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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
四章 異世界探訪
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194 魔剣

(お。金銀財宝の類!)


 いくらか船を巡り、大き目な船の中を調べその中に隠されていた宝物を見つけるアズラット。

 <知覚>の能力で財宝の中身を知るつもりはないが、探索する船の情報は収得する。

 なぜなら場合によっては財宝の類を隠している可能性もある。

 ないなら仕方がないが見つからないのは問題だ。

 探すことも一種のロマンではあるが、しかし見つけられないのは困るので船の情報だけは得ているのである。


(回収するか……<同化>で保管するわけだけど、傍目から見ると取り込んで消化してるのと区別できなさそうだな、これ。まあ本人は体の中に何か保管されているのがスキルを通じてわかるんだけど。消化と違って消える速度も速いし、じわじわ消えていくんじゃなくて一気に消えるから違いはあるのは確かなんだけど。ま、目撃者はいないんだけどな)


 海底でいくらどれだけ過去に沈んだ船の財宝を奪おうとも目撃者はいない。

 そもそも沈んだ船の所有者も今は恐らく生きていない者ばかりだろうし、自分で回収しないのであれば財産でもないだろう。

 誰の物でもない金銀財宝を回収しようとも文句を言えないはずだ。

 もっともスライムが金銀財宝を集めて一体何になるのだろうという意見は出てきそうである。

 実際にアズラットが金銀財宝を集めたところで使用することもできないわけだ。

 つまりは回収するだけ無駄、無意味、無価値。

 まあ、こういったものは集めることも一種のロマンだろう。

 世の中価値のあることだけが正しいことではない。

 意味のあることだけですべてが成立するわけではない。

 心の間隙、余裕の空白を無駄という娯楽で埋めるのもまた一つの人生だ……アズラットはスライムなので人生ではないが。


(このお宝の類、戻ったらどうするかな……場合によってはネーデを探して換金してもらうのも……いや、厳しいか? どうせならもっと使い道のある使い方をしたいところだな。まあ、コレクター的に保管するのでもいいんだけど。そもそも俺が回収しないと海の底で眠り続けてた物だし、俺の所にあるうちは存在しない物と言う扱いでもいいだろうしな……俺が死んで、財宝がばらまかれる形になってようやく地上に戻ってきたことになるのもありだろう。まあ、俺がいつ死ぬかなんて知らないけど。誰かに殺されるつもりはない。そういえばスライムの寿命ってどういうもんなんだろうな……スライムが寿命で死んだという話は聞いたことがない。ああ、そもそもそんな研究をしている誰かと話す機会もないし、そこまで調べているわけもないだろうけど……)


 基本的にスライムはそれほど研究する価値もない。

 そもそもこの世界においてどれだけ研究者と呼べる者がいるか。

 仮に研究者がいるにしても魔物を研究する人間がどれだけいるか。

 そしてその中でスライムを熱心に研究する者の数は?

 まあ、こういった研究は自分の興味のある物を追求するゆえに、魔物の中で最弱であるがゆえにスライムに興味を持つ場合もあるだろう。

 とは言え研究熱心でもスライムの寿命について調べようと思う物は流石にいなさそうな気がする。

 アズラットと言う存在はスライム側の視点でスライムを見られる存在であり、意思疎通もできる優良な研究素材。

 もっともアズラットと研究者の利害が一致することはない。

 そもそもスライムを研究する人間と出会うこともないだろう。

 スライムに関して解明される可能性はあるかもしれないのに少々勿体ないと思うところである。

 まあ、物事がそう簡単に都合よくいくわけではないというのは世の常だろう。

 と、本筋から離れた思考と事情についてはともかく、アズラットは財宝の回収を終える。


(よし……この船はこんなところかな)


 基本的に船の内装や財宝以外の残留物にも多少の興味はあるものの、基本的には観察するのみ。

 と言うのも、それ自体に価値がない、再度使用できる状態にないことが多い。

 財宝はそれ自体に価値がある。

 また、金製品ならば劣化が少ないだろうという考えである。

 結局のところ回収する物と回収しない物の差は再利用可能であり価値があると思えるかどうかの問題である。

 まあ、多少面白みがあれば回収していくかもしれないがこの船の中にはほかにそういう物はなさそうだった。

 そうしてアズラットは次の船へと移る。

 もちろん移動に利用している重りを持って。




 そしていくつかの船を回り、そのうちの一つ。

 もう残り少なめになってきた状況。

 なにやらしっかりとした作りの大きめの船、その中にアズラットは入った。


(っ!?)


 しかし、その船に入りアズラットは何やら異様な気配が存在するのを感じた。


(…………なんだ?)


 スライムの体では冷汗がでることはない。

 しかし、精神的には冷汗が出ているような状態になっている。

 それだけ船の中から感じる気配が異様だった。

 それは魔物でもない、人間でもない、もっと何か別物の気配。

 およそ生物が発する気配とは違う、圧倒的で異質な気配。本能的に感じるもの。

 アズラットは結構な高レベルの魔物だ。

 そんな存在でも圧倒的、と感じるほどにその気配は強い。


(……………………おかしい。生物がいるようには……うん、生物はいないんだよな?)


 この海底にアズラット以外の生物はほぼいない。

 <知覚>でこの船内部の生命の情報を得てもそう判断される。

 しかし、船の内部から感じる気配は実際に存在している。

 それはいったい何なのか?


(……注意しながら進もう。生き物でないなら幽霊とか? 沈没船には亡霊とかそういうのはつきものだが……どうなんだろうな)


 この世界で幽霊と言う存在がいるかどうかについては……一応ゴーストの類である魔物は実際に存在したのでありえないとは言えない。

 ただこの場においてアズラットは特に人間の亡霊を見たりはしていない。

 別に亡霊がいたところで気になるものでもない。

 問題はその実害の有無と、その亡霊に対応できるかどうか。

 そもそも霊系統の魔物も倒せるかどうかはわからない。

 実体を持ち攻撃を仕掛けてくるような存在ならばその時に対応できる可能性はあるが、精神に攻撃してくるようなものならどうだろう。

 アズラットは肉体的には……一応相当に強固で厚みのある防御能力を持つが精神は無防備である。

 精神に対する攻撃はアズラットのような圧倒的強者でも防げない可能性の高い攻撃。

 それをされると厄介なことになるだろう。

 そういった様々なことを考えながらアズラットは中を進んでいく。

 中の様子を詳しく調べずとも、気配は圧倒的。

 その気配の位置を確認しながら進めがその気配の持ち主のいる場所に行けるだろう。

 そして、アズラットはその部屋に入った。そこには何もいなかった。


(…………これは……剣?)


 アズラットが部屋に入り目にしたのは、骨がそばに携えていた、床に刺さっていた剣。

 ただ、その剣はただの剣でないのが一目でわかる。別に見た眼でわかるわけではない。

 先ほどからアズラットの感じていた圧倒的な気配、その持ち主が……目の前の剣なのである。


(なんだこれ? 普通の剣じゃないだろこれ、確実に…………魔剣か何かだよな?)


 魔剣。そう呼称するのが正しいような普通の代物ではない剣である。

 恐る恐るアズラットはその剣へと近づいていく。

 剣が相手とはいえ、その剣が異様に過ぎるからだ。

 もしかしたら水の中で浮いて襲ってくるかもしれない。

 魔剣ならばもしかしたら有り得るだろう。

 そもそも剣なのにこの気配は何なのか。

 意志ある存在、亡霊でも憑いているのではないか。


(……大丈夫か?)


 触れるほど近くまで来て、特に何も起きないのをアズラットは確認する。

 そして、剣に触れた。

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