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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
四章 異世界探訪
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185 花の都

 ぴょんぴょんとスライムに似合わない高さまで跳ねつつ、奇妙な噂の種を振りまきつつ。

 アズラットは呑気に街道沿いを進んでいく。見つからないように離れつつ。

 それをしばらく繰り返し、かなり進んだなと思ったくらいに、周囲の雰囲気が変わってくる。


(おお? なんか花畑が………………単純に草原とかそういう感じの、普通にある自然にできた花畑……とはどこか違う感じの花畑だな。っていうか、いろいろと点在しているし。大きなところもあるし、明らかに道らしきものが整備されている感じの所もある……人工の花畑? あれか、観光名所的な奴か?)


 見えてきた物は花畑だ。

 花畑自体は自然環境でも普通に発生し得るものだが、それまで見てきた物とはまた違う。

 明らかに自然発生した花畑と違う雰囲気なのが見て取れる。

 まあ、アズラット自身はあまり人工の花畑を知らないのだが。

 意図的に形や範囲を決められていたり、または明らかに人が通れる道を整備されていたり。

 そもそも傍に人工物……花畑を管理するための物かはわからないが、建物もある。

 花畑の周りには柵を設置されているところもあるようで、明らかに人の手が加わっている。

 もしかしたら単純にできた花畑を何らかの事情で守っているだけなのかもしれない。

 ともかく、明らかに人工の、人の意図があり手が加えられた場所であることには間違いないとアズラットは思う。


(ちょっと近づいてみるか……このあたり、あまり魔物はいない感じなのか? まあ何処かしこにでも魔物がいるという世界でもないだろうけど……ん、スライムはいくらか見かけるくらいだが、魔物、他の魔物は見かけないな。平地ではそう見かけるものではないけど、それでも全くいないっていうのは……そうでもないような気もする。んん……花粉が舞ってる。時期的に…………いや、この世界の花の生態とか知り様もないし。春に咲いて花粉を撒く花ばかりじゃないよな。それにしても花粉が多いのは気にかかるが……いや、花が多いから花粉が多いのは自然か。こういう花でも花粉症になる人間はいるんだろうな……少なくとも花粉症はきつい、地獄だという知識はある。記憶に花粉症だったという記憶がないのは幸いか。そもそも記憶喪失だけどさ)


 アズラットは花畑の周りに花粉が舞っているのを感じる。

 それは少々多すぎる、と感じるくらいのもの。


(……エルフの里で会ったあの魔樹を思い出す。あそこの森みたいに花粉が舞って……つまり、この花粉に何らかの意味があるとか? もしかしたらこの花畑は単純に景観のためのものではないのかも? まあ、俺がいくら推測したところで答えがわかるわけじゃないが……とりあえず、あまりこっち側の様子を見ていないで、先に言ってみよう。どういうところか見て、そこで話を聞いて判別するべきだろうな……別に気にする必要もないか? そもそもそこで暮らすというわけでも無くて、単に世界の様子を見て回るだけの観光なわけだし)


 結局のところ、アズラットがいくら現状から推察したところで事実がわかるわけではない。

 そのあたりにいる人が独り言で誰かに話しかけるわけでもなく実情を語っているはずもない。

 もし詳しいことが知りたければこの花畑を作ることにしている場所……つまりは、この先にあるだろう国、都市に行くべきである。

 都市……とはいうが、都市は国か、街が国か。

 この世界における国はどこからどこまでの範疇のことを言うのかわからない。

 アズラットはそういった詳しい内容を把握していないのでさっぱりである。

 まあ、どこからどこが国であるという境界線をアズラットが把握する必要はない。

 そういったことは人間同士の問題である。

 まあ、そういった関わるつもりもない話はともかく。


(とりあえず行くだけ行くか……花畑を利用すると隠れやすそうな気はするな)


