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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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216 街村を過ぎ去りて

 旅商人は街に長居せず、品物を買い冒険者を雇い、すぐに旅に出る。

 別に彼らが街に居辛いとかそういう理由があるわけではない。

 いや、一応その街の住人でない余所者の扱いではある。

 しかし、彼らも何度も何年も街に来ているのだから覚えている者は覚えているし、知っている者は知っている。

 それゆえに別に扱いが悪いというわけではない。すぐに旅に出るのは彼らの事情だ。

 旅商人は村や街などに物資を運ぶ役割を担う。

 厳密に彼らだけが担うわけではないし、別に輸送を行う者もいる。

 しかし、やはり基本的には旅商人が村や町により、仕入れた物を売るという仕組みがある。

 例えば今回は少し長く休もうと思ったら、普段村や街に訪れる時間に間に合わないかもしれない。

 そうなると毎期毎年、いつも来ている商人が来ない。何があったかという話になるだろう。

 それだけではなく、その時期の商品、その時期の購入をその旅商人に任せているところもある。

 そういったところでは物が買えないのだから困ったことになるだろう。

 それで遅れてきたら文句を言われるかもしれない。もちろん旅商人側にも様々な事情はある。

 別に休む以外にも、馬車の修繕や家族の病気などで遅れるかもしれない。

 ゆえに文句は言われても問題にはならないだろう。しかし、やはり遅れれば心象に響く。

 なので基本的にいつも通りの時期に到達できるように移動時間の調整も含め、準備ができれば街を出るのである。

 と、まあ旅商人がの事情はそんな感じ、だろう。

 まあ、それぞれの都合や事情、村街の事情などもあるだろう。

 なのであくまでこういうものは一例というだけで、すべてが同じであるわけではない。

 まあ、そういう事情で基本的に旅商人はあまり街に長居していないというだけである。

 もっとも、それに関して一応商売として旅商人に理解を持っている子供でも素直に受け入れられるわけではないが。

 旅商人の娘シエラには友達がいない。街に来た時、一緒に遊ぶような友人がいない。

 作る努力をしていないというのもあるが、旅商人は場合によっては一年近く街や村を離れる。

 一年遊ばなければ忘れられるかもしれないし、覚えていたとしてもすぐにいなくなる子供と遊ぶものだろうか。

 そういうことで基本的にシエラは街や村の子供と関われず、一人で過ごすことが多い。

 以前は家族がおり、特に母親と一緒に過ごしていたわけであるが、今はその母親は彼女の弟に掛かりきり。

 つまり本当に今の彼女は孤独であるということだ。

 いや、孤独であったが正しいか。


<すらむー> <なに?>

<遊ぼう> <どうやって>


 シエラが<従魔>でアズラットに話しかけ、遊ぼうと持ちかける。

 しかし、アズラットはそれに戸惑う。

 今の所アズラットはシエラと一緒にいるだけであれこれ動くことはしていない。

 これに関してアズラットはあまり他者に自分が動き行動している様子を見せたくないから、シエラに抱かれるままに任せているというのもある。

 しかし、ずっとそんな状態ゆえに遊ぼうと誘われても困るわけである。

 そもそも何で遊ぶのか。

 それゆえに疑問を含めた返答をシエラに返すアズラット。

 そう言われてシエラも首をかしげる。

 遊ぶ、というのは彼女も一応の理解はある。

 他の子どもと遊んだことがないわけではない。回数は少ないが。

 だが、基本的に他者と遊ぶことにはなれておらず、遊びというものに対しての幅が少ない。

 ゆえにアズラットとどのような遊びをすればいいのか、提案した彼女もよくわかっていない。

 まあ、彼女にとってはアズラットと遊ぶ、というのが重要でありその内容は別に重要ではない。

