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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
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002 自身の把握と天使の声


(スライム……スライムかあ…………なんでスライムなんだ………………)


 スライム。多くの場合、その認識は色々と分かれる所であるファンタジーのモンスターである。

 基本的には弱いとされるイメージが彼の中では根強いが別の文化圏では物理攻撃の効かないモンスターとして強者のイメージも強い。

 これに関しては同名のゲームキャラクターの影響も強いが、スライムと言う存在の形態による部分も大きいだろう。

 例えば、スライムが単細胞生物の集合体のケース。

 人間のように脳を持たずそれぞれが独自の意思を持つタイプ。この場合かなり厄介である。

 何故ならその集合体全部を倒しきらなければいけないからだ。

 これが強いタイプのスライムである。

 特にこういったスライムは炎などの物理攻撃とは違う種類の攻撃手段でなければ倒しきれない。

 物理攻撃も効かないとは限らないが、やりにくい相手である。

 例えば天井で押し潰して死んでくれるか。

 天井に押しつぶされても隙間が残っている限り、不定形ゆえに生き残る可能性が高い。

 後は倒す手段ではないが、落とし穴に落とすというのも有効か。

 これは壁を這って登ってこれなければ有効であると言える。

 弱い方のスライムは、ゼリーなどと呼ばれることもあるタイプだろう。

 または、核を持つタイプのスライムだ。

 これに関しては彼らが不定形の存在であっても、ある程度形を維持する生態を持っていたり核という意思統一部分が弱点となっていたりする。

 そういったスライムの要素は世界によって違うだろう。

 同じスライムでもファンタジーの内容や創作の傾向によって違う。


 ではこの世界のスライムはどうなのか?


(うーん……これは厄介だな)


 スライムとなった彼は自分の様子を把握する。

 どうやら彼は核を持つタイプのスライムであるようだ。

 一つ、彼は若干弱いなりに視界を持つ。

 その視界の範囲、可動域、そして自分の体を幾らか動かし様子を確認し、そう判断した。

 彼の視界は地形などの構造を把握して知覚する視界と、核から見える体である粘液を通して見る視界の二つがある。

 その視界に明確に自分の体が映らないということもあって完全な確認はできない。

 後者の視界は視力が低いというのもある。

 せめて鏡や水場があればまだ確認のしようもあるかもしれないが、今の彼のいる場所は迷宮だ。

 水場の存在はまだ可能性があるかもしれないが、鏡はまず存在しない可能性が高い。


(どうにかして一度自分の様子を確認したい……見える視界でない方の視界は色もないからな。形が分かると言うのはありがたいが。分かる範囲も広いし)


 地形など物の形や構造を把握できる方の視界は核から見える視界よりもかなり広い範囲に届く。 

 むしろ核から見える視界はあまり遠くまで見通せない上にそれなりの明るさを持つ迷宮であると推測できるのに若干暗めである。

 どこかに行くべきか、何もせずこの場に滞在したままでも何も変わらない。

 ひとまず移動してみよう、と彼は考えた。


(……ん!?)


 そんな矢先、彼は一つの振動を感知する。こつ、こつ、と迷宮内を移動する何かの音を。


(足音? ここは迷宮、ってことは魔物とかそういうのが……? いや、動物かもしれないし、人間かもしれない。でも、今の自分はスライムだ。とりあえず…………そこの穴に逃げこめ!)


 スライムはずりずりと、外に出る時よりも若干速めに移動し自分が出てきた穴の中に隠れる。

 その穴はスライムである彼だからこそ入れるような小さな穴だ。

 人間でも、手を入れることは出来ても腕を入れることは難しそうな小さな穴。

 もちろんその穴よりも小さな生き物ならば入ってこれそうな穴ではあるが、それくらいならばスライムでもどうにかできそうである。

 その穴にスライムは逃げ込み、とりあえず現在の状況が完全に確認できるまではその場所で考えることにした。


(スライム、迷宮……どうしたものか。この体の動かし方も……なんとなく、わかる感じだな。食事は? よくある方法だと、体内に取り込んで食べる感じだな。スライムの場合、何を食べればいいんだ? 死体とか? それとも無機物も行けるのか? 何でも食べることができる、と言うのなら便利だけど……壁とか地面とかは食べられるのか? ちょっと試してみよう)


