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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
四章 異世界探訪
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190 海底にて

 海の中は獲物となる存在が少ない。

 単なる食事と言う点ではあまり問題がないだろう。

 だが経験値と言う観点においてはただの魚はあまりおいしい相手ではない。

 まあ、塵も積もれば山となる。

 数を重ねていけば相応にレベルも上がっていく。

 しかし、それにはどれほどの時間をかければいいだろうか。

 ちまちまやっていてもあまり大きく成長できない。

 ゆえに海の中で狙うべき獲物は力のある存在、大きな経験値を有する存在となる。

 海の中ではそういった存在はどうしても少なく、積極的に狩りに行きたくとも見つけにくい。

 前提として力のある存在を発見できなければ意味がない。

 この場合問題になるのは普通の感知能力では意味がないことだ。

 振動感知、生物感知、そういった能力ではそれがただの生き物か、あるいは力のある存在であるかはわからない。

 海にいる多くの強力な魔物は力のある存在を見つけるためその存在の持つ力そのものの感知能力を持たなければならない。

 獲物が少なく独特な環境である海ではそういう能力がないと強くなれないのである。


 海における魔物は概ね強力な存在が多い。海は割と過酷な環境だからである。

 水の中ゆえに酸素を得づらく、周囲は常に海水に満たされており、温度もそこまで高くない。

 まあ、そもそも彼らは海と言う環境で生まれ海と言う環境に適応している生き物であるわけだが。

 それでも過酷は過酷、深くにいる生き物であれば更に圧がかかって耐久力が必須である。

 海上方面の生き物は比較的弱めで、下へ行けば行くほど強くなる。

 魔物はそういう形で顕著に特徴を持つ。

 それとは別に各地を回遊する強力な魔物もいる。

 一定の行動範囲で獲物を物色するか、または各地に獲物を探しに行く魔物、待ちか攻めか。

 そういう話はともかく、海の中にいる魔物は基本的に強い魔物である。

 ここにいる海竜もまた強力な魔物である。まあ、竜種なのだから強力なのは必然的にそうだろう。

 もっともこの竜は亜竜種に近い竜だ。

 竜に近い亜竜か、亜竜に近い竜か厳密に分けるのが難しい。

 種の特徴として飛行できず地上を行けず、海の中水中での活動に特化した存在。

 通常の竜種とは大きく違うので一応亜竜扱いだが、その強さは下手な竜種よりも強い。

 まあ、そこは水に適応できる生物が多くないゆえに水の中にいる海竜が強いということなのかもしれない。

 ともかくそういう感じで厄介で強いのが海竜だ。その海竜が海の中を悠々と進んでいる。

 そんなふうに進んでいるがその海竜が海の中に存在する獲物を見つける。

 それは海の水の流れの中、ふわふわと流され沈んでいく何か。海竜はその存在を知らない。

 今までも色々と獲物となり得る存在を食してきたが、それらとはまるで違う存在だ。

 いったいなぜそんなふうになっているのか……と、疑問に思う。

 もっとも海の中でそういうことはままある。

 別に力のある存在とは経験値を持つ生き物だけに限らない。

 特殊な力をもつ道具、武具、そういったものもまた感知の範疇に入る。

 そういったものは経験値にはならないが、食することでその力を取り込める場合もある。

 もっともこれに関しては少々特殊な事例であるため置いておこう。

 場合によっては経験値に代わる力を吸収できることもあるということだ。

 もしかしたらそういった物なのかもしれないと思いながら海竜は感知したその存在へと近づく。

 それは小さい割にとても大きな力の塊だ。

 もしかしたら自分を超えるほどの力を有しているだろう。

 だが、それは小さい。とても小さい。自分が簡単に口の中に収められる、小さな存在。

 一気に丸飲みにして力を取り込むことができるだろう。

