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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
四章 異世界探訪
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182 魔樹の迷路

 エルフの里近傍まで訪れたアズラット。

 しかし、ここまで来たのはいいが、その先に進めない。

 別にアズラットはエルフの里に入りたいわけではない。

 近くでちょっと見てみたくはあるが、それくらいだ。

 そもそもエルフの里にアズラットが入ったならば確実にエルフに攻撃されることだろう。

 一度で合った女性のエルフくらいならば問題なく、途中で会った三人組もまだ大丈夫だろう。

 しかしそれ以上の強さを持つエルフがいたならばかなり厄介なことになるだろう。

 今までの冒険者で言えば、ネーデやフォリアくらいに強ければかなり厄介なことになる。

 それでも逃げるくらいはできると思われるが、そもそも己の存在を知られること自体があまり望ましいことではない。

 一応迷宮の外のエルフは人間とあまり仲がいいというわけではないので伝達される可能性は低いかもしれない。

 だから己の存在を晒すのは違うだろう。

 安全のため常に隠れているくらいがちょうどいい。


(多分入ったらバレると思うんだよなあ……)


 アズラットはエルフの里に何か迷宮にあった階層の境界に近い何かを感じている。

 明らかにエルフの里の内側と外側は隔絶されているのが感覚的にわかるのである。

 一種の結界の類だろう。侵入者の存在を知らせるものか、それとも明確に防壁とされているのか。

 細かい部分はアズラットの能力ではわからないが、恐らくそういうタイプの結界であると推測できる。

 つまりエルフの里には入れない……どのみち入るつもりはないのだが。

 問題はそこではなく、エルフの里には入れないとなると山を下りることが難しい。

 エルフの里はそれなりに大きく、それゆえに里を通らない場合はかなり遠回りになる。


(一応横に道があるが……あっちを通るしかないか。なんとなく、あんまりいい感じはしないけど)


 村の周りを取って山を下りることはできる。しかし、どこか雰囲気が悪い。

 普通の木々とは違う何らかの木々が生え、それで埋め尽くされている。

 別にそこに何か危険があるようには感じない……のだが、なんとなく嫌な感じは漂っている。


(まあ、里に入れないだろうからあっちに行くしかないか)


 いくら嫌だ、雰囲気が悪いといったところで行かなければいけない。

 そこしか通れる道がない以上進むしかないわけである。

 アズラットはエルフの里の周りを沿って進み、その木々の生え立つ道へと進んだ。






(まるで迷路のような場所だな)


 エルフの里の横側の道。妙な木々の生えるその道は迷路のように道が複雑である。

 そもそもそこに存在する、一定の大きさの道を通らなければまっすぐ行けるのだが、なんとなく道があるのでそれに沿って進んでいる。

 木々の間をいちいち抜けていくの面倒だしわかりやすい道があれば何となくそこを進んでしまう。

 その道が迷路状、とまで複雑ではないものの、少しくねくねと曲がって作られていることがわかる。

 木々の生え方を調整したか、生えた木々を切り倒しそのように道を作ったのか。

 それはわからない。


(…………特に普通に進めるけど、何か変な感じだ。何も対策されていないのはおかしくないか?)


 エルフの里、神山の祭儀場、その二つがあり、そもそもエルフは人間と仲が良くない。

 この道がただの道であるのならば、その道を通り人が入り込む可能性がある。

 そうでなくとも魔物が通って山を下りたり、その逆で登ったりするかもしれない。

 まあ、わざわざ魔物がこの道を通る必然性が思い浮かばないが、可能性と言う点ではあり得るだろう。

 しかし、特に何かがあるようには見えない。時折ふわっと風が吹く程度の道。


(うーん……単純にエルフの里を通らず行ける道ってだけか? まあ、わざわざ道を作ってるくらいだしそういう可能性もあるとは思うが…………やっぱり、何かこの道は奇妙というか、変な感じを受けるな……気配と言うか)


 アズラットはその道を進んでいて、妙に嫌な感じを受ける。

 一応危険な感じではないので進んでいるが。

 <危機感知>、<危険感知>などの己の危険を察知するスキルを持っていないのであくまで本人の持つ直感での話だ。

 ゆえにそれはあまりあてにはならないものではある……のだが、全く頼りにならないものではない。


(ん…………? 風に……粉?)


