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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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220 圧倒的な強者

(まず後方を遮っている奴らから!)


 <跳躍>と<加速>を合わせ、馬車から飛び出したアズラットは一気に後方の道を塞ぐアンデッドたちに近づく。

 アンデッドたちはそのアズラットの動きに対処できない。

 仮に対処したところでダメージを与えることは不可能だ。

 根本的にアンデッドたちとアズラットではその強さが違う。

 そもそもアンデッドは冒険者に負けないくらいの強さ程度しかない。

 数の有利、司令塔の存在があるからこそ勝てるが、単独では冒険者相手に打ち勝つことはできないだろう。

 時間の有利はアンデッドにあるが、最終的に勝つのは恐らく冒険者側となるはずだ。一対一の場合は。

 アンデッドたちは数の有利があるが、数が有利な程度でアズラットがどうにかできるわけもない。

 アズラットはヒュドラ相手に勝っているわけであり、このアンデッドたちが数をそろえたところでヒュドラに勝てるわけはない。

 つまりアンデッドたちの勝ち目はないということになる。


(<圧縮>解除!)


 アズラットは<圧縮>を解除し、そこにいたアンデッドたちを飲み込む。そして再度<圧縮>。

 来ていた装備も関係なく、持っていた武器も丸ごと、その肉体ごとぐしゃりと潰し喰らう。

 食われたアンデッドたちはそのまま消化され、防具も武器も同じように消化される。

 今のアズラットの消化能力はスライムの最終進化ということもあって極めて高い。

 まあ、<圧縮>のレベルの高さ、それによって圧縮されているのもあるのでそこまで消化が必須というわけでもないが。

 いずれは消化されるのでそのまま残していたところで大して問題はない。


(とりあえずは逃げ道は確保……とはいってもいきなり馬車を反転させるのは難しいだろうな。次は、前にいる奴ら!)


 再度<跳躍>と<加速>を使い今度は馬車の前へ。


「すらむー!」


 叫ぶシエラの声が聞こえるが、それは今回は無視……流石にこの状況で気にしてはいられない。

 そして、そんなアズラットのことを気にしているのは彼女だけでないということも。

 そこは気にせず、アズラットは前を塞ぐアンデッドたちに向かって襲い掛かる。

 根本的にアンデッドの強さはどれも変わらない。数の多寡はあれど、その程度の差。

 そもそも今は冒険者たちに向かって言っているアンデッドの方が数が多く、馬車を塞ぐための配置でしかない。

 その程度の数を相手にするのはアズラットにとって大きな問題ではない。

 後ろにいた者たちと同じ、<圧縮>の解除で飲み込み、再度<圧縮>を使い潰す。

 これで前と後ろのアンデッドは消え、逃げることは可能となった。

 しかし、それでは問題が解決しない。そもそも旅商人だけが逃げられればいいわけではない。

 後々のことを考えるのならば、出来る限り全員を生かして返すのが一番である。


(さて、これで後は狙うは……あいつか)


 黒いローブのアンデッド、光から身を隠し森寄りに隠れているヴァンパイア。

 そしてその周りを守るように配置されているアンデッド。

 冒険者を襲っているアンデッドは流石に無視する。

 まあ冒険者を襲っているアンデッドは場合によってはある程度始末したほうがいいかもしれない。

 司令塔であるヴァンパイアを倒せばアンデッドたちが弱化する可能性はあるのでまずそれを行う。

 こんな状況でも、ヴァンパイアは冒険者たちを襲ったり、アズラットを気にするそぶりは見せない。

 いや、アズラットのことは気にしているのだろう。

 今ヴァンパイアの周りにいるアンデッドは冒険者を襲っている中から戻している者もいる。

 アズラットが襲ってきた場合、その対処をするためにアンデッドがいるということだろう。

 もっともアンデッドがいたところでアズラットをどうにかできるはずはない。

 それは見ていればわかっていたはずだ。

 わかっている。ヴァンパイアもアズラットに周りにいるアンデッド、自分だけでは勝てるはずがないというのは。

 しかし、ヴァンパイアは従属ヴァンパイア。

 つまりは主に命令されて今この状況を引き起こしているわけである。

 それは望んでではない。主の命令を受け、それを嫌々ながらやっている状況だ。

 だからどんな状況になっても逃げられない。逃げるくらいならば死ね、と命令されている。


(っと! 数ばかりいたところでどうしようもないんだけどな)


