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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
四章 異世界探訪
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187 深きより来る者

 海の上を行く船。それなりに大きな船で、冒険者に船乗りと結構な人数が乗っている。

 その目的は現在海で起きている異変、今まで見られなかった多大な船の被害の原因の把握。

 そして、場合によってはその原因の排除を目的としたものである。

 そんな理由で船に乗っている彼らだが船上にいる彼らは緊張したような張り詰めた雰囲気である。


「…………どういうことだ」


 ぽつりと一人の船乗りが呟く。その船乗りの言葉に冒険者が言葉を返す。


「なんだ? どうしたって?」

「…………海があまりにも静かなんだ」

「だから……なんなんだよ?」


 この緊張感漂う雰囲気、それ自体は理解しているのだが、船乗りの言葉はイマイチ理解できない。

 しかし、それが今の雰囲気と繋がっているのは彼でもなんとなく理解している。

 その緊張に耐えられないからこそ、その内容を詳しく聞きたいわけである。


「…………波はいつも通りだ。天気も悪いわけではない。船も普通に進んでいる。だが、それ以外がおかしい」

「…………なにがおかしいんだ?」

「気づかないのか?」

「え?」


 唐突に船乗りに話を聞いていた冒険者に話しかけてきた別の冒険者。

 彼は船乗りとは別の形で現在の異常に気付いている。


「魔物だ」

「……魔物?」

「そうだ。魔物が全く襲ってこないんだ。これまでずっと」

「…………それが、どうしたっていうんだよ?」


 別に魔物が襲ってこないということはあり得ないことではない。

 この船に冒険者や船乗りが多いのが要因で魔物が寄ってこないという可能性はなくはない。

 実力者が多いとそれを探知するためか魔物が来ないこともままある……もっとも、全く来ないということはないのだが。

 多少の実力者など気にせず船を見かけた魔物が襲ってくるということもある。


「普通は魔物が襲ってくるものだ。だが、全く魔物が襲ってこない」

「そういうこともあるんじゃないか?」

「……ないとは言わないが、今回のことを考えるとな」


 今回は異常を調べに来たわけである。

 その異常とこの異常が関わっている可能性はあるだろう。

 そんなふうに話していると、先ほど話していた船乗りとは別の船乗りが話しかけてくる。


「魔物だけじゃない」

「え?」

「……どういうことだ?」

「魚もほとんどいない。まるで何かから逃げたかのようにな」


 船乗りは<魚探知>のスキルを持つ。

 船乗りゆえに漁獲業を行うためにそういったスキルがいる。

 スキルの取得は人それぞれ、職業柄家柄日常生活に影響されて、と言うことが多い。

 そういうスキル構成で仕事関連ということでそういうスキルになるわけだが、そのスキルで魚を探知している。

 その探知に殆ど魚が引っかからない。まあ、どこにでも魚がいるわけではない。

 しかし、それでも……船で進む中、魔物と同じように魚も気配が全くないというのに船乗りが気が付いた。

 だからこそ、魔物が襲ってこない、魔物がいないという話に入ってきた。魚も海にいないのだと。

 もちろんほとんどいないというだけならないとは言えないだろう。

 だが……今回のこと、異常に関係している可能性は大いにある。

 そんなことを彼らは話していた。


「………………ん?」


 色々と船上の冒険者たちと船乗りたちが海の以上について話し合う。

 そんな中でも船は進んでいるが……そんな中、少々波が出てきた。そして船がゆらりと揺れる。


「なんだ……?」


 そして、ゆらゆらと波が出て、海が盛り上がる。


「何か来るっ!」

「…………なんだこれはっ!?」


 その存在はあまりにも巨大だった。

 あまりにも早く浮き上がってきた。深海からそれは訪れた。

 ばしゃりと海を突き破り現れたそれはぶよりと膨らみ大きな体を持つ十五の腕を持つ巨大な海魔。

 小さく、八本の足を持つそれに近い……クラーケンとも呼ばれる存在、または魔蛸と及ばれる存在だった。






