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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
四章 異世界探訪
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188 怪獣大決戦

「くそっ! なんだこれっ!」

「船に取り付いてくるぞ! なんとか足を……!」


 冒険者と船乗りたちが海から現れた巨大な蛸……魔蛸相手に奮闘を開始する。

 とはいっても、相手の大きさが大きさである。

 巨大な生物相手に人間は厳しい戦いを強いられる。

 そもそも、海に存在する生物は様々な厄介な性質を持っていることが多い。


「行けっ!」

「威力が心許ない……誰か<雷魔法>か何か、電撃のスキル持ちはいるかっ!」


 <炎魔法>が飛ぶ。

 <炎魔法>、このスキルは冒険者の中では比較的獲得する者の多いスキルである。

 何故かというと炎は明かりとして使えるからだ。

 また食事の時に肉やら何やらを焼くのにも使える。

 冒険者は野営をすることが多いためそういったサバイバルに使えるスキルを欲しがる傾向にある。

 もちろん職業柄戦闘に使用することも多い。

 なので得るスキルとして<炎魔法>、攻撃にも使えるものとなる。

 とはいえ、魔法系のスキルはいろいろ複雑で面倒で特殊。

 すべての冒険者が簡単に獲得できるものでもない。

 獲得の可能性はすべての人間にあり得るが、実際に獲得できるかどうかはまた別である。

 それに個々のスキル獲得はいろいろとその個人の判断次第でもある。

 そういう話はともかく、今は魔蛸相手の話。

 魔蛸は海の生物……蛸の一種、その系列の魔物であるだろう。

 ならば<炎魔法>や<雷魔法>は有効。<氷魔法>なども使い勝手はいいかもしれない。

 そもそも相手に近づくことも難しく遠距離攻撃がいる。


「<雷魔法>とか雷系のスキルを使える奴はいないっ!」

「なんでいないんだよっ! 海だろうがっ!」

「うっせ! 集まった奴らが急に集められた奴ばかりだからだろっ! もっと募集期間あればもうちょっとましになっただろうよ! っていうか船乗りたちには雷系のスキル持ちはいないのか? 魚獲ってんだろ!?」

