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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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215 雑魚でも一応魔物

 馬車での旅は基本的には街から街への移動が一区切りとなる。

 旅商人は街で商品を仕入れ、村に持ち込む。必要物資として求められる物をメインに。

 村から村、街から村、基本的には持ち込みがメインで売り払うのが多く時折特産品を仕入れる。

 そうして様々な所を旅し街へと立ち返り、街で仕入れた物を売り払う。

 またそこで新しく次の場所へと持ち込む物を仕入れる。

 基本的にはその繰り返しだ。またこの時冒険者の入れ替えも行われる。

 馬車での旅はそれなりに長く大変で、一回一回それなりに拘束される面倒な物。

 一応仕事を行う冒険者は基本的に顔見知りの付き合いの長い相手だが、それでも大きな街でその場所の冒険者と入れ替える。

 そうでなければ冒険者たちが大変だからそうせざるを得ない。専属を雇えるほど裕福でもない。

 まあそれでもこの旅商人の馬車はそれなりに評価のいい、冒険者たちにとってはいい方の仕事だ。

 旅商人の旅馬車の護衛というだけで基本的にはきつい仕事になるが、その中でも実入りと雰囲気のいい仕事、である。

 きつい仕事には変わりないのであまり新規で請け負うものはいないとしても。

 そんな馬車が街へと来た。通常であれば入ることに特に問題にはならない。

 だが、今回は少々問題がある。


「スライムの扱いはどうしたらいいでしょうか」

「……それが結構な困りもんなんだよなあ」


 シエラの抱える魔物、スライムの取り扱い。それが今回街に入るうえでの問題となる。

 基本的に人間の街において、原則的に魔物は連れ込んではいけないとされている。

 まあ、これは基本的に危険な魔物を連れ込み解放して暴れさせるテロ行為に発展しやすいからなどが理由だ。

 ペットとして飼ってそれが逃げて被害を拡大するとかも有り得る。

 そういったことがあるため魔物は危険なため基本的には連れ込まないように、と判断されるのは当然の摂理だ。

 ただ、魔物を従える冒険者もいる。彼らは魔物を街中に連れ込むことができている。

 基本的には魔物を連れ込むのはダメだが、それはあくまで基本的な話であり、例外は当然ある。

 その例外の一つが冒険者などスキルの確認ができる人間が<従魔>などのスキルで魔物を従えていることを確認できること。

 また、少々特殊なケースだが<契約>などのスキルで魔物と契約をして人に危害を加えさせないようにしているなどがある。

 それ以外では、滅多なことでは行われないが完全防備の檻の中に魔物を閉じ込め運ぶというものがある。

 ただ、これは鍵付きでも解放できる可能性があるケースであるため、あまり認められない。

 さて、こういった事例があるわけであるが、シエラの抱えるスライムの場合はどうか?

