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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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202 入るための話し合い

『(まさかスライムが喋ることができるとは……)』

『(普通のスライムは<念話>は使えないだろうけど、俺はちょっと特殊な例だ。ところで、やっぱりマネーリアに言っている通りここの中に入るのはダメなのか?)』

『(…………ダメだ)』

『(理由は? 魔物だからダメなのか? たとえ話すことができる、理性のある意志を持つ知性的な相手でも?)』

『(む……それは……)』


 基本的に魔物の侵入を許さないというのは魔物が危険だからと言うことが大きいだろう。

 しかし、その魔物が危険かどうかなど普通はわからない。

 たとえ危険でなくとも、魔物がうろちょろすると不安だ。

 それゆえに一律魔物の侵入は禁止、と言うことになるのだが……

 世の中には<従魔>などの魔物を従えるためのスキルが存在する。

 人魚にもそういったスキルが使えないわけではない。

 もちろんそういったスキルはある程度魔物と親しい関係になる前提条件があるため難しい。

 ある程度養殖などで食料となり得る可能性のある魔物を飼育する程度の関係がせいぜいだろう。

 だが、もしこれが意思のある話し合いのできる魔物が相手だったならばどうだろうか。

 対話ができる以上相手に危険のある行動を制限させることができる。

 もちろんそう言われても聞き入れない場合もあるがそれは入れなければいいだけである。

 しかし、聞き入れる魔物がいた場合どうするべきか。その判断は難しい。

 ただ侵入するためだけにそういっているだけで、侵入して大暴れするかもしれない。

 色々な可能性を考えると単純に入れないのが一番楽なわけであるが……それではあまりにも閉鎖的すぎる。

 それに、相手側にも様々な理由はあるだろう。例え相手が魔物だったとしても。

 人魚側の一方的な理由だけで拒絶すればそれは別の問題に発展するかもしれない。

 そう思うと人魚側もしっかり話を聞く相手を拒絶するのはなかなか難しい。

 もっともやはり多くの人魚は入れないのが一番安全であるという考えではあるのだが。


『(……お前が中に入って何もしない、と言ったところで信じられるわけはない)』

『(まあこちらが言ったことをあっさり鵜呑みにされる方が心配になるけど)』


 相手の言い分を素直に全面的に信じるのは人が良すぎる。

 むしろ少し疑うくらいの方が真っ当である。


『(しかし、それだとずっと入れてもらえないことになる。こちらとしても色々と話し合いたいことはあるし……まあ、はっきり言えば中に入らずそのまま陸地に送ってもらえればいいんだけどな)』

