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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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225 静かな街

(…………まあ、入口がいくら厳重になっていたところで俺にはあまり関係ないわけだが)


 アズラットはネクロノシアの街に侵入していた。

 当然ながらアンデッドの監視のある入り口から入ることはしない。

 そもそもからしてアズラットはスライム、魔物でありしかも多様なスキルを得ているためいくらでもやりようはある。

 その壁を這うことのできる吸着力を持って壁を這いながら<変化>で見た目を変えつつ、<隠蔽>も駆使しながら登る。

 そこまでして隠れて登れば流石に見つかることはないだろう。

 もっとも見つける者もいない場所で登っているわけだが。

 <知覚>で周りにいる存在を知り、スライムの振動感知能力で何か動きがないかを察知する。

 そういった様々な能力を駆使してまで侵入に注意を払ったわけだが、根本的に目撃者そのものがいない。

 極まった細心の注意を払った侵入方法を行ったところでほとんど必要なかったことであると言っていいだろう。

 しかし、実際ヴァンパイアに連なる存在にアズラットの姿が見つかれば厄介になる可能性はある。

 であればそこまで注意して侵入することは別に悪いことではないだろう。念のため、というやつである。


(しかし…………これが本当に人の住む街かね? ちょっと…………静かすぎる)


 街の様子は結構大きな街であるというのに、あまりにも静かに過ぎる。

 何が静かかと言われれば何もかも、としか言えず、具体的にどうとは言いにくい所ではある。

 しかし、やはり静かであるというアズラットの印象は事実。実際あまり賑やかな状況ではない。

 ネクロノシアの噂に陰気、落ち着かない、雰囲気が悪いという内容があっただろう。

 静かであることがそれらの印象とどうかかわるかと言えば、結構大きく関わっている。

 なぜならば、静かであるということの要因が問題だからだ。

 騒がしければ落ち着かない、というわけではない。

 静かであれば落ち着ている、というわけではない。

 街とはそこに生きる人々の営みがあるものであり、それが自然である。

 自然なそれがなければ落ち着かないものだ。

 この街には活気がない。そこに生きる人々の営みが見えない。人の声が聞こえない。

 周囲を窺うような人々の視線が、何かを気にするような人々の空気が、僅かな音にも注意深く反応する人々の雰囲気が。

 そこにいればわかるだろう。明らかに人々の様子がおかしいことを。


(…………俺は魔物だからどうとも言えないけど、落ち着かないな)


 明らかに空気が悪い。雰囲気が悪い。気分が悪い。だから落ち着かない。

 アズラットは本来この場において異質であり魔物という異分子であるが、それでも落ち着かない。

 それほどまでにこの街の空気は悪いと言える。普通の人間なら余計にそれを感じるだろう。


(とりあえず、状況を調査しないと。いったいここはどうなっているのか……街の状態調査、人間の状況確認、あと一応冒険者ギルドも調べておくか? 流石に冒険者に関してはあまり調査するのは良いとは言えないけど……アンデッドやヴァンパイアがいるのに気づかない、ってことは流石にないよな? スキルで魔物を感知できるものがあるし。でも、そういうことができないようになっている……なら俺もばれないだろうか? いや、あまり近づかないほうがいいかもしれない……仮にばれてしまった場合のことを考えると、できれば隠れておいた方がいいはず……うーん、でも気になる……)


 アズラットが気にして調べるつもりになっているのは街における基本的なことの調査と確認である。

 例えばアンデッドがどれだけ存在し、どのように行動しているのか。

 入口にいたアンデッドのように兵士のような役割をしているアンデッドはどれほどいるか。

 そもそもアズラットが倒すべきアンデッドの数はどの程度いるか。

 ヴァンパイアの数も気になるところである。

 主であるヴァンパイアを倒しそれで済む話だろうか? 従属ヴァンパイアの数は?