 誰かと一緒に遊び、孤独感を癒すのが主目的である。


<一緒に考えよう> <うん>


 であれば、別に遊ぶことを目的としなくとも構わない。

 誰かと一緒に何かをするということが重要だ。

 ならばどのような遊びを行えばいいか、それを一緒に考えるだけでも構わないだろう。

 そうしてシエラとアズラットはいろいろと遊びについて考えるのである。






 そんなふうに、街や村を訪れても旅商人はその場に長居せず、商品を仕入れて移動する。

 旅自体はいろいろな所に行けるため様々な風景を見られるゆえに、楽しくはある。

 しかしこれに付き合わなければいけない子供にはなかなか苦痛だろう。

 そもそも彼女には見慣れた光景だ。


<すらむー。橋> <はし?>

<外、行くよ>


 そんな彼女でも、何度見ても凄いと思える光景もある。それが大陸間にかかる橋である。

 大きな橋、とても大きな橋。大陸の間の海を渡り大陸同士を連ねる橋である。

 対外的な言い方としては。


(………………これは、橋? いやいや? 橋じゃなくて……ただの大きな岩の……柱? いや、柱じゃなくてもう橋でいいのかもしれん。問題は、これ何処にあったんだって話だけど)


 橋と言われているが、厳密には単に巨大な柱が倒れて大陸間にかかっているというだけである。

 ただ、このあたりの様子を見る限りそんな大きな石の柱があるようには見えない場所だ。

 運び込むにしても、人力では少し有り得ないくらいに大きい。

 アズラットの知識にピラミッドというものがあるがそれを考慮してもありえない大きさ、規模だ。


<凄いよね> <だれ、つくった?>

<神様> <はなし、ききたい>

(神が作った?)


 シエラからアズラットは詳しい話を聞くと、大昔大陸のどこかで暴れていた神様が暴れた罪滅ぼしに作ったという謂れを聞く。

 子供ゆえにその昔ばなしの細かい内容は覚えていないのか、かなり大雑把で断片的な内容だったわけであるが。

 ともかくこの世界において神様が行った痕跡であるらしい。


(……話を聞く限り罪滅ぼしとかじゃないような)


 内容からするとどちらかというと神様の行動の結果の事故でできただけ、みたいな感じである。

 そもそも橋というが、状況的に今までずっと使われているから橋っぽくなっているだけのようにしか見えない。


(こういうお話って基本的に人間に都合がいいようにされてるよな)


 多分実際には橋として用意されたものではなく、単純に出来た物を橋として利用したのだろう。

 それに神様の神話を付け加えた……または、本当に神様がいてその神様の行動の結果出来た物か。


『そのあたりどうなの?』

『まあ、おおよそ間違っていませんけど……詳しくは言いませんよ?』

『それはまたどうして?』

『身内の恥ですし。そもそもあまり神はそちらに干渉するのはよろしくありません。下級は比較的そちらに行きやすいとはいえ、それで暴れたり好き勝手したりは原則禁止です……まあ、そういう身内の悪行の結果ですので詳しく話すのは差し控えさせてください』

『そっか……』

『それよりも、最近私がアズさんと話す頻度が減っていますよね? 人魚に幼女と、女の子と仲がいいからですか? 私はもういらない女ですか?』

『話終わるね』

『アズさんー!』


 神話に関しての話は神に聞くのが一番とアノーゼを利用するアズラットである。

 かなり都合がいい利用の仕方ではないだろうか。

 最近は割とアノーゼに対する対応もなんとなく慣れているので詰問される前に逃げる。

 まあ、<アナウンス>の効果で逃がさないようにはできるのだが、アノーゼもそこはお約束として理解しているのだろう。

 彼女も本気でアズラットを問い詰める気はない…………はずである。

 こういうのも一つのじゃれあいに近いのだから。

 あまりにも邪険にしすぎると本気で怖くなりそうなのでそこは注意が必要だが。

 と、そんなふうにアズラットはシエラたちと旅をし、流れ着いた大陸から陸路経由で隣の大陸へと移った。

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