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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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224 不穏な道中

 山から下りるアズラット……もっとも、山の頂上から平野までは結構な高さがある。

 いくらアズラットの防御能力が高くとも危険はあるし、そもそも一気に平野まで跳んでいくのも難しい。

 そもそもネクロノシアまでも山からよく見えるというだけで別に近くにあるというわけでもない。

 つまりその途中にもそれなりに道はあるわけである。

 もっとも、この山は登る者もいないため道なき道であるが。


(頼まれたはいいけど、別に急ぎではないようだから焦らないけど……)


 アノーゼからヴァンパイア退治を頼まれているが、今すぐ退治しろというわけではない。

 そもそも別に頼まれたことだからと言ってその期限は一応存在していないわけである。

 もっともそのまま放置していればまた同じようなアンデッド被害が広がることだろう。

 そう考えればある程度は急いだほうがいいのは確実である。

 色々とあれこれ考えながらアズラットは山を下りていく。

 その最中に山を登るアンデッドの姿を見かける。

 道なき道を進むアンデッドたち、彼らは体力も怪我も関係ない。

 山向こうにいるヴァンパイアへの補充要員か、それともある程度の数を常に送り出すようにしているのか。

 アンデッドは生き物ではなく自然に回復しないゆえに補充要因は必要になるだろう。

 もしかしたら全滅させられたことを察知したのかもしれない。

 もっともヴァンパイアの補充はいなかったが。

 なので恐らくは単なる補充要因が可能性としては高いだろう。

 その程度ならばアズラットには倒すのに苦にならない相手である。


(しかし、結構数がいるな……ネクロノシアとやらの都市は大丈夫なのだろうか?)


 ネクロノシアは結構大きな都市であるため相応に人の数はいる。

 しかし、ヴァンパイアの食事、アンデッドの兵士、従属ヴァンパイアにされた存在など、その消耗は結構多いと予測できる。

 流石に都市運営に支障が出るほどの人数が犠牲になってはいないかもしれないが、かなり犠牲になっていることに間違いない。

 そもそもアズラットが始末したアンデッドとヴァンパイアの時点で百は超えている。

 それまでのアンデッドの出現情報、出会った商人や冒険者に倒された数などを考慮すればどれほどのアンデッドがいただろう。

 また、ネクロノシアに一切アンデッドがいないなどとも考えられるはずはない。

 確実に結構な数がいるはず。

 それを考えると数でいえば……数百いることは間違いない。

 食事の犠牲も数えれば千に到達するのではないか? そんなふうにアズラットは考える。

 ネクロノシアの大きさ次第ではあるが、千にまで達する犠牲を許容できるものだろうか。


(まあ、そこを俺が考えても仕方がないか)


 いくらネクロノシアの都市のことや、ヴァンパイアが起こした問題のことを考えたところで仕方がない。

 アズラットは魔物であり人間やその他の魔物のことを考えても対応しようはなく、そもそも関係者でもない。

 そもそも頼まれたことはそのことの原因の対処であり、それ以上のことは基本的に管轄外である。

 スライムに都市運営の仕事や手伝いを頼もうとしたところで頼みようがないわけである。

 人の思考を持ち、<念話>などで話せるが魔物という時点で拒絶されることだろう。

 立場の問題ということだ。






(……蝙蝠。まだ昼間なのに、飛び回ってるな)


 山のほぼ麓まで下り、平野をネクロノシアに進む。

 そんな中、上空を飛び交う黒い影をアズラットは見かける。蝙蝠である。

 群れで飛んでいるのを見かけることもあれば一匹でばさばさ飛んでいるのを見かけることもある。


(ヴァンパイア、吸血鬼だもんな。蝙蝠……にはなれないか? いや、さすがに蝙蝠で昼間に飛び回れるとか……それはないな。そもそもそれができるなら日の光を克服しているようなものだし。ってことは……単純に使い魔とかそういう系統? ヴァンパイアにそういう能力がある……のかは知らないな。アノーゼに聞いていいことかどうか……まあ、そこまで注意を払う必要はないか。少なくともここをまっすぐ進んでいるだけではただのスライムにしか見えないだろう。流石に街道を進むとあれだが、普通に平野を進んでいるだけなら問題はないはず。まあ、多少バレたからどうだって話だけど。変なスライムを見かけた程度で済むんじゃないだろうか? 中まで入るならある程度は考慮しなければいけないけど……)


