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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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203 人魚の長と話す

『(入ってもいいそうだ。ただ、勝手な行動はしないこと。絶対にマネーリアから離れないようにしろ)』

『(え? ちょっと待って、なんで私も一緒なのよ!? あとはそっちに任せてもいいでしょう!?)』

『(おい、そいつはマネーリアが持ってきたんだろうが。お前がやるのが筋だろう)』


 門番的な人魚の言っていることは間違ってはいないだろう。

 アズラットを連れてきたのはマネーリアであり、アズラットに魔物退治を頼むのもマネーリアが主導である。

 別に人魚の里にそのマネーリアの提案を受けてアズラットに魔物退治を頼む必然性はない。

 人魚の里としては別にアズラットに頼らずともいいという判断であったりする。

 確かに魔物に対して人魚たちはそれなりに苦しんでいる状況にある。

 しかし、彼ら自身の判断としては特に問題ないと考えている。

 いずれはどうにかなるだろう、そんな楽観だ。

 今までそれなりに色々とあったが、しかし問題はなかった。

 多少の被害があったとしても、その程度で済んでいる。

 そんな経験があるゆえの判断である。

 それが今回も通じるかは全く別の話なのだが。


『(連れていくだけでいいんでしょうね?)』

『(それは知らん。俺はマネーリアが連れていくのならば入ってもいい、と言われただけだ)』

『(何よそれ……面倒くさいわね)』

『(その面倒なことを人に押し付けようとするな。自分でやれ)』


 マネーリアとしてはアズラットのことは連れてきて引き渡せば後は長の方でやってくれる。

 そういう考えで行動していたのだが、残念ながらうまくいかなかったようである。

 自分で連れて行かなければならないのは面倒だが、それ以上に何かやる必要もないだろう。

 連れて行きさえすれば後はお役御免、問題なく帰れるだろう。

 ならそれくらいいかな程度に今は考えている。


『(ちっ。しかたないわね……連れていくだけでいいのね?)』

『(それを俺に聞かれても知らんな。長の方がどう判断するかだろう)』

『(役に立たないわね……)』

『(本来なら魔物を入れる判断すらしないはずなんだが……)』


 通常ならば魔物を住処に入れるようなことはしない。そういう意味ではかなり有情な措置だろう。

 それゆえにその許可をもらった門番は有能……ということはないが、役目は果たしたはずだ。


『(じゃあ連れていくけど、いいわね)』

『(さっさと行け。そのスライムに関しての扱いはどうなるかは知らないがな)』

『(はいはい)』

『(そいつの案内とかするなよ。さっさと長の所に連れていけ)』

『(はいはい。そこはわかってるわよ)』

(……本人前に相手がどう思うか気にせず話してるけど、いいのかこれ)


 思わずそう思ってしまうアズラット。

 別にアズラットにとっては気にすることでもないのでいいのだが。

 アズラットとしては話を早く進めて終わらせ地上に戻るのが一番いいわけである。

 なので別に細かいところはどうでもいい。

 しかし、この遠慮のない物言いはどうかとも思っている。

 気にしないからこそ大した問題ではないが、短期で怒りっぽかった場合この住処を滅ぼしているだろう。

 それこそアズラットが真に魔物であるならば容赦なく食らいつくしていた可能性は低くないかもしれない。


(まあいいけどな……とりあえず話が進むようで何より。一人で海の中を進んでもいいが、ただ地上を目指す、陸地を目指すために進むのも退屈だ。そういう意味ではこういう頼み事とそれを成功した報酬で、というのは都合がいい)


 今回の話は実にアズラットにとっては都合がいい。

 最大目的である陸地に戻るのもそうだが、魔物退治も退屈しのぎになる。

 それに人助けと言うのは基本的に悪い気はしないものだ。

 アズラットは人間的な感覚を持つゆえにそう考える。






『(それが例の魔物か。マネーリア、詳しくお前に起きたことを話せ)』

『(……別にいいですけど)』


 長の所に案内され、数人の人魚に囲まれマネーリアとアズラットが長の前に立たされている。

 水の中なので立つという表現は変だが。

 長に命令されマネーリアは今回自分に起きたことについて話す。

 そしてそのことからアズラットに魔物退治を頼むことも。


『(そうか。だからお前はその魔物をここに連れてきたと)』

『(はい……えっと、後は長の方で話を進めてくれませんか? 私はもう家に戻ってもいいですよね?)』

『(何を言っている。お前が提案したことである以上結果が出るまで残るべきだろう)』

『(………………)』


 長の方で話を進めてくれるだろうという考えを抱いていたマネーリアは少々不満気である。

 しかし、さすがに上位者である長に対しては文句を言えない。


『(さて。その魔物があの魔物を退治できるということだが……本当か?)』


 長はマネーリアの方に聞いている。アズラットの方には見向きもしない。


『(本当です)』

『(そうか。マネーリアが言うことが本当かは私には判断がつかん。その魔物は見た限りあの魔物に活用には到底思えん)』

『(……私が見たことは話したでしょう?)』

『(窮地に立たされれば僅かな希望にでも縋りたくなるものだ。お前が見た物がすべて真実とは限らん。思い込んだ結果かもしれないし、過大評価しているだけかもしれん。そもそもあの魔物は私達でもなかなか倒すのが難しい。それをその小さな魔物が一体で倒した? 到底信じられるとは思えんな)』

