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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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213 二者のやり取り

<すらむー> <なに?>

<お話したい> <いい>

<どこからきたの?> <とおく>


 シエラは唐突に覚えた己のスキル、<従魔>にてその腕に抱える魔物と会話を行っている。

 その様子を周りから伺い知ることはできず、彼女がそのようなことを行っていることはまったくわかっていない。

 スキルを覚えてから、スキルに関する質問があればまた話は違っただろう。

 もっともそのことに関しては前提が違い、スキルの話があったからこそスキルを覚えたわけであるのだが。

 そのスキルにてシエラはスライムとの会話を行っている。もっとも、大した内容ではない。

 子供の知識における語彙力、質問内容には限度がある。

 なのであまり難しいことは質問されていない。


(どうしたもんかな。まあ、別にいいっちゃいいんだけど……この会話方法<念話>と違っていろいろやりづらいというか、語彙がないというか。片言の返しになっちゃうのがなー。まあ、それゆえにこの子も理解できる内容で難しくないからいいかもしれないけど。っていうか、これなんだ? スキルか? たぶんスキルだよな。形態としては<念話>のようなスキルに近い気もするが……いや、もっと別物だな。<アナウンス>の方がまだ近いか? うーん……いや、<念話>や<アナウンス>とはまた違うな。どっちかっていうと、スキルを覚えた時の物の方が近いような……)


 スキルである<従魔>、それによるシエラとアズラットの会話は本来の意味での会話とは違うものである。

 というのも、本来<従魔>というのは知性の高い魔物と会話する前提にあるスキルではないからだ。

 その名の通り魔物を従えるスキルであり、会話ができるのはそのスキルの能力である魔物への命令の応用に近い。

 シエラの場合それは半ば無意識的に会話として用いられ行われているにすぎず、そもそも会話するためのスキルではない。

 本当ならば知能の高い魔物とのやり取りを行うものではないため、言葉の返しが片言となっている。


<すらむー、大事なの> <?>

<大事。一緒。ずっと>

(む、むう……困る。流石にずっと一緒は困る。だけど、さすがにこれに否定を返すのは……)

