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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
四章 異世界探訪
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197 海底の迷宮

 船の墓場となっている海底の穴のような部分を登り、脱出するアズラット。

 そしてそのまま海底伝いにずりずりと這いながら先へと進む。

 出来なくはないが、重いものを持ったまま崖のような部分を上るのは大変である。

 そのため軽い身のまま崖を上ることを選んだため、水中で<跳躍>を使うための重みが足りない。

 この時よくよく考えれば<同化>を使い重りとなる物を運べたはずだがそれには気づかない。

 深く考え実行しているように見えて、割とどこか抜けているのがアズラットである。

 ともかくアズラットはゆっくりと東に向かう。

 アノーゼの言う通りならばこの先に何かがある。

 陸地へと行くことのできる可能性の高い物があれば都合がいい。

 ないならないで何か役に立つものがあればいい。

 船の墓場は一種の観光的ロマン的なものがある場所だった。

 仮に陸地に着けずともそういう物があれば多少はいいかもしれないとアズラットは思っている。

 割と頭が柔らかい……と言うのは良い見方をすればであり、適当な感じともいえる。

 基本的な方針としては陸地に行くのが目的だがそれを絶対順守しなければならないわけではない。

 結局のところ死なない可能性が高いゆえに、楽しむ方向性の方が性格的に強い。


(…………なんだ? 魔物の数が増えてる?)


 海底に存在する魔物と言うのはあまり数が多くない。そもそも生物自体数が多くない。

 比較的浅い所ならばともかく、アズラットのいるところはそれなりに深めの海底である。

 一応それなりに登ってきたとはいえ、まだそれなりに深いところである。

 そこに結構な数の魔物。それもいきなり数が増えてきている。

 ある程度は増えてもおかしくないが、アズラットは奇妙に感じる。

 そこにいるのが魔物ばかりだからだ。

 別に魔物がこの世界で増えるのはおかしな話ではない。

 しかし、世の中には生態系と言うものがある。

 生態系で数が増えるのは確かにあり得るだろうが、それでも一種類の生物が異常に多いというのはおかしい。


(この魔物ばかりこんなにたくさん……多いな)


 その魔物はアズラットに対し襲い掛かってきている。

 まあ、物理攻撃でアズラットがやられることはない。

 魔物の攻撃なんてなんのその、特に気にしない。

 脅威でもないゆえに反撃もしていない。


(しかし、ここまで群がれるとうざい……)


 だがその数が面倒くさい。魔物は一心不乱にアズラットに群がってきている。

 その場にいる多くの魔物、そのほとんど全てがだ。その数の多さ故に食料がないのだろう。

 おかしい。食料がなくなるほどに急激に数が増えるというのは奇妙に思える。

 そもそもこの魔物は数が多いが群れる生物ではない。

 群れで襲う、群れで移動する様子を見せていない。

 一部はアズラットに襲い掛からず仲間に共食いをしている様子も僅かながら見えるほど。

 これはおかしいと思うしかない。

 通常の生態系ならばあり得ない……そんなふうにアズラットは考えた。


(まあ、通常の生態系なんて知らないけど……<知覚>でわかるのはこの生物自体が持っている情報だしな。生態とか、習性とかそういうのはわかんないんだよな……体の構造や食っている物ならまだわかるけど。<知覚>スキルってかなりチートじゃない? まあ、最初のあれを考えると生身で使うと負荷がヤバ気っぽいし……そこはスライムに生まれた恩恵か)


 <知覚>スキルは有能なスキルである。

 しかし決して万能なスキルではない。

 生物ならばその生物そのものの情報は理解できるし、その名称もわかる。

 しかし、その生物の持ち得る生態などの情報は不明だ。

 そういった生態などはその生物がどういう生活をするなど蓄積される情報だ。

 人間などが集めた情報の集積の結果である。

 生物自体にはそういった情報は存在しない。

 <知覚>でそういった情報を欲しければ、その生物そのものの歴史を調べ推察するしかない。

 その生物の記憶くらいならまだ<知覚>で得られる可能性のある情報である。

 問題はそれらの情報を受けて無事でいられるかだが。

 まあ、そこまでの応用を思いつかなければできないし、しようと思わなければできないし、できなければ不可能である。

 どれだけのソフトウェアの応用力があろうとも、ハードウェアのスペックが足りなければどうしようもない。

 アズラットには不可能ではないが、思いつかず、そもそもそこまでする必要性もない。


(解除)