 花畑が原因か、あまり魔物はいない。

 獣も……いるにはいるが、この場所はあまり過ごしやすいわけではないのだろう。

 そもそも獣や魔物がたとえいたとしてもアズラットを襲ってくるとは思えないが。

 ともかく、そういった感じであるため、花畑の間を進むのであれば襲ってくる存在はいない。

 人間からも、花畑の中にいれば見られることはないだろう。

 穏便に、安全にアズラットは花畑を隠れ蓑に、人にばれないように進む。






 花都。聖国から神山を挟み反対側にある小国家の大きな商業都市である。

 名前の通り、花そのものを商売としていたり、花から作られるものを商売としている。

 木々は基本的に取り扱っていない。

 木々にも花は咲くが、さすがに大規模でやり辛いという問題があるためだろう。

 都市の周りには各地に花畑が存在し、ある程度都市から離れたところにも中継地を作り花畑を作っている。

 花畑の中には売り出すことを目的とした花を取り扱うものだけではなく、魔物避けの花を育てているところもある。

 都市の周りに多くの花畑を作り、魔物を寄せ付けないようにしているため比較的安全性は高い。

 その代わりとでもいうべきか、花そのものがある種の害となっている。

 わかりやすい例では花粉症があるだろう。

 また、魔物が寄り付かないため冒険者もあまり来ない。

 そこは治安が他の場所よりも比較的に良いという効果になる。

 他にも花に寄り付く虫の大量発生の問題などがあったりもする。

 一方で花から蜜を取る蜂を飼うことで蜂蜜を取ることも商売としている。

 質も結構なものながら、何よりもその規模、数が段違いなのがこの花都の特徴だろう。

 この世界における甘味ではこの大陸においては砂糖よりも圧倒的に蜂蜜になるが、その供給源がこの花都である。

 そんな感じで景観も良く危険も少ないが冒険者や花粉症を持つ人間には住み辛い都市がこの花都。


(……花がここの主商品なのか。まああれだけ花畑があればな。それに蜂蜜も取り扱ってるのか…………しかし、虫が多いな。除虫菊は植えてないんだろうか? それとも植えていてこれとか? まあそこらじゅう除虫菊とかそういう花ばかりにするわけにもいかないか。仮にも商品だし。いや、除虫菊を虫除けの商品として取り扱ったりはしてないのか……? それとも虫との共生の問題があるとかか? まあ、蜂蜜を取り扱っているということは、少なくとも本物の蜂の巣からとってるわけじゃないよな、流石に。養蜂業みたいな感じでやっているはずだ。蜂が住む関係上、そういった虫除けになる花を植えるとか、そういった商品を扱うことができないとか? まあそこまで詳しいことは俺にはわからないな……単純にそういったものを取り扱う知識がないとかそんな単純な話もあり得るだろうし)


 そんな魔物が寄りつけないはずの花都にアズラットはいる。

 いや、厳密に言えばすべての魔物が花都に寄りつけないわけではない。

 アズラットのように花粉の影響を受けない魔物、呼吸をしないとか、眼や口を持たないとか、そういう魔物ならば話は違う。

 また、虫がもともと寄り付くように、虫系の魔物ならば花粉の影響をそこまで極端に受けずに花都に来ることができるだろう。

 もっとも、迷宮の外においてあまりに巨大な虫系魔物はそういたりしないし、彼らは多くの花より木々のある森のほうが都合がいいだろう。

 まあ、たまに花を目的とする魔物もいるのだが、かなり昔にこの付近のそういった魔物は駆逐しているらしく、滅多に出ない。

 現状でこの付近にいるのは幸運にも駆逐されなかった小さな虫系の魔物とアズラットのようなスライムたちが主だ。

 そのおかげか、魔物に対する警戒はあまり強くない。

 もちろん見つかれば退治しようと襲ってくることには変わりないが。


(観光名所としては悪くなさそうだけど……俺はあまり興味がないな。見て綺麗なのは悪いわけじゃないんだけど。蜂蜜とか、食材となる花とか、除虫菊類とか、そういうものがあるほうがよっぽどいいかな。まあ、今の俺はスライムだからあまり関係ないし)


 あまりアズラットにはこの都市に滞在する理由がない。


(とりあえず……聖国の向こう側、こちらとは反対側の国に行くか? それとも街道沿いに進んで港町に言って、他の大陸を目指すか……しかし国が三つくらいしかないのか? この世界ってそれほど大きな世界じゃないのかな)


 そんなことを考えつつ、アズラットは花都を出て街道を戻ることを選ぶ。

 一応こちら側には花都以外にもあるのだが、それは気にしないようだ。

 アズラットの目的はかなり大雑把な所がある。

 世界を見て回ることだが、別に世界のすべてを見て回る必要性はない。

 大まかに世界情勢を知る。知って何をするかは考えておらず、知ること自体が目的だ。

 その先にどうしたいかは今だ特に決めてもいない。

 かなり適当に決めている感じが現状のアズラットの行動スタイルである。

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