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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
四章 異世界探訪
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170 心遺の指輪

(さて…………消化してしまう危険があるから微妙だけど、探すだけならやっぱりあれだよな。自分の中に取り込むのが一番だ。<圧縮>を解除、湖全体に体を広げる!)


 アズラットがその体にかけている<圧縮>を解除する。

 基本的にその最大のサイズは不明だが、この湖くらいは覆いつくせる。

 そうして湖全体に自身の体を広げ、湖内で接触したものを体の中に取り込む。

 振動感知や構造把握でも本来なら把握できるが、さすがに湖の中は把握がしづらい。

 ゆえに自分の体で直接そこに存在する物を感知するしかないだろう。

 下手をすればそこに存在するすべてを飲み込み消化しあらゆるものを消し去りかねない方法。

 <変化>や自分の制御を駆使し、なんとか湖の中に存在するものを把握し体の中に取り込む。

 溶解能力も自分の体を粘性寄りにすれば、付着した程度で済ませることができる。

 そうして湖の中の物をすべて自分自身で付着し取り込んだ。

 なお、生物は体内に取り込み消化している。

 また、指輪ではないだろう物も、ある程度内容を把握したら取り込み消化している。

 無駄な物を持っていても仕方がないし、残しても仕方がない。そういうことだ。


(…………これかな? っと、<圧縮>をすると取り込んだ物を潰しかねないからそれは念のため注意して)


 自分の体を何とか操作し、指輪だけわかりやすい場所に…………いや、陸上へと出し地上に置く。

 水の中では移動も面倒だし、流れもあって置いてもどこかに行くかもしれない、<跳躍>やら何やら面倒なことも多い。

 ひとまず指輪だけを外に出し、アズラットは元のサイズに戻る。そして、湖から陸に戻る。


(指輪、指輪っと……流石に外に出していると、振動感知と構造把握である程度はわかるな。湖とか水の中は把握しづらいんだよな……ま、水の中なんてあまり入る機会もないだろうし。こういう大きなところはあれだけど、川とかはまだやりやすいから問題ないだろう……ああ、でもこれから海に行くつもりだしな。もっとも、海には入らないだろうから……ま、いいか。とりあえずこれを渡しに行こうか……でも、渡しても意味があるかわからないな。あの人って幽霊だよな? 幽霊に渡したところで持てないし、そもそも移動できる様子もないし……ま、渡すだけ渡そう。心残りさえなんとかすれば、あとはあっちでどうにかするだろうし)


 アズラットが行うのはあくまで探し物の手伝いくらい。それ以後にまでは関知しない。

 そもそも困っているから助けただけであり、その困りごとの解決以上のことはするつもりがないわけである。

 それでも少々関わりすぎな気もするが、あまり細かいことを気にしても仕方がないという話でもある。






 そうしてアズラットは指輪を女性の下へと持ってきた。


『あ、スライムさん……え? そ、それ……』

『(湖の中を調べて見つけた物だけど、そちらの物で合ってるか? 話に言っていた失くした指輪で)』

『は、はい! 凄いですねスライムさん! 湖の中を探して……いえ、それも凄いですけど、とても短い時間でよく調べることができましたね……』

『(まあ、別にそれほどではないと思うけど……一種の人海戦術のようなものだし)』

『……?』


 アズラットの言っていることを女性はイマイチ理解できない。

 まあ、そもそも意思あるスライムだからできることを理解できるはずもない。

 そんなことを理解せずとも、重要なことははっきりとしている。

 指輪が彼女の下へと戻ってきた、ということだ。


『……私の失くした指輪です。探してくださりありがとうございました』

『(いや、それほどでもない。ところで……見つけたはいいんだが、どうする?)』

『確かに見つかればいいわけでもないんですが……いえ、見つけてもらうだけで十分と言いますか……』


 どこか憑き物が落ちたかのような表情を女性はする。

 まあ、とても長い間探し続けていた指輪が見つかったのだから気も抜けるだろう。

 摩耗した記憶の中にある、唯一絶対の心残り、一番鮮明な記憶。

 その記憶における問題が解決したのだから。


『…………それは私が持っていても仕方がないでしょう。ここに残っている私は本来の私の残滓のようなものです。既に私は死に、その指輪への心残りゆえに私のような存在がこの場に残ることとなった。そして今その指輪を失くし、見つからないまま過ごした私の心残りはあなたのおかげで解決しました。本当に、ありがとうございました』