 仮に主であるヴァンパイアに挑むとして、そのヴァンパイアはどれほどの力量を持つか、どこに住むか、どう行動するか。

 ただ相手が何も考えない魔物であれば、襲って倒せば済む話だ。

 しかし相手は人型の高い知性を持つ強力な魔物。

 単純に倒して終わりと言えるほど簡単な相手ではなく、また簡単に倒せる相手とも限らない。

 アズラットはこの世界でもかなり強い魔物だが、それでも必ず勝てるとは限らない。

 逃げるだけならば逃げられる魔物はいるだろう。

 それこそ知性を持ち、スキルを持ち得る魔物ならば、勝てずとも対処する手段は多いはず。

 ヴァンパイアならば飛行して逃げることができるかもしれない。


(こういう時こそ<知覚>か。あのスキルなら外からでも、ある程度情報を把握できる。冒険者ギルドはそうやって調べておこう。あとは……上の方を進みながら見て回るか? いや、下手に上に行くと蝙蝠に見つかるかも……<隠蔽>を駆使しながら、街を見回って情報を調べるのが一番か)


 急ぐ必要はない。時間はいくらでもある。

 ヴァンパイアもすぐにこの街から出るわけでもなく、アズラットもすぐ死ぬわけでもない。

 アノーゼに頼まれた話も時間制限というものは特に言われてないのであまり気にする必要がないのだろう。

 アズラットはそう考えていた。






 冒険者ギルドは既にヴァンパイアの手が入っている。

 簡単に<知覚>で感知した結果がそれだ。

 と言うのも、ギルドの一番上の人間が従属ヴァンパイアだったからである。

 もちろん冒険者ギルドのすべての人員がヴァンパイアではないわけだが、一番上が相手側だと厄介な話になるだろう。

 冒険者への指示も出せるし、情報も握りつぶしやすく、監視もしやすい。

 そのうえそもそも書類仕事が多く外へと出ることが少ないのであまり見かけずとも、ずっと建物の中にいても問題はない。

 実力という点においては戦えばヴァンパイアとしての力も加味されるのだから本来よりも強くなる。

 まあ、日の光の下に出れない問題はあるが、それはある程度考慮して行動すればいいだけだ。

 状況的に怪しむ者もいるが、その疑問はヴァンパイアの特殊能力の一つである魅了で対応しているようだ。

 まあ、そこまで詳しい情報はアズラットにはわからないが、少なくともヴァンパイアが冒険者ギルドに手を伸ばしていることはわかった。

 そして街の中。街の中には兵士が見回りを行っていた。当然これはアンデッドである。

 すべてがアンデッドというわけではない。アンデッドが七割ほど、三割が人間だ。

 人間と言えども様々な方法で従えることはできる。

 生か死かを選ばせたり、家族や恋人を人質に取ったり。

 魅了などのヴァンパイアの持つ特殊能力も一つの手だ。

 魅了と一言で言っているが、精神操作の類である。

 場合によってはスキルを覚えそれを使うのも一つの手だろう。

 相手を従わせられるスキルは手法はいろいろだが結構ある。

 ともかく、街はヴァンパイアの支配下にあり、その手下が見張りを行っている状況にあるということだ。


(見張りがいるから表立っては活動しにくい……まあ、出歩いている人の数が少ないのはありがたいけど)


 ヴァンパイアの支配下にあるため雰囲気は悪く活気が少なく外を出歩く人の数はあまり多くない。

 だからと言って周りを気にせず行動すればその存在が露見するので隠れて行動する必要はある。

 しかし人の姿が少ないためそこまで極端に考えずとも良いのはありがたいことだろう。

 人が多いと見つかりやすい。


(ひとまず、そこに隠れるか……<知覚>で見る限り誰もいないんだよな。でも……ここ、普通の家だよな?)


 <知覚>のスキルで人がいない家を調べる。誰もいない、人影の存在しない家。

 そこであればアズラットは隠れて過ごしやすい。人が帰ってくることを考えなければ。

 ただ、そこに起きていた異変、状況の変化、それに関してアズラットはなんとなく気づいていたのかもしれない。

 この誰もいない家にいる住人は存在せず、帰ってくることはない、と。

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