『(……? 陸地に行きたいのか? ならば行けばいいだろう)』

『(人魚みたいに自由に泳げるわけじゃ)』

『(ちょっと! 二人とも何を話しているのよ! いえ、そっちはわかるけど……アズラット! 何を話しているわけ!)』

『(え?)』

『(さっきからひそひそ話の<念話>ばっかり使って! こっちにも聞こえるように話しなさいよ!!)』

『(ちょっ、まっ、振るな振るな!?)』


 マネーリアが持っているアズラットに自分の言っていることを聞かせるためにぶんぶんと振り回す。

 ぐるぐると振られて悪影響が出るというわけでもないが、さすがにぶんぶん振られるとそれはそれで困る。


『(落ち着け! っていうかひそひそ話の<念話>ってなんだ!? なんとなく思ってたけど<念話>って複数人相手に使えるのか!?)』

『(知らないの? どこで<念話>の話し方を学んだのよ?)』

『(スキル。っていうか、個人間でしか使ったことないんだよ)』

『(へえ、そうなの…………)』


 <念話>のスキルは個人間での通信的な使い方以外に、広域に伝わるやり方もできる。

 ただ、アズラットは元々スキルでそれを獲得し、ずっと複数人に使う機会がなかった。

 人魚の場合生まれつきそのスキルを種族的に必要として有することとなっており、生まれた時から使い続けている。

 日常的に使うものであるがゆえに、慣れて様々な使い方をしやすいわけである。


『(まあ、そこは慣れなさい。慣れればすぐにできるわ)』

『(無茶を言う……)』


 マネーリアに言われてしかたなくある程度応用で<念話>を使えるようにするつもりにはなった。

 しかし、問題はそこではない。


『(あー…………)』

『(ああ、悪いわね。ずっと放置してて)』

『(あ、ああ…………っていうかそのスライムは何処で手に入れたんだ? 珍しいやつみたいだが)』

『(私はこのスライムに助けられたのよ)』

『(助けられた?)』

『(さっきも言ったでしょ! 私はこのスライムに助けられたの! 魔物に追われているところを、その魔物をこれが倒してくれたのよ! だから最近出てくるあの魔物達に対してこのスライムを使ってなんとかできないかって思ってるわけ! 実力はあるんだから、あとは報酬として陸地に送る代わりに私たちを苦しめている魔物を退治してもらうように頼めないかって長に話して任せるつもりなのよ!!)』

『(そ、そう……なのか…………)』


 門番的な役割をしている人魚はアズラットの方に視線を向けている。

 別に恐れがあるなどではない。

 今のマネーリアの発言に対して複雑に思ったためつい視線を向けた。


(それ、本人を前にして言うことじゃないだろ……)


 はっきり言ってマネーリアの発言はアズラットにとってはずいぶん失礼な物言いだな、と思うような内容だ。

 その発言は明らかにアズラットを利用するつもり満々な物言いである。

 まあ、アズラットとしても利用されるのは別に悪いわけではない。

 人魚などもう二度と出会う機会もないような存在だ。

 海に入らなければ出会うことない種族に地上に行ったあとで会う機会は確実に存在しない。

 もう二度と海に入るつもりはないアズラットとしては、これでお別れなのだからちょっとくらい面倒があったところでどうでもいいということである。

 それにマネーリアの言い分はかなり利用するつもり満々の失礼な物言いかもしれないが、報酬はしっかりとしている。

 その報酬に仕事内容が見合うかはともかく、アズラットの望みをかなえるつもりはある。

 これが悪い考えを持っている場合、利用するだけ利用したら殺して報酬をなかったことにするか、別の形で再度利用するか。

 そういう点ではマネーリアは良心的かもしれない……相対的にみて、だが。


『(このスライムはあの魔物よりも強いのか?)』

『(ええ。私を追っていた魔物を一瞬で倒したわ。目の前でやられた以上信じるしかないわよ)』

『(このスライムがなあ……)』

『(それで、どうするの? 入れるの入れないの? 早く長の所に連れて行って話を通して魔物退治してもらいたいんだけど?)』

『(俺の一存で決められることじゃない…………長の所に話を持っていく。決まるとすればそれからになる)』

『(じゃあ早く行きなさいよ!)』

『(わかったわかった……勝手に入るなよ? 勝手に入れば下手をすれば追い出されるからな)』

『(ちっ……わかったわよ)』


 流石に入口を守っている人魚がいなくなったところに侵入するとなると問題行為である。

 その場合マネーリアがどうなるかと言うと、少なくともいい結果にはならないだろう。

 アズラットの扱いも不明だし、何よりマネーリア自身最悪追い出される結果になる。

 ゆえにそれ以上の行いはせず、長の方へと向かった人魚が戻って許可が出たかどうかわかるまで待つこととなった。


『(こんなものかな……?)』

『(何が?)』

『(ああ、今そっちに向けて<念話>を使ったわけじゃないんだ。指定先がない状態で、広域向けに使ってみた。うまくいったかは……まだわからないかな?)』


 人魚同士の会話中アズラットは<念話>の修練中。

 一応広域に対しての<念話>も使える様だが、まだまだ上手ではない様子である。

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