 そう思いながらその存在に一気に向かう。他の存在に食われたら堪らない。

 それを取り込むのは自分だ、この海で最も強い生き物となるのは自分だ。

 上には上がいる、それを理解しているがそういった存在に怯え挑まないのは違う。

 もっと上を。もっと上を。強くなるのは生物としての至上命題である。

 強くなるために食らう、それが生きるということ。魔物は特にそれが顕著だろう。

 さて、そんな海竜の思考はさておき。あっさりと、海竜はその力の塊を食らうことができた。

 特に何かがそれを防ぐことはなく、本当にあっさりと。それに歓喜の感情を海竜は抱いた。


 しかし、その感情を抱けたのは少しの間だけだった。

 海竜は一瞬自分の体に違和感を抱く。

 ぐっ、と何かが自分の体の内側を押した。押し広げた。

 そして、いつのまにか自分の体が割れていた。海竜はそれを理解できない。

 腹が、内臓が、鰭が、尾が、身体のあちこちがばらばらだった。一瞬で首だけになっていた。

 理解できないまま、海竜は死に至る。

 体を分割されて生きている生物はいないだろう。


(…………まさかでかい竜に食われることになるとは思わなかった。まあ、おかげで肉片に取り付けたのはありがたかったが)


 海竜が食べた大きな力の塊。

 それは海に落ちた最上級のスライム、高レベルの魔物であるアズラット。

 いくら海の中とはいえ、その能力は聊かも衰えることはなくその能力を発揮できる。

 自由に泳ぎ海の中を進むことはできないが、そもそも水中の生物ではないのでそれが普通。

 むしろ水の中で生きる生き物でないのに水の中をスキルなしで自由に移動できる方が変だろう。

 海竜に食われた後、<圧縮>を解除して内側から破壊することで撃破した。

 経験値を獲得したいのであればその身体を取り込む必要がある。

 だがアズラットはその肉片の一つにくっつきそのまま沈んでいく。


(これでだいぶ沈降スピートが上がる……まあ、ある程度流されるが、だいぶましになる。本当は浮上したいんだが、とりあえず海底に行かないとよくわかんないし……アノーゼは今回当てにならないしな)


 あの後アノーゼと色々話したが、基本的にアノーゼにできることはないらしい

 まあ、そもそもスキルの神である。

 スキルに関することならばともかく、本来なら世界の色々や迷宮の色々など、今まで教えてもらえた内容がおかしい。

 神ゆえにいろいろ知っているからだが、神だからと言って海での対処を知っているわけではない。

 もっともスキルの神であるゆえに対処方法を持つスキルはいくらか知っている。

 それについて述べないのはアズラットがそのスキルを望むとは考えづらいからだ。

 教えるにしても、現状把握と落ち着いた状況になってからのほうがいい。

 焦って急にスキルを得ると後で後悔する。

 今までがいろいろと考えた後でのスキル取得であるゆえに、ここでもそうしたほうがいいだろうという考えである。

 今のアズラットの言い分にアノーゼは物申したいところであるが、彼女はとりあえず海底に着くまでは待っている。






 時々アズラットの付着する肉片に近づき、その肉片を食べたいと考える存在がいる。

 しかし、その肉片が竜のものであるからか、またはアズラットの力を感じるからか、はたまたその両方か。

 そういった理由か怯えがあるらしく、多少近づく程度で手を出さない生物が多かった。

 まあ、仮にアズラットごと食したとしても、肉片の主と同じ結末をたどるだけだが。

 そんなちょっとした出来事を経験しつつ、アズラットは海底へと肉片と一緒に降り立った。

 肉片に結構な重みがあるとはいえ、海底はとても深く、かなり時間をかけている。


(ようやく海底だ…………)


 アズラットは肉片から下りて離れる。それと同時に肉片に海の生物が群がる。

 どれだけ食べたかったのだろう。その様子を観察しつつ、アズラットはその場から離れる。

 一度状況を整理したいと思ったゆえに。

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