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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
四章 異世界探訪
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169 過去の想いの探し物

(本当にそこにいるのにいないというか…………よくよく近くで見てみると透けてるな。やっぱり幽霊か何かか)


 湖に見えた人影、その存在に近づいたアズラット。その存在はやはり実在しない存在である。

 振動感知に引っかかることはなく、その身体は透けて存在していない。

 俗に言う霊体的な存在であると思われる。


(………………泣いてる。何と言うか…………うーん)


 見も知らぬ赤の他人、そもそも人間との会話自体が機会が少なく関わることもない。

 今この場にいるその女性は人間か、幽霊か、ゴースト系統の魔物か。

 それはわからないが、関わることにどれだけ意味があるかアズラットとしては疑問である。

 ただ、その女性は泣いている。しくしく、と言った感じに。

 だからどうにも気になると感じている。

 困っている相手の存在を知って放っておくのはアズラットとしては少々気にかかるところだ。

 まあ、だからといって助けなければならないわけでもないわけなのだが。


(どうしたもんか…………)

『………………えっ? あ、きゃあっ!? ス、スライム!?』

(ん? ああ、結構近づいてみてたから気づかれたか。まあ気づかれても問題はないんだけど)


 泣いていた幽霊と思われる女性はアズラットの存在に気付く。

 そしてあわあわと驚き困った感じになっている。

 別にアズラットはただ近くにいるだけである。

 それ以上近づくつもりはないし、そもそも彼女に体はない。

 仮にアズラットに襲われたところで特に害があるということもないと思われるが、それでも驚いている。


『だ、誰か、誰か助けてー!! 誰かいませんかー!!』

(…………振動感知に反応なし。ってことは声になってないってことか? あれ、ってことはこれって<念話>? 広域型の<念話>とか? まあ、なんでもいいけど…………っていうか、聞こえても寄ってくるものかな? 声で聞こえない変な<念話>が届いて。そもそも近くに人はいない感じだし……っていうか魔物とか獣もあまりこの当たりには寄ってきてない? ああ、幽霊っぽいこの人がいるからとか? どうなんだろう)

『誰かー!』


 色々と女性が<念話>のような叫びをあげている中、特に気にせず色々と考えるアズラット。

 迷宮内部でも彼女のような存在は見たことがなくどう扱ったらいいのか少々疑問に思っている様子である。

 とりあえず、その叫びが煩く感じているのでそれをどうにかしようとアズラットは思った。


『(ちょっといいか?)』

『っ!? だ、誰かいるんですかー!? お、お願い! スライムが、スライムがー!!』

『(落ち着いてほしい。っていうか、俺はそのスライムなんだけど…………)』

『…………え? えっと、私の前にいるスライム……なんですか?』

『(ああ。とりあえず、煩いんで叫ぶのを)』

『わ、私は食べてもおいしくないです! 肉もついていないし、食べる場所なんてないですよ!?』

『(いや、食べる気とかないから……)』

『あわわわ……も、もしかして、昔お父様の部屋で見かけた小説のように……びちゃびちゃにするつもりだとか!? わ、私には婚約者がいるんです!? そ、そういうのは私以外の人に!』

