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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
四章 異世界探訪
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176 入らないほうがいい所

 突然のアノーゼからの<アナウンス>に少し困惑した感じのアズラット。

 まあ、そもそもアノーゼが<アナウンス>で唐突に連絡してくることはいつものこと。

 だが、明確にアズラットの行動を禁止するのはこれが初めて……かどうかは覚えが悪いが、とても珍しいだろう。


『それで……なんで入るのを止めたんだ?』

『当然危険だからです。本来ならアズさん相手でもあまり過剰に干渉するのはよくないんですけどね……』


 神はこの世界に対し過剰に干渉してはならない。

 まあ、あまり直接的な干渉ではないのでそこまででもない。

 今までのアノーゼのやり取りからも、ただ話して止めるくらいなら問題はないだろう。

 進化への干渉や、スキルへの干渉、アズラット以外への干渉などでは問題が起きる可能性は高いのだが。

 ともかく、今回のアズラットの行動を止めることに関しては大した問題にはならない。

 しかし、それでもアズラットを止める行動自体はかなり大きな意味を持つことだろう。

 神であるアノーゼがアズラットの行動に干渉することなのだから。


『危険なのか? 確かにちょっと弱くなる感じはあるけど、そこまで危険って程でもないように思うんだが』

『確かにアズさんの場合、元々の強さがかなりの物ですからね。基本的に今のアズさんはこの世界でも勝てる存在のほうが少ないくらいの強さです。レベル的、種族的に。仮に半分のレベル、半分の強さになったとしてもこの世界の殆どの存在よりは強い……まあ、それでも強さが半減すれば結構不安は大きいですけどね。大きさが変わったりはしませんし、スキルはそのままですから本当に強さがそのまま半減するとは言い難いかもしれませんが』

『え? そんなに強いの?』

『種族的にスライムリーダーはスライム種最強クラスですよ? それに……今のアズさんが<圧縮>を解除した時の大きさを考慮してください。どの程度まで覆いつくせます? 村や街を容易に覆い潰すことができますよね? 災害クラス、ただでさえヒュージの時点で結構危険視されるのに、それが最大級の強さの上位種なんです。まあ、大きさを元に戻すと今の防御能力を失ってかなり防御能力が落ちますが……アズさんの場合はスキルがありますし。いえ、そもそもスライムがスキルを持った時点でやばいのですけども』


 スライムは生態系では最下位の種族。しかし、それは迷宮などにおける魔物を基準にしたもの。

 例えば虫、例えば鼠、例えば蛙、この世界にはスライムよりも小さい生物は多いし、スライムを殺せるほどの攻撃能力を持たない種も多い。

 人間くらいに大きく、武器を扱えれば容易に殺せても、多くの獣は意外と倒しづらい相手である。

 なぜなら軟体による防御手段を持つ生き物なのだから。

 物理的な攻撃手段では倒しづらいのである。

 ゆえに獣の類ではスライムは倒せず、それらを基準にするとスライムは強い。

 そしてその上位種はもっと危険度が高い。


『まあ、聖国に近づくと弱体化してだいたい二つか三つ前の進化状態くらいの強さになりますけど。それでも強いことには変わりませんね』

『…………それでも危険なのか?』

『はい。聖国は対魔物に力を入れている国です。持っている武器や防具も魔物素材を使わないという徹底ぶりで、スキルも恐らく魔物を相手にするスキルが多いことでしょう。そのうえ聖国の魔物に対する弱体影響、また聖国内に侵入する魔物の検知能力、聖国内にいる人間の能力強化……さまざまな恩恵が聖国で行動する人間に対しておよび、さまざまな悪影響が聖国に存在する魔物に及びます。今はまだ聖国そのものに入っていませんので特にアズさんを害しようとする動きは見せませんが、一歩でも侵入すると聖国に魔物が入り込んだと向こうが察して入り込んだ魔物を退治しようと動きを見せることになります。それでもアズさんなら恐らくまだ死ぬことはないと思うのですが……無駄に争いたいとは思わないでしょう? 死ぬ危険も絶対にないとは言いませんし、そもそもアズさんは戦うつもりがないのですから向こうが一方的に攻撃してくるの受けることになる。それは面倒で大変で嫌なことだと思います』