<すらむー、一緒にいてね>


 その言葉とともにぎゅっと抱きしめる力が強くなる。

 アズラットとしては子供のそれにどう対応したものか、と思わざるを得ない。

 そもそもアズラットはなぜシエラが自身に対する執着心が強いのかがわからない。

 魔物であり本来は危険な自信をそうやって大事に、話さないようにすることが理解できない。

 流石に抱き心地がいいからという理由でそこまでしているわけではないというのは一応の理解はある。

 だが、その細かい、深い部分には触れられない。いや、触れづらい。


<すらむー> <みんなは?>

<?> <みんな、いっしょ、ちがう?>

<みんな?> <みんな。ちかくにいる>


 片言なので言葉のやり取りが実に不都合が多い。

 しかし、伝えたいことは恐らく伝えられるだろうとアズラットは努力する。

 自分以外の、周囲にいる者とのかかわりはどうなのか。家族もいるのに、自分とばかりいっしょなのはどうなのか。

 そう思いアズラットはシエラの<従魔>のスキルによるやり取りに対し言葉を返す。

 本来ならば<念話>で話したほうが手っ取り早いのだがそれは少し今はやめておくことにしている。

 シエラ側からのやり取りで会話をしているほうが自分の存在を隠しやすいからだ。

 そこに子供を利用する精神性があるのはどうなのかともアズラットは思っているが、代わりにしっかり相手をしてあげようという考えで相殺するつもりのようだ。


<お父さん、お母さん?> <そう>


 少しの間、<従魔>での会話が途切れる。


<二人とも私のこと嫌い>


 その言葉に対し、今度はアズラットの方が黙り込む。

 まあ、確かに今のシエラの状態を考えると……嫌いと思われても仕方のない状況かもしれない。

 厳密にはそうではないだろうとアズラットは推測している。

 見ている限り、<知覚>する限りでは赤ん坊の方に意識が向いている。

 それはシエラの弟で、その立ち位置的に彼らにとっては重要、だからシエラに構えない、構っている余裕がない。

 旅商人というのも大きな理由だろう。常に旅をしてばかりで生活を落ち着かせる余裕がない。

 少し落ち着くことがあっても、どちらかというと幼い弟の方を優先する。

 ゆえにシエラが無視されている形になっている。

 別に彼らはシエラのことを嫌っているわけではない。

 ただ、状況的にそうなっているというだけだ。


<だからすらむーがいればいいの> <ちがう>

<?> <しえら、きらいじゃない>

<すらむー、私のこときらい?> <ちがう。しえら、すき>

<どういうこと?> <ふたり、しえら、きらいじゃない>


 会話が途切れる。アズラットの言葉にシエラが少し考え始めたようである。

 子供の思考で<従魔>で会話をしながら思考する、というのは無理なようだ。

 そもそも<従魔>は元々会話をするためのスキルではない。

 それゆえに会話をすること自体に結構な労力がある。


<でも、私のこと構ってくれない> <こども、そだてる、たいへん>

<弟のこと?> <そう>


 少しシエラが黙り、再び会話を行う。


<わかってる。わかってるけど>


 泣きそうな表情で、シエラが言葉を伝えてくる。

 子供とて無知無能ではない。知らないことは多いし、出来ないことも多い。

 だが、わかることはわかる。理解できることは理解している。

 シエラも商人の子、頭が悪いわけでもない。

 ゆえに、アズラットの言うことは理解していた。

 だが、理解できることと、それを受け入れられることはまた別である。


(…………そうか。わかってるのか。まあ、この子もそこまで頭が悪いわけではない、理解ができないわけではないか。これに関してはそれぞれの家庭の事情だから俺からは何とも言えんな……)『(寂しくなくなるまで、一緒にいる)』

<え……?> <しえら、いっしょ。さびしくない>

(危ない。<念話>で返してしまった……)

<うん……一緒>


 ぎゅっと、先ほどのように抱きしめる力を強くするシエラ。

 余計に依存、執着の心根を強くしてしまっている。

 そこはアズラットとしては仕方がないと思うしかなかった。状況的に。






(百面相しているな……)


 シエラのアズラットとのやり取りは<従魔>による会話で行われている。

 しかし、その外側の状況に関しては話が別だ。

 アズラットを抱きしめている身体は動かしようがないが、その表情はころころとアズラットとの会話で変わる。

 なぜシエラがそのような表情をしているかに関してはそれを見ている冒険者も理解はできない。

 しかし、何らかのやり取りがスライムとおこなわれているのだろうという推測はつく。


(スキルに関する自覚を得た、のか? ま、スライムを掴んで無事、何にも起きなかった以上その可能性は高い。さっきスキルに関して話したことで自分の持つスキルに対する自覚を得て、それを行使できるようになった、か。ありえないわけではないが……ちょっと妙だな)


 冒険者として、スキルの使い方、感覚的な理解ではどうにも妙に感じてしまうものだ。

 しかし、そうでなければ納得がいかない。自身に納得いかせるため、シエラは以前から<従魔>のスキル、またはそれに類するスキルを覚えていたと考えている。

 もしくはアズラットを見た時、それを捕まえたいと思った時に得たか。

 以前から持っているよりはそちらの方が高いかもしれない。


(問題はそれを調べる手段がないってことだな。冒険者に登録できれば話は違うだろうが……)


 スキルを確認できる手段というものは少ない。

 冒険者カードがその一つの手段であるが、さすがに子供を冒険者にするのは憚られる。

 もっとも、スキルを持っているかどうかはさほど重要ではないのでそこまで問題でもない。


(ま、何にも起きなければいい話だな。あれだけあのスライムが大人しくしているんなら特に何もないだろうが……一応は注意しておくか)


 アズラットが大人しくしているため特に問題はないと考える冒険者。

 もっとも、それでも注意はするようだ。

 生物的本能的な勘か、それとも冒険者特有の経験による感か、単純に用心深いだけか。

 まあ、アズラット自身の危険性が低いためそれは必要のないものではある。

 その精神性は十分以上に評価できるものであるが。

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