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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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204 魔物の巣へ

『(大丈夫そうか?)』

『(大丈夫なわけないでしょ。大体なんで私が魔物退治に出向かなきゃいけないわけ? 私じゃ勝てないのはわかりきってるはずなのに……)』

『(それを俺に言われても困るんだが……)』

『(はあ、こういう面倒なことはそういうことができる人に任せて置きたいのに……)』


 マネーリアは戦闘ができる人魚ではない。魔物と対峙して戦うことは無理だ。

 いや、仮に戦闘ができる人魚でも、一対一で勝てるならばそもそも現在の状況にはなっていない。

 多対一でようやく勝てるというくらいに魔物は強い。


『(でも提案したのはマネーリアなわけだからな。責任を背負わされるのは仕方ないんじゃないか?)』

『(言っていることはわからなくもないわ。それでも私一人に任せるのはおかしいはずよ)』

『(まあ、そうだな)』


 提案者であるマネーリアに今回の事に関しての責任があるのは間違いではないだろう。

 しかし、マネーリア一人にすべて任せるのは違うのではないだろうか。

 そもそも一人だけに任せて失敗してしまったらどうするのか。

 そこはマネーリアの現時点の立場とアズラットの存在が影響する。

 マネーリアは魔物を引き付けて逃げ、アズラットに運よく助けられた。

 しかし、本来ならそうはなっていない。

 実際には死んでいた可能性が高く、人魚側も死亡したものとして扱っていた。

 それが生きていた。別にそこは問題ではない。

 死んでいた者として扱っていた者が生きていたというだけだ。

 だから仮にそれが死んだとしてもこれから先に影響がない。

 別に死んでも得にはならないが損をするわけではない。

 たまたま助かった命、偶然得ただけの物が失われるだけ。

 元々それが残っている前提で考えていなかったので死んだところで問題がない。

 そしてアズラットを連れてきたと言うのも今の扱いの一因である。

 そもそも、マネーリアが本当に正常かどうかすらわからない。

 魔物に絆されてまたは洗脳されて魔物を住処に連れてきた。

 そういう風に思われている可能性もある。

 仮に一人で戻っていれば少しは対応が違っただろう。

 今回マネーリアとアズラットが失敗したところで、現状は変わらない。

 ゆえにマネーリア一人に任せた。もっとも損失が少ないゆえに。

 そして成功すれば人魚側はとても大きな得になる。そういう考えである。


『(マネーリアは戦えないよな?)』

『(普通の人魚くらいには戦えるけど、戦える人ほどには戦えないわ)』

『(……それは魔物相手に戦えると考えていいのか?)』

『(……無理。あの魔物相手にわずかな時間で殺される程度の強さね)』


 つまり大した実力がないという意味合いである。それはアズラットとしても困る話だ。

 今回魔物を退治したことをアズラットだけが生き残り人魚に伝えられるかというとまず無理だ。

 アズラットが人魚の住処に入れるのはマネーリアに連れられているからであり、一人だけで入ろうとすると確実には入れない。

 追い出されるどころか確実に始末しようと人魚たちは動くだろう。

 それで死ぬことはないが、煩わしいことには変わりない。魔物を退治したとして得もない。

 アズラットは地上に戻りたいが、その報酬をもらうことが難しいだろう。

 ゆえにアズラットはマネーリアに生き残ってもらう必要性がある。


『(つまりマネーリア一人で放置するわけにもいかない、かといって戦闘する場所に連れていくわけにもいかない、案内が必要だから人魚の住処に追い返すわけにもいかない。そういうことだな……)』