 時折吹いてくる風。

 それがふわりとアズラットの体に当たるのだが、その風の中に粉のようなものがあるのに気づく。

 いや、風の中だけではなくこの木々の間、進んでいる最中の空気中のあらゆる場所にその粉のようなものがある。

 アズラットの振動感知能力はその気になれば風すらも探知できるくらいに高性能だが、普段はその感知内容を抑えめである。

 細かいあらゆるすべてを感知し把握するとその情報処理で大変だ。ゆえにそれくらいにしておかなければいけない。

 だが、その抑えている感知を広げる。より精度を高める。

 そうすると、空気中に、この場の一体すべてにその粉があるのに気づく。


(これは…………鱗粉? いや、花粉か?)


 周りに蛾や蝶の鱗粉をまき散らす生物は存在していない。なのでこれは花粉であると推測できる。

 その場に多くの木々があるのだからその花粉だと推測するのはおかしな話ではないだろう。

 問題はその花の存在が見えないことである。花がないのに花粉が撒き散らされるはずはない。

 だがその場所は実際花粉で覆いつくされている。それこそ進む道すべてが。


(…………特に影響を受けることがないから別にいいけど。でもこれは流石におかしいな)


 花粉に関してアズラットは影響を受けることがない。

 そもそもどのような作用で花粉がアズラットに影響をもたらすのか。

 体内に取り込んだら影響するのかもしれないが、アズラットの場合その体内と言う部分が曖昧だ。

 液状部に取り込んだだけではすぐに消化されるだけ。

 表面に付着したものも消化しながら吸収するだけ。

 その吸収物の持つ成分は消化するまでは影響をもたらす可能性はあるが、消化すれば完全に無効化され消える。

 スライムの核部分に到達した場合はどうなるかわからないが、その前に吸収されるので特に問題はない。

 つまりこういった攻撃手段はアズラットに対し何の作用ももたらさない。

 物理的な方法で影響を与える手段はあまり効果がない。

 毒とか液体とかそういうものは。


(まあ、とりあえず無視して進もう。特に影響がないなら全く問題ないし)


 嫌な予感、変な雰囲気、奇妙な感覚。

 そういったものはあったが、危険な感じはしなかったのはつまりそういうこと。

 己に対し害する意図はあってもその意図が通じないゆえの感覚である。

 しばらくアズラットは何も気にせず住んでいたが、突然何者からか声をかけられる。


『(悪いが、少し止まってはくれないだろうか?)』

(ん……? 声? いや、これは……)『(念話か? 誰だ?)』


 その声はどうやら物理的な音によるものではない、何者からかの<念話>によるものだった。

 しかし、その念話をしてくる存在はアズラットの周りでは感知しえない。

 少なくとも声と同じく振動感知能力で回りに誰かが存在しているわけではないことがわかっている。


『(私は木だ)』

『(…………木?)』

『(そうだ。この場所にある多くの木々……それらを統括する存在だ。君が…………………………君…………)』「コッチ」『(今私が声をかけた方向がわかるか?)』

『(あ、ああ……)


 突然木々の間に響くおどろおどろしい声。

 どうやらその声の主が木、この木々の迷路の統括者らしい。


『(こちらに来てくれ。少し話をしよう)』

『(…………ああ、わかった)』


 敵意の類はない。危険な雰囲気はない。

 そもそも物理的な手段でアズラットを傷つけることができない。

 戦うことになるとなかなか面倒くさそうな雰囲気はあるものの、そもそも話をしようと言ってきているのだから戦うことにはならないだろう。

 もちろんそこまで楽観視できるわけではないが、それでも情報収集はしたい。

 それに、相手が何者か、どのような存在か気になるというのもある。

 少なくとも話ができる相手ならば、対話するのもありだろう。

 そう思い、アズラットはその声の主の下へと向かっていった。

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