『(…………とんでもない暴露話が来たな。とりあえず落ち着いてほしいんだが、っていうか話を聞いてくれよ!?)』

『ひあああっ!? さ、叫んだ!? 怒ってますか!? わ、私は悪いこともしていませんし、魔物を殺したりもしないので見逃してー!』

『(人の話を聞いてくれっ!!)』


 漫才の掛け合いか何かのごとく、アズラットが喋るごとに困惑し叫ぶ女性。

 それを宥め賺せ、とりあえず話せる状況まで持ち込んだ。かなり苦労した様子ではあったが。






『スライムさんは元々人間だった……んですか?』

『(正確にはそうだったかもしれない、くらいのものかな。記憶はないけど知識はある、って感じで)』

『そうなんですか……それで迷宮で頑張ってきた、強くなったから外に出ていろいろ見て回っていると……』

『(そんな感じ)』

『凄いですね。私はそういうことはできませんでしたから……』

『(その見た目的にいい所の出なのか?)』

『ええ。自分でいうことではないですが……これでも元は王女だったのですよ?』

『(……へえ。まあ、それは信じてもいいが、なんでこんなところに?)』

『それは…………私もあまりわからないのですが……』


 アズラットと幽霊の情報のやり取り。

 結構自分のことを話しているが、それは相手が誰にも情報を漏らせないから。

 この女性の幽霊らしき存在はやはり幽霊のようなものであるというのが本人の話から推測できる。

 亡国の王女……まあ、亡国とはいっても彼女の話からすればかなり昔の者らしい。

 百年二百年よりもさらに古い時代の国の王女である。流石に昔過ぎる。


『私自身の最後の記憶はあまりないんです。そういう点ではスライムさんに似ていますね』

『(……えっと、じゃあなぜここにいるかはわからないと)』

『はい。ですが……はっきりと覚えていることもあるんです。心残りと言うか、とても気にかかっているというか……』

『(気にかかる?)』

『話を聞いてくださいますか?』

『(……聞く程度なら)』


 そうして女性の話が始まる。とは言っても、あまり詳しく語ったところで意味はない。

 臨場感たっぷりに、手ぶり身振りまで加えて無駄に話を進める女性の話は無意味に長い。

 核心に迫ることなく、昔話から己の恋人……先に言っていた婚約者の話から。

 そしてその婚約者の話と繋がってくるのが彼女の気にかかる心残りとやらの話になってくる。

 話を具体的に簡単にすると、昔々彼女はこの湖の傍までその婚約者やってきたという。

 しかし、諸々の事情があり一時的にその婚約者と離れ、その時魔物に襲われた。

 あわや彼女が殺され大惨事に! と、なる前に婚約者が合流し魔物を退治した。

 それだけならば男女のロマンス的な話程度に済むのかもしれないのだが……そこである一つの出来事が起きた。

 彼女がつけていた指輪が失われたのである。

 その指輪は彼女の家の……つまりは王族の持つ代々の家宝のようなものである。

 彼女がつけていたのは代々それを娘がつけるようにと言われていたからだ。

 その家宝には神から受け取ったという逸話もあり、かなり大切にされていた物であるらしい。

 別に素材が特別高価と言うわけでもないし装飾が素晴らしいわけでもないがその逸話もあり重要性は高い。

 それを失くしたのだから大きな問題になるのが普通だが……特にお咎めはなかった……らしい。

 彼女の残った記憶で最も覚えている部分はその点まで、と言うよりもそのあたりから先の記憶が曖昧らしい。

 やはり幽霊というか、心残りの存在と言うか、そういうものであるからか、記憶に関しては微妙な所なのかもしれない。

 実際彼女の記憶はその付近は鮮明だが、それよりも昔の部分も大幅に劣化している。

 ただ、婚約者とのことやらなにやらそのあたりは鮮明に覚えているようではあるが。


『その指輪がどこに行ったのか、が未だに心残りで……恐らくこのあたりにあるのでは、と思うのですが』

『(いったいいつの話だよ……)』


 彼女が生きていた時代に落としたもの、ということならばもう本当にどこかに消えていてもおかしくはない。

 例えば土の中に埋まったり、どこかに流されたり、誰かに拾われたり、動物に食われ腹の中に納まっていたり。

 しかし、彼女はこの近くにあるだろうという確信がなぜか存在するという。


『なんとなく、この近くにある……と言うのが私にはわかるんです』

『(……断言できる理由がわからないが)』

『私にもわかりません。でも、この近くにあるはずなんです。一応この近くは探しましたし、昔の私も探せるうちに探せる場所は探したはずでした。少なくとも、見つかる可能性はあったはずなんです……ですが』

『(見つからなかった)』

『はい……恐らくですが、この湖に落としてしまったのかもしれません。この湖の中を探したことはないはずですから……』

『(湖か……)』


 湖の方へとアズラットは視線を向ける。


『(んー…………どうせ暇だし、少し探してみるか)』

『え?』

『(湖の中にあるならたぶん見つかるかもしれない。まあ、ダメだったならないものと思ってくれればいいよ)』

『ス、スライムさん!?』


 ぴょん、と<跳躍>をして、アズラットは湖へと着水した。女性の落とし物を探すために。

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