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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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222 神様からの依頼事

 指輪を渡しシエラとのお別れを済ませたアズラットは森の中を進む。

 別に特に行く当てはないが、あのまま街道を進むと馬車と出会うことになるだろうし、そもそも離れておきたい気分である。

 一応本当にこれで最後、これ以降もう会うことはないみたいな感じのお別れだったわけであるし。

 そういうことで森の中を進んでいるわけであるが。


(さて……どうしよう)


 そもそもここまで何も計画もなく進んできたわけである。

 一応旅という目的はあったわけであるが。

 旅商人の馬車に乗っているときは深く考える必要がなく子供についていけばいいだけだった。

 そのついでにあちこちいろんなところを見て回り、情報取集ができたわけである。

 正直言って旅をする、という目的だけならばそれで十分だった。

 しかし、もうそういうわけにはいかなくなった。


(……一応ある程度見て回ったけど、やっぱりどうするか目的がないのよな)


 世界を見て回るというのはそもそも特にこれと言って目的も目標も思いつかないアズラットにとっては重要だった。

 目的も目標もなければただ普通に生きるだけ。無為に心が死にかねない。

 スライムとしてこれ以上敵がいない状態になったため、ある程度何かないと困るのである。

 人ならばまだ人の世界で生きられる。しかしアズラットはスライムである。スライムの世界で生きてもつまらない。

 ゆえに旅に出ていろいろとみて回り、何か目標を、何か目的を……ということだったのだが。

 それが現状すんなりと言っていたところを、いきなり道から外れて森の中。

 別にそれで旅が止まるわけではないが、じゃあ次は何処に行こうか? ということになる。

 そもそも、ある程度大陸を渡ったりして旅をしているのでこれ以上どこか行くようなところはあるだろうか?

 そんな感じにも思い、森の中をただ進みいろいろと考えているわけである。


『では、その目的については少しいい案があるのですがどうでしょう?』

『……アノーゼ。人が傷心中だというのに変わらないな』

『あれは状況的には仕方のないことでしょう? アズさんもあの時行動していたらどうなるか理解していての行動じゃないですか』

『傷心しているのは事実です』

『はい、それはわかってます。だから私が話しかけたんですよ。少しは気晴らしになるでしょう?』


 色々と考えていたアズラットに突然話しかけてくるアノーゼ。それ自体はいつもの通り。

 会話に出ているようにアズラットは現状にちょっと心が傷つき気味……まあ、そこまで傷ついてもいないが。

 それに関してはアノーゼの方は理解している。そしてアズラットがそうなることを理解したうえで行動したことも。

 別にそれで慰めるつもりもないし、咎めもしないし、褒めたりもしない。

 ただ、その心の状態を解消できるように話しかける。それが彼女の行いである。


『……まあね。ところで、いい案? 何かあるの?』

『はい。もっとも、アズさんがこの話を受けてくれるかどうかは私としても分からないのですが。私はその良心に期待してこの話を持ち掛けるだけです』

『良心と言われてもな……一応俺は魔物なわけなんだけど』

『魔物はゴブリンに襲われている人間を助けたり、魔物に殺されかけている人魚を助けたり、アンデッドの襲撃を受けている馬車を助けたりはしませんよ? 普通は。アズさんの今までの行いを見て良心がないなんて言う人はいないと思います……いえ、この世界の人間ならありえないと言いますね。行動だけを見ればアズさんの行動はとても善性質のものですよ。下手な人間の何倍以上も』


 アノーゼは今までのアズラットの行動のすべてを見てきている。だからこそ言えることだ。

 アズラットは下手な人間よりもはるかに善なる存在である、と。

 だからこそ自分の頼みを聞いてくれることを期待する。

 いや、期待するというよりは、アズラットが自分の頼みを聞いて行動してくれることはすでに彼女の中では前提になっている。

 それにはいろいろと彼女なりの理由はあるが、そこはアズラットの知るところではない。


『褒められてるんだろうけど……なんかあんまり認めにくいな。で、具体的な内容は?』

『アズさんはアンデッドを倒しましたよね?』

『まあ、成り行きで』

『そのアンデッドはなぜ発生したと思いますか?』

『…………<知覚>で情報を得た限り、あの黒いローブは従属ヴァンパイアって話だった。つまり……どこかにあれらのアンデッドの生みの親であるヴァンパイアがいるってことだよな?』

