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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
五章 奇縁の道程
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201 人魚の住処訪問

 人魚マネーリアはその手にスライムであるアズラットを伴い海中を移動する。

 流石海の中に生きる人魚、魚の特徴を持つ半人の魔物。その動きはとても速い。

 そもそも基準がアズラットであるため速いのは当たり前だがそれでもかなりの速度で進んでいる。

 アズラットはその間何もすることはない。<知覚>を活用し周囲の情報、地図を作る。

 まあマネーリアの動きはまっすぐ一直線なのでその過程の動きで通る部分しか情報は得られないが。


『(人魚の住処は遠いのか?)』

『(離れたところに獲物を探しに行っているところを魔物に襲われたの。それを逃げてきたからかなり離れてしまったのよ……)』

『(へえ。ところで、その魔物って……そもそもいつから魔物に襲われてるんだ? 魔物がたくさんいるのに住処を作ったりはしないよな? つまり結構最近からなのか?)』

『(そうよ。それなりに最近ね。詳しい話は私からじゃなくて長から聞いてちょうだい)』


 マネーリアの反応は実に冷たい……とはいえ、これくらいの反応が普通だろう。

 そもそもマネーリアはアズラットを案内するつもりであるが、案内した後は関わるつもりはない。

 スライムである魔物と仲良くなんて人魚である彼女にはどうにも考えられないことである。

 助けられたとはいえ、やはり魔物であるためどうにも信じづらいところはある。

 それでもアズラットを連れていくのはアズラットに頼りたいという思いもあるからだ。

 人魚はそれほどまでに魔物たちに困らせられているといえる。


(ちょっと<知覚>の方向を変えるだけで一気に情報が得られる……その情報処理が大変だからあれだが)


 移動中にやることがないので自身の<知覚>の方向を変えて情報を集める。

 ただ、あまり情報を得すぎると今度はその情報の整理が大変だ。

 ただでさえ<知覚>で得られる情報は多い。

 それをくるくるとその方向を変え全方位の結構な距離の情報を得るとどれほどまでに得る情報が増えることだろう。

 地形情報だけに絞ればかなり取得情報は減るがある程度他の情報も獲得しているため結構大変だ。

 まあ、それ自体は今後のためにも役に立つかもという思いでやっていることである。

 そのためあまり手を抜くこともできない。中々に大変な行いだ。

 なお、人魚に運ばれている状態だからやっているが普段はやらない。

 普段やり続ける場合面倒も多い。

 どうせまっすぐ進むしかないならそこまで情報を得なくてもいいやと思っているというのもある。

 今は人魚に地上に運んでもらうことを考慮し、そのため何か頼まれるだろうと考えその頼みの解決に役立つ情報を、ということだ。


(ん?)『(そろそろ着きそうか?)』

『(……鋭いわね。確かにもうちょっとだけど)』


 アズラットの<知覚>による地形情報の取得に引っかかった特殊な地形。

 水の中ゆえに門のようなものはないが、マネーリアと同じ人魚の姿があり、その人魚の住まう建物がある。

 建物と言っても地上のような作る形での建築物ではなく、どちらかと言うと掘る形の建築物だ。

 水の中であるゆえに、あれこれ物を建てるというのは難しい。

 それゆえに大きな石を掘り、その中に住む形をとっているようだ。

 流石に御伽噺に出てくるような珊瑚の森や貝殻の家、みたいなことは無理なようである。

 まあ、珊瑚はともかく貝殻は本当にただの貝殻だしそういった魔物がいないと成立しない。


『(見えてきたわ。さあ、ちょっと急ぎましょうか)』


 マネーリアはスピードを上げる。

 彼女とアズラットは既に見えた人魚の住処にあっさりと着いた。






『(なんで入れないのよ!)』

『(魔物を入れるわけにいかない! 当たり前だろうマネーリア! 頭が悪くなったか!)

