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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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217 噂と予感

 大陸が変わろうとも、旅商人のやることは変わりがない。

 街や村に訪れ商品を仕入れ、売るだけである。

 そもそもからして旅商人としての活動範囲がかなり彼らの場合は広いのである。

 道が繋がっているからとはいえ、二大陸にまたがる旅路である。

 ある意味彼らの生活において一つの地での在住期間が少ないというのはその旅の規模が大きいのかもしれない。

 まあ、旅商人として相応に能力があり、まじめにまともに働き暮らしていけるのはそれくらいに大きな規模だからかもしれない。

 ただしそれらはあくまで旅商人としての話である。

 旅商人としては結構な規模でも商人の中では真ん中くらいだろう。たぶん。

 さて、そんな感じで大陸を移動して旅をしている彼らであるが、少々妙な噂を聞く。


「……アンデッドが出る、ですか」

「うむ。そうなのじゃ。とはいっても、あくまで噂にすぎんがな……」

「それ以外にも、ネクロノシアでの商売が滞っているという話もある」

「ネクロノシアがですか。あそこは今は寄りませんが……」

「帰りの道順だったじゃろう。今のあそこは何やら落ち着かぬ雰囲気であるというか……陰気というか」

「……えっと、どういうことですか?」

「儂にもよくわからん」


 ネクロノシアというのはこの大陸における大きな時計塔のある観光都市である。

 目玉であるのは時計塔だが、都市としても大きく、周辺からいろいろと集まる要素もある。

 そういう点で一応観光として機能している。

 しかし、その都市が現状あまり良くない状態にあるとのことだ。

 詳しく話を聞く限りでは、都市自体の状況が大きく変化しているということ。

 落ち着かない、と陰気、という二つが話に出ているが、結局のところよくわからない状態であるという意味でもある。

 というのも、情報が錯綜しているのが現状だ。

 ただ、ネクロノシアの状況が大きく変化したのは確かである。

 旅人の減少、街から別の村へと訪れる人間の減少、また各村からの物資の流入も少なくなった。

 ネクロノシアに何が起きたかわからないが、人の入出自体が大きく制限された形であるらしい。


「いったい何が起きたのでしょう?」

「わからん。しかし、今はあまり雰囲気が良くない。行かぬ方がいいじゃろうな」


 幸いなことに旅商人は現状ネクロノシアに行く予定はない。

 この村から次の街、村へと行くが、そのまま彼らはネクロノシアに行かず別の道へと進む。

 そのままくるりと回って最終的にネクロノシアには行くわけであるが、それはかなり先のことになる。


「今のところは行きませんから構いませんが、私が行くころには問題が解決してくれているとありがたいですね」

「うむ……儂らの所は直接ほとんど関係ないからあまり困らんが、余所はかなり大変なことになっているじゃろうからな」

「そうでしょうね。ところで、アンデッドの話ですが……」

「そう、それもあったな……ネクロノシアのことはこれが影響しておるのかもしれん」


 ネクロノシアでの出来事はアンデッドの出現の噂が発端ではない。

 どちらかというとネクロノシアの状況に関してはアンデッドの出現よりも前のことである。

 つまりむしろ話は逆でネクロノシアで何かが起きてアンデッドが現れた、ことなのかもしれない。

 とはいえ、アンデッドの出現位置はネクロノシアよりも比較的遠いため、完全に関連性があるかは現状では不明だ。


「しかし、ネクロノシアに出向いた人もいるのでしょう?」

「うむ。ネクロノシアでは、街中がかなり静かであること、活気がないというのが大体の者が言っておったことじゃ」

「活気がない……」

「アンデッドの出現がやはり何らかの影響があったのかもしれん。アンデッドがネクロノシアに何かをもたらしたか、もしくはネクロノシアで何かが起きてアンデッドが発生したか……いや、これは憶測にしかならんな。あんたに重要なのはこれから向かう先でアンデッドが出る可能性があることじゃろう。あれはネクロノシアの方向には出現していないということじゃからな」