 ヴァンパイアの周りを守るアンデッド、それらを飲み込み、潰し、数を減らし、すぐにヴァンパイアに向け跳びかかる。

 逃げるそぶりも見せず、あっさりとヴァンパイアはアズラットに飲み込まれる。

 流石に逃げられないにしても一方的に食われるのは嫌であるためか、暴れようとするがすぐに<圧縮>で潰される。

 ヴァンパイアは決して弱いわけではないが、黒いローブで光を遮っているとはいえ昼の状態、それも弱い従属のヴァンパイア。

 それでスライムとはいえ最大の進化が果たされレベル差も五十近くあるだろうアズラットに勝ち目はない。

 あっさりと飲み込まれ、アズラットに食われた。そしてそれによりアンデッドたちの動きは鈍る。

 このままいけば、問題なく冒険者たちはアンデッドに打ち勝つだろう。







「なんだあれは!」


 冒険者たちはアンデッドと戦っていたとはいえ、周囲の状況をある程度は把握できていた。

 馬車の中からスライムが飛び出した、ということも。そしてそのスライムがいきなり大暴れしアンデッドを消し去ったことも。 

 特にそれは魔物を察知できるスキルのある冒険者は顕著に理解したことだろう。

 そうでなくとも、スライムがいなくなり馬車から出てきたシエラの存在を眼の端に捕らえていればある程度はわかっただろう。


「スライムってあんなに強かったっけ!?」

「ありえないだろ! っていうか、そんなこと気にしている場合か!?」

「子供をなんとか馬車の近くに抑えとけ! 動かれて死なれたら困るぞ!」


 シエラが外に出てきているのでそのことを気にしていなければいけない。

 スライムがいなくなった一番の問題はそこだろう。

 とはいえ、彼女も流石にアンデッドの中を突っ切るのは恐ろしくてできない様子で、馬車から出てきたがそれっきりだ。


「すらむー!」


 その女の子の叫びも聞こえる。その叫びは上に向けて、馬車の上を過ぎ去ったスライムに向けて。

 明らかにそれはありえない。スライムという種はそんな能力を持ち得ない。そのはずなのに。

 そのスライムだけは例外、ということになるかもしれないが、あまりにも、あまりにも強すぎる。それは異常に過ぎた。


「なんでわからなかった……!」


 魔物を察知するスキルは魔物の存在を察知するスキルである。

 それは魔物がいるかどうか、気配の存在を察知する。

 つまりスライムが如何ほどの強さであるかは把握できない。

 それゆえにスライムの力量は全くわからなかった。

 しかし、その異常に関して、把握する機会はいくらでもあったはずだ。

 食事をしても大きくならないこと、全く動く様子を見せないこと。


「っていうか<従魔>で従えてたんじゃなかったのか!?」

「そういう話だったが……そういうことじゃないってことじゃねえのか?」

「くそっ! あんな危ないのと一緒にいたってわけか!」


 そしてもう一つ、スライムは<従魔>によって従えられている魔物だという話だったということ。

 しかし、それは実際には事実ではなかった。そのように見えていた、というだけなのだろう。

 シエラがスライムと会話をしていたことは嘘ではない。

 しかし従えていたのは嘘になる。そういう意味では従魔ではないのだろう。

 それの何が問題かというと、魔物が今までまったく制御されていなかったということになる。

 今はそのスライムの行動はアンデッドに向けられているが、もしかしたらそれはアンデッドではなく自分たちに向けられたかもしれない。

 はっきり言えば、馬車ごとスライムに貪り食われた危険がある。

 それほど危険な魔物と一緒にいた、と考えると恐ろしくなる。


「っ! アンデッドの動きが……」

「弱くなった! あそこにいたやつが何か関係していたのか?」


 スライムが奥にいた黒いローブの男を食らい、それによりアンデッドたちの動きが悪くなる。

 黒いローブのとこがアンデッドたちを操作していた、または支配していた。

 それにより冒険者たちもなかなかやりにくい相手だったわけである。しかし、今アンデッドたちの動きは悪くなった。

 これならば問題なく勝てる。冒険者たちは的確にアンデッドたちを始末していく。

 馬車の前と後ろにいたアンデッドたちは既にスライムが始末し、奥にいたアンデッドも同じく。

 そうして問題は解決した…………たった一つを除いて。支配されていないスライム、その存在を除いて。

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