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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
四章 異世界探訪
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『(なになになに!? どういこと!?)』


 アズラットに引っかかった人魚はそのままばたばたとアズラットに引っかかったまま暴れている。

 アズラットとしては彼女を外してもいいのだが、逃げられると厄介なことになると考えている。

 なのでそのまま彼女を捕えたまま、とりあえず話をできるように落ち着かせるつもりである。


『(落ち着け。とりあえず暴れるのをやめてほしいんだが)』

『(誰っ!? どこにいるの!?)』

『(今君を捕えているのだから。えっと、食べたり殺したりとかそういうのをしないから落ち着いて)』

『(落ち着けるわけないじゃないっ!?)』


 まあ、人魚の言うことも尤もだろう。いきなり体が囚われ動けなくなっている。

 そのうえその拘束は妙な液状の物体である。何が起きるかは想像できる。

 水中にいるそういう粘液的な液状の生き物は大抵捕まえた生き物を溶解し食らうものだからだ。

 アズラットにその気はないが、そういう風に捕らえられてもおかしくない。


『(ああもう! このままじゃ追いつかれちゃうっ! って言うかこれから逃げないとそっちも危ない!?)』

『(追いつかれる……? ああ、そういえば……)』


 人魚の存在を知覚するとき、それを追う存在のことも知覚していた。

 それを人魚の言葉で思い出すアズラット。

 <知覚>に認識を映し、その情報を得る。

 そうするとアズラットから離れた位置に様子を窺っている魔物が一体。

 この魔物は人型の様相を持つ魚の魔物だ。

 槍を持ち、人魚とアズラットを襲おうとしているように思える。

 ただ、アズラットと言う存在がなんなのかわからないからか、襲ってきてはいない。


『(確かにこれじゃ追いつかれる、っていうかもう逃げられそうにないな。目の前にいるし)』

『(うそっ!? え……やだ、ここで死んじゃうの!? こんな形で死ぬのは嫌っ! 誰か助けてっ!)』

『(とりあえず落ち着いてくれ……こっちはそちらに危害を加えるつもりはない。あのまま逃げていたところで振り切れたとは限らないし、こちらが助けて恩を売るつもりで君を捕えた。危険はない、こちらが全力で守るから、とりあえず落ち着いてほしい)』

『(そんなの………………信じられるわけ……)』


 見た目でいえばアズラットは明らかな魔物である。

 それを信じるというのはなかなか難しい。

 しかし、もう逃げ場もなく逃げる余裕もなく捕らえられたままの彼女はどうしようもない。

 アズラットの言う通りあのまま逃げ続けたとして逃げきれたかは怪しい。

 そもそもアズラットは他の魔物の存在も感じている。

 それらの範囲、領域に入れば囲まれ嬲られるだけだろう。

 つまり彼女の命は逃げようとも風前の灯火、現状と大差はない。

 まあ、それを知る術はないわけであるが。

 どちらにしても文句を言った所で今の状況が変わるわけじゃない。

 では彼女に<念話>を届ける存在を頼りにするしかないだろう。


『(……信じるわ。だからお願い、何とかして)』

『(了解。じゃあ、ちょっとだけ<契約>を。こちらは今君を襲う脅威から助け、危害を加えない。君はこちらに危害を加えず、助けられたらこちらの話を聞く。そういう形で<契約>をする。契約すると言ってほしい)』

『("契約する"わ)』


 アズラットの<契約>のスキルが発動する。

 これでアズラットは人魚に危害を加えることができない。

 ネーデと違い一時的なものであるが、人魚を追ってきた魔物を退治するまで効果があればそれでいいということである。


(<圧縮>解除)


