけど)


 そんな兵士たちの動きに対しアズラットは既に中に入り込んでいた。

 木箱を落とした際に、自分も兵士たちの後ろに向けて<跳躍>で動いたのである。

 兵士たちの目が木箱を向いている間にその後ろに入り込んだ。

 そんな状態で上を見れば何もいない、というわけである。

 中に入り込んだはいいが、兵士たちが動いている間、見張りとしての仕事に戻るまでの間は動けない。

 少し待ち、兵士たちが普通の見張りに戻った時、ようやく中でアズラットが動き始める。


(中は流石にちょっと明るいか……まあ流石に普通の人間向きの明るさではないな。アンデッドやヴァンパイアは別にそれほど明るさはいらないか……人間がいるかどうかがわからない。<知覚>によると確かほぼいない、感じだったな。まあ、増減もするし毎日調べているわけじゃないからなあ……いたところであまり意味はないか)


 色々と考えつつ、アズラットは中を調べていく。

 ヴァンパイアやアンデッドの存在は確かにあるのだが、大した動きがない。

 これに関しては彼らが動く必要性がないから……なのだろう。

 そもそも今日はヴァンパイアが外に出ている。

 通常の日ならば雑務で他のヴァンパイアやアンデッドが外に出て仕事をするが、今日は主のヴァンパイアが外に出向き活動している。

 道楽に近いものなのかもしれないが自分で食事やアンデッド、ヴァンパイアにする存在を物色しているのかもしれない。

 もしくは……単純に、ヴァンパイアたちやアンデッドに必要以上の命令を出さないか。

 この場合問題となるのはヴァンパイア達の自意識。

 命令無しで動けないのならば都合がいいが、そうでないと面倒くさいことになる。


(……アンデッドやヴァンパイアがまとまっている場所がある。できればそこを調べたいな。あと、あのヴァンパイアの寝所とかも。まあ一度に全部調べきるのは難しいかもしれないが……)


 できれば今日中に調べたい。

 まあ、昼間に調べてもいいかもしれない。ヴァンパイアが寝ている間に。

 その間に襲えるような気がするのは気のせいだろうか。アズラットは気が付いていない。

 もしくは気が付いているができる限り完全に逃げ道を塞ぐ完璧さを求めているか。

 どこまで準備をするつもりだろう。

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