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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
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018 知識と現実

 対人戦。そもそもスライムであるアズラットがそれを考えるのがおかしいのであるが、その手法を考える。

 いくらビッグスライムに進化したとはいえ、人間は武器を持ち鎧を纏い盾を構えスキルを使う。

 そもそもの力の差が大きい。まず真正面から挑めば勝ち目はない。

 二階層で鍛えている冒険者はまだ対応できるかもしれないが。


(どういう手段が良いか……)


 アズラットも流石にそれを理解しているのでどういう攻撃手段を画策するのが良いか考えている。

 まず正面から挑むのは間違いである。それはアズラットでもわかる。

 ではどういう手段がいいのか?

 スライム穴からの奇襲は何度かやってみたが、しかしそれはあまりいい手ではない。

 そもそもの想定は相手を攻撃する奇襲ではなく、遭遇した場合の対処である。


(壁に登るとか? 上から……いや、これはちょっと厳しいな。相手が登ることを許してくれるとは限らない)


 壁に登り天井から攻撃する。そういった攻撃手段をアズラットは考える。

 しかし、あまり現実的ではない。なぜならスライムの移動速度は遅いからである。

 そもそも最初から奇襲をすることを考えるならそれでもいいが、しかし今回は遭遇した場合の対処である。

 相手に見つかっている状態で悠長に壁を登ることはできない。

 登っている最中に攻撃されて終わりだ。


(一応考慮はできる。相手の頭に跳びかかって窒息させて気絶って言うのは有りだ。問題は時間がかかる点か)


 現状ではあくまで考慮できる程度である。他の手段を考えなければならない。


(……こういう場合は自分だけで考えるのではなく、知識から参考になるものを)


 アズラットだけで考えると思考が偏る。

 そうならないようにアズラットは自分の持つ知識を参考にする。

 記憶喪失で記憶はないが、知識は残っている。残っていないのは記憶だ。

 その二つの違いの基準はよくわからない所であるが。

 まあそれはおいておくとして、アズラットは自分の持っているスライム関係の知識を参考にする。


(触手。ゲームとかではよくあるよな。まあ、大抵はあっちのだけど。でも、あまり現実的ではないよなあ……)


 スライムはその液状の体をある程度動かすことはできる。

 体の一部分を操作し伸ばすこともできる。

 だが、彼の持つ知識にある触手のように自由自在と言うわけにはいかない。

 そもそも、彼の場合体を伸ばすことができても横方面、もしくは圧縮から解放して伸ばす方向性が強い。

 液状の体が重力に従うので地面に沿って伸ばすのは容易であるが、それに逆らう形で伸ばすのは難しい。

 特に触手のように細く長い円柱系の形に伸ばすのはとても難易度が高いと言える。


(んー……液体を飛ばすのとかは? 試してみよう)


 スライムの体から液体を飛ばす。

 こういう物は基本的に酸性である液体を飛ばすことができる。

 もっとも、アズラットの体からは無理であるようだ。


(飛ばない……いや、代わりに体を伸ばすように飛ばせる? いや、これは……<圧縮>? 圧縮している体を解除して伸ばしている?)


 アズラットは液体を飛ばすことは出来なかった。

 しかし、その代わり先ほど触手を伸ばそうとしたときにはできなかった、体を伸ばすことができるようになっている。

 触手を伸ばそうとしたときは出来なかったのになぜ液体、体の一部を飛ばそうとする場合にはできるのか。

 それをアズラットは検証してみる。

 検証してみた所、それは<圧縮>スキルの一部分の解除であることがわかった。


(あんまり伸びないけど……使えないわけではないな)


 体の一部分のみ圧縮を解放すると、その部分の体のみが外に噴き出るように圧縮が解除され伸びる。

 それがまるで体から触手を伸ばすように見えるということである。

 とはいえ、実用段階には程遠い。

 あくまで体を伸ばせるというくらいであり、せいぜい腰の高さまでしか届かない。

 それでは意味がない。

 触手を絡ませて自分の体を持ち上げることがあればまだ利用価値はあるかもしれない。


(いや、待てよ。圧縮をしてみたらどうだろう?)