 一応シエラがスライムと会話的なやり取りができるため<従魔>を持っている可能性はある。

 スライムはシエラを含むあらゆる人間に対し襲ったり危害を加えたりしようとはしなかった。

 動くことはほぼなく、基本的には置物に近い。恐らく誰彼構わず襲い掛かることはないだろう。

 そう類推できるのだが……いくら大人しく危険性の少ないスライムであるとしても、魔物は魔物。

 スライムを閉じ込めるのは難しいし、暴れないといっても完全に保証できているわけではない。

 シエラに冒険者証があるわけはなく、スキルの有無も不明で<従魔>で従えているか、<契約>などで律せているかもわからない。

 そんな状態でスライムを連れ込むことを許可できるはずがない。

 仮に街の中にスライムや大ネズミなどの一部の雑魚魔物が入り込んでいる事実があるとしても。


「今の状況じゃあのスライムが入るのを容認されるとは思えん」

「しかし、そうなると……」

「スライムを置いていく……ってことになるが、そうなるとお嬢ちゃんが絶対に暴れるだろうからなあ」

「困りましたね」

「いや、あんた父親だろ……」

「そうなんですけどね……はは、今は構ってやれず、ちょっと嫌われているかなと」


 シエラの父親は現状のシエラの扱いと、それに伴う自分とその妻に対する反感と抵抗を理解している。

 理解しているのであればそれをちゃんと考慮して対応すればいいのではと思わざるを得ないわけだが。

 そうする余裕がない、出来ていないのが現状……ということだ。

 実際シエラの弟に関してのことで忙しいためだろう。


「……どうするんだ?」

「どうしましょう?」


 冒険者と旅商人で話し合いが進まない。困ったものである。

 いや、その一言で済ませるわけにはいかないのだが。






 そういうことで扱いに困るアズラットなわけだが、さすがにアズラットと一緒にシエラを置いていくのは無理。

 アズラットのみを置いていくのも無理。

 ならばどうするか、というと状況の説明と説得しかないわけである。

 旅商人と冒険者はスライムの置かれている状況、その立ち位置、行動に関して詳しく入口の兵士に説明を行う。

 現状では<従魔>によって従えられている魔物ではなく旅商人たちの飼っているペットですらなく。

 その扱いはとても宙に浮いている状態であるので基本的に放置することはできない。

 しかし、ならば登録するにもまず前提として街の中に入り連れて行き登録しなければいかないわけである。

 まず入れなければどうにもできない状態である。ゆえに街の入口で説得をするしかなかった。

 その説得の結果、実際にアズラットの様子を確認したうえで監視付きならばという条件になった。

 もちろん登録するまでであるが。ただしその監視に関しては無料奉仕ではない。

 監視を行う兵士も別の仕事があるわけであるため、有料での貸し出しである。

 まあ、登録をすればすぐに戻るわけであるが。


(なんというか、迷惑をかけているようで申し訳ないな……まあこの子は気にしてないんだけど……)


 そもそもシエラはこの状況のことは理解していないのでそういう対応になるわけであるが。

 まあ、ともかく、冒険者と旅商人はシエラとスライムを伴い冒険者ギルドに行き……スライムの立場の仮登録となった。

 ここでもまたちょっとした面倒ごとはある。<従魔>のスキルの証明ができないことだ。

 これに関してはシエラを冒険者登録できれば話は違う。

 ただ、シエラの年齢が年齢であるため冒険者にし辛い。

 流石にまだ一桁年齢の子供、四捨五入してギリギリ十になるくらいの年齢だ。

 いや、十でも登録はし辛いわけだが。

 そんな年齢の子供がスライムを抱え、冒険者ギルドに魔物の従魔登録、なんて普通は受け入れられないだろう。

 とはいえ、しないわけにもいかない。

 便宜上の飼い主はシエラとし、仮定で<従魔>を有している物として扱う。

 これに関しては、シエラのスライムとの会話の光景や、命令の実行の実験を行うことで一応の認可となる。

 もちろん正式にスキルを有している証明ができていないのであくまで仮の認定だが。

 そんな実に面倒で大変な状況にならざるを得なかったが、一応アズラットの立場はちゃんと登録されることとなった。


(…………逃げづらいな)


 自分の立場が正確に、正式に登録という形で認定されてしまうとアズラットとしては逃げ辛いわけである。

 まあ、それでも逃げるときは逃げる。最悪自分が死んだ風に装い逃げることにするつもりだ。

 ともかく、そういう形でアズラットは街の中に、隠れてではなく正式に入ることができた。

 もっとも、アズラットの立場、行動は変わらずシエラの腕の中でぬいぐるみのように抱かれているだけなのだが。

 また、別に町の中であれこれとするわけでもなかった。

 旅商人は少しの間街に滞在するが、その間ずっと仕事詰めである。

 冒険者とこの街で別れ、またこの街で冒険者を雇う。商品を仕入れ、また次の街まで村を通る。

 そんな馬車での旅商売が基本。この時一応アズラットに関しての連絡、伝達も済ませている。

 流石に魔物の従魔のことは伝えておかないと後々面倒なことになることもあるので必須だ。

 と、そんな感じのやり取りが街の中で話された。街での話は基本的にそれくらいである。

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