『(………………)』


 自分の話したことを信じていない、そういわれ流石にマネーリアは少し怒りを見せる。

 言っていることはわからないでもないが、実際に助かったのを自分の妄想、幻覚と言われてはイラっと来る。


『(だが、それが真実であるのならば実に今の私たちに都合がいいのは間違いない。あの魔物たちがいなくなるのであればこちらも今のように多くの仲間を使い獲物を探したりしなくてもよくなる。兵士たちも戦いに参加して怪我をしたりして使い物にならなくなることもなくなる。だが……それはちゃんと私たちの言うことを聞いてくれるのか?)』

『(長が直接話して交渉すればいいでしょう)』

『(…………お前は我々の言うことを聞くか?)』


 上から目線の言葉である。しかも長は嫌々話しかけているように見えた。

 まあ、彼らにとってアズラットは魔物だ。

 魔物は自分たちよりも程度の低い生き物と言うのが彼らの意見だろう。

 彼らは自分たちが魔物であるとは思っていない。


『(報酬さえもらえれば、魔物を退治するのは吝かではない)』

『(…………本当に話せるのか)』


 驚いた様子でアズラットを見る人魚の長。

 マネーリアの話を一切信じていないような反応をしている。

 まあ、信じれるような内容でないのは事実かもしれないが……全く自分たちの仲間を信じないのはどうなのか。

 魔物を連れてきたからか、それとも元々こういう性格か、随分な対応だと思える。


『(報酬。しかし、お前にそんなものは必要か?)』

『(地上に戻りたい。別にお金が欲しいわけでも、食料が欲しいわけでも、ここに住まわせてほしいというわけでもない。陸地にさえ送ってもらえればそれでいい)』

『(……なるほど)』


 アズラットはなんとなく相手の心情がわかる。

 魔物であるこちらを一方的に使いたいという気持ちだ。

 利用して自分たちには損を出さずに成果を出す。

 確かにそれは彼らにとってもっとも都合のいい結果だろう。

 しかし、アズラットとしてはそんな相手の気持ちを考慮する必要はない。

 タダ働きはごめんである。


『(では、マネーリア。それを連れて魔物退治に出向け)』

『(っ!? なんで私がっ!?)』


 話が進めば後は完全に蚊帳の外、と思っていたマネーリアが自分に話を振られ驚いた様子で長に訊ねた。

 そもそも彼女はこれ以上命の危機にさらされたくはない。

 それ以前に戦闘能力という点では彼女はあまり強くない。

 そういうことは専門家に、兵士たちに任せればいいことだと彼女は思っている。


『(今回の話はお前が持ってきた話だ。お前が行動するべきことなのは間違いないだろう)』

『(そんなっ! 魔物退治に出向くのであれば兵士が適任でしょう!)』

『(戦力を削るのはよくない。戦力でないお前が言った所でここに影響はない。その魔物を連れてきて、話を提案したのはお前だ。すべての責任をお前がとるのは当然のことだろう)』


 話を受けたのは長であるのに、それをその話を提案した人魚に任せようというのは少し違うような気がする。

 しかし、長にとってはそれが正しいことだ。

 いや、長にとっては……自分にとって都合のいい形になることが正しいことだ。

 兵士を無駄に使うわけにはいかない。アズラットが必ず成功するとも限らない。

 犠牲は最小に、成果は最大に。

 ゆえに今回死んでいた可能性が高かった、たまたま助けられて戻ってきたマネーリアを利用する。

 マネーリアはすでに死んでいたようなものであるため、仮に今回アズラットとともに魔物退治に出向き死んでも損はない。


『(長! それは流石に)』

『(行け。すでに決定したことだ。それとも……私の決定に逆らう気か?)』

『(っ…………いいえ、わかりました……)』


 ここで過剰に長の言い分に逆らえば自分の居場所がなくなる。

 マネーリアはしかたなく頷くしかなかった。


(随分と酷い話だな……)


 それを見ていたアズラットは流石にこれはひどいと思わざるを得なかった。

 とはいえ、アズラットに彼らに対し出来ることはない。

 せいぜいマネーリアが死なないように努力する、それを考慮するくらいしかできないだろう。

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