 伸ばした自分の体を物に掴ませてその状態で圧縮する。それを試してみることにした。

 アズラットは一応壁に向けてやってみた。流石にいきなり生物相手と言うのも不安である。

 それに、壁なら引っ張る力の強さがあっても外れない。


(……だめだ。やっぱりあまり実用的じゃないか)


 残念ながら体を引っ張る速度が微妙であった。これは重力的な問題もあるだろう。

 また、<圧縮>のレベルの関係もある。もしくはアズラットの肉体総量の関係も。


『何をやっているんですか?』

『……アノーゼ。いや、色々と何ができるかとか、人間を相手に戦う場合の想定を』

『人間と戦うんですか? それは命知らずというものですよ? 流石にそんな無謀をしてほしくはありません。いえ、前にも無理や無謀はしないって言いませんでした? あれは嘘ですか? 無茶はするとは言っても、無理や無謀はしないって言いませんでした?』


 アズラットの話した内容に少々剣呑な内容を話し始めるアノーゼ。

 前にもやった説教がまた始まりそうである。


『いや、人間相手に戦うと言っても、別に好んで戦いたいわけじゃないんだ。ただ、絶対にいつも人間と出会わないでいられるとも限らないだろ? それに、ここにはゴブリンやスケルトンのような人型の魔物もいたし。そういう相手と戦うにも、幾らか戦闘手段を考えたほうがいい。人間を倒すとは言わなくとも逃げる手段は欲しいし』

『…………そうですね。二階層からは人型の魔物も出てきます。四階層になるとビッグスライムでも脅威に感じる魔物は多く出ますし。二階層、三階層ならビッグスライムでも余程酷いことにならない限りは生き残ることのできる魔物しかでませんが。それに、アズさんのいう通り人間を相手にする危険性は確かにあります。その時アズさんが逃げ出せるように、最悪の場合人間を殺せるように。そのための手段を考えるのは悪いことではないかもしれません』

『……殺す気はないんだけどな』


 アズラットに人間を殺すつもりはない。

 しかし、アズラットがそうせざるを得ない時が来ることはあり得るかもしれない。

 もし、まさかを考えないでいられるほど楽観はできない。

 こんなこともあろうかと、と手段を用意したほうがいいだろう。


『今は何か思いついたんですか?』

『スライム穴からの奇襲、天井から覆いかぶさる、体を伸ばす、液体を飛ばす、色々とやってみたけど、前二つはそもそもこっちからの奇襲。後の二つは前者が妙な形で成功し、後者は出来なかった。そんな感じかな?』

『……色々考えてますね。前者の成功と言うのは?』

『圧縮している体を部分的に圧縮を解除すると急激に伸びる。それを利用する感じかな。伸ばした後があまりうまくいかない感じだけど……』

『もうそこまで……そうですか、それはまあしかたありません。スキルの強さ、もしくはアズラットさんの強さの問題でしょう。そもそもビッグスライムにそこまでの多様性を求めるのはつらいと思います。流石にその上、ヒュージスライムに進化すればまだ話は違いますが……』


 ビッグスライムの大きさとヒュージスライムの大きさはまったく違う。

 それこそ倍どころじゃないくらいに違う。

 ビッグスライムがラグビーボールなら、ヒュージスライムはアドバルーンといったくらいに大きさが違う。

 流石にその例は言い過ぎではあるが、つまりはそれくらい違うと言うことである。


『つまり、今のままじゃ無理ってことか』

『はい。ですが……そもそも、現状のままで色々と考えるからダメなんです』

『……どういうこと?』

『この世界で人間は恵まれている。それはなぜか? それはスキル枠を多く有しているからです。生まれた時から三つのスキル枠を。レベルが上がれば十にもなれば五つになります。スキルが多いというのはそれだけ手段を有する、手立てを有する、複数の方策から一つの有効手段を見いだせればそれで十分でしょう? アズさんの場合、私の寵愛でスキル枠が増えていますから、それを利用するのは悪くない手段だと思います』

『…………確かにそうなんだけど、な』


 アズラットにとってスキル枠の消費、スキルを覚えると言うのは少々勿体なく感じる行為である。

 なぜならスキルは覚えてしまうと忘れることができない。

 消費したスキル枠は元に戻ることはない。

 もちろん一度覚えたスキルは一生使うことができる。

 だからこそ無駄なスキルを覚えるのはもったいないと感じる。

 それゆえにアズラットは今までスキルを覚える方面で解決することを控えていたのである。


『もったいないから使わない、というのもよくはありません。いっそ一つ埋めるつもりで使いましょう。もちろん無駄なスキルを覚える必要はありません。そのあたりは私からもアドバイスしますよ?』

『…………わかった。とりあえず参考までに聞いていいか?』

『はい! もちろん!』


 アノーゼと相談しアズラットはスキルを覚えることを考慮に入れる。

 ただ、その最終判断はアズラットの物だ。

 結果としてどうなるか、アズラットがスキルを覚えるのか、それは不明である。

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