『(私一人で帰ってもいいわよね?)』

『(俺が魔物を退治したことを誰が見届ける? 他についてきた人魚がいればいいけど、いなかったら証明できないだろう)』

『(……ちっ。本当に面倒くさい状況ね)』


 アズラットが行った魔物退治を直にみて確認し、その成果の証明を行ってもらう。

 ついてくる人魚がいればそれに任せてもいいが、それがいない以上マネーリアに頼むしかない。

 しかしマネーリアを連れて戦うのは厳しい。どうすればいいのかと思うところである。


『(……よし、マネーリア。俺を装備してもらえないか?)』

『(は? どういうことよ?)』

『(俺がマネーリアの体に張り付いてその身を守る。マネーリアが力で振り払うことができなかった俺の体が体全部を覆っていれば簡単に怪我をすることはないだろう? それに、相手が攻撃してくればそこを体で反撃できる。マネーリア自身は強そうに見えないだろうから、そういう攻撃方法を使うこともできるわけだ)』

『(何馬鹿なこと言ってるのよ。スライムを体に張り付けるなんて気持ち悪いじゃない)』

『(………………)』


 言いたいことはアズラットも分からなくもない。

 アズラットは液状生物、粘液性質のある生物だ。

 身体自体は滑らかであるかもしれないし、酸性質も発揮しないでいることもできる。

 しかしである。ジェル状の物に包まれる感覚というのは決していいとは言えるかはわからない。

 そのうえそのジェル状の物がぬめぬめと動くとなれば余計に嫌だろう。


『(じゃあ、死ぬ可能性があるほうがいいのか? あの人魚の長に頼まれ任されたことを放棄して、家に帰るか? 自分で提案したことを無責任に放り投げて)』

『(っ…………)』

『(安全第一、気持ち悪いことと死ぬことは天秤に載せられるものじゃないだろ)』

『(…………わかったわ。でも、変なことはしないでよね!?)』


 アズラットには性欲はない。性知識はあるし、そういったことに対する欲求がないとは言わない。

 だが、生物の持ち得る性欲というものは今のところない。

 これはアズラットがスライムという生物だからである。肉体の持ち得る欲求はほぼない。

 知識や意識の感覚としての性欲求はないとは言わないが、それくらいだ。

 そのうえアズラットはどちらかというと紳士的な方である。

 嫌がる女性に手を出すのは趣味ではない。

 仮に同意を得たとしてもスライムの状態で手を出すつもりはない。


『(わかってる……あ、そうだ)』


 ぽん、とアズラットは頭の中で手の平をたたく、何かを思いついたイメージを浮かべる。


『(これ、使ってみないか?)』


 そういってアズラットは己が同化している魔剣を取り出した。

 それはアズラットが遭遇した時の威容は既に見せていない。

 ただ、その持ち得る力はマネーリアでもうっすらと感じるものであった。


『(…………えっ!? どこから取り出したのそれ!?)』

『(いや、スキルだけど。<同化>っていうスキルで体内に取り込んでた)』

『(はあ? よくわからないけど……もしかしてそのスキル、私に使うとかないでしょうね?)』

『(たぶん生物には使えないんじゃないかな……仮に使っても食っちゃうことになりそうだし。っていうか、生きててもらわないとこっちも困るんだからそんなことしないっての。さっき言ってた身を守るのはただ単に体の周りを覆って防ぐだけだから!)』

『(ふうん……)』

『(一応戦闘してもらうわけだし、武器があったほうがいいだろう?)』

『(それは……確かにそうね)』


 アズラットもマネーリアも魔剣の性能、特殊能力は知らない。しかし、その強さはわかる。

 強力な武器を持ち、アズラットという最大の防具で守り、マネーリアが戦う。

 アズラットももちろん守りつつ戦う。

 現状ではその方針が一番いいだろうという判断となっている。


『(よし、とりあえずまず防具のように体を覆うから……そうだな、安全のために一時的に<契約>するか。こっちが危害を加えないということにして、そちらは……見届け人として務めを果たす、逃げないとかそういう感じにしておいた方がいいか)』

『(わかったわ……)』


(変形はあまり得意じゃないけど、まあマネーリアの身の安全のためだし頑張らないとな)

(面倒なことになったわ……はー、でも頑張るしかないのよね。アズラットが気を使ってくれているところだけはありがたいのかしら?)


 両者とも色々と気苦労はあるようだ。スライムと人魚の共同戦線での魔物退治。

 その準備をしながら彼らは魔物たちが拠点として留まっている場所へと向かった。

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