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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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208 結果と報酬

 マネーリアとアズラットは人魚の住処へと戻り、その結果を報告した。

 しかし、その反応はそれほどいいとは思えない……いや、かなり悪いものだった。


『(魔物達を倒したと?)』

『(ああ)』

『(………………信じられんな)』

『(長、本当よ。私も手伝ったし)』

『(………………ふむ)』


 人魚たちの長、周りの人魚もマネーリアの方に視線をやっている。

 別にその視線は何ら怖いものでもない。戦闘を経験し、強さを得たマネーリアは全く怯まない。

 そこに引っかかるものはあったが、人魚たちにとってはそれは重要ではない。


『(到底信じられん)』

『(信じられないといわれても困るんだが……)』

『(お前があの魔物達を倒せるようには思えん。ましてや巣を潰した? 魔物達を全滅させた? はっきりいってあり得ないとしか言えんだろう。あの魔物の強さを我々は知っている。我々でも集団で挑み勝てない相手をお前が倒した? それもマネーリアがそれを見届けたなど、余計にあり得ないことだろう。マネーリアは魔物と戦うことができる実力を持たない。遠くで見るにしても魔物に気付かれないような遠くにおいておけば見届けることはできない。マネーリアは手伝ったといっているが、そもそもそんなことは不可能である。そうである以上嘘に決まっている)』


 確かにこの人魚の里を出るときのマネーリアの実力を考えればそう判断するしかない。

 これに関してはアズラットがマネーリアを育てたことが大きな要因である。

 しかしそれを理解しろというのも難しいだろう。

 そもそもマネーリアが戦ったことにまで話が行けば今回の成果がアズラットのものではなくなる。

 そう考えるとあまり詳しい話はしづらくなってくる。

 人魚側がその話の内容を理解できるかもわからないし。


『(だが実際に全滅させたのは事実だ。マネーリアに場所を案内されたってことは人魚は相手の場所を知っているんだろう? ならそこまで行けば確認できるはずだ)』

『(確かに場所はわかっている。しかし、兵を派遣すればこの場所の守りが疎かになる。それではいけない。兵は送れない)』

『(……じゃあどうやって確認すると?)』

『(この地がしばらく経っても一切襲われなければ魔物を倒したということになるのではないか?)』

『(そうか。じゃあ、それまで待たせてもらう)』

『(それはできない)』

『(……なに?)』

『(お前は魔物だ。我々の住むところにお前のような魔物を置いておくことはできない。魔物は危険だ。待つつもりがあるならば外で待つがいい)』


 アズラットが魔物であるのは事実だろう。

 しかし、だから外で待てというのは少々横暴ではないだろうか。


『(じゃあ、外で待つのもいいけど、じゃあちゃんと倒したということになったなら呼んでもらえるか)』

『(なぜそんなことをしなければならない?)』

『(……は?)』

『(我々が魔物のためにそんなことをしなければならない道理はない)』


 話した成果は信じられない、その成果を見に行くつもりはない、その成果が実際に現れるまで成果として認めるつもりはない。

 そしてその成果の確認がでるまでアズラットがこの場所で待てるということはなく、外に追い出される。

 成果が確認できたとしてもアズラットを呼びつけたりはしない。


『(じゃあその時中に入れてくれるのか?)』

『(なぜ我々が魔物を住処に入れなければいけない?)』


 そのうえアズラットを再度ここまで引き入れることはしない、とまで言ってきた。

 流石に今回仕事をしたアズラットに対しあまりにも横暴なのいいではないだろうか。

 その人魚の長の物言いに対し、アズラット……ではなく同じ人魚のマネーリアから抗議が入る。


『(ちょっと長!? それはひどいんじゃないかしら!?)』

『(何が酷いのだ?)』

『(アズラットはちゃんと魔物を倒すために働いたわ! 相手に働かせて報酬なしっていうのはひどいわよ!)』


 その言葉の内に私も働いたけど、という意見もあったが流石にそれは言わない。

 マネーリアは今回のことでアズラットからいろいろと知識や技術、強さをもらっている。

 ゆえのアズラットの働きを認め、対価を支払う、報酬をという意見であるのだが。


『(それがそもそも信用できない。お前が見たということだが、それは幻や洗脳かもしれん)』

『(そんなこと言ったらどうにもならないじゃない!?)』

『(第一お前が戦いに参加できるような実力を有しているわけでもない。それなのに魔物を倒す様子を見届けられるというのもおかしいはずだ。ゆえに信じられるはずもあるまい)』