 <圧縮>を解除し広がる。水の中でも<圧縮>の解除は今まで通り。群がる魔物を飲み込み食らう。

 一瞬で魔物たちはいなくなり、かろうじて近づかずにいた少数がアズラットから逃走を開始する。

 それを追うつもりはない。


(ま、こんなもんか。大したことないな……数だけは多い。っていうか、また寄ってきたな)


 魔物を排除したが、その空白となった地域を察したのか同じ種類の魔物が入ってくる。

 それだけ数がいるということだがこれだけの数の魔物がなぜ発生したのかが大いに疑問である。


(<知覚>……範囲を広げるとやっぱり数の異常さが目立つ。今いなくなったここはいいとして……あっちの方は少ないけど、こっちの方は多いな。どこかに発生原因があるってことなんだろうか……それとも巣みたいなものがあるとか? もしくは群れの統率者となる魔物でもいるか。別にそこまで気にすることでもないんだろうけど、発見してしまうとどうにも気になるな……)


 アズラットは基本的におせっかいの世話焼きな傾向がある。まあ、それほどではないのだが。

 あと、興味を持ったことに対してはどうにも気になりそれについて調べたがる性質もある。

 自分の目的を達するためであれば、近づく必要性はないはずだ。

 しかしこの魔物の大量発生はどういうことかと気になってしまう。

 <知覚>でその情報を取得してしまうのも原因だろう。

 ただ魔物が寄ってきているだけと言う認識ならば興味を持たなかった。

 しかし、<知覚>により魔物の地域的な多寡、分布がわかってしまう。

 そのようになる原因は何なのか。


(とりあえず、ちょっと調べてみよう。どうせただ移動するだけって退屈だし、こういう娯楽がないと人間生きていけないよな。スライムだけど)


 スライムであるアズラットだが、その意識は知識の持ち主である人間の性質を有している。

 それゆえに人間らしい生き方を望み、人間らしい興味を持ち、人間らしい自己へと発展している。

 それが良いことか悪いことかは何とも言えないが、今のアズラットには重要なこと。

 退屈は人を殺す。生きている以上何らかの刺激はその生まれた心を生かすのに必要なこと。

 ただ生きるだけを目的とするのならばアズラットはこんなところには居ないのだから。






 そうしてアズラットは大量の魔物がいる方向を目指す。

 魔物はそんなアズラットに襲い掛かってくるが、痛打はない。

 襲われようともアズラットを殺せるような魔物がここには居ない。

 そもそも大量にいるだけで基本は雑魚の魔物である。

 ただ、時折その雑魚の魔物の中に見える少々強力な魔物もいた。

 とはいえその程度で倒されるわけもない。

 そのまま一定以上の数による攻撃で反撃をしつつ、魔物の空白地域を作りながら大量の魔物を拡散流動させながら目的の方向へと進んだ。

 そうして進んでいるとアズラットはどうにも嫌な感覚と言うものを受ける。


(なんだこれ……? 近づいちゃいけないような、拒絶の感じを感じる……感じを感じるってなんか言葉的に拙い感じがするけどどうなんだ? まあ、表現のしようがないから訂正できないけど。んー……雰囲気を感じるでいいかなあ? いや、まあどうでもいいや。なんだろうな、これ)


 その拒絶の感じと魔物の分布はなんとなく合っているようにアズラットは感じていた。

 そして、そのままそれを感じる方向へと進み……アズラットは有り得ないと感じるようなものを発見する。


(………………これ、迷宮の入口……か? あんまり広くはないけど)


 海底にぽっかりと空いた穴。それは迷宮への入口であった。

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