『(何よ馬鹿!)』

『(なにいっ!)』

(何これ…………)


 人魚の住処の前、門はないが入口を守っている人魚の兵士がいる。

 その兵士がマネーリアを見つけた時、兵士自身はかなり驚いた様子だった。

 まあ、これに関してはマネーリアが死んだと思われていたというのが理由である。

 マネーリアはかなり魔物から逃げ続け、合流することも戻ることもできないでいた。

 それゆえにもう死んだ、と思われていたのである。

 ちょっと死亡判定が早い気もするが、海ではそれくらい死にやすい。

 まあ、戻ってきたことは喜ばしいことである。

 住処にはあまり寄ってこないが魔物に襲われることが多い状況だ。

 獲物を狩る、食料を手に入れる、そのための多人数でまとまっての移動を行っているその数が減るのは痛手だ。

 食料の確保の観点から見ても、仲間の安全を確保するうえでも、一人でも多くの人数がいたほうがいい。

 ゆえにマネーリアが戻ってきたこと自体は喜ばれるのだが……問題はその手に持っていたアズラットの存在である。

 アズラットは魔物である。これはマネーリア自身も理解している事柄であるが、その意味に関してあまり深くまで考えてはいなかった。

 スライム如き、という認識でもスライムも一応魔物。

 それを自分たちの住処に連れて行くなど言語道断というわけだ。

 魔物をよこせ、ここで始末する、という兵士に対しマネーリアのほうが反発した。

 マネーリアはアズラットの力を使い、魔物を退治したいという目的がある。

 そのため長の所に連れていき話を聞いてもらい、アズラットを地上に送る代わりに魔物の退治を。

 そういうことなので人魚の住処にアズラットを連れていきたい。

 しかし入口にいる兵士はダメだという。

 この両者の言い合いは本来なら兵士のほうが正しい。

 一応安全な場所である自分たちの拠点に魔物を入れるのは防ぐのが普通だ。

 スライムと言えども、むしろこのスライムと言うのがまた海の中にいるスライムと言う奇妙な存在。

 その特異性、そしてその危険性を明確に理解しているわけではないが、しかし入れて安全とは思えるはずもない。

 ゆえに兵士はマネーリアを止めている。

 まあ、魔物であるから退治しておくのが普通と言うのも理由だろう。

 そして、スライムは当然ながら強くない。

 ゆえにここで殺しても問題ない。大した強さではないという思いもある。


『(あのねえ! このスライムは今私たちが大変な状況になっている魔物を退治できるのよ!?)』

『(そんなものにできるわけないだろう! 頭でも打ったか! それとも魔物に洗脳でもされたか!?)』

『(わからずやっ!)』

『(なにいっ!)』

(さっきもやったな、このやり取り。ぶっちゃけマネーリアの言葉の方が足りていないと思うんだが……)


 兵士の言うことに対し、マネーリアはどちらかと言うと感情的な物言いで言葉をぶつけている。

 自分の意思を優先し、自分の意見を通そうという強い姿勢で臨んでいる。今回はそれが悪い。

 せめてもう少し正当に、まともな考えられた言葉で話しをすればまだ話は通ったかもしれない。

 しかし、マネーリアはただアズラットを連れて兵士を無視して人魚の住処に入ろうとしているだけだ。

 それでは通る可能性があるものも通らないだろう。


(しかし、この言い合いは<念話>だよな……それを聞けるとはどういうことだろう? <念話>って多方面に展開できるのか?)


 今までアズラットは<念話>は個人相手にしか使っていない。

 それゆえにそういう使い方ができるかはわからない。


(まあ、それはともかく……今はこの言い合いを止めないと)『(マネーリア、とりあえず落ち着いて話したほうがいいんじゃないか)』

『(っ…………アズラット。ああ、そうよ! アズラットの方からこいつに話をしてもらえばいいのよね!)』

『(はい?)』

『(マネーリア? 何を言っている……いや、だれと話している?)』


 兵士もマネーリアの言葉が自分に向けられたわけでないことには気づく。

 しかし、その会話相手がわからない。

 流石に兵士はアズラットがマネーリアと話しているとは思っていない。

 スライムは普通<念話>できないからだ。


『(はあ……えっと、とりあえずまともに話を聞いてくれる?)』

『(っ! 誰だっ! 姿を見せろ!)』

『(今マネーリアの手の中に納まってるスライムだ。まあ、信じろといっても信じられないかもしれないが、とりあえず話は聞いてくれるか?)』

『(な、な、なんだってーっ!?)』


 そこまで驚くことか、とアズラットは思った。

 とりあえず、一応兵士はアズラットが喋ったということを理解したようだ。

 ただ、それを本当にそうなのかと理解できるかはわからない。

 しかし、ひとまず話は一応できるようにはなったようであった。

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