『まあ、たしかに……』


 アズラットは人間との戦いに積極的ではない。

 元人間であった知識を持っているから仕方がないだろう。

 それ以上にアズラットは元々他者を害することを好むわけではない。

 魔物相手に積極的に戦うことも多いが、根本的に逃げる相手を追って戦うことはあまりしない。

 そこまでする必要性がないというのもあるし、特にそうする意味もないからだ。

 だから人間の街とかでも別に戦うつもりでいるわけではない。

 冒険者含め人間と会わないように行動している。

 しかし、聖国でそうすることは不可能である。

 聖国における魔物への影響は弱体化だけではない。

 聖国の一部の人間は国内部に侵入した魔物がいる場合、その存在を察知できる。

 その正確な場所までは完璧には把握できないが侵入している状態か出て行ったかはわかる。

 つまり、アズラットが入り込むと出ていかない限り侵入した魔物に対抗する部隊が探し続けることになる。

 そうなると逃げづらいし下手すると戦いになる危険は高い。

 つまりアズラットが聖国に侵入すると確実な戦いの危険があり得るということになる。

 そしてアズラットも自由に行動できず、目的である観光も難しい。

 そういった事態になるくらいなら侵入しないほうがいいだろうという判断になるわけである。


『なら侵入せずに済ませたほうがいいでしょう。そもそも侵入しても流石にあの大きな建物の中に入るわけにもいきませんよ? 一応見張りがいますから……夜は多少手薄になりますが、それでも危険であることには変わりません。対魔物への攻撃手段もありますし、やはり手を出さないのが一番です。一番目立つ建物は外からも見えますから、近づける今くらいの範囲まで近づき見るくらいにとどめておいた方がいいでしょう』

『…………入ると危険なんだな?』

『はい。入らないほうがいいです』


 アノーゼは基本的に嘘をつかない…………かはともかく、アズラットのためにならないことはしない。

 それが本当にアズラットが心の底から望んでいることなら、本気で止めるつもりはないが、そうでないのならば止める。

 本気かどうかはわかりづらいが、はっきりと止めていることはわかる。

 アズラットとしても、今回聖国に入ることは絶対に必要なことではない。


『わかった、ならやめておこう』

『よかったです』


 ほっとした様子でアノーゼは満足そうに言う。

 彼女にとってはアズラットの命の危機がなくなるのだからとてもいいことだ。

 仮にいずれ来る必要があるとしても、それはこの聖国に入っても問題ない強さを得てから、と考えている。

 それをアズラットに伝えたりはしないが、駄目そうな時は基本的に入らないように言うだろう。


『……それはまあ、いいんだが。どこに行けばいいと思う?』

『ああ、聖国に入れないとなると確かに観光目的では別の場所に行かなきゃいけませんか。ええっと……その場所なら神山かエルフの里あたりじゃないでしょうか。いえ、エルフの里は部外者の侵入を拒むので神山……神山は聖国の人間がいたり、エルフの里の管理の問題、そのうえ周辺に強い魔物も多くて面倒ですからあまりお勧めはできませんか。でも、行くなら神山とその近辺がいいかもしれません。この近辺ではそんな感じでしょうか』

『……そうか』

『でも、一つおすすめがあるんです。南の方に進む船、そこに乗ることで時計塔のある都市に到達できますよ。私はそこをお勧めします』

『時計塔か……』

『アズさんは景色とかは好きじゃないですけど、建築物の類とかを見るのは好きな様子ですし、そちらをお勧めします。神山にはちょっと祭儀場みたいな場所もあるのでそちらもいいかも、と思いますが……』

『ふむ……とりあえず一度神山とかに行ってみるよ』

『え? そっち行くんですか?』

『見れるところから見てみたいしな』


 とりあえず近場から。海を渡るのはある程度他の場所を見て回ってからのほうがいい。

 また戻ってきて見て回るのは二度手間だし、ということである。

 これはこれで面倒は多そうだが、山ならばそれなりに活動はしやすいだろう。

 少なくとも街よりは。

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