『…………正解です』

『なんで不満そうなんだよ?』

『だって答えを言われてしまったんですよ? こう、実はこれこれこういうことがー! って語って驚かせたいじゃないですか! まあ、わかってしまうのはスキルで色々と情報を得た以上仕方のないことなんでしょうけど、そうやって驚かしてアズさんの珍しい感情の動きが見たいなと思ったわけですが……残念です』


 実にアズラットにとってはあまり好ましくない理由である。

 まあ、そのたくらみはあっさり防がれたわけであるが。

 アノーゼはアンデッドの出現とその理由、それに関しての話をあげた。

 つまりアノーゼが持ちかける話はそのアンデッドに関係することであると予測できる。

 でなければその話を出す理由がない。


『で? 具体的にどういうこと?』

『そのヴァンパイアの存在です。ヴァンパイアは基本的に地上には存在しない魔物です。日光に当たればいずれは灰になり死亡する、すぐに死ぬわけではありませんが日の光に弱い生物が地上で生まれるのはおかしな話でしょう』

『まあ、確かに』

『本来は迷宮で生まれる彼らですが、知能が高く知性を持つ魔物は迷宮にずっと留まるとは限りません。アズさんのように迷宮から外に出る魔物も多くいます。ヴァンパイアは迷宮においては日の光を受けず弱点の効果がなくかなり強い上位の魔物ですが、殆どの場合は地上に出向くのです。まあ、彼らの食事の問題もあるんでしょう。迷宮では人間を頻繁に食べ散らかすことはできないでしょうから。豪遊暴食、実に欲望に忠実な行動だと思います』


 通常のヴァンパイアは迷宮で発生するかなり珍しいものである。

 大半は深い階層で発生し、そこで生きる。

 迷宮にいる限りヴァンパイアは日光を受けないので死ぬことはない。

 一応光が迷宮にはあるが日光でない限りは問題ない。

 疑似的な日光もヴァンパイアには影響せず、それゆえに迷宮においてのヴァンパイアは極めて厄介な魔物である。

 そんなヴァンパイアは食事の問題、知性を持つゆえに様々な理由と目的で迷宮から外に出る。

 日の光で死にかけるが、多くの場合はそのまま生き残り外に出ていき、どこかで人をかっ喰らう。

 その後はどうなるかはまちまちだが、人間と戦い死亡するのがほとんどの事例となる。


『で、ヴァンパイアがどうかしたのか? いや、従属のヴァンパイアとか作ってアンデッドで襲撃したりしているのは理解できるが』

『はい、そのヴァンパイアを抹殺してほしい、というのが今回の頼みですね』

『……それ、俺に頼む事? っていうか神がそういうこと頼んでいいのか?』

『アズさんに頼みごとをする分では別に特に問題があるわけではないですよ。直接私が関与するのはあれですが、話してお願いと頼む程度には。もちろんアズさんには拒否権があります。この話を聞いて、アズさんがどうするかは自由です。依頼でも、命令でもなく、たんなるお願いでしかないですからね』


 神の直接的な関与は許されていない。

 しかし、直接ではなくお話してこうしてくれないかと頼むくらいはいい。

 もともと<神託>などで神が話を伝えられる存在はかなり限られており、その<神託>もいくつか条件がいる。

 あまり過剰にやりすぎると神も罰則を受けるので関わり方は慎重にならざるを得ない。

 しかし、アズラットはそういった中では珍しく問題なく話しかけることができる相手だ。

 もちろん今回お願いする、といったようにあくまでアズラットの判断に頼るしかない。


『……まあ、正直今回の原因であると考えるとぶっ倒しておきたいけど』

『お願いします。そのヴァンパイア、街一つを支配して犠牲者を増やしていますし、悪行三昧で…………』

『怒るな怒るな! ちょっと怒気がこっちまで届く!』

『ああ、ごめんなさい。私としても……あれはちょっと許せないというか、許さないというか。ええ、本当にひどい。あれ今回は本気で殺したくなります。ですからアズさん、あれをぶち殺して街一つを救ってください。あれの被害者の救けとなってください』

『…………ふう。まったく』


 大きく息を吐くアズラット。街一つを救え、などと言われるととんでもなく話が重い。

 しかし、アズラットとしてはその話を無視できない。


『わかった。行けばいいんだろう?』

『はい。よろしくお願いします、アズさん……本当に、あの子のことをよろしくお願います』

『……で、どこに行けばいいんだ?』

『時計塔のある街、ネクロノシアです』


 行き先は噂にもあがっていたネクロノシア。

 時計塔のある、今は雰囲気の良くない元観光地となっていた街である。

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