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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
四章 異世界探訪
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173 海を渡る

 この世界にも船はある。しかし、それは海を渡るにはかなり難しい物である。

 というのも、海にいる魔物の問題がある。

 船自身の耐久力、乗組員の安全、そういった点で色々と問題が多い。

 まあ、羅針盤の類が存在するし、食料に関しても迷宮産の食料を持ち込むなど、他の点では安全を確保できる。

 基本的にこの世界における脅威は襲ってくる存在、すなわち魔物がメインだ。

 特に海においては陸に存在しない魔物も多く、戦闘も難しいので余計にそうなる。

 その魔物への対策のため、戦闘できる船員に冒険者が船に乗り込むのは一般的だ。

 これは普通の船……人を運ぶタイプの船での話。

 一応漁業用の船もあるが、そちらは流石に冒険者は殆どの場合乗らない。


(…………出にくいな。流石にちょっと、今は外に出づらい……なんかピリピリしてる)


 そんな人を運ぶ別大陸に行く船にアズラットは密入船している。

 しかし、どうにも船の中は雰囲気が悪いというか、何かに警戒するかのような気配をしている。

 そんな中アズラットが外に出たらどうなるか……スライムが侵入しているなら確実に退治することだろう。

 ゆえにアズラットは隠れているところから外に出ることができない。


(……外に出ていろいろ見てみたいんだけどな。どうせ海だろうけど)


 船の中から外を見たところで見えるものは海ばかり。

 夜に出れば星が見えるくらいの得しかないだろう。

 元々海上でできるようなことはほとんどないと言える。


(はあ……一応乗る前に見て回ったけど、それでももうちょっと見て回りたいな)


 海の上を進む本物の帆船に乗るのはアズラットは初である。

 なので海の上で見て回りたい気持ちはある。

 しかし、海の上を進む船には船員、冒険者、乗船客と乗っている人員の数が多い。

 それゆえにあまり出れないままアズラットは隠れているのであった。




 冒険者たちが船上でピリピリと警戒している状態なのはわけがある。

 まず、魔物がそれなりに頻繁に襲ってくる状態であること。

 普段はそれほどでもないのだが、今回は多い。

 その理由を冒険者たちはいまいちわかっていない。

 しかし、起きている事実は事実として受け入れざるを得ない。

 それとは別に、冒険者たちは妙な気配を感じているのもまた一つの理由である。

 何かがこの船の存在する、警戒する必要がある、そんな気分に彼らはなっているのである。

 しかし、船の中を見て回っても特にこれと言って何かがいる様子はない。

 冒険者や船員のスキルにも、感知できるのは海上海中の魔物ばかり。

 それゆえに何が問題なのかがわからない。

 基本的に冒険者も感知系スキルを持つ者ばかりが乗っているわけではなく、船員の感知スキルは海や水に関するものがおおい。

 船員は別にこの客船の運用をする船員だけではなく、普段は漁業をしている人間を使ったりもしている。

 常に毎日漁業をするわけでもないし、他の船に関する仕事をすることで稼ぐ、と言う感じである。

 ともかく、彼らのスキルによる感知能力では今回の何か変な感じの原因は把握できていない。


「いったいなんでこんなに襲ってくるんだ……」


 そんなことを彼らは呟く。そもそも魔物がいつもより多く襲ってくる原因が不明である。

 海の魔物と言うものは基本的にどうやって相手の存在を感知するのか?

 同じ海の中にいる相手ならば、海流などを元に検知するのかもしれない。

 あるいは眼で見て把握するのかもしれない。

 血の匂いを感知して把握するのかもしれないし、振動で感知するのかもしれない。

 だが、それでは海の外にいる相手は感知しにくいのではないだろうか。

 しかし、海の中にいるのに海上、海の外にいる相手を感知できる存在も多々いる。

 目がいい、では説明がつかない場合も多い。そういった魔物はどうやって感知するのか。

 海の中にいる魔物は独特の感知能力を持つことが多い。

 例えば気配、雰囲気、持ち得る力の量とか。

 海の中では他の強力な魔物と遭遇しにくい。

 それゆえに、そういった存在を的確に捉える機能がある。

 つまり、その存在の持つ力の総量で存在を把握するのである。

 ゆえに、アズラットほど強力な力の持ち主がいる場合、そちらに魔物が惹かれるのである。

 そのアズラットは<隠蔽>を使い、察知されないように隠れているので人間相手にはばれない。

 しかし、海の魔物はそのあたり敏感に把握しているらしく、船の中にいても鋭敏に察知されているようだ。

 ゆえにアズラットがいる限りそれなりに魔物が襲ってくる状況が出来上がっているのである。




 海の底。とても深い、とても深い、とても深い、光の届かぬ海の底。

 その海の底にいる大きく強大な存在。それは力を欲している。

 海の中では他の魔物に出会うこと少ないのだが、海の更に底、深海ではそれ以上に少なくなる。

 代わりに海の底へ行けば行くほど、力を持つ存在は増えていく。

 しかし、それにも限度はある。底へ行けば行くほど大きな力を持つが、存在の数は減る。

 それでは己の力を高めることはできない。強力になることはできない。

 それゆえに、時折浅いところへと上がり、力を持つ存在を貪る。

 そうしてそれはずっと強くなってきた。

 たまに沈んでくる物を食らい強くなることもあったが。

 そして、その存在は今回、とてもとても強い力が自分の上を進んでいくのを感じていた。

 今まで食べたことのあるどの存在よりも強力で膨大な力を持つ強大な力の塊。

 それを逃してはならない、その存在はそう感じていた。

 だが、その力の塊はあまりにも遠すぎる。

 自分が上がりそれに手を伸ばす前に、その存在は海の上から消えてしまった。

 ああ、残念だとその存在は思った。しかし、それならそれでしかたがない。

 せっかく上がってきたのだから周りにいる雑多な存在を食らい少しでも足しにしよう。

 そう思ってその存在は周りにいる存在を食らっていく。

 そのせいで少々漁業被害が出たようである。

 もし、またその存在が海に来たならば、今度こそ逃がしはしない。

 次こそは……と、それは思っていた。




 (…………んー潮風。夜のうちに移動したはいいが、移動するとすぐに冒険者か船員か出てくるんだよな。<隠蔽>を使う頻度が多すぎる。まあ、見つかって殺し合いになったら逃げなきゃいけないしなあ……流石に海に飛び込むのはちょっと。倒すと船の運航に支障が出そうだから本気で隠れるしかないんだよな……はあ、面倒だ。海を渡るのにこんなに苦労することになるとは)


 そんな海の独特なルールをアズラットは知らず、海上の船でのんびりとしている。

 自分の存在が海の底にいる厄介な存在に目をつけられたとも知らず、悠々自適だ。


(ま、海上でのんびり周りに何があるわけでもなくいろいろ見て回れるのはそれはそれで、って感じだな。海の上でポツンと存在してるのは……なんというか、独特な感じがある。これはこれでいい感じだな……雰囲気的に。景色を見て回るのは好きじゃないけど、こういう雰囲気はいいよなあ……)


 景色を楽しむ性格はアズラットにないが、この海の上の船の独特な雰囲気は好みらしい。

 そのあたりの感性はイマイチわからないし、何が違うのかは不明だが、どうやら楽しんではいるようだ。


(……さて、そろそろ隠れるか。夜が明ける前に隠れてないと見つかる危険も高いしな。<隠蔽>があるとはいえ、安全なうちに)


 しばらく外を楽しみ、またアズラットはその姿を船の中に隠す。

 そんな感じで船の中不自由な時間を過ごし、海を渡り大陸へと到達した。

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