「電撃で漁業はやらんっ!」


 前提として<雷魔法>など、雷系のスキルと言うのは結構特殊で珍しい。

 スキル獲得の前提条件を満たしにくいから、と言う話もあるが、詳しくは不明である。

 この船に雷系のスキルを持った者はいない。

 巨大な魔蛸を相手にそれは倒しにくいということになり厄介だ。


「<炎魔法>でも十分行けるだろ!」

「威力と数が問題だっ! あの大きさだ……! 取り付いた足を斬るんだ! 流石に船が沈んだらどうしようもないぞ! 倒したところで戻る手段もないっ!」

「ああくそっ!」


 巨大蛸が船に取り付く。それを阻止しようと足に対して攻撃を、本体に対して攻撃を。

 だがその程度で止まるほど魔蛸は弱くない。

 物理攻撃はその圧倒的な肉質にほとんど通らず、魔法もかなり弾かれる。

 ぬめりがある。魔蛸の体はぬめりぬめりとぬめっている。

 体を覆う粘液が、多くの攻撃を防ぐ膜となっているのである。


「ダメだ! 攻撃が通じないっ!」

「目だ! 目を狙え!」

「動いているから当たんねえ!」

「うおおおおおおおっ!」


 戦いの中、魔蛸の体に取り付こうとする冒険者や船乗りも出始める。

 遠距離から目を狙う者もいる。

 しかし、相手もなかなかに動いたり攻撃を察知したり。


「ぎゃあっ!?」

「なんだっ!?」

「墨だっ!」

「蛸の墨か!?」

「なんで墨で体が吹っ飛ぶんだよ!? ばらばらだぞ!?」


 蛸の吐いた墨。烏賊の墨と蛸の墨は違うというが、魔蛸の墨は根本的に使い方が違う。

 いや、これに関しては魔蛸が己の生活で得た能力に近いだろう。

 墨を勢いよく吐き出し弾丸のように打ち出す。

 それにより物理的に墨によって殺される。

 本来蛸の墨は逃げるための物ではないかと思うところなのだが。


「墨を勢いよく吐いてきたんだっ! 当たるなよ! 避けるんだ!」

「避けられるかっ! 飛んできたことすらわからなかったぞおい!」


 魔蛸に取り付こうとした者、墨に吹き飛ばされた者、多くある足の一本に捕まり潰された者。

 冒険者と船乗りがそれなりに乗っていたはずだが、その数を徐々に減らしていく。


「くそっ……どうにかならないかっ!?」


 このままでは戻ることもできずに全部が魔蛸の餌になる。

 そんな絶望感に打ちひしがれそうになる冒険者。

 しかし…………そんな彼らの近くをさっと通って蛸へと飛んでいく影が一つ。


「なんだっ!?」


 その存在について、つい先ほど感知出来た者もいただろう。

 ただ、気にしている余裕がなく、相手されることもなかった。

 それゆえに、誰もその存在がなんなのか把握できていない。それは魔蛸の頭の上へと。

 魔蛸はその存在が近くに来た時点で他の者に目を向けることはなくその存在のみを意識していた。


「っ!?」


 空を爆発的に覆い隠す巨大な体。

 それはスライム。本来ならばただの雑魚である存在。

 しかし、それは特殊な個体か、それともどれほどまで進化した個体か。

 とても巨大で強力で、スキルをも持つ絶対的な強者だった。

 それが魔蛸と戦いを始めたのである。






(酷いなっ!)


 アズラットが船から飛び出し、魔蛸に取り付く。

 現状ではただそれだけの状況である。

 魔蛸による被害は結構なものでまだ船は無事であるが乗っていた人間は半数程確実に減っている。

 それを明確に把握したわけではないが、犠牲者がいることは流石にアズラットもわかっている。


(敵討ちってわけじゃないが……船の往来を邪魔するなら排除させてもらおうかっ! 問題は俺が船に戻れないことだけどなっ!)


 流石にこの巨大な姿を見せた状態で船に戻るのは難しいだろう。

 戻ったら確実に冒険者が退治しようとしてくる。

 まあ船にいる冒険者に対峙されるほどアズラットは弱くないのだがどちらにしても面倒になるのには変わりない。

 なので今回魔蛸を倒した後、確実に海の中に入ることになるだろうと考えている。


(くっ……しかし、意外と厄介だな。これまで簡単に相手してきた相手とは違う……強くはないが)


 魔蛸は強くない。魔蛸の攻撃手段は物理攻撃に比較的偏っている。

 一応墨の弾丸はアズラットでも厳しいところだが、墨は吐き出す場所が限られるためそこさえ注意すれば問題ない。

 だが、アズラットの攻撃手段である<圧縮>や<変化>が通用しにくい。

 体を覆う粘液はアズラットの<変化>による液体部分からの影響を緩和し、深海の生物であるからか圧力が攻撃手段である<圧縮>に耐性を持つ。

 そもそもその巨体と巨体に備わっている強硬な肉質と筋肉、弾力性、様々な要素でアズラットの攻撃を防いでいる。

 もっとも時間さえかければどうとでもなる相手である。

 体で包み込めれば時間をかけて消化することは不可能ではない。

 その場合の問題は魔蛸の抵抗。

 アズラット自身が振り払われる可能性もゼロではない。

 そして近くにいる船も破壊される危険は高い。

 そこまでアズラットが気にする必要性はないのだが、気になるものは気になる。


(…………貫く。<穿孔>で頭に穴を空けるしかない、か!?)


 問題は粘液による膜を貫けるかどうかである。


(やるだけやってみるか。どうせここまでくるとやることは限られる)


 現状アズラットにできることは少ない。

 結局のところ、己のスキルを活かして攻撃するくらいしかできない。

 根本的にアズラットのスキルに攻撃できるスキルが少ないのは前から問題視されていた点である。

 今のスキルでも十分であると言うくらい強いのだが……世の中には想像以上に厄介な相手もいる。

 今回の魔蛸もその一例だろう。とはいえ…………アズラットの現状のスキルでも十分に通用する。

 <穿孔>のスキルが魔蛸に使われ、魔蛸の体の内へとアズラットの体が侵入する。

 そうして内部で<圧縮>を解除し爆裂させるという攻撃手段があるが今回は相手が厄介。

 既に<圧縮>をある程度解除しているため威力は落ち込み、相手の肉体の強度もある。

 ならばどうするか。粘液の防護がないのだから<変化>で酸になるなり毒素を持つなりすればいい。

 そして徐々に溶解し、身体の内へと入りこみ、確実に殺す。


(暴れるなよっ! っと、足も取り込んでいった方がいいか……流石に船も結構やばそうだし)


 人間のことさえ考えなければある程度のんびりやっても構わないところだが、それを気にしているため急ぎ足である。

 まあ、それでも十分倒せる程度にアズラットの強さは高いのだが。

 そんな感じに、深海からアズラットを食らいに浮上してきた魔蛸は逆にアズラットに飲み込まれる結果に終わる。

 そして……アズラットはそのまま海にずぶずぶと沈んでいくのであった。

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