『(……ん? あれ、なんか…………薄くなってないか?)』

『私は心残りゆえにこの場に存在しましたけど、その心残りがなくなりました。つまり私はもうここにいる必要がないわけですから……』

『(そうか…………ところで、この指輪はどうすればいい?)』

『私が失くしたものですが、今はもう持ち主となる者もいないでしょう。見つけてもらった私が言うのも何ですが、私が貰って持っていくこともできませんし……元々あった国も、いまではないでしょう。その指輪の行きつくべき先は存在しない……であれば、あなたが貰ってくださいませんか? 見つけてくださったのはあなたでありますし、それを最後に持っていた私があなたに贈るのであれば特に問題もないでしょう』

『(え? いや、まあ、別に貰う分にはいいっちゃいいんだが…………)』

『では、受け取ってください…………私はもう逝きます』


 すうっ、っと消えて、この世界からいなくなっていく女性。


『(あ! おい!? ちょっと!? いや、貰うのはいいって言ったけど、貰っても持って様がないんだけど!?)』


 アズラットはスライムである。指輪をもらっても基本的に着けようもなく、意味がない。

 そもそも物を持つこと自体スライムには不可能である。

 取り込んで体内に保管、ということもできなくもないが、消化の事故が怖い。


(ああ……行ってしまわれた)


 しかし、アズラットの静止も特に意味はなく、女性はこの世界から消えていった。

 この世界に心残りを残しこの場にいたのだから心残りがなくなればこの世界から去るのは道理である。

 そういうことで、この場にはアズラットと指輪だけが残されることになったのであった。


(……さて、この指輪どうしよう。正直言って扱いに困るんだが)


 指輪を前にどうすればいいのか困っているアズラット。

 解決策と言うものがアズラットには思いつかない。

 アズラットに思いつくのは、とりあえず頑張って持っていくだけ持っていくくらい。

 もしくは消化するかどうか。

 貰い物であるため一応消化したところでアズラットの自由である。

 だから消化しても構わないのだが……物が物だ。

 神からの貰い物、一国の王女が着けていた指輪、何百年レベルで居残っていた霊からの贈り物。

 それを扱いづらいから消化して終わらせよう、と言うのはアズラットとしてはなんだかなと思うところである。


『あー、えっとー、聞こえますかー? 聞こえますかー?』

(……ん?)


 困っていたアズラットに対して響く声。先ほど聞いた声の響き方に近いような感じがする。

 いや、しかし、重要な所はそこではなく。その声は今まで何度も聞いた覚えのある声。


『アノーゼ?』

『はい! ああ、ようやく、ようやく復旧しました!』

『……なんというか、タイミングがいいような気がする』

『そんなことを私に言われても困るのですが……別に私が<アナウンス>の復旧タイミングを決めているわけではありませんよ? 私の行いに対する罰則的な意味合いで<アナウンス>が封印されていたわけですから』

『……なんか、悪いな。迷惑かけたみたいで』

『いえ。これくらい…………とても、とても寂しかったものですが、アズさんのためなら全く問題なく。それと、こういう時は謝るよりも』

『感謝、か? そうだな……いろいろとありがとう』

『それが聞ければ私は十分ですよ! さあ、何か困っているんでしょう? 存分に言ってください!』

『調子のいいやつだなあ……』


 久々のアノーゼとの会話。しかし、アズラット自身もその会話は楽しみにしていた。

 迷宮の外に出て今まで特に話せる相手も、一緒に語ることのできる相手もいなかった。

 先ほど消えて言った女性はある意味唯一外に出てからネーデ以外で話した相手と言えるかもしれない。

 しかし、結局他人、今回だけの知り合いで、相手は感謝を示し贈り物をするだけで消えていった。

 ゆえにアノーゼと話ができるというのは本当に久々に知り合いと話ができる機会であった。

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