 アズラット自体は見かけだけならばスライムにしか見えない。

 その実能力を把握するにはその系統のスキルがいる。

 蝙蝠がヴァンパイアの支配下にあるとしても、それらの能力は流石に持ち得ない。

 せいぜいがそこに何がいるか、どこで何が起きているか、聞き耳やその視力で確認することくらいしかできない。

 情報収集はできるかもしれないが、あらゆるすべては無理である。

 蝙蝠が実際に得られる情報、それを少し拡張した分くらいだ。


(しかし…………遠目に見えるが、妙な感じ。遠目でも、何か……うーん、街っぽくないというか、都市っぽくないというか、妙な感じがする)


 いまだアズラットのいる場所からネクロノシアは結構な距離がある。

 それでもどこかネクロノシアは奇妙に見える。それが一体どういう理由かはわからない。

 <知覚>の範囲にまだネクロノシアは入っていないため情報収集も無理。

 だが……それでも何かを感じている。恐らくそれは直感ともいえるものなのかもしれない。

 それを感じつつ、アズラットは街道方面へと移動し街の入口を見ることのできるところまで行く。

 流石にいきなり状況を見ずに調査もせず街の中に入るとか危険すぎるのでやらない。


(……街の入口は見た限りでは普通に見える。ただ、街道のあっち方面を見ても何か来る様子は見えないし、そもそも人の出入り自体ないように見える……ちょっと入口付近が結構厳重にがちがちになっている感じか?)


 噂に上がる程度には、ネクロノシアは不穏な雰囲気があると言われている。

 それはそこに訪れた存在もいるからだろう。

 その噂が出回るようになり、ネクロノシア方面へと行く商人や旅人、冒険者は大きく減っている。

 しかし、全くいないわけではない。

 それらを街に入れることに関してはいくらか考慮しなければいけないはずだ。

 なぜならネクロノシアは現在ヴァンパイアが支配下におさめている。

 その情報が漏れると厄介なことになり得る。


(……そもそも密告者の類は出てこないのか? 逃げるとか……いや、さすがに厳しいのかな。ヴァンパイアが動かなくともアンデッドはいるし、蝙蝠みたいなのでも監視くらいはできる。常に人の所に数をそろえてつかせれば見張りくらいはできるか? まあ、そこまで不穏な感じだとちょっとあれだが……冒険者ギルドは? こうして考えるといろいろと疑問が出てくるな)


 いくらヴァンパイアが優秀な能力を持つからと言っても、さすがに疑問点がいくらも出てくる。

 いや、支配が完璧でないのは不安な雰囲気や噂である程度は出回っているのだろう。

 だが冒険者ギルドなどへの対処はどうなのか? それに関しても調べる必要性はある。


(ヴァンパイアは魅了能力があるとかそういう話はあるけど……って、<知覚>でちょっと入口の兵士調べたけど、あれ七割ほどアンデッドじゃないか……まあ、さすがに門番にアンデッドは置くか。でもあれなら逃げ様はあると思うが……まあ、逃げようとしたら殺されるとかあるか? それでも何かやり様はあると思うが……いや、死を覚悟してでもヴァンパイアの存在を伝えるということができる人間ばかりじゃないか? まあ、とりあえずは行って調べるのが肝心か……)


 いくら外からあれこれ様子を見守り己の思考だけで様々な可能性を思案しても話は進まない。

 何事も百聞は一見に如かず、内部に入り直接調査するのが一番である。

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