 穴の中、穴を広げられるかも同時に試す目的で壁、天井、地面の部分を食べられるか、溶かせるかを試す。

 どうやら触れているだけでは溶かすことはできないようだ。

 食べられるかどうかは現時点では不明である。


(うーん……食べ物を探しに行くしかないか。だけどスライムが勝てる相手がいるかな? 動きも遅いし、核を持っているから弱点も明確、動きの遅い生き物か、自分よりも小さな生き物しか食べることができないんじゃないのか? 都合よくそんな生き物がいるかな……基本は虫食になるのか? それは何か嫌だな……)


 彼の元々の状態の時の知識的に、虫食は好ましいものではなかった。

 現在の体でどうであるかはわからない。

 仮に好ましいものではなくとも、他に手段がないのであれば彼にはそれをするしかないのだが。


<スキル:アナウンスを取得しました>


(ん?)


 彼の思考内に、彼の思考ではない何かが届く。どこか機械的な音声である。


『もしもし、聞こえますか?』

(ん? ん!? 何だ、この声……)

『あ、聞こえてますね! えっと、この届く声の方向に思考を向けて、思考で会話してください……ああ、もう! こういうのって説明が難しいです! 自然にできることですからどうしても自分でもうまく意識してやっていることでもないし……』


 突然の声、そして会話中にいきなり大きな声で文句を言い出す謎の声。

 透き通るような、綺麗な女性の声である。

 彼は困惑している。謎の音声、謎の声。あまりにも唐突過ぎるその二つ。

 もっとも、彼の現状は何もかも唐突なものである。

 声が一体何であるか、何者であるかはわからないが、何らかの意思、意図があるのであれば、彼の現状について何かわかるかもしれない。

 彼はそう思い、声の言ったようにやってみることにした。


(えっと…………こ)『れでいいのか?』

『あ、はい、それでいいですよ! よかった、ちゃんと届いているし、応答もできる……よかったー』

『……えっと、あなたは』

『私は神様です』

『………………』


 いきなりの声の神様発言。それ自体は彼はおかしな話とは思っていない。

 しかし、あまりにも唐突な上に、神様と言う超常の頂上の存在。

 それを自称する相手に、どこか信用ができない。


『あ、信じてませんね!?』

『いや、いきなり自分が神様だと言われても……ちょっと信じられないかな』

『まあ、確かに私は厳密な意味で神と呼ばれる存在とは別物です。正確には、スキル管理を行っている天使、です。役割上では神様とほぼ同義ですが。私以外にも神様はいますし、神格ではあっても神様の従者の天使と呼ばれる存在扱いなので、神様とはやはり厳密に言えないかもしれませんが……細かい話はいいです。余計な話です。ちょっと、伝染っちゃったかな?』


 話がずれ込んでいる。ひとまず、本題へと戻す。


『それで、声をかけてきた理由はなんなんだ? 神様ってそこまで暇と言うわけでもないだろう?』

『いえ、仕事自体はしっかりしますがそれ以外は基本的に暇です。下を見て退屈をしのぐ程度には暇な神様も多いと思います……まあ、そこは重要なことではないですね。私があなたに声をかけた理由は……あなたへの支援です!』

『支援?』

『はい。いきなりこの世界にいて、何もよくわからない、現状がどういう状況かわからない、そんな混乱した状態のあなたに対する支援、助言をする役割、すなわちアナウンスです』

『…………そうか、それは助かる』


 彼はその内容になんとなく納得できない気持ちである。

 前提がどこかおかしいような気がするからだ。

 とはいえ、確かに彼にとって現状は困った事態であることは確かだ。

 助言というもの自体はありがたい。


『それでは、まず、ステータスと唱えて下さい』

『ステータス? それを唱えて』


<スキル:ステータスを取得しました>

<ステータス表示を行います>


(えっ!?)


 唐突な音声に驚き、その唐突さに向けていた声に対する思考を外すスライムとなった彼。

 その目の前に、よくあるゲームのようなステータス表示が現れた。

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