 海の底にいたとても巨大で強大な存在。

 それは海の上の方へと浮かび上がっていた。

 暗い暗い海の底にいながら、それは巨大な力を持つ存在を感知し、食らいたいと思っていた。

 以前感じたそれを追い求めながら浮かび上がり近場にいる微々たるちっぽけな力を食らっていた。

 いくら大したことのない者であるとしても、食らい食らい食らえば少しは強くなる。

 本当に微々たる程度だが、まあいいだろうと食らっていた。

 海の底に戻るのも、また浮き上がるのも、意外に面倒で大変だ。

 どうせ戻ってもゆらりゆらりと揺られてそこにいるだけ。

 ならば上にいたところで問題はない。

 海の底とは違う圧、温度、光の存在。

 そういったいろいろはあるが、その程度巨大な自分に大した影響はない。

 そうして海の上の方で遊んでいたそれは、ある時力の塊が海の上を進んでいるのを見つける。

 ああ、お前だ。

 戻ってきた、食われるために。

 もう二度と逃がしはしない。

 それは以前逃がした存在。

 自身が求めたが、その求めが届く前にどこかに言った存在。

 それがまた海の上に戻ってきた。

 それをもう二度と逃がしはしまいと追いかける。

 そして、それは海の上に姿を見せた。

 そこにある全てを、その力の塊ごと食らうために。






 アズラットは海の上、船の中でゆっくりとしていた。

 物々しい雰囲気は感じていたが、アズラット自身は特に行動できない。

 そもそもアズラットからすると船乗りから冒険者まで周りが敵だらけの中にでるわけである。

 流石にそれはできない。

 なので穏便に済ますために<隠蔽>を使いながら隠れている。

 流石に今回冒険者や船乗りは海に意識を向けており、そのためアズラットのことは気にかけられていない。

 まあ、そもそも気づかれてもいない。

 異常事態が起きていると思っているからこそ、アズラットの存在による異常には気づかなない。

 まあ、アズラットがいようといまいと海の異常があることには変わりがない。


(…………ん?)


 ぐらりと揺れるような感覚。そして、どこか脅威となるような圧倒的な力の感覚。


(……なんだ?)


 のんびりと何か異変が起きるのを待つ、異常事態がどういう原因かを調べる。

 冒険者や船乗りほどではないがもしもの時の対処のために待っていたアズラットが異常に気付く。

 それは強大な力を持つ存在の感覚……アズラット的に言えば、迷宮で味わったことのある強者を相手にするような感覚だ。

 ヒュドラほど強い、とは流石に言わないが、十七階層や十九階層に出てくる魔物程度に強い存在の力を感じていた。

 アズラットの感知能力は主に振動感知による構造把握が主であるが、雰囲気や気配もある程度は感じられる。

 特に肉体によらない第六感、本能的な感覚などはアズラットでも十分に感じ取ることができる。

 まあ、その代わりにアズラットは五感の類は聴覚と触覚に近しい振動感知能力くらいしかないわけであるが。


(っ! 船、揺れたぞおい!?)


 突き上げるような振動とともに、船が揺れるのを感じた。

 それは明らかに異常である。そして、そこに何がいるのかも、なんとなく察知する。


(………………いや、さすがにこれはやばいんじゃないか!?)


 それはアズラットの知識に存在する、昔から海に存在する大いなる脅威、怪物。

 巨大な蛸……に似た魔物。

 厳密な意味合いでは蛸でも烏賊でもないが、いちばん近いのが蛸である。


(冒険者や船乗りで勝てる相手じゃない……っていうか、船がやられたら終わりだよなこれ)


 アズラットはまだしも、人間は海に放り出されて生きるのは難しい。

 そしてこれだけの相手に船なしで勝つのは無理。

 そのうえ、船があっても勝つのは難しいくらいだ。

 そして勝利を満たす条件は厳しく、敗北が容易い。


(流石に俺も参加しないとだめだよなこれ。まあ、あれだ。化け物を相手にするのは同じ化け物がやるべきだろ)


 化け物。この世界における大半の人類では勝てない、巨大で高レベルの魔物。

 それに相対し勝てるのは一部の特殊で強力な冒険者か、同じくらいに強い魔物くらい。

 アズラットは相手よりもはるかに強い存在である。

 少なくとも……負けることはあり得ない。

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