 それなりに広げていたが、アズラットのサイズは小さいとはいえ湖全域に広がれるほどの大きさを持つ。

 人魚を追ってきていた魔物との距離はそれなりに離れているとはいえ、<圧縮>を解除して広がる範囲の内。

 であれば何も問題はない。

 広がったアズラットは人魚を避けながら魔物を飲み込む。


『(な、なに、これっ!?)』


 自分は安全でも、周りがスライムで覆われていれば流石に恐怖もある。

 触れていなくとも怖いものは怖い。

 そして魔物を飲み込んだアズラットは再度<圧縮>を行い、魔物ごと自分の体を<圧縮>する。

 それにより魔物は体に飲み込まれ潰され、アズラットに取り込まれた。


『(………………)』

『(これでよし。一応安全な所に行くのもありだけど、とりあえず話くらいいいよね?)』

『(え、ええ……何か話を聞かなければいけないという感じもするし)』


 半ば強制力のある思考誘導である。

 まあ、<契約>によってなされている物であるため仕方ないかもしれない。

 それにより、人魚はアズラットの話を聞かなければいけなくなった。

 まあ助けてもらっているのだから仕方ないかもしれない。






 そして人魚に対しアズラットはこれまでの苦労話をする。

 まあ、海に入るちょっと前からの話になるが。

 大きな蛸に船が襲われ、それを退治し海の底へ。

 途中海竜に食われたが逆に破裂させ、海の底へ。

 海の底では特殊なスキルを得て東に進み船の墓場で。

 そこで財宝を得てさらに東へ。

 海底に存在する迷宮を発見しそれを無視してさらに東へ。

 そして人魚とであり魔物を退治、という大まかな流れである。

 それを人魚が全面的に信じたかと言うとまあ流石にちょっと信じられないといった感じである。

 しかし、それを全面的に否定するのは難しい。

 <同化>で獲得した財宝の一部を見せられているのだから。


『(いろいろあったのね)』

『(まあね。それで、いつまでも水の中に居たくなくてそろそろ地上に出たいんだけど……連れて行ってくれない?)』

『(……助けてくれた恩はあるけど、それだけであなたを地上に連れていくのは、ちょっと……私としても住んでいるところを大きく離れるのはどうかと思うし。それに、あなたが危険でないという保証もないわ)』

『(うーん……できれば送ってもらえるとありがたいんだけどな)』


 意思疎通をできる相手、ということでアズラットは人魚に地上に送ってもらえればと思っている。

 しかし人魚としてもタダでアズラットの手助けをするのはどうかと思うところだ。

 別にアズラットを地上に送ったところで損はないが、得もない。

 人魚はたった今魔物から助けてもらったわけであるが、しかしだからといってそれで全面的にアズラットの助けになるつもりもない。

 逃げている最中の彼女を無理やり止めたのはアズラットである。

 もしかしたら逃げきれた可能性もある。

 アズラットは恐らく逃げ切れないだろうと思っているが、実際にどうだったかはなってみないとわからない話だ。

 ゆえにアズラットは無理やり彼女を留まらせたという事実もある。

 ただ、助けてもらったのも事実だ。

 それゆえにしっかりと話を聞き、そのうえで彼女は答えている。


『(そう、ね…………一つ、提案があるわ)』

『(提案か。いいだろう、話を聞こう)』


 人魚はアズラットに対し一つの提案をする。

 アズラットはそれを聞かない選択肢はない。

 このまま何処まで行けば陸地に着くかわからないまま進むより、可能性の高い道を選ぶのは自然なことだろう。


『(今私たちはあの魔物のせいで餌場や住処を荒らされているの。それを助けてくれれば、あなたのお願いを聞いてあげる。どう?)』

『(……それだけ? それくらいならまあいいけど)』

『(本当? まあ、私追ってきた魔物をあっさりと倒してたから不可能じゃないかもだけど……とりあえず、一度私たちの住処に来てくれないかしら? 今私は逃げていたところだから、心配されている可能性もあるし、長の方からの話も聞いてほしいわ。手助けを頼むのだし、できれば完璧に、最高の成果を出したほうがいいと思うから)』

『(別にいいけど……とりあえずそうするつもりならそこまで運んでくれる?)』

『(ええ……えっと、手に持つような形でいいかしら)』

『(持ち方は考慮してください)』


 そうしてアズラットは助けた人魚に連れられて彼女の住んでいる人魚の住処へと向かうことになった。

 その先に待つのは魔物退治の手伝い……という名の全面的なアズラットによる殲滅だろう。

 まあ、まだそれを行う状況にあるかもわからないし、どうなるかもわからないが。


『(ところで、名前を聞いていなかった。こちらも名乗ってないし、とりあえず名乗っておく。俺はアズラット。ちょっと特殊なスライムだ)』

『(今更ね……まあいいけど。私はマネーリア。ただの人魚よ。よろしく)』


 最後にそんな会話をして、アズラットはマネーリアに持たれて彼女に自分の住処へと案内されていった。

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