 アンデッドに関してはネクロノシアで何かが起きたかは不明だ。

 むしろネクロノシア方面では出現していない。

 しかし、ネクロノシア方面に進む道とは逆の道でアンデッドが出現してくるという話である。

 そういう意味合いではアンデッドの出現とネクロノシアの異変はあくまでそれが起きた出来事の期間が近しいだけである可能性もある。


「ネクロノシア方面とは逆の道での出現ですか……」

「あくまで噂、じゃがな。しかし、噂になるということは何かあるということでもある。どれほどの数がおるかもわからんし、どこまで出てくるかもわからん。もしかしたらもう退治されておるかもしれんし、まだ退治されておらんかもしれん。あんたが出会うとも限らんが、出会うかもしれん」

「……噂は噂、ということですね」

「うむ。だが噂であっても真実である可能性がある以上注意はせんとな」

「はい。ありがとうございます」

「なに、儂らもあんたのような旅商人がおらんと干上がるからの。あんただけでもないが、毎回寄ってくれる旅商人が減るとこちらも色々大変でな」


 かかか、と笑いそのように言う老人。

 まあ、彼らとしては旅商人という存在は中々に重要なのだろう。

 死活問題とまではならないが、いなくなるとそれなりに困る。

 何より長い間付き合いのある相手なのだから。

 と、そんな噂話を仕入れ彼らは次の場所へと向かうのであった。






(アンデッドねえ……)


 そんな話を振動感知能力を駆使し、噂として旅商人と同じように仕入れるアズラット。

 別に村での話だけではなくシエラと一緒に街で待っている間にもそういった情報は仕入れられる。

 アズラットの振動感知能力はそのレベルや経験からかかなり高い。

 進化も最終だからこその高さもあるだろう。

 そんな感じで旅商人以上に情報を入手出来ている。


(噂程度ではすんでないな。あの親父さんもこの情報を入手出来ている可能性はありそうだが……)


 実際に戻ってきていない冒険者、帰ってこない商人の話もあり、アンデッドの出現の噂はかなり真実味を帯びている。

 もっとも現状ではまだ完全にそれが確認できる状況ではないとのことだ。

 一応出現範囲はわかっている。しかし、それでも冒険者はアンデッドを発見できていない。

 アンデッドの出現地域が山や森であり、侵入が容易でないのもあるだろう。獣の存在もある。

 冒険者と言えども、すべての冒険者が相応に活動できる実力があるわけでもない。

 とはいえ、それなりに被害もポツポツはっきりと出てきたため対応しなければならないだろう。

 そういうことで冒険者が集められている準備段階が現状ということになる。


(退治が終わるまで待ってくれればいいんだけど……まあ、そういうわけにもいかないか)


 アンデッドの出現域は彼らの向かう先の道、そこに被っている。

 もちろんそのアンデッドの出現域に行ったからと言って絶対にアンデッドに出会うわけではないだろう。

 しかし、それでも不安はある。

 噂は確実なものではないとしても出るかもしれないだけでも危険は大きい。

 そもそも、そのアンデッドがどういった魔物であるか、どれほどの数があるかも現状でははっきりしていないのだから。


(…………出会わなければいい、はず、なんだけど、ねえ……何と言うか、嫌な予感、直感的に今回は何かある、と囁いている。スライムの本能? それともこれまでいろいろとやってきた結果か、スキル関連、レベルの強さゆえか……ともかく、何か嫌な予感が強い。これはたぶん……出会うんだろうな)


 予感。アズラットにそういった特殊なスキルはないわけであるが、本能的な直感、予感がある。

 その予感に従うのであれば、絶対に行かないほうがいいのだろう。

 しかしそれをアズラットが決めることはできない。


(まあ、何かあれば……この子を守るために動くだけだな)


 優先は自分の命であるが、最悪自分を抱える女の子くらいは守る、そういう気概を持つ。

 もっとも、子供だけを守ったところで意味はない。

 なので出来れば全員を守るために動くことになるだろう、と考えていた。

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