『(ならなんで私一人で行かせたのよ!? わけわからないわねっ!!)』


 マネーリアの言う通り、人魚の長の言うことは意味が分からないといわれても仕方がないだろう。

 その言葉の意味をどう考えても道理に沿わない内容となってしまっている。

 もっとも、人魚の長にとっては、今回のことはどうでもよかったというのが本音なのだろう。

 成果が出ればよし、出ないのならばそれでもいい。

 出たならば相手が魔物だからその契約を履行する必要もなし。

 難癖をつけて追い出し後は無視し続ければいい。

 所詮相手は魔物なのだから。そういう考えなのかもしれない。


『(……俺としては、陸地にさえ運んでもらえれば正直後はどうでもいい。っていうか、元々報酬はそれだったはずだ。俺がこの人魚の里を出て行っても、俺自身は近くにいることになる。もしかしたら人魚からの報告を待ち続け報酬を要求できる機会をこの近くにいて待ち続けるかもしれない。それでもいいっていうのなら、まあいいが)』

『(…………………………)』

『(もう一度言うが、俺としては報酬として要求する陸地へと運んでもらえるのが履行されるならそれでいい)』

『(…………………………)』

『(ああもう! 長に話してもしかたがないわよっ! アズラット、それ私がやるから! 別に私が連れてきたスライムを私が運んで遠い場所に持ってくのには問題ないわよね長!!)』

『(………………確かに。マネーリアがそうしたいのならばそうすればいいだろう。我々はその行いに関与するつもりはない)』

『(ふんっ! ああそう! じゃあアズラット、行くわよっ!)』


 そういってアズラットを誘いマネーリアが人魚の長の家から出ていく。

 アズラットは一人で残されて微妙に困る……という感じだが、人魚たちは特に何をするといった様子もない。

 視線はアズラットに向き、さっさと出て行けと言った意思が込められた状態で見つめられている。

 心の中で大きくため息を吐き、アズラットはマネーリアを追って外に出ようとする。

 しかし、その前に<念話>を飛ばす。


『(別に俺は掛け値なしの聖人というほど人間ができているわけじゃない。まあ、これでも一応善人を自称する程度には、困っている人を助ける気概はあるつもりだ。あの子に頼まれたから助けたのも一因ではあるが、人魚たちが魔物に対し困っているから助けたというのが今回の行動の理由でもある。もちろんそこに報酬を貰うつもりだったっていうのもあるけどな)』


 その言葉は、どこか、ずしりと重い雰囲気を持っていた。


『(感謝は要求しないし、過度な報酬を求める気もない。俺としては陸地にさえ運んでもらえれば後はそれでいい。俺自身に対してきちんと見てくれという気もない。どうせ人魚との関係は陸に戻れば関係ないわけだし。マネーリアが運んでくれる、報酬を支払ってくれるというのならばまあそれでもいいかなと思う)』


 そこで言葉が切られた。そして、次の言葉を聞く前に人魚たちは思わず一歩後ろに下がる。

 圧倒的な気迫、威圧、それが言葉に込められた状態で彼らに届き、言葉を聞く前にそれをアズラットから感じたからだ。

 いや、厳密には言葉ではなく、その雰囲気だったのかもしれない。

 ともかく、それを彼らは感じたようだ。


『(俺が魔物を倒したのは事実だ。あんたたちは魔物を倒せる実力を持たない。俺がそれなりに善人で怒りっぽくないやつでよかったな)』


 これは脅しに近いものだった。アズラットは基本的に善人気質である。

 しかし、さすがに今回のことはちょっと頭にくる。

 まあ、頭にくるからと言ってそれを理由に人魚を全滅させるということはしない。

 だが頭にきたのは間違いない。その怒りをちょっとだけぶつけた感じである。

 仮に怒りっぽい悪人だったなら、報酬を支払う気がない人魚たちにぶち切れて全てを飲み込み食らっただろう。

 そういう点で人魚たちは幸運だったと言える。

 アズラットは少し脅かしてから、マネーリアを追って外に出た。

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